■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】   作:白結雪羽

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吸血姫

「…………」

 

 

 十七夜の月を見上げながら、十六夜は本拠・屋敷の屋根上にて寝そべっていた。特に何を考えるでもなく天幕越しの夜天を、星々をボーと見る姿は、ドコか倦んだ様に見える。

 

 

「はぁ……暇だ」

 

 

 訂正する、倦怠感を隠しもしなかった。限り無く詰まらなそうに、十六夜の覇気は何処へやら。

 

 夕刻。飛鳥、ジンと〝フォレス・ガロ〟とのゲームは無事に終わった。こちら側の被害は皆無、結果としては上々だろう。

 そのゲームが終了した後、〝フォレス・ガロ〟の傘下に下っていた者達には〝名〟と〝旗〟を返還し、〝ノーネーム〟の吹聴、宣伝活動には成功した。主動の十六夜としてはジンの為に前置きや締めのお膳立てを務めるというのは非常に面倒で柄にない事ではあったが、言い出しっぺとして責任は確りと取った。事の詳細は昨晩の二人の密談に遡るのだが省略。

 とまあ、ここまでで彼がこんなにも倦ねてしまう理由は………殆ど無い。では何故、彼はこんなにも気力を削がれているのか?

 実は十六夜、ジンと〝ノーネーム〟の元同士を取り返すためにギフトゲームに出る約束を交わしていたのだ。無論、箱庭に来てからこれといった動きを見せていない彼にそれを断る道理は無く、寧ろこれがあったから面倒な役を担ったのだ。

 ゲーム終了後、黒ウサギにはゲームの参加申請へと向かってもらった…………そして返ってきたのは、

 

 

「は? ゲームが延期?」

「は、はい…………彼方に着いた時に知りました。このまま中止の線もあるそうです」

「……白夜叉に言って如何にかなんねえのか?」

「如何にもならないでしょう。どうやら巨額の買い手が付いてしまったそうですから」

 

 

 この時、十六夜は目に見えて不機嫌になった。黒ウサギはそれを察してフォローを入れようとするが、下手に期待を持たせてしまっては逆効果に成りかねないと思い至り、自制した。

 

 

「チッ。所詮は売買組織、エンターテイメントより利益を優先するか。まぁ有り得ない可能性ではなかったがな。〝サウザンドアイズ〟は群体コミュニティなんだよな?」

「…Yes。傘下は白夜叉様のような幹部が半数、残りは〝サウザンドアイズ〟直轄なのです。今回の主催はその〝サウザンドアイズ〟直轄のコミュニティ〝ペルセウス〟。双女神の看板に傷が付く事も気にならない程のお金やギフトを得れば、ゲームの撤回ぐらいやるでしょう」

 

 

以上が、一時間程前の二人の会話となる。そして十六夜はこの小一時間程ずっとこの調子なのだ。まるで子供のように拗ねている様にしか思えない。

 

 

「〝ペルセウス〟……か」

 

 

 星空の中にペルセウスの星座を見付ける十六夜。無意識の内に手を伸ばしていた。当然届く筈はない。天幕に遮られ、そこから更に何千万、何億光年と先にある手の届かない穢れを知らない聖域。神々と区分される者達ならまだしも、人の手が及ぶことは現実問題不可能だ。

 

 

「メデューサとかクラーケンで有名なあれだよな……。そんな大層な名を掲げといて、やる事が姑息ったらありゃしない。全く………面白くねえ――――――なぁ、そう思わないか、()()()さんよ」

 

 

 誰にともなく尋ねる。それに答える者は…………居た。

 

 

「――――何時から気付いてた?」

「気付くもなにも、途中から気配消すのやめてただろ?」

「あぁ、詰まりは最初から覚られていたのだな」

 

 

 バサッ! と漆黒の翼を羽搏かせ、屋敷の陰より一人の少女が現れた。流れるように艶やかなプラチナブロンドをリボンで結わえられ、レザージャケットに拘束具を彷彿とさせるロングスカートを着た彼女………件の同士様・レティシア=ドラクレア。彼女は十六夜の正面に降り立つと、翼を仕舞い込んだ。

 

 

「………へえ。中々、噂聞きしに勝る美少女じゃねえか。思わず目の保養にしちまったな」

「ふふ、それはどうも。……成る程、君が十六夜か。白夜叉から面白い男だとは聞いていたが、当にその通りだったな」

「そりゃどうも――――で? 良いのか、俺なんかの所に最初に来て。用件があるなら俺より黒ウサギの方だろ?」

「なに、一人物思いに耽っている君が気になってな。皆と別れて何をしていたのだ?」

「ただの星空観察だよ、っと」

 

 

 十六夜はその場から立ち上がり、レティシアと向かい合う。一応補足しておくが、此処は本拠の屋根の上。そして、階にして十を超えている。そんな場所で向かい合うというのは、決闘を予兆するかのよう………というのは置いておこう。

 

 

「んでだ。如何だった? 新生〝ノーネーム〟の実力は。まあ飛鳥しか参加してねえから、判断は付け難い思うが……」

「………。十六夜は、何処まで察している?」

「ん? まぁ……ゲームの待機時は時折黒ウサギが意味深に何か呟いてた上に、ジンとの約束もあったからなぁ。あとアンタの持つ貫禄と此処に至るまでの経緯。大方、〝ノーネーム〟の解散の説得をしようとしたが、その時白夜叉から俺達の事を聞いた。それを聞いた過保護なアンタは俺達新人の力を試してみたくなった。ガルドは良い当て馬にされた訳だ」

 

 

 目を丸くするレティシア。だが、直ぐに平常に戻ると意地悪に首を振る。

 

 

「最後が惜しいな。ガルドでは当て馬にもならなかったよ。実力は不明瞭ながら期待できるものだったが………如何せん、判断材料が少なすぎる」

 

 

 では如何するか? このままでは一抹の不安を抱いたままだ。この後、黒ウサギにもまみえるつもりでいるが、これでは何と言葉を紡ぐべきか……

 その時、十六夜は面白そうに口元を笑わせ言った。

 

 

「なぁ、一つゲームをしないか?」

「……何?」

「お得だぜ? 今ならアンタの不安が一つ解消出来る、ってな。そんな胸中不安で仕方が無いならここでパッとスッキリした方が良いだろ?」

「? 一体如何いう――――っ!?」

 

 

 彼女は咄嗟に後ろに跳んだ。その額には冷や汗が伝う。対する十六夜は軽薄に笑うだけで可笑しな行動は一切とっていない。しかし、レティシアは下がった。本能的に、直感に従って跳んだのだ。

 

 

「(い、今の威圧感は何だ……?! まさか、彼が……!)」

「ルールは単純。アンタは本気で、俺を殺す気で掛かってこい。俺もアンタを……ある程度本気で相手してやる。自分で体感した方が、実力ってのは良く分かるってもんだろ?」

 

 

 十六夜の提案。確かに〝打倒魔王〟を志す〝ノーネーム〟の不安事項を解消出来る手っ取り早い方法だろう。だがしかし、それは建前にすぎない。彼は単純に、退屈を凌ぎたいだけなのだ。それ故か、やや上から目線でイラッとくる物言いだった。

 

 

「………フッ。そうか………そう言えば、白夜叉からこうも言われていたな――――扱いは気を付けろと」

「おいおい、人を物扱いか? ………クク……ハハッ、別に構わねえか! それはこれかはアンタが判断する事だしなッ」

 

 

 言い終わるや否や、二人は屋敷から近くの中庭まで跳(飛)んだ。そして、開けた場所にて対峙する。十六夜は愉快そうに楽しそうに笑い、レティシアも応じるように口許が弧を描く。

 

 

「改めてルールを確認する。流石に殺す気では、君が可哀想だ。故にお互い持てる渾身の一打を放つ。それを、どちらかが受け止められなかった場合勝敗は決まる」

「ハッ、可哀想ねェ? 言ってくれるじゃねえか! 泣きをくらっても後悔すんなよ!」

 

 

 お互いに挑発し合う。今、真の腕試しが始まるのだった。

 レティシアは空、十六夜は地。地の利的には制空権を取るレティシアだろう。だが、十六夜にはそんなことは関係無い。寧ろ空という不安定な場より地に足が付いてる方が色々と有利なのだから。

 

 と、騒ぎを聞き付けてきたのか、屋敷から黒ウサギと飛鳥が出てきた。もう夜遅く、ジンは昼間はゲームがあったため既に就寝済み、春日部は気付いてはいるが不干渉……あたりが想像できる面子だ。

 

 

「レ、レティシア様!? ど、如何して此処に――――」

「黒ウサギ、積もる話なら後でする。今は………大人しく見ていてくれ」

「邪魔すんなよ黒ウサギ。差しの決闘だ。邪魔したら白夜叉に売り渡すぞっ」

「鬼ですか!? ってそうじゃなくて! お二人ともッ、」

 

 

 尚も状況が読めず割って入ろうとする黒ウサギ。そんな彼女を、飛鳥は引き留めた。

 

 

「っ、飛鳥さん……!」

「黒ウサギ、貴女の気持ちはとっても分かるわ。でもね? 今は二人の掛け合いの場よ。箱庭出身の貴女なら、その意味は分かるわよね?」

「…………はい」

「フフ、大丈夫よ。終わったらタップリと時間をトラセテモラウカラ……フフフフ、」

 

 

 飛鳥の怪しい含み笑いに黒ウサギは言い知れぬ悪寒を感じた。飛鳥は、口ではああ言ったが、実のところ一人でお楽しみを消化しようとした十六夜に当たりたい……そんな気分だったりする。あくまで気分だ。そこは間違えてはならない。

 

 レティシアが懐から取り出したギフトカードからランスを顕現させる。しかも、それは彼女の身の丈の二倍はあろうかという長槍。それを軽々と一振りし、構える。

 十六夜はそのレティシアの所動に哄笑を噛み殺し、悠然と立ち構えた。

 

 

「先手はそっちからってか。良いぜ……来いよッ、元・魔王様!」

「ああ――――では行くぞ!」

 

 

 スッ…と槍を持つ手を引き、まるで大地を踏み締めたかのように体を固定。同時に、ランスへと暗紅の閃きが収束する。そして、

 

 

「――――――ハァア!!!」

 

 

 胴の、肩、腕と全身のバネを撓らせ、レティシアは力一杯ランスを投擲した。それは軽いソニックブームを発生させながら突き進み、瞬く間に十六夜との距離を詰め……

 

 

「ハッ! 面白ェ……!!」

 

 

 ズガアアァァンッッ!! と轟音が響く。二つの距離がゼロとなり、十六夜は爆音と共に土煙に包まれた。黒ウサギと飛鳥も思わず目を被った。

 一方レティシアはというと、

 

 

「………少々やり過ぎたか?」

 

 

思いの外熱くなっていたようで、かなり本気で投げてしまったことを少し省みた。

 

 

「(だが、魔王はこの程度の力では済まない。これを凌ぎきれないのならば、残念だが――――)」

「――なに勝手に、終わったみたいに達観してるんだ? 元・魔王様よォ」

「っ!! ………な!?」

 

 

 レティシアは驚愕する。彼がアレを受けて無事でいる事……それもあるが、何よりも彼が――――十六夜が、自身の目の前……手の届く範囲にまで接近していた事にだ。十六夜は微量の砂埃以外は全くの無傷。

 拳が振り上げられる。いや、跳躍直後であるため拳は既にモーションをとっていた。

 直感も何も必要ない。レティシアはこれを躱すことは出来ない。一瞬でも思考が止まってしまった時点で、それは更に明白となっている。

 世界がスローになる。彼女は、十六夜の後方………ひしゃげて地面にめり込んだランスを視界に捉えた。

 

 

「(ああ……これ程……これ程の、か。これ程の才があれば、あるいは………。フフ、見立てが少し甘かったか? …………私も大分本気だったのだがな、)」

 

 

 最後の最後。次にくる身を引き裂くような衝撃を前に、レティシアは内心苦笑が漏れる。序でに子供の様な悔しさを垣間見せた。もう、彼の拳は、目前に………………

 

 

「う…………?」

 

 

 おかしい。何時まで経っても衝撃がこない。いや、衝撃波の風は届いたが…………風?

 視界が暗い、恐らく咄嗟に目を閉じていたのだろう。レティシアはソッと、瞳を開く。

 

 

「よっ」

 

 

 十六夜の顔が近くにあった。そして何故だろうかと、背中と膝裏に感触を覚えるレティシア。

 

 

「………。十六夜……何故私は、その……君に抱えられてるのだ?」

 

 

 抱える……この場合は俗に言うお姫様抱っこか。レティシアは覚悟を決めていた分困惑が結構きていた。

 

 

「何故って……なー? 直前で小鹿のように震えられちゃあ、殴るものも殴れねえって」

「な……!?」

 

 

 そんな情けない痴態を見せたのか?! と顔を赤くするレティシア。十六夜は、そんな彼女を役得役得と言わんばかりに意地の悪い笑みをする。

 

 

「ハハハ、すまん。嘘だ」

「…………」

 

 

 キッ! と射殺さんとばかりにレティシアは十六夜を睨み付けた。そんな彼女の反応に面白そうに笑いながら、下ろしてあげる。

 

 

「……十六夜君。貴方って、そういう趣味なのかしら?」

「ん? 〝そういう〟が何を指してるかによるが、恋愛対象なら俺はあんま歳とか気にしないぞ? 見た目は……まあ、それは好みによるか」

「………チッ」

「おい飛鳥。今の舌打ちはなんだ。俺に何を期待した」

「さあぁ?」

 

 

 飛鳥の嘲けるような声音にムッとする十六夜だが、直ぐに平常通りに戻った。

 すると、突然レティシアの抗議染みた声と黒ウサギが呆然とした震える声がした。

 

 

「く、黒ウサギ! 何を!」

「……ギフトネーム・〝純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)〟………やっぱり、ギフトネームが変わってる。鬼種は残っているものの、神格が残っていない……!」

「っ……!」

 

 

 レティシアは目を背けた。それが示す事は詰まり……

 

 

「あら? 十六夜君、如何やら最初から手加減も同然だったようね」

「みたいだな。どうりで、歯応えがなかった訳だ」

「何を呆けているの? 気付いてたから寸の所で止めたのでしょう?」

「如何だろうな……」

 

 

 最後まで惚けた十六夜の真意は分からないが、情報は充分だ。

 少々辛気臭い空気になってしまった。十六夜はそんな空気を読んでか素でか、取り敢えず詳しい話は屋敷でするかと提案した。それにレティシアと黒ウサギは沈鬱そうに頷き、彼と飛鳥の後に続く。

 

 

――その時だった。遠方より、言い知れぬ脅威を体現した威光が差し込んできたのは――

 

 

 

 

 




最初、レティシアも問題児三人と同じようにしようと、考えたのはここだけの話……
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