■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
〝ノーネーム〟の活動方針が固まり、各々が準備を、または何時もと変わらずに日々を謳歌し始めて三日目の事。箱庭の東端の地域、相変わらず人通りの少ない寂れた街中を十六夜は歩いていた。
向かう先は〝サウザンドアイズ〟二一〇五三八〇外門支店、要は白夜叉の元に向かっているのだ。
「くぁ~……」
二ヶ月前にはまど蕾であった桜擬き、満開になり舞い散る花弁を横目に、気怠さを隠そうともせず欠伸を洩らした。昼過ぎの陽光は、昼餉の後である事も相まってか心地良いであろう睡魔を催してくる。
正直、十六夜としては今直ぐにでも本拠に戻り木陰の下で昼寝に洒落込みたい心情である。だが、自分の意思で赴いているにしても手ぶらで引き返すのは本意ではない。それに飛鳥に何をされるか分かった物ではないのも理由の一つである。
さて、何故十六夜が〝サウザンドアイズ〟の支店に向かっているのかというと、理由は単純で、白夜叉に掛け合って何かしらのギフトゲームを紹介して貰うためである。
これまた何故か。此方も理由は簡単な事で、先の北側に魔王襲撃した騒動において、〝ノーネーム〟は大いに貢献をしてみせた。それで、その際の評判が良い意味でも悪い意味でも広がってきてしまい、今回の理由というのも悪い意味が原因で、十六夜達の実力はあまりにも高すぎるとゲームへの参加拒否が増えてきてしまったのだ。
何分他のコミュニティも生活が掛かっている以上、無理に参加する訳にもいかない。十六夜達にとってそんな事はどうでもいいにしろ、将来の行動にまで関わってくるとなると彼らも理知的にならざる終えない。
因みに、そのギフトの質と実績からゲーム拒否が多いのは十六夜と耀である。で、今耀はと言うと先日届いていた〝ウィル・オ・ウィスプ〟からの招待状を手に北側に遠出中だ。ついでに半ば強制で萃も連れていっている。
「はぁ……ったく。どいつもこいつも薄弱ったらねえ。下層に燻ってるだえのコミュニティだろうが度胸とプライドぐらい示せってんだ……(あー……適当に騒ぎでも起こしてみっか? 暇潰しにはなりそうだが…………)」
あまりにも張り合いの無い輩についつい愚痴を零す十六夜。反動のせいか物騒な事を考えているが、洒落にも冗談にもならないので何とか控えて頂きたい。
そんなこんな、愚痴と欠伸を洩らしている内にお馴染みの暖簾が眼前に見えてきた。もっと言うなら割烹着に箒装備状態の、こっちもお馴染み女性店員(名前不明)も業務に勤しんでいた。
そして例の如く彼女を無視して店内に上がり込もうとする十六夜、だが当然……
「……っと、」
ブンッ! と十六夜の鼻先ギリギリを箒の先が通った。それを彼は難なく躱す事は出来た、がその隙に店員さんは彼の前に立ち塞がってしまう。
二ヶ月前に出会った時と何ら変わらない、険しい表情で十六夜を睨み付けてきた。
「当店は〝ノーネーム〟お断りと何度言えば理解できますか? 加えて、路銀も落とさない冷やかし常習犯を易々と通すと思いますか? そのまま回れ右をしてお帰り下さい」
「相変わらず融通が利かねえのなアンタは。まぁ、戯れ事はいいからさっさと退けや」
「……不逞を働く輩には実力行使も厭いません。此処(箱庭)での常識です」
十六夜のあんまりに不遜な物言いが鼻に付いたのか、一層と睨みを利かせる店員さん。
真っ昼間の商店の前に不穏な空気が流れ始める。両者、苛立ちが色々と貯まっていたのか一切退こうとはしない。目が本気であった。
正に一触即発。こんな事前にも有ったような無かったような…………兎に角。このままではま(・)た(・)〝サウザンドアイズ〟の店門が崩壊しかねない。
――――と、その時だった。
「……ほぅ、人様の店先で白昼堂々と営業妨害とは……良い度胸だの小僧共?」
唐突に、二人の間に割って入る形で現れた青筋を立ててご立腹な白夜叉。
店員さんはそんな珍しく真面目にお怒りの彼女にサァ…と顔を青くした。
「っ! オ、オーナー……!?」
「あ? あぁ、白夜叉か。外回りでもしてたのか? 意外と真面目に仕事してたんだな」
店員さんとは対照的、十六夜は白夜叉の威圧を物ともせずに悠然と口を利く。そんな彼に白夜叉もやや呆れを示した。
「意外とは失礼だの小僧。〝階層支配者〟たる身の上、職務は貴様の想像以上に膨大な量なのだぞ。常人なら一日と保たん」
「ふーん……。じゃああれか、やる事やって無駄に有り余ったエネルギーで黒ウサギを弄ると、そういう事だな」
「うむ。ただまぁ、最近はまたコレといって興じが無くてのう……どうだ小僧。今の騒ぎは水に流してやる代わりに、私を興じさせてみんか? なに、軽く一手合い交えるだけだ。おんしとて望む所であろう?」
「……上から目線ってのが癪に障んな。ま、嬉しいお誘いだが……残念だな、今回は遠慮しておくわ」
「ふむ、そうか。
……まぁ良い。立ち話もなんだ、話なら私の部屋で聞こう。この前みたく店舗を破壊されては堪った物ではないからな」
「しねえよ。ってか、あれは俺だけの責任じゃないだろうが、ったく……」
数週間前に〝ノーネーム〟が関わった東側のとあるギフトゲームを思い出し十六夜は罰が悪そうな顔をする。詳しい事は省くが、白夜叉と彼の口振りの通りに、一度そのゲーム最中に〝サウザンドアイズ〟の店舗……その入り口を十六夜は破壊してしまったのだ。その際に白夜叉から命一杯お叱りを受けたのは……言うまでも無い(彼は半分聞き流していたが)。
とまあ、何はともあれ十六夜は漸く〝サウザンドアイズ〟の支店に入る事が出来る。
やはり毎度の事納得が行かないのか不機嫌面を隠そうともしない店員さんを横目に、得意笑顔を向けながら店内へと入っていく。そしてそのまま今回で(おそらく)四度目となる八畳間の座敷にやってき、お互い座布団に腰を下ろした。
「――――して……十六夜よ。おんしは如何なゲームを望んでおるのだ?」
「ん、流石は魔王様だな、元とはいえ。話が早くて助かる。
――――ゲームの種類は問わない。『力』だろうが『知恵』だろうが何でも良い、兎に角それなりに手応えのあるものを頼む」
十六夜の用件を見透かしていたのか早速話を切り出した白夜叉。その対応に十六夜は、先程までの不機嫌さを緩和させて期待を籠めて以上の条件を出す。条件とは言ってもそれなりに難しい物を出せとの事で、白夜叉に負けず劣らず上からな物言いである。
「……全く、贅沢な小僧だのう。少しは遠慮と妥協を……っと、妥協し過ぎた結果が今の状況だったか。ふむ…………、」
「はぁ……、上層ならまだマシな奴が居そうだが、黒ウサギが煩くてな。下層から選ぶんじゃ……やっぱ無理か?」
上層に行けば例え十六夜だろうと参加を拒否するような輩は居ないだろうと考えている。だが万が一にも何か不運が巡り合わせからでは遅いと、過保護な
「むぅ…………仕方ない。今回は私が見繕ってやるかの」
「お、そりゃ太っ腹な事で。
……で、そっちの要望はなんだ? 今ならある程度の無茶も聞いてやるつもりだぜ」
若干腹が立つ軽薄な笑みを向けてくる十六夜。まるで元々この流れを想定していたかのような清々しい笑みである。どうやらお互い、冴えてたようだ。
十六夜の言葉に硬直する白夜叉。だがそれも一瞬、懐からキセルを取り出し一息吐くと苦笑を浮かべた。
「聡いな小僧。今のやり取りで何故そう思い至った?」
「なんて事はねえよ。今こうして頼んでんのはアンタなんだぜ白夜叉? 何の見返り無く娯楽を提供してくれるなんて甘い考えは端から考えもしないな」
「……非常に不本意な印象を持たれてる事は理解した。ま、話が早い事に越したことはないし、おんしも回りくどいのは好かんだろうしな。
……でだ。おんしに頼みたい事だが――――」
そこから十六夜は、一時に亘って白夜叉からギフトゲームとそれに準じた依頼について話を受け、最後にはそこそこ満足気に支店を後にするのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――――翌日。
白夜叉の依頼と暇潰しのために、十六夜は東の都市から大分離れた世界の端に近い〝トリトニスの滝〟を訪れていた。以前、箱庭に召喚された際に耀と立ち寄ったあの大滝である。とすると、十六夜の哀れな
「さァて、図体だけは無駄にデカイ
『おい、口を慎めよ小僧。白夜叉殿の厚意の手前貴様の相手をしてやると言うのに、来て早々我を愚弄するとは……覚悟は良いのだろうな?』
トリトニスの滝の主であるいつぞやの蛇神である。十六夜は横で見ていただけであるが、耀に逆恨みで叩きのめされていたあのっ、蛇神である。
そんな経歴の……彼? 彼女? だからだろうか、態々馬鹿にした態度で十六夜は対峙する。そんな彼だが、今日は珍しくヘッドフォンを付けていない。おそらくゲームの中心舞台がトリトニスの滝と河川の流域になると当たりを付け予め置いてきたのだ。既に壊れているそうだが、だからと言って何度も水中に晒す物でもないとの事。
「モチベーションなら良好だぜ。
――――さて、とっととゲームを始めようぜ。お互い交わす言葉もあんま無いしな」
『ふん……そうだな。では小僧よ、神格を宿し我の試練、精々その非力な身で乗り越えてみせるがいい!!』
刹那、膨大な水飛沫と共に蛇神はその巨躯を水中へと消し、入れ替わるように一枚の『
りてきた。
―ギフトネーム名〝湖上の華〟―
・プレイヤー一覧
〝ノーネーム〟逆廻十六夜
・ゲームマスター
〝トリトニスの滝の主〟白雪姫
・クリア条件
水仙卵華の蕾を入手し開花させよ。
・敗北条件
正午までにプレイヤーが勝利条件を満たさない場合。
プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
※舞台補足
・参加者は鉄則として、トリトニスの滝から半径一キロメートルから出てはいけない。
・主催者は鉄則として、ゲームテリトリー内に水仙卵華が群生している事を保証する。
羊皮紙の内容は以上。
十六夜は早速二、三度と記載事項を読み返し、頭の中で条件に見合う情報を組み合わせて反芻させ始める。
「水仙卵華って……あぁ、あの卵もどきの花か」
以前にコミュニティの貯水区でジンに名前を聞いた事と、昨日道中の噴水で見掛けた蕾を何となく思いした。特に興味も向かず今まで気にも掛けなかった物、まさかここにきて出張ってくるとは予想外である。が、情報が皆無ではないだけ彼もその億劫な頭を働かす。
「……さてと、ぼちぼちやって行こうかね(正午となると……だいたい一時間くらい、か。ま、特に問題は無いな)」
一先ず整理を終えた十六夜は、幾重かに枝分かれした河川を巡ろうと歩を踏み出した。
勝利条件に必須である水仙卵華。取り敢えず名前や以前見掛けた特徴からして、水辺に群生する花である事は間違いない。つまり下手に森の中を散策せずとも水のある場所を辿っていけば良いのだ。また、それらは噴水やそこから続く水路上に多く見られた事から水流の見られる場所に群生している可能性が高くなる。一概にそうと確信はできないが、今はこれが最も有力だろう。因みに開花については後回しだ。
「────っと、なんだ。意外と早く見付かったな」
考えている内からと、今回は運も巡り合わせが良かったのだろうか、十六夜の視線の先……流れが多少緩やかな大河の水内に亜麻色の卵のような蕾を見つけた。時間にしては五分位、まだ殆ど時間は余っている……が、問題はここからである。
……の前に、話は水中の蕾を取ってからだ。服を着たまま水中に飛び込むというのはやや躊躇われる物だが、今回ばかりは仕方ないと割り切って水底へと飛び込み、小さな蕾を一つ手に取った。その際、水中に生きる彼の知らない生態に意識が向いた。あまり自然景観に感動を抱く質ではない彼であるが、未知の物ともなればそうでもないらしい。
蕾はその手に収めたまま水中の光景を見渡す。そして一度水面越しに見える太陽の位置を確認すると、人知れず肩を竦めて大河の流れに逆らって歩き始めた。要するに時間もまだあるんだし散歩でもするか、という事のようである。
地上の生物はその器官上の問題で水中では活動できない筈なのだが、十六夜はそんな常識理念に真っ向から喧嘩を売るが如く優雅な水中散歩を楽しみ始めたのだった。
水中散歩って一度やってみたいです。