■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
場所は、半刻程歩いて〝ノーネーム〟居住区の門の前。丸一日掛けてやっとこさ彼らの本拠へと向かう事になったのだ。だが、浮き足だった三人(二人)に対して黒ウサギの表情は決して優れているとは言えなかった。
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入り口から更に歩かねばならないのでご容赦ください。この近辺にはまだ戦いの名残がありますので………」
「戦いの名残ってことは……噂の魔王って輩のか?」
「は、はい」
「あら丁度良い。白夜叉とは違う魔王様の実力……傷跡でも拝んでおきたいわね」
先程から続いて上機嫌な飛鳥。
黒ウサギはそんな彼らの様子に何を言う訳でもなく、躊躇いながらも領域への門を開いた。その途端、一行を先ず乾いた風と砂塵が吹き抜けた。が、ちゃっかり耀がグリフォンから受けたギフトを使い砂埃を反らした。もう大分使い熟れた感があった。
「…………へぇ、」
「これは………また、」
「…………」
三人の瞳に一面の廃墟が映り込んだ。其処にある建物は例外なく朽ち果て、完全に風化しきっている。これはもう戦禍の遺跡と言っても過言ではない程の状態だった。
そのような光景を前にして十六夜、飛鳥は………尚も笑っていた。不謹慎? 知った事ではない。戦慄? 寧ろ胸が高鳴った。
十六夜は黒ウサギに訊ねた。
「なあ黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは………何百年前の話だ?」
「僅か三年前でございます」
「……ハハッ。そりゃ面白い。冗談じゃないのが尚の事なっ。あ? この街並みが三年前に、できたものだと? 断言してやる。どんな力がぶつかろうと、この壊れかたは有り得ないぜ。
退廃した街並みを記憶に焼き付けながら、散策をする三人。生活感は残っている。ただ人がパッと消え、時代だけ膨大に過ぎていった………そんな光景が視界一杯に広がる。そして、廃墟にも関わらす生命の活動が一切見受けられない。
「抽象的に死んだ土地と言えるわ、これ。箱庭の災厄は復興の〝ふ〟の字すら慈悲も与えないのね……」
「これが……魔王の傷痕、ですか……」
耀はそう呟き、試しに近くの木片を軽く握ってみる。抵抗すらなかった。まるで砂の様にボロボロと崩れていった。
「魔王とのゲームは完全に未知の戦い。為す術もなく……この有り様です。彼らがこの土地を取り上げなかったことは幸いでしたが、あくまで他のコミュニティに対する力の誇示と見せしめの為。彼らは遊び心で数多の同士たちを捩じ伏せ、僅か残った者達でさえ心を折られ………やがてはコミュニティを去っていきました」
それが魔王のやり方。気紛れな災厄は、無邪気な子供のように人々を蹂躙していくのだ。災厄故、そこには情などと皆無に等しい。年端もいかない子が、玩具の心配をすると思うか? 答えは……否だ。
「――――ほんっとうに、今日一日で驚かされ過ぎだぜ。いや………まだまだ足りねえな。あぁ……面白えェ」
「――――さいっこう。早く会ってみたいわねぇ、その魔王に。是非とも………許しを乞う姿を拝みたいものねェ」
「――─―…………」
一行は、そのまま居住区を抜け本拠への道を進んだ。
やがて、荒れ果てた居住区は整頓された空き地へと様変わりし、彼らはその先の貯水区までやって来た。
其処で用水路の掃除をしていたコミュニティの子供達、その年長組と挨拶を済ませ、次に耀が手に入れた水樹を設置する事になった。因みに子供達とは意外な事にも耀が一番馴染めていた様子だった。飛鳥も次点、十六夜はやや苦い顔をいていた。
そんな事はさておき。黒ウサギは十六夜に水門の開閉を頼み、その間に水樹の苗を専用の台座に置き包んでいた紐を解いた。すると、水樹からは貯水路をあっという間に埋める程の激流が放出された。その際に十六夜が巻き込まれそうになったが、ウサ耳一掴みで勘弁してあげた。
「壮観ね。ここまで働いてその子がまだ苗だって言うんだから凄いわ……」
「本樹はこんなものではないです。私も一度しかお目に掛かった事はないのですが、それはもう、素晴らしい景観でした」
「……妙に焦らすのね? まあ楽しみはとっておきましょうか」
どんどん、想像以上の水量で貯水池は満たされていく。その様にジンは感動的に呟いた。
「凄い! これなら生活以外にも水を使えるかも………!」
「ん? 農作業にでも転用すんのか?」
「近いです。例えば水仙卵華などの水面に自生する花のギフトを繁殖させれば、ギフトゲームに参加せずともコミュニティの収入になります。これなら皆にも出来るし……!」
「ふぅん? ところで、水仙卵華ってなんだ御チビ」
「え?」
ジンは思わず呆けてしまう。十六夜の御チビという何とも言えない愛称に驚いたのだ。
「す、水仙卵華は別名アクアフランと呼ばれ、浄水効果のある亜麻色の花です。薬湯に使われる事もあって、観賞用にも取引されてます。確か噴水広場にもあったはずです」
「ああ、あの卵擬きか。何だ、そんな至れり尽くせりなもんなら一つ位貰ってくれば良かったな」
「な、何を言い出すのですか、ギフトゲームにおいてチップともなるものっ、 採ってしまえば犯罪です!」
「おぉおぉ真面目な体裁をお持ちだな御チビ。真面目過ぎると後先苦労すんぞ」
ヤハハ! と面白そうに笑う十六夜。そんな彼がジンには癪に障ったのか言い返そうと……したところで、十六夜は手で制し、愉快そうにジンに言った。
「子供扱いは嫌か御チビ? それとも〝御チビ〟って愛称が嫌か? ま、どちらにせよ俺は止めないぞ。確かにアンタは俺達の〝リーダー〟だそうだな。だが、俺はその功績をこの目で見ていない。なぁコミュニティのリーダーさんよ……信頼って………大切だよな? コミュニティに正式加入を述べた手前、簡単に抜けるなんて事はしないが……、あまりにも酷かった場合は――――分かるな?」
これは軽い脅しだ。万が一期待を裏切るようならば、コミュニティを出るぞと。
だがまあ実のところ、十六夜にはその気は無い。結局退屈が凌げれば良いのだから。快楽主義という程でもないが、力を持て余しているというのは辛いものなのだ。彼は平穏主義でもないのだから。
因みにだが、御チビという愛称は、何だかシックリときたという本人からしたら迷惑でしかない下らない理由で呼んでいたのだった。
「――僕らは〝打倒魔王〟を掲げるコミュニティです。何時までも黒ウサギに頼るつもりはありません。次のギフトゲームで………それを証明します」
「クハハッ、そうかい。ま、期待くらいはしてやるぜ、御チビ様」
何処までも面白そうに愉快そうに笑う十六夜。彼はジンとの話を切り上げ、屋敷の方へ歩を向けた。その際、
「……ま、ゲームは問題なく終わるんだろうなぁ。くく……手加減くらいしてやれよ、飛鳥?」
そう一言虚空に呟いて……
「────貴方も人の事は言えないわよ、十六夜君。ジン君と
先に屋敷へ向かう十六夜の背中を横目に飛鳥は呟く。
「…………、」
耀も、言葉にはしなかったが十六夜を……続くように屋敷から離れた明後日の方角を流し見て、溜め息を吐いた。