■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
空を駆けるグリーと滑空する耀の速度は感嘆の一言に尽きた。特に、文字通り風を纏い空を踏み締めるグリーは種族柄当然としても、耀は驚嘆に値する。
本来、グリーと同等の速度で並走すれば、彼の背に必死に掴まるジンのようにマトモに喋ることも出来ず、一歩間違えれば制御を失い落ちる事だってありえる。だが彼女は、速度を全く落とさず制御も申し分ない。その上、見に受ける風圧を巧く受け流していた。表情を伺うに、まだまだ余裕を残しているのは間違いないだろう。
『やるな。これでもそこそこ全力に近い速度を出しているのだが……まだ余裕がある様に見える。二ヶ月足らずでよくここまで付いて来られたな』
「グリーさんに褒めて頂けるとは、光栄です。……それと、もう少し(速度を)落としませんか? ジンさんが辛そうですし」
『む? おぉ、済まない』
暴風からそよ風辺りまで速度を和らげる両名。ジンは叩きつけられる風圧から解放されてもう肩で息をしてしまっている。それに少し申し訳ないと思うグリー。
そこでふと、外門前の丘陵に置いて来てしまった十六夜の事を思い出す。
『あの少年……十六夜は、何か空を舞うギフトを所持しているのか?』
「い、いえ。黒ウサギが把握している限りでは……直に空を飛ぶ事の出来るギフトは所持していなかったかと」
「まぁ、ただ単に使わなかったってだけなんだがな」
そ、そうなんですか……と一応納得する黒ウサギ。そして数瞬後、ギョッ!? として隣の、間を空けて
「い、十六夜さん!? 何時の間に追いついてきて……と言いますか、え!?」
『ほう……人のみで空を歩むか。変わったギフトだな』
「そうでもねえよ。有り触れた……とは言わんが、春日部のギフトには到底及はねえ手品程度の代物だ」
そうは言うが、人の身で空を歩くなど並みのギフトではないだろう。それも、この事象すらあくまで一ギフトにおける一介の使用法でしかないのだから、有り触れたなどと謙遜するのもおこがましい。
そして、十六夜のギフトに関して謎が更に深まった黒ウサギはまたこれからも悩む事になりそうだ。
今の所十六夜が見せてきた物は、岩石の顕現及び浮遊、その身に雷を纏う事による身体能力の向上、大地を砕き神霊に致命傷を負わせる程の破壊力、ギフトの破壊。また黒ウサギが確認してない物で、火と水の顕現がある。しかもこの他にも引き出しが有りそうだから謎の連鎖は止まないだろう。
但し、彼も……また耀もだが、秘密にしておくのも飽きてきていたりするので、そろそろ打ち明けても良いのではないかと思っている。多分近いうちに機会があれば明かす事になるだろう。
空中から見る地下都市の景色に十六夜は興奮を隠せない様子だ。しかし聞けば、このアンダーウッドは十年程前に魔王の襲撃を受け壊滅的な被害を被ったそうである。それを踏まえると、この収穫祭は復興の祝い事と言っても言いようである。たった十年で殆どの復興を遂げる辺り、南側のコミュニティも中々に侮れないと思えた二人であった。
そんな話をしている内に、一行は地下都市の一角にある宿舎へと辿り着いた。と、どうやらグリーはこの後に、先程耀が見掛けたペリュドンを追い払うよう指示が出ていたらしく、そんな彼に手数を掛けたと礼を述べて一度別れる事となった。やはり殺人種は野放しには出来ないらしい。彼らも呪いのせいでそうせざる終えないのでは? と考えると、少し同情が浮かんでくる耀だった。
「よう童共! 僅差で先を越されてしまったようじゃな」
「え、萃様? あの、先に居らしてたのでは無かったのですか?」
グリーと入れ替わる形で、大樹の網目を越えて萃は姿を現した。またその背には、四肢を力無く垂れさせるペストが顔色悪く負ぶさっている。そちらも含め何があったのかと問うてみたが、何ともどうでも良い経緯で、
「いや、黒ウサギよ。自分等は先に出るとは言ったが、それは明朝の事じゃろ? 境界門無しで此処まで自分の足で来たんじゃから、まだ早いじゃろうて」
「あ、え、えぇと…………そうでございますか」
何となくペストが気分悪そうな理由を察した黒ウサギ。つまりは、北側程ではないにしろ恒星級の単位で離れている南側へ走ってきたのだ。で、その際ペストは出せる速度の限界を考えて負ぶわれて来た。当然、音速も斯くやと言う速度を長時間体感していたらそれは気分も悪くなるだろう。
「ぅ……し、シぬぅ…………」
「無理して付いて行く事無かったでしょうに……」
「寧ろ良く気分が悪い程度で済んでるな」
残念ながら十六夜も耀も同情は抱いていない。彼女は彼等と共に境界門を使うと言う手もあったのだから、同情の余地も無い。
まぁ実際は、萃に半強制で拉致されたからなのだが……弁明する体力は今の彼女に無いだろう。
取り敢えず、悪かったと萃のギフトで彼女の気分の悪さを散らし、活力を分け集めて処置をしてあげた。
と、そこで推移する間も無く新たな来訪者が一行に声を掛けてきた。特徴的なカボチャ頭……と言う訳で〝ウィル・オ・ウィスプ〟のジャック、並びに地霊少女のアーシャである。
「数日ぶりですね、ジャックさんにアーシャさん。お二人も来ていたんですね」
「まあねー。前にも言ったけど内は商業コミュニティだからな。色々と事情があるって事よ、っと」
窓の宿舎から飛び降りてくるアーシャ。それから彼女と耀は今後の開催されるギフトゲームについての話に移っていった。
一方のジャックはと言うと、少々苦笑して彼を見ていた萃の方に寄って行く。
「お久しぶりです、萃殿」
「ん、久しいのジャック。先日にそっちを訪ねたばかりなんじゃが……ウィラの機嫌取りに追われての。挨拶が遅れた」
「いえいえ。こうしてお帰り戴けてでも、このカボチャ、少しは安楽が取れる物です」
「…………済まんかったよ。んで……何じゃ。ウィラの奴は来ておら「萃っ……!」ッと?!」
それは文字通りの不意打ちだった。十八番である
突然虚空から少女が出現したこともそうだが、何より萃に行き成り抱きついた彼女に、事情を知る耀以外の〝ノーネーム〟一同と彼を知らないアーシャは唖然として固まった。特に、漸く体調が回復してきたペストは、目の前で知らない女が好意を寄せる彼に抱きついたという衝撃的光景に時間が止まっている。
そんな彼女を知らずか、そもそも眼中にないのか、過度なスキンシップを続けるウィラ。が、ふと腕の中に抱き締める感触が消えたと思うと、彼女の後ろに呆れ顔の萃がユラリと現れた。
「そもそも、来ないなどと言う選択肢はこ奴には無かったのう……」
「あ、あのー萃様? そちらの女性は一体……」
「? ……あぁそう言えば、お主等は知らんのか。こ奴は、〝ウィル・オ・ウィスプ〟の頭を形式上務めておる放蕩むす「ウィラ=ザ=イグニファトゥス……」……じゃのう」
意外な人物の紹介に黒ウサギとジンは驚いて彼女を見た。またシツコク萃へと抱きついている見た目耀と変わらない位幼くも蠱惑的な少女が、ジャックやアーシャの所属する六桁のコミュニティの長なのだから。以前北の都市では姿を見なかったため、初対面の印象は……まぁ不思議少女と言った所。
「ウィラ、萃殿がお困りですから。それにもう少しはコミュニティのリーダーとしての自覚を持って振舞いなさい」
「…………改めて、〝ウィル・オ・ウィスプ〟のリーダー・ウィラ=ザ=イグニファトゥス。貴女達の事はジャックから聞いてる。北では二人を助けてくれてありがとう……」
名残惜しそうに萃から離れたウィラは、少しの間を空け惚けた表情を正すと自己紹介。と、北の魔王襲撃においての礼をジン達へと告げ……たかと思えば、また直ぐに萃の元へと寄り添った。
その外見相応の乙女を思わす行動に、黒ウサギとジンも流石に苦笑が隠せない。箱庭に古来から存在する萃ならその人脈も並大抵の物ではないので、今更彼とウィラが何故知り合う仲だとかは問わない。寧ろ、彼女が比較的穏やかな、友好的な性格をしているのだと一面から垣間見えられただけでも何処か安心できた。
────だが、この場で黙っていられない人物が一人だけ居た。それは言わずもがな……ペストである。
「……よ……だ……れよ……な」
感情の消え抑揚の無い声が、ポツリポツリと何かを呟く。またその間、黒い風と共に滲み出る殺気に、黒ウサギ達もジャック達も双方がまずい……! と直感した。
「っ…………だ、誰?」
流石に殺気には反応したウィラ。
彼女は争い事を好まない。故に、心から底冷えするような殺気の塊に身体を震わせ、ギュッと隣に立つ彼の腕に抱きついた。それが、よりペストの殺気を尋常レベルじゃない物へと昇華させていく。
「…………あー……ジンに、ジャックよ。此処の収拾は自分が付けるから……まぁ、先に行っとってくれ。出来る限り、被害は出さぬよう努力はする」
「「……分かりました」」
確かに、この状況は自分達ではどうにも出来ない、そう理解した二人は、他の皆に呼び掛けそそくさと貴賓客用の宿舎へと姿を消していった。
因みにこの時、場の空気のお陰で既に十六夜が姿を消している事に誰一人として気付いていなかった。
萃は周囲の人が居なくなったのを確認すると、ウィラの腰に手を回し、膝を少しだけ落とす。そして、急な彼の行動にウィラが疑問の声を上げる間もなく、地下都市から地上へと向かって大きく跳躍をした。
「────萃いいいいいッ!! 誰よその女はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
宿舎前で、殺気を乗せた咆哮紛いの怒号が轟く。そして、
ついでに書いてて思ったこと。
「一人称ってどう書くんだっけ……?」