■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
「……
「…………そう、ですね。でも、これ以上此方の事情に巻き込まなくて良いと考えれば、彼女も幸いだと思うのです」
「遂には暴論を振りかざすようになりましたか。貴女の〝優しさ〟も堕ちたものですね?」
そう言い返したのも束の間、耀は意識を失ったウィラを腕に抱え上空へ飛翔した。直後、彼女の居た場所が爆音と共に吹き飛んだ。
阿鼻叫喚、救護施設として設けられた区画には悲鳴と怒号が入り乱れていた。その様子を後ろに見つつ、彼女は速度を上げる。傷の治癒がどうのと言ってられる暇はなかった。留まれば殺られる、ただそれだけがハッキリしていた。
「ッ!」
徐々に速度を上げる中、咄嗟に体を横に逸らし間一髪の所で音速を超え飛来してきた弾丸を躱す。が、それで終わりではない。掠れば余波だけで肉片を散らす脅威が、弾幕を張って次々と迫ってきた。こうなると、念頭に置いていた周囲への被害を出来る限り軽減なんて気を配っている余裕はなかった。
上空にいては良い的だと、急降下し複雑な地下街路を縫い地上へと抜けようとする……も、
「逃がしません」
そう耳に届いた瞬間、行く手を土煙と瓦礫が遮った。
咄嗟に体を反転し、ウィラを飛来するそれらから庇いながら地を転がる。だが、そこへ追い討ちを掛けるように耀の上に影が差した。
そこに見えたのは、火を吹く間近の砲塔を自身へと向ける、今さっき蒼炎の中に消えていった筈の少女。その少女が、一切の負傷も見せない無傷の状態で耀へと肉薄していた。
あと一秒も経たぬ内に、彼女の砲塔から放たれた弾丸は有無も言わさずに耀とウィラを粉々に吹き飛ばす事だろう。回避は、体勢上間に合わない。助けを呼ぶなんて事も出来るわけない。ならばと〝破壊〟で迎撃……無理だ。あの〝破壊〟には少なくとも二秒程度の隙を要するのだから。それ以前に、ギフトを使っている暇すらあるかどうか……
(まいりましたね……)
予期の容易い死が目の前に迫り、ゆっくりと流れる視界の中、耀はふと思った。
――――これは詰んだ、と。
(はぁ……せめて、ウィラさんだけでも逃しましょうか……)
そう思い至って、彼女がウィラを突き飛ばしたのと、少女の砲塔が火を吹いたのはほぼ同時であった。
「――――なんて、都合の良い想像でもしていましたか? だとしたら、残念でしたね」
「!? な、そんな――――ガッ!!?」
砲塔が火を吹く直前、背後から掛けられた……掛けられる筈ない声に少女は愕然とした。しかし、振り向く間も与えられず、背中に異常な程の風圧をぶつけられ瓦礫の山へと叩きつけられてしまった。
それでも少女は、そんな事は気にも留めずに、上空からウィラを抱え自身を俯瞰する耀を射殺さん程の眼光で睨み付けた。
一方の耀だが、彼女もけっして無傷とは言えない。ウィラを抱えての無理な飛行に瓦礫の散弾も喰らったのだ。その姿は満身創痍以外の何でもない。お遊びなんて軽口を叩いたが、本音を言えば今すぐに気絶でもしたかった。
「「……」」
無感動な視線と、怨嗟に満ちた視線が沈黙の中交差する。
すると少女は、騒ぎを聞き付けたのか声を上げ近付いてくる複数の獣人を視界の端に捉えた。
(一時撤退……それが賢明な判断ですね)
少女の刺すような殺気が治まっていく。そして、最後に耀を一睨みすると、何も言わないまま踵を返し大樹の外へあっという間に駆け出していった。
十六夜や黒ウサギにも劣らない速さで離れていく背中を見詰め、一先ずやり過ごしたと耀は息を吐き、地上に降りていった。
そこに丁度、獣人達が駆けつけてきた。
「おい君、大丈夫か?!」
「……あぁ、丁度、よかった。彼女をお願い、出来ますか? 恐らく、大丈夫だとは思いますけど、頭にキツいのをもらってましたので……」
「あ、ああ分かった……っ、おい!? くっ、誰かこっちにも来てく――――」
乗りきったという安堵と、傷が応えてきたのか、耀はウィラを抱えたまま、そこで意識を落としてしまった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……」
まだ闇の深い、灯火と星光のみが頼りな地上。そこでは一時間前と同様に幾多の金属音、火花、怒号やら悲鳴やらが絶え間なく響いていた。その上、辺り一帯には既に感覚を麻痺させる濃霧が漂っている。そのため、前回の倍以上の数を持ってして攻めてきた巨人達に、いくら士気の上がったアンダーウッドの戦士達とは言え苦戦を再び強いられているのが現状であった。
そして、その一人に一応人間である十六夜も含まれていた。
「…………チッ」
不機嫌を隠そうともしない舌打ちを鳴らし、襲いくる巨人を手当たり次第に物言わぬ肉塊に変えていく。稀に味方の獣人にまで二次被害が及んでいるが、彼は全く意に介さない。
彼が何故ここまで不機嫌なのか。それはまぁ、立ち込める霧のせいもあるが、何よりも前回と同じく睡眠の妨害をされたからである。
救護施設を抜け地上へ出たは良いものの、丁度その時に巨人の軍勢と濃霧が強襲してきたのだ。
二度に及んだ睡眠妨害。不機嫌になるのも当然と言えるかもしれない。
「――――貴方は……、」
「あ? ……あぁ、あん時の顔無しか」
不意に自身へと向けられた声が聞こえた。そちらに不機嫌面のまま振り向けば、身に纏うドレスアーマーを巨人の血で染めた仮面の騎士が同じく十六夜を見つめ返していた。
彼女は
「何だ、お前も来てたのか……騎士様もわざわざご足労な事だな」
「相変わらず一言多いですね。それに、此処へは」
「はいはい、そっちの用事とかどうでもいいっての。口動かす暇あったら、奥で余裕扱いてるこの霧の原因を何とかしろ」
「……」
一瞬、どさくさに紛れて十六夜を攻撃しようかと逡巡するフェイス。だがそんな事をしている暇はないので、要望通りに口閉して巨人に刃を奔らせていく。
可能ならば、彼女もこの霧を出現させている者を思っていた。ただ、先程から霧に混じり幾度と竪琴の物らしき音色が戦場に響いている。十六夜は全く気にも留めていなかったが、この音は前線で戦う味方の意識を悉く奪っているのだ。奇襲を許してしまったのもこれが原因である。
要するに、十六夜もフェイスも、霧と音色が邪魔をして奥へ進めない……攻め倦ねているのであった。
「あ゛ぁ……めんどくせぇ。……もう前線ごと纏めて潰すか?」
「貴方の癇癪一つで味方も壊滅しては元も子もないので控えて下さい」
「ハッ、知った事か。肉を切らせて骨を断つ、多少の肉片量産ぐらい大目に見ろ」
「その時は貴方一人がその肉とやらになりますが?」
「あ゛? ヤるってのか顔無し」
「「……」」
周辺の巨人を阿吽の呼吸で屠り、二人は一触即発の空気を漂わせ睨みあった。十六夜はその手に小石を複数創り出し、フェイスは愛刀の柄に手を掛け半身を引く。
最前線故意識を保つのにも集中せねばならない時に味方同士で諍いを起こすものではないのだが、主に十六夜が本気で殺気を溢れさせているため、フェイスもそんな事を言っていられなかった。
「「「オオオオォォォォォォォォ――――ッ!!!」」」
「「!」」
偶然接近してきた巨人の雄叫び、それが合図となった。
彼らを、橙色の光線と蛇蝎の如く唸る連結刃が沈黙させた両者は、即座に拳を振りかぶり刃を奔らせ
「「……このド阿呆共。なに戦場で戯れとるんじゃ……自分も交ぜんかい♪」」
「「な……!? ッ――――!!!」」
――――る事は叶わなかった。
二人の一撃は空から飛来した小さな
肺の空気どころか軽く血反吐も吐き出した二人は、突然の襲撃者を睨み付ける。フェイスに至ってはもう反撃に出ようと体を起こそうとしていたが、その者に上に腰を下ろされたためそれも出来なかった。
「呵々っ! クイーンも随分とまぁ、こんな血気盛んな騎士を見つけたもんじゃのう」
「っ……」
自身の主の名がここで言われるとは思わなかったのか、下手な抵抗は諦めフェイスは相手の正体を探ろうと考えた。が、十六夜の言葉がその思考を遮る。
「くそ、がっ……! 爺、テメェ……加減ってものを知らねえのかッ……!」
「阿呆に掛ける加減も何も無いわい。それに、貴様も望まぬ所じゃろう?」
「人をドMみたいに言うんじゃねえ、よッ……チッ、下手したら肋とか内臓逝ってたぞ、これ」
襲撃者にしては彼と親しげ? に話している。それに自身の反撃を止めてから一向に次の手を出してこない。
そうを疑問に思った彼女だったが、不意に体を引っ張り立たされた事で、またも思考は中断させられた。
「っと。まったく、お主らが戯れておらんかったら手を下す必要は無かったんじゃがな。騎士よ、さっきはああ言ったが、お主はこの童と違って公私の分別はつくじゃろう?
「…………貴女は、」
「この様な身形じゃが自分は男じゃぞ。それと、自分の事、クイーンかジャック辺りから聞かされておらんか? 奴はやられたらしつこく根に持つタイプじゃしの、小言程度は聞かされておると思うが……」
フェイス、暫し逡巡。そして、まだ話の上でしか知らない一人の魔王の名が浮かんだ。
「……不羈奔放の魔王、ですか」
「その名は止めんか。自分は
「…………では放埒者とでも」
「糞爺か老害で充分だ、こんな豆チビ」
先程からだが、妙に息を合わせて襲撃者……もとい萃を罵倒する二人。十六夜は兎も角、フェイスも意外に根に持つタイプのようだ。
そんな二人を、いっそ天幕の外まで打っ飛ばそうと画策する萃。しかしながら、一連の様子を黙って見ていた
「つまらん話は彼奴らをしばいてからにせんか。いい加減この音も耳障りじゃ」
「……何時もよりチビになってんなって思ったが……
「ペストにもう一人付かせとる。半分はまぁ削ったかのう……」
「って事は、あとはこの奥に居る竪琴の奴か」
頭身が縮んだとは言え、二人の萃が交互に話す光景は何とも奇妙なものだ。
と、そんな事を今気にしてる場合ではない。巨人達が黒死病の呪いに断末魔を響かせる中、三人(四人)は今も奏でられている竪琴の音が発せられる方向に向き直った。
「しかし、この音を抑えるにも先ずこの霧を何とかしなければ近づく事も叶いません。その点はどう解決するのですか?」
「あぁ、それならこの爺が来たから問題はねえだろ……。おい、俺がここら一帯押し潰すまでにやるならさっさとやれ。こちとら早く寝たいんだよ」
「それが人にモノを頼む奴の物言いか? ……言われんでも、直ぐに
萃がそう言った瞬間、霧に包まれた地上に奇妙な気流が発生し始めた。最初は緩やかだったその流れは徐々に勢いを増していき、そして数秒も経たぬうちに暴風を伴う渦へと変化した。立ち込める濃霧も、その中に垣間見える黒死の風も、巨人ですら、問答無用で萃の掲げられた右手に向かって集束し、圧縮されていく。
「っ、これは……!」
「カカッ!! ほれほれ、どうしたんじゃあデカ物ども!!! その図体は見かけ倒しかぁッ!!? クッハッハッハッハッ!!!」
さっきまでの様子とは一変。狂ったように哄笑を上げ、萃は下手な大岩をも超えた物に次から次へと獲物を萃めていった。
危険を察知し、巻き添えを喰らわないように距離をとっていたフェイスは、眼前に繰り広げられる光景に息を呑んだ。特に驚くべきは、彼が収束する有象無象の中に味方陣営の者が一人も見られない事だろう。比較的近くに居る彼女とて平然と立っていられるのだから尚更だ。
実際、この萃は敵味方関係無く吸い込もうとギフトを行使していた。大樹に大きな影響がないよう調節しているとは言え、尋常じゃない威力だ。それが何故味方への被害だけ抑えられているのか。それは、もう一人のペストに付いている萃がまた別系統のギフトを行使しているからである。か、そんな事誰にも分かるわけない。
「十六夜ィ!! 邪魔なもんは退かした! とっと陰気な術者を踏ん絞めてこい!! 一応言っておくが殺しはするんじゃないぞッ、吐かせる事が仰山あるからのう!!」
「知らねえよ、んな事! 取り敢えずは殴る。精々竪琴の所持者が頑丈な事を祈っとくんだな!!」
良好になってきた視界の奥、暴風に耐える様にしゃがみ込む人間大のローブ姿を捉えた十六夜は、今までの鬱憤を晴らすために駆け出した。
丁度その直後、萃の集束も終わりを見せ引力の嵐も治まった。が、その時にはもう彼は膝を付くローブ姿の人物を前に拳を引き構えていた。
「────!」
ローブの者がハッとして十六夜に気付くが、もう遅い。彼の拳は正確に相手の鼻先を捉えるように伸び、そして────
「────なッ、テメェ……!?」
「クヒヒッ……!!」
────あと寸の距離、体勢を傾けられた事によって容易く回避されてしまった。喉の奥から引き絞ったような不気味な嘲笑が、交差する際耳元で聞こえる。
けれど、ここでそのまま見過ごす十六夜ではない。勢いづいた体を左足で急停止し、そのままその足を軸足に振り向き様回し蹴りを放った。
しかし、それも上体を後ろに軽く倒す事で難なく避けられてしまう。その上今度は、その手に持った黄金の竪琴の絃を弾き、至近距離で音を奏でられてしまう。
「ッ……あ゛あ゛ぁ、ああああああぁぁぁああああああッ!!」
意識が飛んでも普通に可笑しくなかった。それでも十六夜は、声を張り上げ根気で意識を繋いだ。そして、その場を崩壊させる勢いで跳躍。ローブの者がそれで体勢を崩してしまった所に、逃げ場すら与えない程の岩石群を顕現させ、地上に隕石の如く落下させた。
「…………フッ、」
ローブの奥から呆れたような吐息が零れたような気がした。
足を取られ避ける事も侭ならないその者は、何の抵抗も見せぬまま巨大岩石の弾幕に消えていった。
「あーあー……はぁ、あの阿呆が。やり過ぎじゃ────ん?」
たった数秒にも満たない一方的攻撃、その様子を呆れも隠せずに見ていた萃は、ふと自身の元へ飛んでくるソレを手に捉えた。
それは、ローブの者が奏でていた黄金の竪琴であった。おそらく奏者が踏み潰される際に運良く飛ばされてきたのか、直前に投げ出したのなりしたのだろう。
黄金の竪琴と言えばケルトの神話にそのような物があったかと、朧気に思い出す萃。神格級の代物であるとは肌で感じられるが、残しておくと却って危険だろうと踏み、頭上に浮かべる混濁した球体に投げ込み、そのまま吸い込み潰した。
そして最後に、彼の周囲から蒼白く発行する帯が数本、球体を囲むように伸び、一瞬の内に跡形も無く消滅させてしまった。
「取り敢えずこれで良いかのう。取り零しがまだ居るようじゃが……ま、後は幻獣共で充分じゃろうて」
大樹の方へ振り向いてみると、フェイスの心配をして来たのか、ジャックとアーシャの姿が見えた。当の彼女は自分に出来る事はもうないと把握したのか、剣を鞘に収めている。
一先ずは
誤字やら不備やら何か修正点がありましたら申しつけ下さい。なるべく直ぐに訂正します。