■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
あぁ……
私は今、黒ウサギのコミュニティのリーダーを務めるというジン=ラッセル………ジン君と一緒にカフェテラスにやって来てる。黒ウサギ? 彼女なら途中で別れた十六夜君と春日部さんを連れ戻してくるって、道を戻っていったわ。その際に、あっという間に姿が見えなくなってしまったのだけれど……箱庭のウサギはとても速く飛べたのね。
まあそれはいいわ。それでね? 私、ジン君に色々と二人の分まで箱庭の事を聞いていたのだけれど……何だか面白い場面に出くわしちゃったみたい。
「──おんやぁ?誰かと思えば東区最底辺コミュ〝名無しの権兵衛〟のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」
うん、唐突にね。水を差すように話しに割って入ってきたわ。
言葉は丁寧だけど嫌味が目に見えていて、それでいて空気の読めない巨漢。印象は虎かしら? そんな男が来たの。……訂正しましょう、変態ね。
想像してみなさい? 二メートルを超える男がピチピチのタキシードを身に纏っている姿を、気持ち悪いでしょ?
そんな男の品の無い言葉にジン君も子供ながら強気で返した。
「僕らのコミュニティは〝ノーネーム〟です。〝フォレス・ガロ〟のガルド=ガスパー」
「黙れ、この名無し風情が。聞けば新しい人材を仕入れたらしいじゃねえか? ハッ、名と誇りまで奪われて尚、未練がましいったら無いなッ。で? その頼みの助っ人達は
「はっ? ガルド、貴方は何を言って────っ」
ジン君が変態の言葉に疑問の声を上げる。次に、私を見て………固まった。
えぇえぇ、恐らく私、今とても楽しそうに嗤っているのでしょうね。フフフ──この変態、ガルドと言ったかしら? 私を
「ねえジン君。こちらの方は?」
「え…え、と。こちらはコミュニティ〝フォレス・ガロ〟のガルド・ガスパーです」
「? なに行き成り独り言なんて言ってやがる。まさか失意の内に頭までやられたか? それは傑作だなッ」
ジン君は益々混乱してきてる。何せ、私とジン君はこうして会話できて姿も見えているのに、ガルドは私の姿は愚か声すらも届いていない様子なんだもの。見ていてとっても愉快で滑稽ね。
しかしまあ、これ以上の悪ふざけは貴重な玩具を逃してしまいかねないわね。
「──こんにちはガルドさん」
「ッ!? な……お、女? ど、何処から湧いて出て、」
「あら、失礼ね。とても紳士服に身を包む殿方とは思えないわ……。私は飛鳥、ジン君のコミュニティに招待された貴方の言う人材の一人よ」
「っ……こ、これは失礼。レディがそうであるとは知らず、とんだ無礼を。……して、何時からそちらに?」
ふーん。虎……猫科だけに猫被りが早いわね。私が居ると分かった途端コロッと態度を改めた。……あ、成る程。
「ふふ。可笑しな事を聞くのね? 何時からって……最初から居たわよ」
「……はい? ご、ご冗談を。先程は影も形も――」
「その話はもういいわ。それよりガルドさん、貴方が来てくれて丁度良かったの。これから――――コミュニティの事について聞こうとしてたのよ」
「っ……!」
私がそう言うと瞬時にジン君の顔が強ばった。駄目ねリーダーさん。交渉事に就きやすい
私の言葉を数瞬程考え、ガルドは合点がいったように笑みを浮かべた。果たしてそれが私と同じ考えなのか……先ず以て無いわね。
「ジン君。コミュニティの長として、これから加わる同士にコミュニティの事について説明を施すのは当然の事よね? それとも、
「いえいえ。そんな筈は無いですよ。長として、箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務です。だが、恐らく彼はソレをしたがらない。よろしければ、〝フォレス・ガロ〟のリーダーたるこの私が、コミュニティの重要性と小僧――――ではなく、ジン=ラッセル率いる〝ノーネーム〟のコミュニティを客観的に説明させていただきますが……」
似合いもしない上品ぶった態度でそう言うガルド。対照的に表情を暗くするジン君。自然と、私の口角が上がりそうになった。でも、そこは淑女たる者我慢しないとね?
「そうね。お願いするわ」
私は間も空けずに了承した。
そこからは、ガルドが熟々とコミュニティについて。そして――――ジン君のコミュニティの事について、教えてくれたわ。
彼が洩らしてた〝名無し〟や〝誇り〟というのは、コミュニティが圏内で活動するにおいて重要なネームと象徴となる旗印であること。途中街で幾度と見かけた旗はどうやらこの箱庭に巣くうコミュニティの顔だったみたい。それに伴う〝名〟かしらね。
そして、話はジン君のコミュニティに移った。
「――実は、貴女の所属するコミュニティは――――数年前まで、この東区画最大手のコミュニティでした」
「ん、それは意外ね」
へぇ? 詰まり、私達がもう少し早く訪れていたとしたら、とても賑わっていたのでしょうね。
「とはいえリーダーは別人でしたけどね。ジン君とは比べようもない優秀な男だったそうですよ。ギフトゲームにおける戦績で人類最高の記録を持っていた、東区画最強のコミュニティだったそうですから」
今は見る影もない、と。それにしても詰まらなそうに語るのね、そこは。まあ〝現〟大手さんからしたら、面白くない話よね。
それで、どうにもジン君の先代さんは幻獣の集う南区画や、悪鬼羅刹が巣食う北区画とも仲が宜しかったみたいで。お互いに実力を認めあっていたらしい。
「しかし! ………彼らは敵に回してはいけないモノにめを付けられた。そして彼らはギフトゲームに参加させられ、たった一夜にして滅ぼされた。ギフトゲームが支配するこの箱庭世界、最悪の天災によって」
「………天災?」
「これは比喩に非ず、ですよレディ。彼らは箱庭で唯一最大にして最悪の天災――――俗に〝魔王〟と呼ばれるもの達です」
「魔王……!?」
え、なに? そんな面白そうなのが居るの?! ますます惹かれてしまうじゃない! ………コホン。ごめんなさい、少し高揚しすぎたわ。
それから私は再びないしん燻る高揚感を抑え込み、魔王という名の存在を頭の中に刻んだ。聞けば聞くほど、私を縛っていた普遍が崩れていく。これは嘆きでも遺憾などではない、歓喜でしょうね。
私は一通り話を聞き終えると、途中店員さんが持ってきた注文の紅茶を口に含んだ。……紅茶はやっぱり入れたてが一番だったわね……。
「成る程ね。概ね理解したわ。詰まるところ、〝魔王〟というのはこの世界で特権階級を振り回す修羅神仏を指す。ジン君のコミュニティはそんな彼らのお遊びで潰された。それでいいかしら?」
私の問いに仰々しくガルドは肯定してくれた。それは未だに言い返す言葉もないのか沈黙を保っているジン君への皮肉なのかしらね。ジン君も、思ってるだけだと辛いのは貴方でしょうに……
私は適当に相槌をして、ガルドの話を諦観した。次々と彼の口から発せられるのは徹底的にジン君を貶めんとばかりの雑言。言っている事は正論なのだけどね、主観というか……雑念が混ざりすぎて、正直聞いてるだけでも不愉快にされそうね。最初からだったけれど。
「――フフ、事情は把握したわ。……それでガルドさん? 態々懇切丁寧に話してくれたけど、それは如何してなのかしら?」
我ながらワザとらしい前フリね。それに気づく訳でもなくガルドは卑下た笑みを浮かべてるけれど。
「この際ですし、単刀直入に言います。もし宜しければ、黒ウサギや他の方共々、私のコミュニティに来ませんか?」
「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!?」
ここで漸くジン君がマトモに入ってきた。まぁ自身の同士達を目の前で引き入れようとしているのだから当然かしら。
けれど、ご立腹なジン君に対してガルドも苛立ったように彼に睨みを利かせた。
「黙れ、ジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を改めていれば最低限の人材は残っていた筈だろうが。それを貴様の我が儘でコミュニティを追い込んでおきながら、どの顔引っさげて異世界から人材を呼び出した」
「っ、そ………それは、」
「何も知らない相手なら騙しとおせるとでも思ったのか? その結果が、黒ウサギと同等の苦労を背負わせるって事になんなら………こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねえ仁義があるぜ」
とてもカッコイイ台詞、まるで小説の主人公ね。言っている事は殆ど正論だわ。普通なら私も、ガルドの方へ靡いても仕方が無さそう…………普通ならね?
最初から仄めかしてきたけど、これは茶番よ。彼らは役者。私は………監督か脚本家ってところかしら? 何にしても、そろそろお終いね。
「……で、如何ですかレディ。返事は直ぐにとは言いません。他の同士の方ともキチンとお話の上決めて頂いて、例えコミュニティに属さずとも貴女は箱庭で一月程の自由が約束されています故。一度自分達を呼び出したコミュニティと私達〝フォレス・ガロ〟のコミュニティを視察し、充分に検討してから────」
「あぁ、それならもう済んでるわ。既に決定済みよ」
「そうですか? でしたら────」
「フフ、勿論──────ジン君のコミュニティに決まってるじゃない」
「「…………は?」」
私の返答に素っ頓狂な声を上げた二人。
取り敢えず、紅茶を飲み終える。次はもう少し暖かい内に味わわないといけないかしらね。
「し、失礼ですが、」
「理由? そっちの方が面白いからに決まってるじゃない」
「し、しかし、そのような軽はずみな判断はこれから先、」
「えぇ。辛くて険しい道になりそうね。下手をしたら私までジン君達の二の舞になりそう………で、その程度が如何かして?」
もう茶番は飽きたわ。だからガルドにはこれ以上語って貰う必要は無いの。変わらない結果に無駄な辛労辛苦は可哀想でしょう?
「辛くて結構、険しくて結構。それこそ私が望んでいた娯楽だわ。魔王? 素敵な名を冠しているじゃない。是非ともお目に掛かりたいわ。──あ、後ね。これは建前なのだけれど……私は全てを打ち捨ててきたのよ? 有り余る財も、約束されてた詰まらない将来も、世俗的で下らない親類方も、ね。これ以上〝約束された〟なんて常套句、要らない訳。それと、貴方は少し小物臭がして嫌」
ここまで言われると流石に怒らない訳無いわね。ガルドはワナワナと身体を震わせてる。でも、その怒りを何とか抑えてまだ無駄で無駄な説得をしようと言葉を選んでいた。ここまでシツコイと返って清々しいわね……
「お、お言葉ですがレデ────」
「
まあその言葉は言わせないけれど。
ガルドは私の力──〝
序に座らせておこうかしらね。
「はい、そこに
「…………!? ………………!!?」
ガタンッ! と着席。周りのお客さんも何事かと驚いてしまっている。と、店員さんも来たわね。丁度いいからこれから聞く質問の立会人になってもらいましょう。
「お、お客さん! 当店での揉め事はお控えくださ────」
「まあ固い事言わずに。それより、店員さんも立ち会ってくれない? これから面白そうな事を聞いてみるから、第三者の存在は良い保険なのよ」
「え?」
状況が今一掴めていない様。けれど、私はそれを置いておきちゃっちゃと質問に入る。
これ以上ダラダラと連ねていくのも味が無いし詰まらないから掻い摘んで言うと、
─ガルドのコミュニティは此処一帯ではそれなりに大手。コミュニティを吸収していったからと彼は言う。
─けれど、コミュニティ間のゲームはあくまで〝両者合意〟の上。有益を問うゲームにおいて〝主催者権限〟なるものがない彼にそこまで合意を得られるのか?
─結果、彼は他のコミュニティの女性や子供を攫う事で強制的にゲームへと入れ込ませた。
「それで、その人質の方々は…………あら、そうなの? フフフ、是非
「ぐっ………も、もう殺した」
その一言で場の空気が凍りついた………のかしら? ジン君と店員さんは完全に固まってるけれど。
その間にもガルドは言葉を紡ぎ続けた。
「初めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭にきて思わず殺した。それ以降は自嘲しようとした。だが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺った。それ以降連れてきたガキは全部纏めて当日中に始末してきた。けど身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らない様腹心の部下に
「そう。
ならもっと速くとめるべきだった、なんて苦情は受け付けないからあしからず。
再び口を閉ざしてくれたガルド。しかしジン君と店員さんは話しの概要を知ってしまった。その事実は変えられない
「全くもう……貴方、外道ね♪ 絵に描いたような素晴らしい外道よ」
5段階評価なら〝2〟を付けてあげてもいいわ。
「それでジン君。このような外道……流石は人外魔境の箱庭と言ったところかしら?」
「いえっ、彼の様な悪党は箱庭でも早々いません。箱庭の法も、黙っている訳にはいきません」
「ふーん……そ。それなら彼は此処でゲームオーバーね、可哀想に」
実の伴わない憐憫と笑みを向けてあげながら、私は軽快に指を鳴らした。それによりガルドを縛っていたギフトの効力は消え、彼は自由を取り戻した。
途端、野蛮にも彼はテーブルを叩き壊して、雄叫びと共にその姿を変貌させる。
「こ………この小娘がァァァァァッ!!」
そう、着ていた紳士服は弾け、体毛は黒黄の縞模様へと変幻。正に……虎ね。とっても相応しい姿だわ。背中も腕も足の筋肉も、私程度の人間が振るわれでもしたら一回で生が終わっちゃう。
そのような感じで、怒り心頭なガルド。獰猛な牙と瞳を向けて脅すように叫んだ。
「テメェ、如何いうつもりは知らねえがァ………俺の上に誰がいるか分かってんだろうなぁ!!? 箱庭666外門を守る魔王が俺の後見任だぞ!! 俺に喧嘩売るてこたァ────」
「
三度目、ガルドはまた口を勢い良く閉ざされた。けれど、今度は彼自身の豪腕を振り上げ私に飛び掛ってきた。彼の唐突な行動にジン君は一瞬反応が遅れ、周りの人達も軽く悲鳴を上げている。もう〝言葉〟を紡いでいる暇は無い。誰もが私の行き着く凄惨な末路を想像していた……
しかし──
「!?」
「フフ………如何したの? 突然襲い掛かってきたかと思えば
「っ!! ぐっ…ぁ……!?」
ガルドは愚かにも、私の目前で動きを止めるなんて、随分と舐めた行動を
私は地に無理矢理伏せられ呻くガルドを睥睨する。一人の少女に伏せられた人虎、というのは酷く奇妙で滑稽な図でしょうね。
「さてと……ねぇガルドさん? 私はね、貴方の上に誰が居ようと構わないの。寧ろ魔王なのでしょう? それなら個人的に是非会ってみたいわね? それでなくとも、内のコミュニティの最終目標は〝打倒魔王〟なのよ。そうでしょうジン君?」
「………はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間を取り戻す事。今更そんな脅しには屈しません」
「──だそうよ?」
「く……くそ………!」
愉快に呻くガルドに最早抵抗する意思は失せてきていた。私のギフトを乗り越えられず、彼を裁くに必要な言質も取った。これ以上抵抗するなんて不可能ね。
でも……これでは少し面白くないわね………。折角箱庭なんて夢の異世界に遣って来たのだから、パァーと景気付けに何か面白いことでも──────ねェ?
「フフフフ────悔しい? 悔しくない筈無いわよねェ? だって今日日を以って貴方の率いる〝フォレス・ガロ〟はお終いだもの。………でも、それじゃあお互い詰まらないでしょう? そこで提案なのだけれど、」
ガルドに歩み寄り、足の爪先で彼の顎を持ち上げこちらを向かせる。酷く嗜虐心を煽られる行動に私自身少しやってみて嵌まりそうなのだけれど、それは一旦放置。
私はなるべく穏やかに、そして冷徹に笑みを浮かべながら、一つの救済を、哀れな虎に提案してあげた。
「私達と〝ギフトゲーム〟をしない? チップは勿論、貴方の……〝フォレス・ガロ〟の存続と、私達〝ノーネーム〟の誇りと魂を賭けて、ね」