■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
……まぁその、遅れて申し訳ないです。
耀や一部アンダーウッドの者達がゲーム中断に際して暗雲の最中に浮遊する古城に向かった、または連れていかれたと言う情報は、直ぐに〝ノーネーム〟のメンバーの元にも伝えられた。だが、魔王のゲームにあらゆる策を弄する為に得た休戦期間。無策で敵の根城に突入出来る訳もなく、黒ウサギとジンは遣る瀬無い表情を浮かべていた。一方、想像は容易に着いていたが十六夜と飛鳥は微塵も心配や不安の色を浮かべていなかった。曰く、
『あの子って結構タフなのよ?』
『まぁ大丈夫だろ。春日部だし』
らしい。まったく、根拠のない信頼だった。
それはさて置き。化物に連れ去られた者達の中の大半はまだ戦う力も無い子供らしく、彼らの無事を迅速に確保する為にとゲームの攻略会議が開かれる事となった――――のが昨日の話である。
収穫祭本陣営の会議室。そこには三つのコミュニティの代表が円卓を囲んでいた。先ずは〝龍角を持つ鷲獅子〟連盟からサラと、何処か十六夜達には見覚えのある猫娘。この二人はアンダーウッドを基本的統治する六つのコミュニティの代表として席に着いてるようで、此処での決議はそのまま二人を通して通達されるようだ。
そして残る二つのコミュニティからは、今回の収穫祭のゲストである〝ウィル・オ・ウィスプ〟よりフェイス・レス、と〝ノーネーム〟よりジン、十六夜、飛鳥である。ここで疑問なのが、何故フェイス・レスが〝ウィル・オ・ウィスプ〟の代表なのかという事だが、頭首であるウィラが昏睡状態から未だ復帰せず、ジャックとアーシャは……耀と同様に古城に連れ去られた子供達を追っていってしまったからだった。
因みに、居てもおかしくない萃はウィラを寝かしている客室に待機している。会議の概要は後で聞くとの事だった。
「――――えーでは此より、ギフトゲーム〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING〟の攻略会議を行うのです!」
進行役の黒ウサギの宣言に、十六夜以外の視線が集まる。彼はこういう形式張った事はトコトン性に合わないようで、椅子の背凭れに体を預け腕組み足組みで船を漕いでいた。傍から見れば話を静聴してるようにも見えるが。
と、会議を進める前に飛鳥が先程から気になっていたのか、サラの隣に居る鉤尻尾の猫娘に声を掛けた。
「ねぇ貴女。もしかしなくても2105380外門前の喫茶店で東の諜報活動してるウェイトレスよね? 確か……キャロロと言ったかしら」
「はいな♪ 常連さんには何時もご贔屓にさせても……ってちょっと待って下さい! え、えっ? 何で私が諜報活動してるって知ってるんですか?!」
サラリと暴露された秘密事項に猫娘ことキャロロは猫耳と鉤尻尾をビンッと強張らせた。そんな彼女に飛鳥は清々しい笑みを向けて、
「今貴女が教えてくれたわ♪」
「にゃっ!? か、鎌掛けたんですか……!?」
「フフ……それにしてもも困ったわ。まさか贔屓にしてるお店が諜報者の活動拠点だったなんて……。ほら、私達って一応〝地域支配者〟じゃない? 見す見す諜報活動を見逃すのもどうかと思うのよねェ……フフフフフフ」
少しばかり身を乗り出し、笑みはそのままで目を細める飛鳥。彼女の言葉はどうにも直接的ではなく厭らしく、キャロロには彼女が悪魔のようだと思えてしまった。
自然と引き攣った笑みを浮かべ嫌な汗を滲ませながら彼女は、震えながらに指を一本立て、
「こ……こ、これからは皆様に限り! 当店のメニューを一割引きで――」
「そうねェ……一先ず噂から流してみようかしら。あ、それよりも注意書のチラシを貼って回る方がいいかしr」
「――に、二割引きでご提供」
「再犯防止にウェイトレスの有る事無い事吹聴するのも一手かしら?」
「……さ、三割で」
「ん? 何か言ったかしら、
「うにゃああああ!! もう四割でいいですよおおおおおおおおおうわああああああああんっ!!!」
言葉の節々から溢れる脅迫紛いの威圧にとうとう心が折れたキャロロ。涙目を通り越して本気で泣き出しそうだった。そしてそんな彼女に「
この何とも言い難い空気、唯一ハッキリとするのはキャロロに対する同情心くらいの中。空気を読んでか痺れを切らしたのか、静観をしていたフェイス・レスから黒ウサギへ一言。
「……そろそろ話を進めて頂けますか?」
「ぁ……は、はい。了解なのですっ」
斯くして、若干一人の犠牲を出しつつ会議は漸く始まるのだった。
――――閑話休題。
「えー……それでは先ずゲームの方針を――――と言いたい所ではありますが。その前に、サラ様から少しお話があるそうです。あと十六夜さんはそろそろ起きて下さい!」
仕切り直そうとする中、流石に静かすぎる十六夜が寝ているのではと気付いた黒ウサギから叱咤が入る。微かに彼の眉間が顰められた気がした、がそれも一瞬。深い溜め息と同時に閉じていた瞳がゆっくりと開かれた。
「ったく、前置きが長えんだよ……」
「あら。それはもしかしなくても私に文句があるの?」
「面倒だからお前は黙ってろ。……聞いてるから、話があんならさっさと進めてくれ」
「もう……貴重な時間なのですからもう少し真面目になって下さいよっ」
平常運転な十六夜に黒ウサギはウサ耳を萎らせるが、これではまた話が進まないとサラに視線を送った。それに合わせてサラは席から立ち一同を見回し、意気阻喪とした面持ちで、
「……今から話す事は、この場だけの秘匿としめ聞いて欲しい。決して口外しないよう心掛けてくれ」
「? はい、分かりました……」
ジンが答え、他の面々は首肯した。そのただならぬ様子に先程までの弛緩した空気が瞬く間に霧散する。
そして、サラから告げられたその内容に絶句し、また息を呑むのだった。
(……フフ、)
その中で一人、この場で唯一他人の心の揺らぎを直に認識出来る飛鳥は薄ら笑みを零した。
事の概要はこうである。一つ目が、先のゲームで黄金の竪琴と共に〝バロールの死眼〟が盗み出されたという事。二つ目は、現時点でアンダーウッドのみならず北と東が魔王の襲撃に遭っているという事だ。つまり、箱庭で西側を除く下層で魔王が同時出現している。箱庭に生まれ今までを過ごしてきた黒ウサギやジン、そうでない十六夜と飛鳥にもそれが異常事態だという事は最早考えるまでも無かった。
「まったく、ここに来ての魔王のバーゲンセールね。少し前にはペストとお爺ちゃんが事を起こしたばかりだって言うのに……案外何か関係があったりしてね」
「関係、ですか?」
「ええ。だって、ペストの狙いはサンドラじゃなくて白夜叉だったじゃない? 彼女の口振りだと太陽の主権が目当てみたいだったけど、白夜叉を手に入れるって事は同時に〝階層支配者〟を一人手中に収めるって事。あの時はゲスト扱いで彼女一人だけだったし勝てる可能性は零ではなく寧ろフィフティー以上あったんじゃないかしら。そして、偶然にも北側で執り行われた誕生祭の時に襲撃してきたわね。〝サラマンドラ〟って言う北の〝階層支配者〟のテリトリーで」
ニヤリとしながらツラツラと情報を順序だって口にしていく飛鳥に、黒ウサギやサラ達も何かを察したようにより深刻な表情を浮かべた。
尚も飛鳥は続ける。
「風の噂で耳にしたのだけど……どうやら此処の〝階層支配者〟って、私達が北側で魔王と接触した時と同時期に襲撃されて行方不明になったらしいじゃない? たった二、三ヶ月の間に、魔王の同時襲撃が二度も起こった……ね、偶然にしては出来過ぎじゃない?」
「……魔王を裏で率いている者が。つまり、この全ての襲撃が同一の主犯によって引き起こされている事だとしたら……!」
「敵は、複数の魔王を従えるだけの存在……いや、組織で、確実に討つ為に同時攻撃を仕掛けている訳か」
あくまでも推測だけどね、と合点がいった様子のジンとサラに飛鳥は補足する。だが、現時点で合点が行くに足りる説得力がある事は確かで、物的証拠や証言が無くとも状況証拠は充分だった。残る疑問点があるとすれば、
「動機と、討った時に発生する利益よねー。ペストはまだ明確な目的があってそれが偶然白夜叉だったからいいけど、全員が全員そうとは言い切れないわ。〝階層支配者〟全員を討ち取って手に入る地位とか
ここで珍しく本気で考え込む様子を見せる飛鳥。〝階層支配者〟を全員撃破なんて大層な事をしでかすに見合った収益がどうしても思いつかないのだ。チラリチラリと視線をこの場の全員に回してみるが、誰一人確信的な情報を持っている者は……と肩を落としそうになったその時。丁度一人、尤もな思案に至った者が居た。今まで話の内容を熟考していたのか一言も発しなかったフェイス・レスである。
彼女はサラへと向かってとあう疑問を呈した。
「サラ様。現〝階層支配者〟は〝サラマンドラ〟・〝鬼姫〟連盟。〝サウザンドアイズ〟の白夜叉。これに加えて休眠中の〝ラプラスの悪魔〟の四つで宜しいですか?」
「ん? ああ、そうなるな」
「では、もし前者の三つが壊滅すれば全ての〝階層支配者〟が活動不能になり、上位権限である〝
そのフェイス・レスの言葉には疑問の声だけが上がった。飛鳥達は元より箱庭出身組みすら知らない様子なのは、相当に特殊な権限なのだろう。
そして、疑問の声に答えられたその概要というものが正に特殊で、それでいて出鱈目なものであった。曰く、『〝階層支配者〟が壊滅するか一人になった場合、暫定四桁の地位と太陽の主権の一つを授与し、東西南北の〝階層支配者〟の指命権を得る』と。
飛鳥の薄ら笑みが一層に深くなった。四桁の地位というのもそうだが、何よりも〝太陽の主権〟と言うワードに興味を示したのだ。
――――太陽の主権。
人類史から見て最も多くの神霊や星霊を宿す、謂わば最高位の象徴足る太陽の所有権。今述べた特徴から、太陽には24もの主権が存在し、そして、太陽のみならず星の主権を有する者はその星に所縁のある星霊や神霊を召喚し使役する事が可能なのである。
「何を授かったかは、私も知りません。しかしクイーンの話では、就任した前例は白夜叉と初代〝階層支配者〟、レティシア=ドラクレアの二名だと伺っています」
「レ、レティシア様が〝全権階層支配者〟……!?」
初耳だったのか大層驚いた様子の黒ウサギ。その一方で飛鳥はフェイス・レスの言葉に黒ウサギとは別の意味で目を丸くし驚いていた。と言うのも、今の話が本当ならばレティシアは嘗て太陽の主権を少なくとも一つは所有していたと言う事だ。そして、現時点での彼女は吸血鬼として上位のギフトしか所有してなかった筈で、現在空を覆う暗雲の向こうには最強種と呼ばれる龍がとぐろを巻いている……。
フェイス・レスに呆れられている黒ウサギを横目に、腕を組むフリをして懐のギフトカードを見た。ワインレッドの紙面は、本来ならば今は何も映していない筈だった。しかし、そこには飛鳥には見覚えの無い奇怪な紋章が浮かび上がっていた。彼女がこれに気付いたのは龍が全てを巻き上げる前、大多数の巨人族を十六夜と共に殲滅したほんの少し後の事である。
「…………、」
「────私も詳しく知っている訳ではないので詳細は省きますが……〝全権階層支配者〟となったレティシア=ドラクレアは、その権力と利権を手に上層の修羅神仏へ戦争を仕掛けようとしたそうです」
「レ、レティシア様が、戦争を……?」
「そして、その後は戦争を阻止しようと同族の吸血鬼達が革命を決起し、吸血鬼は同族の殺し合いの末滅んだ……そう聞き及んでいます。当時を知るクイーンのお言葉です、まず間違いはないかと」
次々と告げられる信じ難い内容の言葉にジンも黒ウサギももはや愕然としていた。だが無理も無い。まだ付き合いが比較的短い飛鳥達でさえも、あのレティシアが同士殺しの虐殺を起こしたなどと信じられる筈も無い。しかも、仮にそれが本性ならば、表層心理を見抜く飛鳥にはとうの昔に明るみになっているだろう。
ギフトカードを見ながら思考を巡らす横で耳に入った話の旨に、飛鳥は一旦息を吐いた。
静聴していたサラが話を聞き終えるや合点が入ったように黒い〝契約書類〟を取り出す。
「……そうか。第四の勝利条件である〝玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て〟とは、当時の革命主導者を差し出して殺せ、という意味だったのかもな」
「そ、そうでしょうか……?」
「それ以外にどんな解釈がある? 〝獣の帯〟や〝砕かれた星空〟という抽象的なキーワードと比べて格段に分かりやすい。ペナルティを受けて追い詰められた当時の吸血鬼達は革命主導者を追い立てて殺し────」
「────結果、ゲームはクリア出来ず、吸血鬼一族は無残にも皆殺しにされましたと。フフ、良かったわねェ~? 今の内に敵の仕掛けたミスリードに気付けて」
サラの考察をバッサリと嫌味すら感じられる物言いで遮る飛鳥。それは、言外に「浅はかな考え」と言っているようでもあり、彼女にサラから険しい視線が向けられる。
「いいや、断定は出来ないだろう? この革命主導者とやらはまだ箱庭の何処かで生き長らえているのかもしれない。吸血鬼は揃って長寿だ。その上純血種ともなれば不老という話も────」
「なら、その主導者さん貴女はを探すといいわ。十日間っていう限られた期間で、この無駄に広い箱庭の中から生死不明の吸血鬼一人を見付けられる自信があるならね」
今度は嘲るような態度を隠そうともしてい。だが、なにぶん事実である事は否めず、蟠りを残したままサラは閉口してしまった。
何をするにしても、現状情報が足りていない。これ以上の進展は望めないだろうとは誰もが思い至った。それを見てか飛鳥が、
「実りの無い話はここまでにしない? しつこい巨人族に気を付けながら行動した方がまだ成果を得られそうだわ。そうねぇ……お城への偵察兼ね攻略部隊と地上の防衛部隊に分けるってのはどうかしら? 少なくともこんな所で想像論交わしているよりは有益だと思うわ。〝龍角を持つ鷲獅子〟には空を飛べる幻獣もたくさん居る事だし……ね? 堅実に行きましょうよ、堅実に」
「そ、それに、攫われてしまった人達の安否も気になります。聞けば連盟の重役〝六本傷〟のガロロ=ガンダック様も同士を庇って攫われたと聞きました。今後の話は捜索隊を送り、その報告を待ってから再度話し合いの場を持つという事で如何でしょうか?」
飛鳥の提案にジンも慌てて言葉を足した。進展がない以上申し分ない案だろう。
サラも承諾の旨を口にした。
「分かった。精鋭を選出し、二日後の晩までに部隊を編成しよう。その時は両コミュニティの力を借りる事になると思うがよろしく頼む。……あと、心ばかりの持て成しではあるが、両コミュニティには最高主賓室を用意してあるから、そちらでゆっくり休んでくれ」
「あら、気が利くじゃない。それならありがたく使わせてもらうね」
席を立ちながらサラに微笑を返す飛鳥。その最中、会談中まったく口を挟む事無く目を閉じていた十六夜へと手を伸ばし、頭に届く直前で掴まれた。
少し腕を逸らせばそこには、不機嫌に鋭い視線を送ってくる十六夜の顔。
「痛いわ十六夜君。……話はちゃんと聞いてたわよね?」
「分かってんだろ、一々聞くな。……それと、次は砕くぞ?」
「まぁ怖い怖い♪」
華奢な手を払いのけ、十六夜は真っ先に部屋を後にした。黒ウサギとジンはそんな彼に急いで続き、飛鳥も握り締められた右手首を解しながら部屋を出た。
と、水式エレベーターに乗り込み下降する中、黒ウサギが胸の前で気合を入れるように拳を握り十六夜達に言った。
「サラ様はああ言ってくれましたが、耀さんやレティシア様達の為にもオチオチもしてられません。難解な問いではありますが、三人寄れば文殊の知恵と申しますし、我々四人……いえ、萃様とペストも合わせて六人揃えば、休戦中に謎を解く事も不可能では無いのですよ!」
「うん。二人を救う為にも一刻も早くこの謎を────」
「────何言ってるの二人とも。謎ならもう大方解けてるわよ?」
途端、静かになり疑問の声が重なるエレベーター内。あまりにも聞き捨てならない言葉に、黒ウサギにジン、案内役として付いてきたキャロロの視線が飛鳥へと集まる。そして当の彼女は十六夜に対して「ねぇ?」と同意を求め、その彼も「まぁ八割方な」とそれを認めた。
代表して、キャロロが飛鳥に問うた。
「え、えぇと……常連さん? 貴女さっきサラ様に、『情報が少ないから敵城に部隊を送って』的なこと言ってませんでした?」
「んー、『こんな議論も時間の無駄だし、謎はもう解けてるんだからさっさとゲームクリアしましょうよ』って私は言ったつもりだけど? 部隊についてはほら、ジン君の言う通り攫われた人達の救援に就いて貰おうかなーって……フフフフ、」
確信犯だ、誰もがそう思った。他人の思考を読み取れる事も踏まえれば余計に質が悪い。
黒ウサギとジンは改めて、飛鳥という少女のあくどい深慮ぶりを認識するのだった。反対に彼女のギフトすら把握していないキャロロは唖然と口の開閉を繰り返す。そしてそれも束の間、ハッと我に返り笑いを噛み殺す彼女へと真剣味を帯びた表情を向け、
「……残念ですが、この件はサラ様にご報告を」
「え、貴女箱庭に愛想尽きちゃったの?」
「す、する訳ないじゃないですか~♪」
猫撫で声ながらにあっさりと白旗を揚げた。それ程に、言外に篭められた脅迫内容が本気だと飛鳥の目と声音が語っていた。
背後でふと、呆れたような溜め息が聞こえたような気がした。