■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
〝ノーネーム〟の廃墟区。(心なしか)以前より荒れ果てたその中心にて、ウサギ耳の少女――――黒ウサギはその髪を緋色に染め額に青筋を浮かべながら、目の前に正座を強いらせた三人の少女達に対して肩をワナワナと震わせながら口を開く。
「あ、あのですねェ……! 黒ウサギとしては、コミュニティの領地を少しずつ手を加え直してくれる心意気はひっじょーーーーに有り難いのですヨ。
でも――――私闘の二次被害で廃墟区の整備をするのはどう考えても可笑しいですよねえ?! 幸いにも子供達に被害は及びませんでしたが、それでも! コミュニティの支えを担う者として少しは体裁という物を考えて下さい! 特にっ、飛鳥さんとレティシア様! 御二人は黒ウサギ達が収穫祭の前夜祭で拠点を空けている間の留守を預かっているのですから、くれぐれも子供達の不安を扇ぐような行動は控えて頂きたいのです!」
黒ウサギの言うことは尤もである。上に立つ者が下の者の手本とならないなんて事、現状に限らず普通は許容できる事ではない。少なくともこの箱庭で活動する一コミュニティなら尚更である…
「────だそうよ、レティシア?」
……とは言え、飛鳥が正面から素直に受け取る事はなかった。話の逸らし方は子供宛らである。
そしてそんな彼女に黒ウサギはガクッと肩を落とし、レティシアも呆れを隠せない。
「君もだっ。……いや、しかし、私としたことが……一時の感情に流されるとは、返す言葉も無いな」
「フフフ……『箱庭の騎士』が聞いて呆れるわねェ?」
「誰のせいだ! 誰の!!」
「あーもうっ!! どうして火に油を注ぐようなことをするのですか飛鳥さん!?」
「ん、それは勿論……楽しいからに決まってるでしょ?」
さも当然の事の様に首を傾げる。だが口元に浮かぶ清々しい程に神経を逆撫でする笑みのせいで純真性の欠片も無い。そして、そんな彼女にとうとう……
「開き直らないで下さいよ!? って、あ、あぁレティシア様!? ま、待っ、落ち着いて下さい!!?」
ギフトカードから血色の大剣を掴み取り、飛鳥に振りかぶるレティシアを黒ウサギは慌てて引き止めた。
「止めてくれるな黒ウサギ。コイツは……今直ぐにでも矯正してやらんと私の気が治まらない……!!」
「いえ、お気持ちは分かりますが! 流石にそれは冗談になりませんよ!?」
「あら、私は別に問題ないわよ黒ウサギ? こんな『お子ちゃま』吸血鬼に伏せられる程私も弱くは無いわ。ねェ、レティシアちゃん♪」
「……言い遺す事はそれだけカ?」
「まぁ怖い怖い。騎士様がそんなに直情的じゃぁ……益々以って子供ね、見たまま」
「────あ゛?」「アハハッ♪」
どう間違っても見た目幼い女の子の口から出てはいけないドスの利いた声が出る。対しS気を晒す彼女は可笑しそうに笑う。
両者はの空気はまたも一触即発。レティシアの掴む柄から鉄の拉げる寸前の音が聞こえ、飛鳥は銀の十字剣を携えて妖しく微笑
「あーーーーもうですからぁ!! 御二人とも少しは学習してくださああああああいっ!!!」
────んだ所で黒ウサギの本日二度目の叫喚……の後スパァアアアアアアアッン!!!! と睨み合う二人の頭にハリセンが炸裂するのであった。
(はぁ…………不幸だわ)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
飛鳥の悪戯心から始まった整作業地……という名の乱闘が勃発し始め長い物で一時間。魔王の爪痕を残していた廃墟区は、その半分以上がもう見る影もない瓦礫の山と化していた。以前も相当な光景であったが、今も大概に酷い有り様である。
で、愉快そうに死の瀬戸際の乱闘を楽しむ飛鳥。そんな彼女にとうとう堪忍袋の緒が切れたレティシア。怒りに身を任せるペストの三人は、一切合切自重という物を考えずに見るに耐えない光景を生み出してしまった訳たが、そんな時騒ぎを聞き付けて乱入してきたのが黒ウサギであった。
彼女は最初こそ必死に金切り声を上げて三人に静止を呼び掛けたが、如何せん聞く耳持たずの状況だったので〝
危うく第二次乱闘に発展しそうになった二人をハリセンで黙らせた黒ウサギ。やり取りとしては数分程度と短い物だったのだが、既にドッと疲れきっていた。
「ゼェ…ゼェ…………と、兎に角っ、今回の件は喧嘩両成敗ということで終わりです! ……此処もこのまま放置と言う訳にはいきませんから、皆で早く片付けましょう」
「それもそうね。レティシア、決着はまた後日にでも着けるましょうね」
「……そうだな」
後日に一波乱また起こると約束されてしまったが、取り敢えず今が治まったので黒ウサギも敢えて口は挟まなかった。
瓦礫の撤去に掛かりだす三人。その傍で心底嫌そうに顔を顰めているペストも、曲がりなりに当事者となってしまっているため渋々と彼女達に続いた。
「……とんだ厄日だわ」
「『元』魔王のプライドもあった物じゃないわね~」
何を他人事の様に……、そうペストだが手元の朽ちた木材を握り潰す以上に反応は示さなかった。これ以上突っ掛かっても良い様にあしらわれるのが目に見えているのだ。
心の内で奇妙に燻る憤怒の感情さえも意思で無理矢理抑え込む彼女であった。
それから少しして瓦礫の半分程が片付け終わった頃、〝サウザンドアイズ〟に赴いていた十六夜が帰ってきた。そして帰ってきて早々、小一時間で変わり果てた廃墟区を見渡し、飛鳥とレティシア、ペストに黒ウサギの姿を見付け大まかな察しを付け一人納得した。
「こりゃまた、人が留守にしてる間に派手にやったな……」
呆れ顔でそう呟き、一跳躍で黒ウサギの元に降り立つ。それに気が付いた黒ウサギは、どうこの状況を説明しようかと妙に狼狽えた。
「い、十六夜さん! あ、えーと……その、これはですね……」
「いや、何でお前が動揺してんだよ。大方、飛鳥とレティシアが……あとペストもか。そいつらが整備とか銘打って暴れでもしたんだろ? 廃墟区の整備については前から話に挙がってたしな。で、黒ウサギはその後始末に付き合ってる訳だ。良くも悪くも献身的なウサギ様だな」
十六夜のまるで最初から見ていた様な予想に返す言葉もなくウサ耳を力無く垂らす黒ウサギ。おそらく事前に止められなかった事に負い目を感じてるのだろう。
そんな黒ウサギを言葉通り良くも悪くも面倒な奴だなぁ、と思いつつ、十六夜は溜め息を零す。そんな彼だが、四人を手伝おうなどとは毛頭考えていない。面倒だから、また当人達の尻拭いなどしてやる道理も義理もない。
その旨を聞いた黒ウサギは、納得はしたもののどこか寂しそうに肩を落とした。
と、それも束の間。彼女は十六夜が〝サウザンドアイズ〟にギフトゲームを紹介して貰いに行ってきた事を思いだし、それについて問うた。
「ところで、十六夜さん。白夜叉様の元を訪ねたそうですけど……参加出来るギフトゲームは見付かりましたか?」
「ん? ……あぁ、まぁ、一応は。白夜叉直々の紹介……ってか依頼でな。前に俺と春日部が行ったトリトニスの滝ってのに行ったろ? あそこの主様とやる事になった」
「えっ? あ、あの蛇神様とですか……?!」
途端、黒ウサギの醸す雰囲気が哀愁……と言うよりは同情を孕んだ。何せそのトリトニスの滝の主とは、以前に十六夜達が箱庭にやって来て間もない時に耀が文字通り沈めた蛇神だからだ。
……そう、十六夜の馬鹿力に及ばない耀が沈めたのだ。十六夜が相手すると考えれば……それはもう同情の念しか浮かばない。
「あー……あと黒ウサギ。白夜叉がお前に用があるらしい。明日の昼頃……丁度ギフトゲームが終わる頃か? に〝サウザンドアイズ〟に向かっといてくれ。因みに内容は聞いてないから聞くな」
「あ、は、はい」
黒ウサギの返事を聞くと、そのまま間を置かず立ち去る。後ろから飛鳥の制止声が掛かっている気がするが、聞いてやる気はなかった。
――――そして時間は戻って翌日の昼時。
トリトニスの河川域を一通り回覧し終えた十六夜は、水面に揺れる青天の太陽を仰いだ。水中遊歩を始めた頃と比べ然した差分は見られないが、その微かな差分から残り時間は一刻に迫る位だろう。そろそろ本腰を入れていかないと、余裕かまして負けましたなんて不様な醜態を晒す事はごめなのだ。
とは言う物、実の所十六夜は既にゲームの解答を導き出していた。十割の確証があるかと問われればやや及び腰な返答になるだろうが、それでも八、九割方の自信は持てる。
因みに十六夜が余裕をかましていたのは、単に勝利条件を把握してたからである。その気になれば半時前には終わらせる事も出来たのだ。
水底を蹴り沢に上がる。一張羅の学ラン上下一式は、当然余す事なくずぶ濡れ。だが中途半端に乾いた箇所があるよりは幾分か心地良くはあった。
慣れた手付きで服の水気を飛ばす。また並行して、周囲に低火力の焔を出現させ乾かしていく。
――――そしてふと、背後の木陰に声を掛けた。
「……おい、そこに居んだろ大蛇。ちょいと提案があっから出てこいよ」
「――――……ふん、気付いてたのか」
やや沈黙があって、森の木陰から高圧的な返答と共に声の主が姿を現す。
しかし、その者は十六夜の言う大蛇ではなく、白地を基調とした単衣を纏い簪で黒髪を結わえた齢二十前後女性であった。
勿論、十六夜の頭の中にその様な女性は記憶にない。が、彼は訝しむでも驚くでもなく予ねて知っていたかのような気軽さを思わせる笑みを浮かべた。
「……敏いな小僧。この姿を見て驚きもせんか」
「そりゃあ、神格持ちなら人化の術を備えていても不思議じゃないしな。大蛇の割には中々上玉な人型を持ってんじゃねえか」
「口の減らぬ小僧だな。それに我を大蛇などと連呼するな。己が参加するゲームマスターの名くらい確認せんかっ。
…………と、それはまぁ良い。して、提案があると言ったな? なに、残り一刻を余す時になって解答を泣き請いでもしたくなったか?」
不遜とした態度の十六夜が気に食わないのか、挑発的に笑う彼女────〝白雪姫〟。
十六夜はそんな彼女の言葉を鼻で笑い返した。
「ハッ、冗談ならせめてとんちの利いた物を言うこったな。で、提案ってのは……何てことない、互いのチップを変更しようぜってだけだ」
「…………ほぅ? 白夜叉殿が遣わせた童子とは言え、我に勝てるつもりでいるのか? ククッ、面白い。ここで引いては神格保持者の名折れも良い所……良かろう。その意気は買ってやる、何なりと申してみよ」
「一々仰々しいのな……。時間もねえから簡潔に言う────互いをチップにしようぜ? 俺が勝てばアンタを隷属下に、アンタが勝てば俺と……もれなくあと二人を追加でアンタの従僕でも餌にでも成り下がってやる」
白雪姫は呆然と目を丸くした。だがそれも一瞬で、次には険しい眼光で十六夜を射抜く。
十六夜が言う事はつまり、この場には居ないコミュニティの同士……恐らく飛鳥と耀を(身勝手に)巻き込んで大勝負をしようという事だ。
白雪姫としては、このゲームは人がそう易々とクリア出来る物でもないし、常識ハズレの……半歩非人道的域へと足を突っ込んでしまっている提案に亜然を通り越し呆れすら湧いてこなかった。
「……正気か小僧?」
「ハハッ、俺は何時でも正気だっての。────で、どうする? さっきも言ったが時間も大詰めだ。さっさと決めねえなら〝是〟と見なしちまうぜ」
今度は十六夜が挑発的な笑みを白雪姫に向ける。
正直、彼の提案は今となって安易に決め兼ねる物となっていた。一向に崩れない不遜な態度、それは絶対的勝利が自分にあると断言できたとしても言い知れぬ不安を煽っている。
しかし、一度勝負を受け取った以上、怖気づいて後退を許すなど彼女の矜持が断じて認めない。そうでなくても、逃げの一手は専ら有りなどしない。
「…………ふん。先の言葉、忘れるでないぞ。無論、我もだ」
長い口上など不要。返答はそれだけで充分であった。
十六夜の口角がニィ、とつり上がる。
「オーケー。んじゃ、サクッとクリアしてやろうかね」
粗方服を乾かし終えたので、展開していた焔を消す。その奇怪な術に白雪姫はやや関心を寄せたが、それよりも十六夜の言葉の方が気になった。
あれほどの事を豪語したのだ。当然ゲームのクリア方法は既に解っているのだろう。だがそれでも、このゲームは常人にクリア出来る程優しくはない。言ってしまえば人の子にとって無理難題も同然のクリア方法しか存在しないのだ。
水仙卵華はその名の通りに水辺、それも水流があって且つ流れの緩やかな河川の沢に存在する箱庭特有の華である。
今回はその華の開花がクリア条件。しかしながら、どんな華であっても通常は一時間という短時間で開花するなんて事は先ず無い。もしあったとしても、何らかの特別な条件下に置く必要がある。そしてそれは、この水仙卵華に当て嵌まるのであった。
簡単に説明すると、水仙卵華は急激な環境の変化において種の保存をする術を備えており、その条件は急激な水深の変化。
そもそもギフトゲーム名は〝湖上の華〟とあり、水仙卵華は緩やかな水流地域に群生する。考えてみれば実に簡単な連想ゲーム、この二つだけでも条件は必然的に絞れたのだ。
それで話は戻るが、こう聞くとクリア条件を満たすには湖や池などのある程度の水深を持つ水溜りを探せばいい……のだが、実はこのゲームの行動許容範囲内に該当する池も湖も存在しないのである。ただ一つあるのが、トリトニスの大河でも最も水深の深い下流の中央。でもそこは非常に流れが激しく、目の鼻の先には世界の端に通ずるトリトニスの大滝が存在する。落ちれば十六夜でも生きて返ってこれるかは解らない。
そんな人間にとっての正真正銘の難題を、彼はサクッとなどと軽いノリでクリアすると言ったのだった。
「己が身を賭けた故、命も惜しくないと……そういう構か?」
「まさか、誰が好きこのんであんな激流に呑まれたがるかよ。俺はどっちかって言うとな……激流を
その時、その言葉に白雪姫はふと薄ら寒い予感を覚えた。今直ぐ止めなければ後悔するぞ、と彼女の脳内で警鐘が鳴り響く……が、すぐに判断しなかったのが致命的となった。
「ってな訳で、イッチョ派手にやりますかァ!!」
「あ、お、おい!! ちょっと待て小僧ッ……!?」
制止掛けるも虚しく、十六夜は蜃気楼、霞の如く白雪姫の視界から瞬く間に消え失せた。気付けば、彼は河川より少し離れた森林地帯の上空に跳躍……していたかと思えば重力にしたがって地上へと落下していく。
そして壮絶に愉快な軽快な笑みを湛え拳を引き絞ったかと思うと、手加減無用で森林を、岩盤を……白雪姫の領地を衝撃波で薙ぎながら深く巨大なクレーター造り上げた。その規模何と、ゲーム指定領域の凡そ五分の一はあろうかという規模である。デタラメもここまで来ればいっそ清々しい。
「クハハッ、土台は完了っと! 後は────」
(何時の間に増えたのか)水仙卵華の蕾を二、三個地に落とす。穴を造ったが良いが肝心の水が泣ければクリア出来ない。
十六夜の中では河川の水を引っ張り込むという案もあったのだが、派手さを求めた結果もう一つの案に決定していた。それは……
「水が無ければ余所から引っ張ってくればいい。もし引くのが面倒なら────
宛ら大地震とも言える揺れに足を取られつつも白雪姫は、十六夜が空けたクレーターの元へ足早に向かう。
流石の彼女も、これは本当に予想外。まさか湖がないなら造れば良いと言い出すとは思わず、況して実行に移すとなると想像も出来なかった。
以前耀に打ち負かされた時傍に居た童子程度の認識。だが此度合間見えてみればとんでもない規格外の人間。そして今、常識知らずの悪童へと評価がコロコロと変わっていく。
「クッ……!! あの小僧、本当に人の子か……!?」
彼女の言葉も尤もである。
やがて、一分と経たずに彼女の視界が開け、巨大なクレーター……と、再び跳躍して眼下に両手を向ける十六夜を捉えた────次の瞬間、
「なッ……!? な、ん……そ、そんな、馬鹿な……!!?」
何が起きたのか理解できなかった。いや、理解は出来たが正直自身の目を大いに疑ったのだ。
それはまるで荒れ狂う濁流の如く、十六夜の掲げた掌、その先の虚空より水が、圧倒的質量を伴って逆ドーム状の地形を埋めていった。
正に目を疑う光景。一体何処の人間が、無の虚空から湖を形成する程の厖大な水を顕現させられるであろうか……。
「クハハハハハッ!! あー、何だかスッゲー気分が良いな! ……折角だ、もうチットサービスしとくか!?」
いや要らん、なんて言葉は誰の口から発せられる事もなく、再び貯水の強要を超える濁流が上空より流れ込んできた。その光景は珍事ながらの最早氾濫、大洪水である。
「ば……馬鹿止めろッ、いい加減にせんか貴様ああああああああああああああああ!!!」
押し寄せた激流に抗う白雪姫の心の底からの叫びが一帯に響き渡るが、十六夜の耳には届かない。
────その日、たった一刻にしてトリトニスの滝周辺の地域は水棲生物の居住を大きく広げる事になったのであった。
次の投稿は何時になるのやら……
最近は時間に余裕が無いから余計辛い……