■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
「ジャック」
二度に亘った巨人族の襲撃を躱し、掃討を終えたその翌日。萃は地価都市の宿舎を訪れていた。
中に居るのは〝ウィル・オ・ウィスプ〟の三名。しかし、その内ウィラだけは備え付けられたベッドの中で穏やかな寝息を立てていた。その頭部に包帯をやや覗かせながら。
「萃殿……彼女は一緒ではないのですか?」
「ペストは来んよ。好かん相手の見舞いには行かんてな、無駄な片意地張りおって……」
一瞬扉の方を一瞥しつつ肩を竦める萃。そのままウィラの容態を気にしてベッドに近寄った。
話を聞けば、彼女は耀と共に救護施設に居た所を問答無用で強襲されたらしい。そして、襲撃者の目撃者こそ居なかったが、狙われていたのは二人だったという。
「……そこまで深手は負っとらんか」
「聞けば、春日部嬢が庇ってくれていたそうです。ただ、変わりに彼女は大怪我を負ってしまったようで……」
「元から重傷じゃったがな。あの
────と、言われている頃。当の本人はと言うと……
「お前……あれだ、頭沸いてんじゃねえの? 柄にもねえ事して死にかけやがって」
「……私は十六夜さん達とは違って情に溢れてますから。逆に言わせてもらいますけど、十六夜さんは頭の中腐ってるんじゃないですか? まぁ知ってましたけ、どッ!!?」
まったく、以前と同じようなやり取りをしていた。
耀も、ウィラと同じく〝ノーネーム〟に宛がわれた宿舎の一室で療養をしており、全身に巻かれていた包帯も数が増していた。今や顔以外に白い布が見えない所がない。
彼女の一番怪我が重い右足に手を乱暴に置いた十六夜。流石に丸一日経っただけあって起源も幾分かマシになったようだ。意地の悪い笑みを耀に向けながら
「…………」
「クハハ、そう睨むなって。耳元でこれ鳴らすぞ」
そう言って竪琴の絃にふざけて指を掛ける。
鬼だ。そう思わざるを得なかった耀である。
だが、今はただでさえボロボロだった体を更にボロボロにされてしまった為、体を動かす事は流石に叶わない。首から上を動かすのが限界であった。
「はぁ……本当に、折角の収穫祭の前夜祭に来られたというのに災難続きですよ」
「一番厄介な竪琴はこっちにあるとは言え、敵は取り逃したんだ。まだまだ災難は続くだろうぜ」
「随分と楽しそうですね? 昨日はあんなに不機嫌だったのに」
「問題はコンディションって事だよ」
竪琴を床に放り、代わりに見舞いの品に持ってきた梨の様な果実を手に取って齧る十六夜。耀が私にも下さいという視線を送ってきたが、鼻で笑って無視した。
「……そう言えば、ウィラさんは今どういう状態か知ってますか? 頭を強く殴られたとは言え彼女も悪魔ですから、大丈夫だとは思いますけど……」
「さぁな。興味ねえ」
「…………黒ウサギさんとジンさんは、」
「目立った怪我はないようだし、どっかそこら辺ほっつき歩いてんだろ」
ふと思い出したようにウィラ、黒ウサギ達の心配をする耀。しかし十六夜、いい加減に答えるばかりで、挙句の果てには欠伸も漏らし始めた。
「……ここで寝ないで下さいよ?」
「はいはい。……っと、言い忘れてた。黒ウサギから伝言でな、飛鳥とレティシアが今夜中にはこっちに来るんだとよ」
「? 巨人族が攻めてきたから……ですか?」
「だろうな。まぁ何にせよ、
意味深にそう言い、ニィと不敵な笑みを浮かべ十六夜は、ベッドから立ち上がり扉に向かう。
彼の言葉には、確証は無いながら確信的な予感が仄めいていた。巨人の襲撃の事も考えるなら、間違いなく実現し得る予感。
ヒラヒラと手を振り部屋を出て行く十六夜の背を見ながら、耀は黙ってギフトによる治癒を更に促進させた。この先、もう不覚は取るまいと。逆にやられた借りは必ず返そうと、そう意気込むのであった。
────耀は知らなかった。十六夜が放った黄金の竪琴が、前の日萃によって跡形も無く消滅させられていた事を。そして気付けなかった。その竪琴が、忽然と床の上から消失してしまっている事に。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
天に瞬く星の煌き。下方に見えるは篝火の照らす清流とそれを囲む自然の街並み。そして正面に見据えるは正に圧巻と言える巨大な水樹。
その全てを順々に見渡していった飛鳥は、まるで新しい玩具を前にした子供の様に、無邪気な笑顔を見せた。
「あぁ、もうレティシア! 黒ウサギったら、こんな面白そうな場所があるって何で教えてくれなかったのかしら!?」
「教えたら教えたでどうなるか目に見えているからだと思うが? 君達がもう少し思慮深い行動を心掛けられるなら、話くらいはしたかもしれないが」
「あら失礼ね。十六夜君と春日部さんならまだしも、私は何時でも何処でも思慮深い行動を心掛けているつもりよ」
「自由行動が過ぎる上に、人の神経を逆撫でする君の様な者を思慮深いと言うのなら、それはもう世も末だな」
お互い二日前と相変わらず、仲が良いのか悪いのか分からない軽口を交えつつ、二人は丘陵から大自然の街へ歩き出す。が、道のりがそこそこ長いと見るや、飛鳥はレティシアに抱えてもらって空路で大樹へと向かう事にしたようだ。結果、幼女が少女をお姫様抱っこという、何とも奇妙な構図が出来上がっていた。
「……それにしても、ジン君からの手紙だと巨人族って言う輩に二度も襲われたのよね? とてもそうには見えないのだけど」
「今回の収穫祭は各地のコミュニティを招いての行われる大型のギフトゲームらしいからな。最下層で行われる催しともあってそう簡単に中断する訳にもいかにんだろう」
「ふぅん? 下層は下層なりに必死って事ね。フフ、まぁいいわ。折角のお祭りを楽しめないまま終わっちゃたら、レティシアが大変だもの」
「そうか。なら私は南側の住人の気質に感謝せねばならないかもな」
遠まわしな皮肉もとうとう通じなくなったレティシアに、ムッとする飛鳥。そんな彼女にレティシアは、勝ち誇ったように鼻を鳴らしてみせた。
……その行為自体が大人気ないというか子供っぽい事には、きっと彼女は気付かないだろう。全ては飛鳥の思惑通りであった。
やがて二人は地下都市の宿舎に辿り着いた。
と、そこでは少し意外な人物が待ち構えていた。
「……こんばんは、二人とも。思ったより早かったわね」
玄関口の壁に背を預けていたのはペストであった。普段からの仏頂面が飛鳥を見るなり不機嫌に顰められる。どうやら少し前、廃墟区であった事を思い出したようだ。が、飛鳥が心情を読んだところそれだけではなかった。
「お陰様でね、ペスト。それはそうと貴女、何時もは一緒に居る愛しの彼と今日は一緒じゃないのね?」
飛鳥は不敵に笑みを浮かべ、ペストにそう返した。
途端、彼女に向けて膨大な殺気が放たれ、足下に漆黒の風が纏わり付き始めた。
するととここで、見かねたレティシアが溜め息を吐きつつ声を荒げた。
「ギフトを収めろペスト! 飛鳥と事を起こすのは一向に構わないが、それは正式な舞台でお互い遺恨がなくなるまでやるといい。此処では無関係の者が巻き込まれる」
「ちょっと待ちなさいレティシア。それ遠まわしに私に死ねって言ってるわよね?」
「? おかしな事を言うな飛鳥。よもや箱庭の法を忘れる程君も馬鹿ではないだろう?」
怒りに任せてギフトを行使したペストを叱ったかと思えば、ちゃっかり飛鳥を貶しているレティシアであった。思わず飛鳥も指摘するが、あっけらかんとして取り合おうとしなかった。
今度は飛鳥と彼女の間に不穏な火花が散り始める。
「……はぁ。貴女達、主催者への挨拶がまだ済んでないでしょ。とっとと行ってきたらどうなの?」
そんな二人を見て気持ちが冷めたのか、今度は呆れた表情でそう告げるペスト。そしてそのまま、これ以上飛鳥の被害を受けたくないように踵を返し、宿舎の奥の方へと行ってしまった。
ペストの背を横目に見送ったレティシアは、肩を竦め飛鳥に言う。
「と言う訳だ。取り敢えずは私達も、主催者へ招待の旨を挨拶しに行こうか?」
「……えぇ、そうね」
抑揚なく、飛鳥は返答した。
こうして二人はまず、荷物を宿舎に置いて、収穫祭本陣営のサラの元へ向かう事にした。
……不意に飛鳥が問うた。
「……レティシア。挨拶が終わったら……いいえ、
「ッ! 飛鳥、君は……────!!」
無邪気に嗤い言った飛鳥にレティシアは掴みかかろうとした。
────だが、その時だった。二人の耳に、怪しい声と音色が聞こえたのは。
〝目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ。
目覚めよ、四つの角のある調和の枠よ。
竪琴よりは夏も冬も聞こえたる。
笛の音色よりも疾く目覚めよ、黄金の竪琴よ────!〟
飛鳥へと向かって伸びた手が、そのまま床へと向かう。
いや、自身の体が床へと倒れているのだとレティシアはやっと認識した。そしてそれは、飛鳥も同じだった。
共に床に倒れ伏したその時、間髪を入れずに絃を弾き奏でられた音色が三度鳴り、二人の意識を混沌とした淵に追いやっていく。
「うっ、ぁ、ぁ……あす、か……!」
思うように力が入らない。目の前の飛鳥に声を掛けようとするが声が上手く出てこない。
そこへ、そんなレティシアを嘲るかのように、背後からクスクスと笑う声が聞こえてきた。
「フフフ……トロイア作戦、取り敢えず成功かしら」
辛うじて首を動かし見たそこには、ローブに身を包み竪琴を手に抱えた女性が立っていた。
レティシアの元まで静かに歩み寄った彼女は、仰々しく右手を胸の前に沿え、
「お久しぶりです、〝魔王ドラキュラ〟。巨人族の神格を持つ音色は如何でしたか?」
────久しぶり、彼女はそう言った。だがレティシアに彼女との面識は……記憶上なかった。
それを聞くやローブの詩人は大袈裟に驚いたふりをして、
「あらあら、ほんの数ヶ月前の出会いを忘れちゃうなんて、少し酷いのではなくて? ……しかしそれも、直ぐ気にならなくなるわ。だって貴女は────
────もう一度、魔王として復活するのだから」
もう一度竪琴の絃を指で弾いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……魔王ドラキュラ確保。でも、まさか……本当に成功するとはね」
「キャハハっ、だから言ったじゃん♪ 私に掛かれば向こうの放埓魔王様如きを欺くなんて、この通りお手の物なんだから!」
レティシアを脇に抱えたローブの詩人は、何処か納得の行かないといった風に呟いた、その直後に。彼女の隣の空間が歪曲したかと思うと、そこから紫色のショートカットを揺らしながら一人の少女が忽然と現れた。
「〝擬態〟……分かってはいても、侮れないギフトね」
「そうでしょそうでしょ~、っとと。……ねぇ、そろそろ起きたらどう? 寝たふりはよくないぞ♪」
「うぐッ……!?」
虚空に腰掛けていた少女は床に下りると飛鳥の傍に歩み寄り、その腹を思いっきり蹴り上げた。とても飛鳥より小さな体躯から出るとは思えない力が働いたのか、そのまま飛鳥は壁に背中を強打する事となった。
「ゲホッ、ゴホッ……!!」
「嘘、神格武具の音色を聞いて意識を保っているなんて……!」
「この子も中々に面白そうだね~♪ 是非とも私達のとこに欲しいくらいだよ! ……それよりもアウラ。時間が押してるんだから、ちゃっちゃと行って行って!」
「……分かったわ」
アウラと呼ばれたローブの詩人は、少女の言葉に一瞬飛鳥を一瞥した後、頷きその場からレティシアを連れて立ち去っていった。
その後ろ姿をニコニコと笑いながら見送る少女。そして姿が見えなくなると、次に苦悶に悶える飛鳥を嬉々として見下ろした。
「久しぶりだねェ、飛鳥ちゃ~ん。他の二人も元気でやってるかなァ?」
「ぐ、うっ……ク、クルエル……あなたッ……!!」
飛鳥が少女の名と思われる名を叫ぶ。
しかしながら、彼女は「あー待って待って」と胸の前で腕をバツマークに交差して愉快気に告げる。
「私ね、今飛鳥ちゃんのお話に付き合ってる暇ないんだよねェ~。ほら、これから飛びっきりのゲームが始まっちゃうからさ?
「……っ」
刹那、宿舎が……否、アンダーウッド全域に震えが、外では雷鳴が轟き雷光が幾重も奔った。
「ほぅら、始まっちゃった────と言う訳だから、精々死なないように頑張っちゃってねェ~。キャハハハ♪」
ギフトで回避していた意識の混濁も、今の衝撃で完全に覚めた。
腹部を押さえながら立ち上がった飛鳥は、気付けば背中に髪の色と同色の一対の翼を生やした少女────クルエルに殺気の篭った視線を送る。その手には、窓の外に垣間見える空から降り注ぐ数多の黒い封書が一つ、揺らされていた。それを彼女は飛鳥の手元まで飛ばす。
「はいプレゼント。そこそこ難しいゲームだから、仲良しごっこしてるお仲間さん達とよぉく考えてクリアするんだよ? キャヒヒっ、じゃあねェ~♪」
最後にそう告げると、クルエルは近くの窓を破り外へと姿を眩ました。
飛鳥は、その姿を跡を見て暫し閉口した後、倒壊しかけの宿舎を二階に上がりながら封書を開いた。
──ギフトゲーム名〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING〟──
・プレイヤー一覧
・獣の帯に巻かれた全ての生命体。
※但し獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断とする。
・プレイヤー側敗亡条件
・なし(死亡も敗北と認めず。)
・プレイヤー側禁則事項
・なし
・プレイヤー側ペナルティ条項
・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。
・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。
・ペナルティは〝串刺し刑〟〝磔刑〟〝焚刑〟からランダムに選出。
・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。
※プレイヤーの死亡は解除条件に含まれず、永続的にペナルティが課される。
・ホストマスター側 勝利条件
・なし
・プレイヤー側 勝利条件
一、ゲームマスター・〝魔王ドラキュラ〟の殺害。
二、ゲームマスター・〝レティシア=ドラクレア〟の殺害。
三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。
四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主義者の心臓を撃て。
「────フフ、面白いじゃない」
狂気的に、狂喜的に笑いが零れる。
胸の内に湧き上がるドス黒い感情。それを愛おしそうに胸の内に抱え、飛鳥は表へと駆け出した。
色々原作で立てられているフラグを圧し折りつつここまでやってきましたが……さて、どうなる事か。