■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】   作:白結雪羽

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前回2000字を切ったと思えば今回は8000字オーバー。
なるべく平均文字数は4、5000文字に合わせたい所なんですけどね……



幕間─吸血鬼の古城─

 

 

 

 

(……何なのでしょう、この状況は)

 

 

 耀は十六夜も斯くやという気怠さを感じつつ、この現状について心底疑問を浮かべた。が、そんな疑問に答えてくれる者は誰も居なく、寧ろその最も聞きたい相手は奇声を揚げて彼女へと飛び掛かってくる。

 

 

 ――――そんな、古城の城下町にて謎の人型生物と交戦中の耀である。

 

 龍の生み落とした化物に連れ去られたキリノを追って古城へとやって来た耀だが、キリノは思いの外早く見付かったのだ。しかし、そこには彼女以外にも化物に拐われてきた者達が居り、その殆どが負傷者と子供、さらにその過半数はまだ耀よりも幼いと見える子供達だった。

 その時は、少々面倒だが二人ずつでも降ろしていけば良いかと思案した。だがその時、突如として城下町の至る所から、今さっき言った謎の人型生物共がベチャベチャと不快極まりない音を立てながら現れ、あまつさえ襲い掛かってきたのである。

 

 そして今、耀達は城下町の外郭付近にあった廃墟の中に身を潜ませている。

 襲われ掛けた当初こそ、謎生物が拳や蹴り一発で砕ける事は検証できたので、早々に殲滅しようかと考えた彼女だったが、如何せん数が多過ぎた。一人ならまだなんとかなったのだが、今は十数人の非戦力者達が居る。とても、三桁に及ぶ数から守りながら戦うのは酷な話である。

 

 

「……はぁ」

 

 

 あまりものもどかしさに堪らず溜め息が零れる。いっそ後ろの十人あまりなど気にせずに単身暴れようかとも思った。

 

 

(…………あ、)

 

 

 そんな時ふと、耀はとある名案を思い付いた。自分で誇張するのも何だが、廃墟に居ながらもあの謎生物らを簡単に処理する方法を。

 思い立ったが吉日、彼女は虚空を人差し指でスゥとなぞった。すると、その場所に一筋の線が入ったかと思うと、まるでガマ口のように二重に開いた。そこには、屋外の景色が上空からの視点で映っており、更に数を増やしてきている謎生物達も確認出来た。

 

 キリノと、その隣に腰掛けていた老齢の猫の獣人は、それを見て目を丸くした。

 

 

「え……?」

「こりゃあ……外の様子か? 嬢ちゃん、一体何をする気なんだ?」

「少し掃除を」

 

 

 耀の簡潔とした言葉に二人は首を傾げた。が、その意味は直ぐに知れる事となった。

 

 謎生物らは、今も着々とその数を増やして耀達の潜む廃墟へと辿り着きかねない勢いである。その群れを鋭いで俯瞰しながら耀は、その両掌に〝破壊〟の力の証明たる赤い光球を計四つ、顕現させた。そしてそれを、一切の躊躇いなく握り潰した。

 刹那、間髪を入れずに廃墟から最も離れた位置に這う謎生物が盛大に爆散した。それに他の奴らは蠢きをピタリと停止させ、そちらへと視線が集中てしまう。

 

 

 ――――そこからは耀の一方的蹂躙の始まりだった。

 

 キリノと老人が呆気に取られる中、耀は次々と掌に光球を顕現させ握り潰すの作業を繰り返す。先ずは遠くの方から、次に廃墟の付近から、謎の殲滅に阿鼻叫喚となる謎生物らをなるべく一ヶ所に誘導するように、作業を繰り返す。

 

 偶に廃墟へと近付く輩に細心の注意を払いながら、経つ事二、三分。残りの数を百を切ったかどうかという辺りまでくる頃には、謎生物らは城下町のほぼ一点に集まっていた。

 

 

「……さて、仕上げですね」

 

 

 そう呟く傍ら、耀の視線は謎生物らから離れ、城下町の中でも比較的巨大な建造物へと向いていた。そして束の間、視線を戻した彼女は淡々として、パチン! と指を鳴らした。

 

 

「「な……!?」」

 

 

 後ろの二人は遂ぞ絶句した。突然始まった蹂躙劇ですら唖然としていたが、今度ばかりはそれも致し方ない。何せ、集中した謎生物らの元に影が差したかと思えば、その頭上には先程まで耀が品定めをするように見つめていた建造物が出現していたのだから。それが在った筈の場所には、綺麗に切り取られた更地のみが残っていた。

 謎生物らは頭上の危険に気付き蜘蛛の子を散らすように駆け出した。が、その先頭らがまたも爆散し、一瞬動きが滞る。そこへ、無慈悲に巨大建造物が落下。周囲の建物も巻き込み粉塵と瓦礫を舞わせる。

 

 

『…………』

 

 

 キリノと老人だけでなく、その更に後ろに居た者達の間にも沈黙が奔った。そんな空気に気付かないまま耀は、まだ生き残りが居ないか、もし居たとすれば即刻爆殺する気構えをしつつ、暫し城下町の様子を裂け目より凝視する。

 

 やがて、取り零しが一先ず居ない事を確認し終え、「ふぅ……」と息を吐いて背後の壁に背を預けた。

 と、そこで初めて周りが妙に沈黙していると気が付いた。

 

 

「……? どうかしました、皆さん?」

「い、いや。……とんでもねえな嬢ちゃん、まさかあの数の冬獣夏草を一人で片付けちまうなんてな。……本当に人間か?」

「……さぁ? 一応は人間のつもりですが……」

 

 

 老人の尤もな疑問にお茶を濁す耀。誰にも気付かれない位ほんの一瞬程度だが、何処か悲哀を思わせる表情が見てとれた。それを感付かれないようにか、彼女は僅かな沈黙を利用して素っ気なく話を逸らそうとした。

 

 

「……ところで、今更ですが貴方はどちら様で? あぁ因みに、私は〝ノーネーム〟の春日部耀。それで此方は……」

「え? あ……キ、キリノと申します!」

「……〝春日部〟だと?」

「はい。……? 私の名前に何か?」

 

 

 不可解な反応を見せる老人に耀は首を傾げた。〝耀〟という名前が変わっていると言うならまだしも、〝春日部〟なんてせいは姓は然程珍しいものでもないと彼女は思っている。それに、この箱庭では聞き慣れない名前の持ち主など五万といるのだ。何をそう驚く箇所があると言うのだろう。

 

 

「い、いや、何でもない。

――――俺は〝六本傷〟のガロロ=ガンダックってもんだ。よろしくな、嬢ちゃん達」

「……いえ、此方こそ」

 

 

 何を挙動不審になったのか、その旨は敢えて探り込もうとは思わなかった。幾分気になりはするも、時期に知る機会が来るのだろうと、耀の予感は告げていたから。

 

 この後、キリノから老人――――ガロロが、〝六本傷〟のボスであり〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟創始者の一人であるなど思わぬカミングアウトがなされたりしたが、耀には然してどうでも良い事。幸いな事に、今はゲームが中断されており、さっきの様な例外にさえ見付からなければ基本安全だった。なら先ず、十数人の負傷者や子供達を連れこの後どう行動すべきか。耀は廃墟の陰から聳える古城を見上げながらに思考を巡らせるのだった。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「殿下ー! 何処行ったのー!」

 

 

 城下町から打って変わり、特殊な措置がなされているのだろうか、埃こそ積もってはいるが嘗ての装いをそのままに残した古城内部。その上層へと向かう階段を駆け上がりながら声を張る少女が一人居た。齢的に見ればまだ十を少し超えた程度だろうが、それに反し腰には幾本かの短刀を携えている。まず普通の少女でない事は一目瞭然だろう。そんな少女が、静謐とした回廊に鈴のような声を響かせているのは、一見して普通なのだろうが妙に違和感が拭えなかった。

 

 

「殿下ー! 殿下殿かでんかで・ん・かー!!」

「うっるさぁーい!!」

 

 

 〝殿下〟と言う敬称を連呼する短刀少女。ふとその目の前に、これまた一人の少女が階上より飛び降りてき、怒号を飛ばした。

 意表を突いて現れたため少し体勢を崩し掛けた短刀少女だが、何とか踏ん張りを利かし正面に仁王立ちする少女を見た。

 

 

「あれ……わ、私?! え、えっ? どうなってって言うか何で何も着てないの?!」

 

 

 いきなり上から飛び降りてきた事もそうだが、何よりもその少女が自分とまったく同じ顔に体躯、その上一糸纏わぬ素っ裸な事に驚愕した。思わず自分の恰好を見直してしまったくらい動揺した。

 

 

「何狼狽えてるの? これが何時ものリンちゃんでしょ?」

「私は露出趣味なんて持ち合わせてないよ?!」

 

 

 まっぱ少女の素朴な疑問を顔を真っ赤にして否定する短刀少女。今は周りに誰も居ない事が救いだが、もしこの状況を誰かに見られでもしたら堪ったものではない。直接ではないとは言え、自らの裸体が他人の視線に晒されるなど羞恥心が黙ってはいないだろう。

 

 

「うぅん? さっき殿下から聞いてみたら『普段通りだな』って言ってたのに……」

「その姿のまま殿下に何て事聞いてるの?! しかも肯定された!? え、殿下って私をそんな風に見て……じゃなくて! もう()()()()さん!! 私に成り済まして悪ふざけは止めて下さいって前にも言いましたよね!?」

 

 

 そう叫びながら、腰に巻いていたジャッケトを手に取りまっぱ少女――――もといクルエルに駆け寄る短刀少女――――リン。が、彼女がジャッケトを被せようとすると、クルエルはヒラリと身を翻してそれを避けてしまった。

 

 

「あっ、こらー!? 逃げないで下さい!」

「うん、拒否権を行使します! これから私は地上に出向いて布教活動をしなければなりませんので! ではさらば~♪」

「何を布教するつもりですか?!」

 

 

 リンの口調を真似しビシッ! と敬礼決めてクルエルは上階へそそくさと飛び去っていってしまう。その後をリンは、顔真っ赤から一転顔面蒼白にして慌てて追い駆けた。

 乙女の柔肌をこれ以上弄ぼうなどと、変態が許そうと彼女は決して許さない。というよりまず許す輩は同類である。

 

 その頃。上に位置する玉座の間がある階層にはローブ姿の女性・アウラが、水晶で造られた天井の下で光を差し込ませる月を見上げていた……のだが、回廊に先程から響き亘るリンの叫び声に呆れた苦笑を浮かべた。

 後方に足音を聞こえる。彼女は一つ息を吐きながらそちらへと振り返り……直後に石像の如く硬直した。

 そんな彼女に、まっぱのリン(クルエル)はあどけなく手を振る。

 

 

「おーアウラさん! こんな所に居たんだねー!」

「な、なぁ……っ!? リ、リン、貴女なんて姿をしているのよ?!」

「ストォーーップ!! アウラさん違うから! それ私じゃないですっ!!」

 

 

 「……チッ」と舌打が聞こえた気がしたのはきっと気のせいだろう。

 意外と早く追いつかれたクルエルは後ろから羽交い絞めにされて、ジャケットを被せられた。下がカバーし切れてないが、そこはリンが前に回りこむ事で取り敢えず隠した。

 

 

「……あ、あぁ。クルエルなのね、貴女」

「何を言うんですか! 私は何処をどう見ても超プリティーガーr「黙らないと斬りますよ!!」っとと、おぉ怖い怖い」

 

 

 首筋に短刀を添えられ仕方なく黙り込む。このまま茶番を続けてもパターンは同じかと、今回は早々飽きがついたようだ。今後も同様の事をやる気満々ではあるようだが。

 

 降参の合図と両手を挙げる。と、同時にクルエルの身体が闇色の光に包まれ、程無くして中からは宿舎で飛鳥の前に現れた時の彼女の姿があった。ちゃんとホットパンツにT-シャツとラフながら服も着ている。最初からそうしてとつくづく思うリンだった。

 

 

「ねぇアウラ、殿下の姿が見えないけど……地上の視察にでも行ったの?」

「そうよ。……まったく、ゲームが中断になったとは言え私達には関係の無い事。時期に巨人族を率いて作戦の決行指示が出されるのだから、こんな時くらい大人しくしなさいよ」

「まったくです。もし次やったらいくら私でも本気で怒りますからね!」

「えー……【自主規制】したり【自主規制】したり、街中で【自主規制】したりするのも駄目なの?」

「当たり前でしょう?! ……ちょっと待って。その口振りだと既に全部やっちゃったみたいに聞こえるんですけど……?!」

 

 

 愕然とするリンにクルエルが返したのは、意味深なウインクだった。

 リンから色素が抜け落ちる。が、そんな彼女は視界の隅に追いやり、改めて城内を見回す。特にこの階は先程も言ったように玉座の間へと直通する回廊があり、今三人が居るのは水晶天井がある天球状の空間だ。

 そしてその中央にはポツンと玉座が鎮座しており、そこには一人の少女が鎖に繋がれながら眠りに就いていた。此度のゲームのマスター・レティシアである。

 

 玉座への段を登り、クルエルは唇に指を当て興味深そうに彼女を観察し始める。

 黒が基調のドレスに身を包んだレティシアは、正に囚われの姫君と言うに相応しく、少女の身体とは言えその美しさは目を奪われるに難くはない。ただ、この見た目で今回の大量虐殺を組み込んだゲームを主催者と言うは、過去に何があったのか非常に気になる所ではある。

 

 

「ねぇアウラ。この子はゲーム中ずっとこのまま?」

「どうかしらね。もしかしたら決着が着くまでこのままかもしれないわ」

「ふぅん? ……まぁ、これもこれで良いかな……」

 

 

 そう呟きながらレティシアの頬に手を添えようとするクルエル。

 と、そんな彼女へ不意に後ろから少年の声音で制止が掛けられた。

 

 

「――――止めとけクルエル。その魔王は擬似餌だ。下手に触ると襲われるぞ」

「んー? 触るなって言われちゃ……触らなきゃでしょ!」

「ちょ、何で天の邪鬼思考になるんでってああああ!!?」

 

 

 白髪に礼服を着込んだ――――殿下とリン達が呼ぶ少年の制止を躊躇いなく無視し、玉座の眠り姫にタッチする。今しがた現実に帰ってきたリンが叫び声を揚げるがそんな事で収拾が着く筈なく、皆が呆気に取られる中クルエルがレティシアに触れた途端、玉座の上に影の球体が出現した。それだけでも異常事態だと言うのに、その球体は途轍もない威圧感を放っていた。

 

 

「あれは……!?」

「はぁ……だから言っただろ」

 

 

 この場に居る者は誰もがソレの脅威を理解出来ていた。その上で殿下はこめかみに手を当て溜め息を吐いた。そして、やらかしてくれたクルエルはというと……人型に変貌した影に何時の間にか飛び掛かっていた。

 

 

「っ……!!」

「へー? 君が此処の侵入者撃退システム的なものか~……――――良いね、気に入ったよ」

 

 

 ズブンっ!

 濁った水音を立てて、彼女の腕はレティシアを模した影の頭へ強引に差し込まれた。人間味のある驚愕の面持ちで影がそれを引き抜こうとするが、直ぐに全身を脱力させてしまった。

 

 

「うーん……お? ……あー、えーと……」

 

 

 地に降りて何やら手先を動かしている様子のクルエル。その光景は口に出すまでもなくショッキングな物で、アウラとリンは軽く身を引いていた。

 

 

「? 何をしてるんだクルエル」

「んー? ちょこっと改造をねェ~……っと、しゅーりょー!」

 

 

 軽快な声と共に腕を引き抜く。残った影の額には跡らしきものはなく、今さっきまで威圧感だだ洩れだったのも一転して人形のように崩れ落ち、そのまま虚空へと消えていった。

 

 

「うん、これで今の子が私達を襲う事はないね~。それに、ちょこっとだけど強化しちゃった♪」

「と言うと?」

「単純な力量強化だよー。力勝負だけなら殿下にも追い縋れるんじゃないかなァ?」

「……分かってはいたけど、無茶苦茶ね貴女」

「いやいやァそれ程でも~♪」

 

 

 軽い皮肉を聞き流しつつ、殿下に向き合う位置、リンの隣まで移動し虚空に腰掛ける。然り気無くリンは距離を置こうとしたが、首根っこを掴まれやむ無くその場に留まった。

 

 

「……ま、その強化に関しては期待しておく。それは置いてだ――――アウラ、リン、クルエル。既にゲームが休戦に入ったのは聞いてるな?」

 

 

 話を切り替え、三人を見据える殿下。まだリンやクルエルとそう変わらないだろう外見年齢なのに反して、その立ち居振る舞いは〝殿下〟という敬称が相応なものに見える。着崩している礼服でさえも様になっていた。

 

 

「勿論ですわ」

「なら話が早い。三人は頃合を見て巨人族を率い〝アンダーウッド〟を攻め落としてくれ。特にクルエルは、向こうに付いてる〝不羈奔放の魔王〟の相手を継続で頼む。奴を放置していたら作戦に支障が出るのは目に見えてるからな」

「クヒヒ、あいさっさー!」

 

 

 噛み殺した笑いを零し髪を揺らして気概を示すクルエル。その下でリンが頭に乗せられた腕枕を鬱陶しそうに、口許を引くつかせているが皆見えていないかのように無視。寧ろさっきのやり取りも含め日常茶飯事なのかもしれない。

 

 現役の古参魔王を相手取る事に意欲的な返事を返したクルエルに頷き、以上で質疑はないかと殿下は三人を見回した。

 すると、「あ、はい!」と顰め面を消してリンが手を挙げた。それに殿下は何故だか質問した当人なのに不服そうな視線を向けてくる。

 

 

「……リン、今の作戦に複雑な箇所は無かったと思うけど」

「うん、ただ一つだけ確認。今回の作戦は〝参加者の戦力を分断する事〟が前提だけど、もし仮に参加者全員が逃走した時はどうするのかなーって」

「む……」

 

 

 可能性がなくはない想定に殿下も閉口し考えだす。が、彼がその意見に回答出す前に

 

 

「あー、それは有り得ないよリンちゃん」

「え?」

 

 

クルエルがニコやかに否定した。髪の一部を伸ばしてリンの額をピシパシッと叩きながら。

 リンはいい加減鬱陶しさも限界がきそうだったが、ソレよりも何故そう断言出来るのかと疑念の視線を送る。殿下も同様だ。

 

 

「向こうは無駄に誇り高いあの獣達だよ? 見す見す故郷を手放すなんてナイナイ。加えて、外来参加者にはね……あの放蕩お爺ちゃんを味方に付けた〝黒死斑の魔王〟に勝っちゃった〝名無し〟さんが居るんだよ? しかもそのお爺ちゃんも今はその〝名無し〟さんに寄生してるしねー」

 

 

 つらつらとそう口にしたクルエルは、一旦そこで言葉を切り、「何か言い分は?」と目を向け催促する。

 前者は兎も角、後半は確かに説得力がなくもない。特殊ながらも現役魔王の萃に加えて、曲がりなりにも彼を下したコミュニティが〝アンダーウッド〟側に付いているのは脅威以外の何者でもない。中でもアウラは、地上で彼らの実力を僅かながらに垣間見ている。あの、標的を捉えて離さない目は、今思い出しても戦場へ向かう気概を削ぎかねない程だった。

 

 だがまぁ、以上は結局「かもしれない」の憶測でしかない。一理あるとしても、そんな意見に即答で否定をされたリンは唇を尖らせ不満を顕にした。

 

 

「憶測で仮定を否定しないで下さい、クルエルさん。思考の停止はゲームメイクにおいて致命的ですよっ」

「アハハ、期待のメイカーさんに言われちゃうなんて、これまた手厳しいね~。

――――でも、逃がす一手は無いと思った方がいいけどなー」

「と言うと?」

 

 

 一瞬神妙な顔付きになったクルエルは、リンの頭から退くと殿下達の前に移動する。そしてクルリと彼らに向き直ると、今までで最高の笑みを浮かべて言った。

 

 

「――――向こうに〝生命の目録〟の所有者が居る。それも、完全体を……件の〝名無し〟にね」

『何……?』

 

 

 クルエルの言葉に真っ先に反応したのは姿の見えない獣の声だった。

 

 

「あ、グーちゃん居たの?」

『風の噂程度だったが……クルエル、その言葉に偽りはあるまいな?』

 

 

 何時もの調子で声を掛けたクルエルだが、彼の者は意に介さず彼女へ確認してくる。それ程に〝生命の目録〟に対して執着が強いのか。

 彼女は肩を竦めながらその声に是と答えた。

 

 

「本当だよ。まぁ、まだ上っ面の力しか扱えてないけどね」

『……殿下、如何なされます?』

「ふむ……クルエル、その口ぶりだと所有者は既に認識しているんだな?」

「モチのロンだよー」

 

 

 すると、クルエルの身体が先程と同様に発光し、その頭身を、輪郭を変化させ始めた。やがて現れたのは短く切り揃えられた癖のない茶髪の少女……春日部耀、件の現〝生命の目録〟所有者であった。

 

 

「っと。ほら、こんな感じの子」

 

 

 服装までも完全に模倣した彼女はその場でクルリと一回転。普段の耀ならば絶対に浮かべないであろう卑下た笑顔を浮かべて皆にその姿を見せる。

 

 

『ふん、小娘か。……哀れなものだな』

「ヒヒッ――――で、どうしちゃう殿下? 作戦遂行しつつこの子のお宝を奪還までやっちゃう? もとい殺っちゃう?」

「……いや、所有者を見付けた次第には作戦を放棄してでも奪いに掛かってくれ。あのギフトにはそれだけの価値が有るからな」

「アイサ~♪ ――――んじゃ、私は作戦開始までちょっくら準備と観察でもしてくるねー」

 

 

 そう言ってクルエルは耀の姿のまま忽然と広間から姿を消し、次の瞬間には古城上の尖塔に移動していた。そこで暫し目を閉じる。瞼の裏に映るのは当然暗闇……ではなく、アンダーウッドの都市の全貌。そして、下方の城下町の一角。そこに潜む複数の人影に、彼女の口角が吊り上がる。

 

 

「さぁて耀ちゃーん。此方は全力で君を殺しにいく訳だけど……うまく捌ききれるかなァ?」

 

 

 そう言って、クルエルの左目がまた異なる景色を映す。薄暗い中、幾千もの蒼黒い脈が胎動する閉鎖された空間を。そして、その中央にて四肢を拘束された深海の如く淀んだ瞳をする一人の少女を……。

 

 

 

 

 




ではまた、その内。
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