■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
「…………」
ギフトゲーム〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING〟の作戦会議を終えたその日の夜。仮面の騎士フェイス・レスは〝ウィル・オ・ウィスプ〟に宛がわれた主賓室にて一人、備え付けの椅子に腰掛けながら〝契約書類〟の文面に目を通していた。どうやら、どこぞの少年少女とは違い作戦決行日まで真剣にゲームの謎解きを試みているようだ。解けないにしても、何か一つでも手掛かりを掴めればそれだけゲームを優位に進めることが出切る為に。
勿論、どこぞの少年少女が既に粗方の謎を解いてしまっている事など知りもしない。キャロロへの黙秘手段は良好だったようだ。
と、不意に彼女は文面から視線を自身の直ぐ隣へとやった。そこには、ベッドに着き静かな寝息を立てる〝ウィル・オ・ウィスプ〟のリーダー・ウィラ=ザ=イグニファトゥスの姿があった。
フェイスがこの部屋に居るのは何も〝ウィル・オ・ウィスプ〟の客分の身であるから、だけではない(そもそも客分にさせる事ではないが)。ジャックとアーシャが古城に出払ってしまっている今、昏睡状態の続くウィラを見守る者が誰も居ないからだ。作戦会議が終わるまでは萃が傍にいたようだが、彼にも自身の所属するコミュニティがある。ずっとウィラの傍についている訳にもいかなかった。
(何者かの襲撃に遭ってそろそろ二日が経つと聞きましたが……やはり、ただ意識を失っている訳ではない? とすれば、彼女を容易く無力化する者が敵には居ると見て間違いないでしょうか……)
ウィラが北側下層において最強なのは彼女も既知の事実。しかも、それはコミュニティレベルであってウィラ個人で見ればその力量は4桁に該当してもなんらおかしくはなく、そう簡単に敗北を許す筈などない。つまり、敵には彼女に匹敵するかそれ以上の何者かが付いていると見ても不思議ではない。
────元よりしていないが、油断は到底出来ない。それが例え、〝魔王〟を味方に付けているとしても。
と、その時。不意に部屋の扉をノックする音が響いた。
夜もすがら、そしてアンダーウッド全体が緊迫感に包まれる今現在、〝ウィル・オウィスプ〟の部屋を訪ねる者は必然的に限られてくる。訪問者にある程度の当たりを無意識に付けつつフェイスは「どうぞ」と扉の奥の者へ入室を促した。
そして、入ってきた者〝達〟に暫し閉口し、仮面越しに訝しんだ視線を送りつけた。
「……。萃様と……〝
邪魔するぞ、と入ってきた萃と追随してきたペスト。この二人(主に萃)はウィラの元を訪ねるのも理解出来た。だがその後ろから更に入ってきた十六夜と飛鳥の2名だけはそうともいかない。特に十六夜は、何かと因縁を付け合ったりしてしまった仲であり、ウィラとの接点があるとも聞いていない。飛鳥についてはただ付いてきただけなのか、彼女なりの意図があるのかは知れない。
「フフ、こんばんは仮面の騎士様。そう警戒しなくても、私はただ〝ウィル・オ・ウィスプ〟のリーダーのお見舞いに来ただけよ。十六夜君は…………まぁ貴女にまた因縁でも付けにきたんじゃないかし────あイタッ」
「戯言はいいからさっさとミろ」
適当な事を宣う飛鳥の頭を小突きウィラの元まで押しやる十六夜。そのまま閉めた扉の傍に寄り掛かり沈黙してしまった。
今は深く十六夜を気にしなくてもいいとしたフェイスは、まず状況の理解に努めようと萃へと問うた
「萃様、これは……」
「いきなりすまんなクイーンの騎士よ。直ぐ済むからちと待っておれ」
いえ、まず説明を……とは、何故だか言えなかった。
そんな内に、十六夜に背を押され呆れた笑みを浮かべていた飛鳥は、ウィラの顔を覗き込み、次には彼女の額へと手を宛がい瞳を閉じた。そこで、今さっ十六夜が『さっさとミろ』と口にしたのを思い出す。それはもしかして、『診ろ』と言っていたのではと。目の前の少女は、ウィラが昏睡する理由を探るギフトでも所有しているのだろうかという解に至った。
程無くして飛鳥は静かに息を吐きながら肩を竦めた。
「無理ね、少なくとも
「……ん、そか。ったくあの堕神め、面倒な事をしくさってくれたのう」
「……ってか爺、お前ならソレの解き方くらい自分で〝検索〟出来るんじゃねえのか? いちいち柄にもなく頼み込む必要もなかったろ」
「貴様は痴呆か。出来るもんなら疾うにやっとるわ」
そう言い萃は、扉の方へと首を軽く振った。
十六夜はそれを見て黙ったまま部屋を出て行った。飛鳥も、フェイスに「それじゃあ騎士様、また後日」と、笑ってるのか嗤ってるのか判断に困る微笑を向けて彼の後に付いていった。
結局、何だったのか。精々ウィラの状態を治す手立てがない事以外推測にも困るやりとりとにしか見れないフェイスだった。
そんな彼女に、深い溜め息を吐いていた萃が苦笑を浮かべ、
「ウィラのお守りを頼んだ手前、騒がしくしてすまんな」
「……いえ、気になさらず。……それよりも、
「いんや、恐らく術者本人を潰さん限りは無理じゃろうな。下手をすれば、今後一生こやつの意識は戻らんよ」
フェイスは閉口した。ウィラは仕える主ではない、それでもコミュニティ絡みで友好を交わしている仲だ。その彼女が最悪この先も目を覚まさないかもしれないと言われて、思う所のない程、クイーン=ハロウィンの寵愛者。仮面の騎士フェイス・レスは無情でも非情でもなかった。
「ま、仮に彼奴が逃亡しようがしまいが結果は決まっとるがの」
萃の言葉は、憂いはおろか心配も懸念も感じさせない、気楽な調子で満ちていた。
彼は箱庭の黎明期から現代にまで生きる〝不羈奔放の魔王〟。その名の通りどこまでも勝手で、己の意思を、意志を、圧倒的力を以って成す。箱庭で恐らくただ一人、衰退を知らず我を突き通せる存在。彼の言葉はなんであれど、重みを感じられた。
そこでフェイスは思う。何故彼は、あの白夜叉やクイーンに匹敵するかそれ以上の力を有するというのに、この現状に身を置いているのか。彼ならば、魔王のゲームが始まったあの時、あの日に、力尽くで全てを終わらせる事も出来たのではないかと。
「さて、自分らが長居しても煩わしいかろうて。そろそろお暇するかの……ではのクイーンの騎士」
だがフェイスはそれを口にはしない。した所で仕方のないことだろう。何せ彼は────魔王なのだから。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ウィラが心配か」
「……いきなり何よ?」
「いんや、そんな顔をしておったからな」
部屋を後にした萃とペスト。
不意に萃が、ペストへとそう言葉を投げ掛けてきた。
意味が分からない、率直にペストは思った。何がどうして気に入らない相手の心配などしなければならないのか、理解に苦しんだ。だが……否定はしなかった。
ウィラが昏睡状態になった原因。先程のフェイスと萃との会話から考えても、彼とゲーム初日に対峙した奇怪な少女と見て間違いと考えられる。
そしてその少女とは、ペストも相対している。それ以上に、危うく殺されかけたのだ。
その経験が、一種の同情を彼女にさせていた。もしかしたら、自分がウィラのようになっていたかもしれないのだから……。
「────……ククっ、ハハハハっ! いやぁすまんすまん! くだらん事を聞いたな、気にせんでくれ」
「…………アイツの落ち度が招いた結果なんて、私には関係の無いことよ。まったく、北側最強だなんて聞いて呆れるわね」
そう言いつつ、陽気な笑声で質問を誤魔化した萃にも呆れを示すペスト。だが、ふと我に帰ったように閉口したかと思うとほんのりと頬を紅潮させ、それを隠すようにズカズカと萃を置き去りに廊下を進んでいった。
そんな彼女に萃は、嫌味ともとれる笑みを口許に湛え、自分も足早に彼女の後を追いかけるのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
吸血鬼の古城、城下町。
夜間ともなると、建ち並ぶ廃墟群は言い知れぬ不安感を煽る不気味なものであった。位置するのが上空である事も相俟り肌寒く、唯一の明かりととも言える星光も建物に陰影を色濃く付け、より一層闇を作り出す要因となっていた。
外がそんな状態では、迂闊に出歩く訳にもいかないだろう。
まぁ仮にそうでなくとも、夜に好き好んで活動する夜行性者は此処には居ないのだが。
「…………」
朝方におおよそゲームの謎解きを終え城下町の探索に乗り出していた耀達は、廃墟群の中にある古い洋館で一旦身体を休めていた。子供達は昼間の殆どを探索の手伝いをしてくれた為に皆すっかりと寝入ってしまっており、今起きているのは耀にガロロ、ジャックの三人だけだ。
その中耀は一人、焚き火の灯りをぼんやりと見つめながら今日一日の成果を顧みていた。とは言えど、まだ謎解きの決定的成果が望めたかと言えばそうではなかった。
そも、彼女が導き出した解は以下の通りである。
ゲームの題にもある〝SUN SYNCHRONOUS ORBIT〟、直訳すると〝太陽同期軌道〟を太陽と常に特定の角度を保ち飛ぶ人工衛星の軌道を意味している。それからこのゲームの謎解きには〝太陽〟と〝軌道〟が関わっていると考えられた。
そこからはガロロ達と些細な事でも情報を共有し合い、〝契約書類〟にある『砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。』という要項から〝黄道の十二宮〟と〝
しかしながら、如何せん廃墟群の城下町は一日で探索を終えるには広すぎた。幸い、耀とジャックが空から確認した街が〝獣帯〟に関係すると思われる十二分割の形状であった事が確認でき、解答の確信性が上がりはしたが……。
(……焦ることはないですね、有余はまだあるんですから。取り敢えず今は一番最後の謎を考えるべきですね……)
探索についてはまた明日に回す事にして、耀はゲーム最後の謎『玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て』の考察に入ろうとした。とは言うも、これについても彼女はおおよその解答を出してしまっている。
(これについてはレティシアさんに聞くことが出来れば…………最悪無理矢理にでも吐かせましょうか)
やや乱暴な思考を巡らせながら、おもむろに服の内に提げていた〝生命の目録〟を手に取る。彼女が信頼を寄せるギフトの一つ……なのだが、目を凝らせば箱庭に来た当初と比べて変化が見られた。それは規則的に彫られた系統樹を囲うように円が縁に現れているというほんの些細な変化。だが、耀はそのような加工を施した覚えもなければ、そもそも〝生命の目録〟の用途を確りと理解している訳でもなかった。
――――ギフトは今も変わらず恩恵を与えてくれている。その時になっても機能さえしてくれれば然した問題ではないだろう。
(それに、これは……――――)
暫し〝生命の目録〟を見つめていた耀は、煩わしさを感じつつ顔を上げた。
焚き火を挟んだ彼女の対面にはガロロが居る。その彼が、化物にでも相対したかのような青ざめとした面持ちで凝視してきていた。……いや、よく見てみれば彼が凝視しているのは彼女の手の内にある〝生命の目録〟のようだ。
「……あの、ガロロさん? 顔色が悪いようですけど……どうかしましたか?」
「っ…………嬢ちゃん。その首飾りは何処で手に入れたんだ……?」
何故このタイミングでするのか、意図を図りかねる唐突な質問だった。けれど、別段隠し立てする理由も無かったので耀は変わらぬ素っ気なさを
「手に入れたと言うよりは、三年前に私の父が誕生日プレゼントとしてわざわざ作ってくれたものですよ。まさか動物と繋がりを持てる恩恵だったと想像もしませんでしたけど」
「嬢ちゃんの親父さんが、これを……?」
その返しにガロロの面持ちが今度は少々険しさを臭わせるものとなった。そんな彼に耀は、
「(……。)興味があるのなら……よかったら見てみますか? ちゃんと返して頂けるなら、いくらでも」
「え……あ、あぁ。すまねえが、少しだけ見させてくれないか?」
差し出された猫の手に〝生命の目録〟を置く。そのままガロロは耀に「気を張ってばかりじゃなんだから少しは休んでも良いぞ?」と言い彼女を視界から逸らす姿勢で〝生命の目録〟を瞠目し始めた。耀はガロロの言葉に一度断りを入れてスッと瞳を閉じる。
彼の謎の挙動には一切の関心も示す様子はなかった。だがほんの一瞬に、澱みきった視線を向けた事には、彼もジャックも気付く事はなかった。
誤字脱字等ありましたらご報告下さい