■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】   作:白結雪羽

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今回は飛鳥が来る少し前、十六夜サイドです。
話は……あまり進みませんね。



彼の確信

 

 

 

 

 

 日の暮れたアンダーウッド。大樹の天辺で葉のベッドに体を預けていた十六夜は、薄らと瞳を開いた。昼間の喧騒を避けるために耳に当てていたヘッドフォンを首元にずらし、ゆったりと上体を起こす。

 

 

「……もう夜か」

 

 

 呟き寝起きの欠伸を漏らす。折角の祭りだというのに此処に来てから寝てばっかだなぁ、とボンヤリ思いつつ、立ち上がった。

 

 彼は何も、この収穫祭がつまらないと感じている訳ではない。気分屋でも自己満足に足る娯楽は重宝するが、彼の信条でもある。それに今はまだ前夜祭。メインは一週間後に控えているのだから、その時の為にこう休養を取るのは、理に叶ってるのかもしれなかった。

 

 

(さて、どうすっかねェ。……わざわざ〝ダグザの竪琴〟まで爺にバレねえよう持ってきたってのに、これ以上待たせんじゃねえよ……)

 

 

 ダグザの竪琴と言えば、ケルト神話で有名な天候を操る事で豊穣を招き、人々に感情と眠りを与えると言われる黄金の竪琴を指す。つまり、彼が昼間、耀の部屋で弄ばせていたあの竪琴の事である。

 彼は、竪琴の所有者であるローブの詩人を生き埋めにした際、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。当然、意外にも博識な身だ、それの齎す効果は充分理解していた。

 だが、だからこそ持ち込んだのだ。倦怠を与える退屈を紛らわせる、娯楽を得る為に。最初と違い機嫌が直っている今だからこそ、彼は求むのだった。

 

 

「はぁ……ったく」

 

 

 心待ちにする展開が中々来ない。

 十六夜は再び枝葉の上にどっかりと腰を下ろすと、何気なしに夜空に瞬く星々を見上げた。

 ふと、丁度その時

 

 

「あ、やっと見付けました。十六夜さーん!」

「おーどうした黒ウサギ。こんな所までわざわざご足労こったな」

 

 

 大樹の幹と枝を伝って黒ウサギがやって来た。様子から特別緊急事態ではなさそうなので(緊急時でも対応は変わらなかったとは思うが)仰向けのまま顔だけ彼女へと向ける。

 

 

「もう、それはこっちの台詞なのですよ。十六夜さんこそどうしてこの様な所に居るのですかっ」

「絶好の昼寝スポット。で、今は絶好の天体観測スポットだな」

「……またお昼寝ですか? 十六夜さんも、折角飛鳥さんの代わりに前夜祭から参加しているのですから、もう少し積極的になりましょうよ……」

「その当の飛鳥は今晩には此方に来るんだがな」

 

 

 そう言って欠伸を漏らす十六夜。そんな倦怠的な彼に、黒ウサギもウサ耳を萎らしく垂れさせた。

 

 

「…………十六夜さんは、感動を求めないのですか?」

 

 

 不意に彼女がそんな事を口にした。それは、正に不意に思い浮かんだ言葉だった。唐突に意図の読めない問いかと、言ってから彼女はハッと閉口する。

 だが、彼女の予想に反して十六夜は反応を示していた。眉間が微かに動き、夜空から黒ウサギへと視線を移す。

 

 

「……黒ウサギ。今のは……誰かの受け売りか? とてもお前が言うような台詞じゃねえんだが」

「え……あ、はい。……我々のコミュニティの前参謀を務めていたお方の言葉です。〝主催者〟をメインに活動していた方だったのですが、何時も決まって、

『主催者は参加者を感動させるのが義務だ。金銭のやり取りはその場で切れる縁だけど、感動が完全に消える事はない。何故なら感動は、生きるのに必用な糧だからなのだっ!!』

とか、真面目な顔で話してくれていました」

 

 

 懐かしみながら、楽しそうに語る黒ウサギ。彼女の口振りからも、余程の好いていた人物なのだろう。今の言葉ではあれだが、尊敬の念も確かに感じられた。

 問うた十六夜は不自然に押し黙った。でも、やや高揚する黒ウサギが気付けない位に、瞳を濁らせていた。

 

 

「……そうか。それはさぞ、面倒な性格してたんだろうな。俺とは馬が合わなさそうだ」

「あはは、そうかもしれませんね。でも、性格に難ありは十六夜さんも他人の事は言えませんからね?」

「あーそうかい……自覚はしてるさ」

 

 

 最終的に、十六夜は何事も無かったかのように誤魔化した。

 視線を再び空へと戻し、手持ち無沙汰を星空の星座を指先で辿って解消する。

 

 

 

 

 

 ――――異変はその直後に起こった。

 

 

「えっ……!?」

 

 

 黒ウサギが驚愕の声を上げる。彼女も偶然その時、十六夜の指に釣られて星空を見上げたのだ。

 そして見たのだ。夜天に輝く星々の一部が、忽然と消える様を。

 

 

(ったく、待たせんじゃねえよ……)

 

 

 驚く黒ウサギの傍ら十六夜は立ち上がり、薄ら笑みを浮かべた。

 

 

 ――――異変はまだ終わらない。

 

 

〝目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ。

 

 目覚めよ、四つの角のある調和の枠よ。

 

 竪琴よりは夏も冬も聞こえたる。

 

 笛の音色よりも疾く目覚めよ、黄金の竪琴よ────!〟

 

 

 一部の星々が輝きを失った直後、不気味な声が唱える詩が、弦を弾く音が、アンダーウッドに響き亘る。

 その詩が示す意味を十六夜は即時に理解。嬉々とした表情のまま黒ウサギに言った。

 

 

「ハハ、黒ウサギ。再三目まで懲りねえデカブツ共が漸くお出ましだぜ?」

「っ、また巨人俗が?! それにこの音色……あの竪琴は萃様が喪わせた筈では……!」

「ああ、あれか。折角獲物を釣るには格好の餌だしな、確り拾って適当に隠しといたぞ?」

「何してるんですか?!」

『ああまったく。小僧、貴様は実に愚かしい一手を取った訳だ』

 

 

 十六夜から予想外の公言を受け、条件反射でハリセンを一閃する黒ウサギ。だが、続いて聞こえてきた老君を思わせる低く高圧な声に、ハッとして周囲を警戒する。

 姿は見えない。そして全方位から聞こえるかのような錯覚。おそらく何かしらのギフトで距離を悟られないようにしてるのだろう。

 だが、十六夜はその様な事には構わず嘲笑を交え虚空に言い放った。

 

 

「愚かしい? 現にテメェらはのこのこ出てきてんじゃねえか。テメェの読んだ隙が俺らの契機、今度は敗走なんざ許さねえぞ?」

『……笑止。力に酔った猿の浅知恵ほど、滑稽なものはないな。

――――ならば 、三度(みたび)示してみるといい、己が力を。尤も、アレを前に何時までその口を叩けるか、見物だぞ!』

 

 

 ――――次の瞬間。空を突如覆った暗雲が、文字通り裂けた。そして、

 

 

『GYEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaッ――――!!!』

 

 

 星そのものを揺るがす程の尋常外な咆哮と共に、〝ソレ〟は姿を現した。

 その姿は全貌が窺えず、雲の合間から辛うじて頭部を確認出来る。空でとぐろを巻くと言い得て妙であり、遍く獣の特徴をその一身に宿した太古の存在とされる神獣。人々はソレを――――〝龍〟と呼んだ。

 

 

「……あれは、」

『そう。神話にのみ息衝く最強の生命体、龍の純潔種だ!』

 

 

 龍の純潔種は、箱庭において〝神霊〟〝星霊〟に並んでの最強種とされていると、十六夜は以前聞き及んだ。曰く、神獣の類いでありながら系統樹を持たない、無から発生した生命だという。それが今、眼前に鎌首を晒していた。

 しかし彼は、その最強種を何処か冷めた目で睨んだ。

 

 

『さぁ、今宵に〝魔王ドラキュラ〟は復活した。箱庭の貴族とその同士よ、精々その身の愚かさを嘆き、絶対的力を前に(こうべ)を垂れるといい!』

 

 

 最後にそう言い残し、姿の見えぬ何者かは気配を霧散させた。

 だが、今はそのな事を気にしている場合ではない。

 巨龍が啼く度に、アンダーウッドに数多の雷鳴が轟き、その落雷は地下都市を覆う水樹の根を焼き払っていく。都市部は阿鼻叫喚に包まれ、更には……

 

 

「た、大変だッ! 巨人族もこっちに向かって来てるぞッ!!」

「何だとッ!?」

「ええい、この非常事態にわらわらと現れやがって……!!」

 

 

と、タイミング悪く……寧ろ端から図っていたかのように巨人族が強襲を仕掛けてきた。

 まだ、それだけでは終わらない。天にとぐろを巻く巨龍が体を被う夥しい数の鱗を落とし始め、それらは次々と大蛇や大蠍、巨亀と変貌し都市を襲い始めた。

 

 

「鱗から分裂して新種を作り始めた……? ま、まさか、本当に龍の純潔種だというのですか?! そんな、本物の最強種が下層に現れるなんてッ……!!」

 

 

 黒ウサギにとって、この場に出現した龍は絶望そのものとも言えた。それ程に、そこらの有象無象では比較にすらならない相手なのである。

 しかし、隣の十六夜は冷めた目で睨むまま。内心に高揚感を湧かせながらも、またやや不機嫌そうな表情で彼女に言う。

 

 

「……おい黒ウサギ、取り敢えずあの蛇は後回しだ。今は下に行く――――ん?」

 

 

 ウサ耳を掴み黒ウサギを現実に戻した、その時だった。ふと視界の端に上空の龍に向かって飛翔する人影……昨晩、黄金の竪琴を奏でていたローブの詩人を見たのだ。それだけなら多少気になる程度で無視していたのだが、彼女の抱えている人物が、彼の、そして我に返った黒ウサギの目を否が応にも奪った。

 

 

「レ、レティシア様ッ!!!」

(……まさか、飛鳥の奴。……いや、流石に考え過ぎか)

 

 

 レティシアの意識は先の竪琴の音色で混濁としているのだろうか、微かに開かれた瞳に光は無かった。だが、黒ウサギの悲鳴の様な叫びに彼女はその瞳に光を徐々に戻していく。

 

 

「……黒、ウサギ…………十六夜……?」

 

 

 彼女の意識が醒めていく。そして、今置かれている状況を直ちに認識した。

 

 

(私の、〝主催者権限〟の封印を解いた……!? まさか、コイツは────)

 

 

 現状から、敵の正体を悟ったレティシアは顔から血の気が引いていく。竪琴のせいで体の自由は利かない。抵抗する術もなく、このまま連れ去られるだけしかなかった。

 けれど、程無くして彼女は意を決したかのように瞳を閉じ、そして……

 

 

「────十三番目の、太陽を……!」

「え?」

 

 

 

 

 

「────十三番目だ……十三番目の太陽を撃て……! それが、私のゲームをクリアする唯一の鍵だ────!!!」

 

 

 手を出し倦ねる黒ウサギと十六夜に届いた全霊を掛けた叫び。最後に、ローブの詩人に巨龍へ掲げられたレティシアはそう言い残し、光となって呑み込まれていった。そして代わりに、暗雲の覆う空から、数多の黒い封書がアンダーウッド全域へ舞い落ちてきた。

 

 呆然とするしかなかった黒ウサギは、直ぐに封書を手に取ると、恐る恐ると封を開け内容に目を通した。通して、彼女の表情は愕然としたものとなった。

 十六夜も、黒い封書を手に取り中身をザッと吟味する。だが、彼の表情は最早嬉々としたそれではなく、不機嫌も疾うに通り越した険しい表情で天の巨龍を、ソレが守るように中央に垣間見える巨城を睨みつけた。

 

 

(……あぁ、お前か。成る程な、道理で飛鳥が手を出さねえ訳だ。……いや、アイツが此処に居る時点で確証は持てたじゃねえかよッ……クソッタレが!)

 

 

 純粋な苛立ちの募った十六夜。その耳元に、クスクスと嘲るかのような笑い声が聞こえた気がした。

 

 

 

 




書いてて十六夜が情緒不安定に思えてならないこの頃。
喜怒哀楽と言うか、気分の上下が激しいだけなんですけどね~……って、それを情緒不安定って言うのか? あれ?
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