対プロ戦? これで行こう(乱暴)。
周囲を確認。 森だ。
3メートルはありそうな太い木の幹が重なり、視界が悪い。
空は黒い枝による屋根が覆い、僅かに空が見える程度。 平和な頃にテレビで見た、北米大陸の森を彷彿させる。
「森か……。 まずいな」
「森だぁ」
北米………俺達、残存部隊がマザーシップNo.11を攻撃している時だ。
同時刻、北米でもマザーシップNo.3への攻撃が行われているのを聞いた。
しかし結果は失敗。 撃墜に至らず。 だが巨大砲台に損傷を与えることに成功しており、破壊可能であることを示唆した。
その情報を元に砲台を攻撃。 破壊に成功する。 最も、その後が大変であったが。
「三つあるんでしょ? エムさん。 一つは、エムさんの狙撃が生かせない。 二つ、わたしが目立つ。 三つ、ボケてるワンちゃん」
「ボケる歳じゃない」
「あ、戻ってきた」
凄い失礼な言葉が聞こえて戦場にカムバック。 いかんな。 集中しなければ。
「そうだ。 ここは不利だ」
エムはそう言う。
俺がボケてるコトに肯定しているかは置いといて、実際に不利なのは確かだ。
今回は空の下だから要請は出来る。 問題はビーコンガンの使用だ。
空軍への空爆や機銃掃射等の要請は無線機で座標や突入角度を指示するが、衛星砲やミサイル関係は目標にビーコンを照射しなければならない。
砲兵隊の場合は発煙筒を投擲しなければいけないし。 とにかく、木が遮蔽物となる森は不利。
戦時中、木には嫌な思い出がある。 アレは市街地での乱戦の最中だ。 目の前の並木にビーコンを当ててしまったのだ。 そのままガンシップによる攻撃が始まり、危うく死にかけた。
《DE202》のパイロットは悪くない。 俺が悪いのだ。 射線に平気で出てくる味方にはキレそうになるのだが。
さりとて今は今。 センサーに敵性反応がいくつも出ている。 距離はあるものの、このまま雪崩れ込まれては最悪だ。 怪物にしろ何にしろ、群れの津波に飲み込まれるのは避けたい。 その度に死にかける。
直ちに移動する。
リムペットガンを構えつつ、俺は尋ねた。
「森を抜ける。 エム、周囲の地形は分かるか?」
「この方角に進めば、廃墟の都市部だ」
指で方向を教えてくれた。 都市部があるらしい。 森よりはマシだ。 市街地戦は幾度となく経験しているからな。
ビル群があったとしても、邪魔なら吹き飛ばせば良いし。
「了。 其方に向かう。 先行するから、ついて来てくれ。 レン、俺から離れるなよ」
「嫌だよ。 撃たれるとしたら、真っ先にワンちゃんだろうし」
「囮は頼む。 サテライト・スキャンで検知されるのはストームだからな」
そう言って、俺から距離をとる二人。 何だろう。 また悲しくなってきたよ。
いや……理にかなっているのか。 今は隊長として二人を守るのだ。 集中、集中だ。
それと射線に出られるよりマシ。 うん、そう考えよう……。
リムペットガンを構えつつ、周囲を警戒。 センサーにも気を配って暗い森を進んでいると。
突然遠くから小太鼓を叩くような音が。 発砲音だ。
「しゃがめ」
迷うコトなく指示を出す。 エムは素早く反応して座ったが、レンには難しかった様子。 一瞬遅れて、慌てた様に座った。 可愛いが、堪能している場合ではない。
「ワンちゃんに『お座り』させられたぁ」
「冗談を言っている場合じゃないぞ。 銃撃戦だ。 2秒以上途切れない。 相当数の弾がばらまかれてる。 ここより西のどこかだ」
「ああ。 5.56ミリクラスのアサルト・ライフルだな。 サブマシンガンを撃っているやつもいる」
「は? はあ……」
無法者同士で交戦したか。 エイリアンとの大戦後も協力して復興するべきなのに、悲しい話だな……。
相手は何人かも分からない。 正確な場所も分からない。 大雑把に空爆や機銃掃射の要請をしては、生き残りが雪崩れ込んで来るかも知れない。 駄目だな。
今はエムと共に状況を把握するしかない。 レンには呆れられたが重要だ。
「もう戦闘になったんだ? 早すぎない?」
「戦場では何が起きるか分からない。 地面の下から来るかも知れないし、空からかも知れない。 常に全方向に気を付けるんだぞレン」
「そうだね。 ヘリでストーカーする人もいるもんね」
「すまない」
「………」
「エムさん。 そのうち分かるよ」
最初の頃の話を出すんじゃない。 知らない人だっているんだから。
未だ続く発砲音に緊張を持たないとならないのに。 呑気に話をしている場合じゃない。 先に進もう。
「この先はゆっくり、周囲を警戒しながら進む」
「了解」
「りょーかい」
レンに間延びした返事をされた。 もう少し緊張してくれ。 エムを見習うんだ。
いつ敵と遭遇するか分からない今の状態。 先陣を切っているとはいえ、後方から来るかも分からん。 真下から怪物の群れが出て来るかも知れないし。
常に警戒はするべきなのだ。 センサーも万能ではない。
そう思いつつ、森の中を進んで行く我ら《EDF》。 気晴らしに歌でも歌うか。 地底の歌辺りが良いか。 いや、止めよう。 レンに怒られる。
EDFの歌は好きじゃないらしいからな。 ならば神崎エルザの歌ならば。 いや止めよう。 俺、音痴だし。 士気が下がってはいけない。
やがて遠くから聞こえていた発砲音はスッと消えた。
結果は知らん。 何人生き延びたか分からんが、敵として出会わないコトを願うばかりだ。 今は無視だ無視。
「よし、止まれ。 敵が近いぞ」
行軍停止を指示。 森の終わりに差し掛かったので、様子見の為に待機。
エムの言った通り、廃墟の都市部が目の前に広がっている。 大小のビル群がある光景。 敵性反応もある。
場合によっては市街地戦になりそうだ。 久しぶりだ。 最近は見晴らしの良い荒野や砂漠がメインだったからなぁ。
「ストーム。 間もなくスキャンだ。 敵が近い場合、攻撃を受ける恐れがある」
「だろうな。 レンを頼む、森の中に隠れていてくれ」
「ああ」
さて。 センサーによれば、かなり近い距離に敵がいる。 見やれば、機関銃を持っている連中を五人視認。
先ず様子見だな。 重爆撃機《フォボス》に空爆要請をするのはそれからにしよう。
最悪は10機編隊の《プラン10》を要請だ。
都市部ごと敵を吹き飛ばすのは容易いが、火力によるゴリ押しをしていたルーキーの頃でなし、遮蔽物を全て無くすのは避けたい。
後に自らの首を絞める行為はしたくないのだ。
「敵発見。 五人。 200メートル以上離れており、武装は機関銃。 今は瓦礫の陰で動きを止めている」
「スキャンを見るつもりだ。 ストームに気付くぞ」
「様子を見る。 離れた場所にもう1グループいるからな」
「了解。 ふっ、死ぬなよ」
「……えっと? ワンちゃん、いつも通りどかーんといきなよ。 先に見つけたんでしょ」
「順番があるんだよ。 慌てるな」
無線越しに、レンの困惑する声が聞こえた。 まあ分からんか。 先手必勝という言葉はあるが、それでは目の前の敵に対してのみになる。
もう1グループが来るのを待ち、銃撃戦が起きるのを期待しよう。
そうしたら纏めて空爆や砲撃でどかーん、といこうじゃない。 漁夫の利を得るのだ。
セコいって? 俺は最近はね、無法者に慈悲はないんだよ。 説得に応じないし、レンにも平気で鉛玉ぶっ放すし。
「まあ、見てろ」
「うん。 ワンちゃんが蜂の巣になる光景だね」
「……レン、俺のコト嫌いなのか?」
「えっ? いや、あの、冗談だからね? 嫌いじゃないよ! 本当だよ!」
最近、レンは酷いコトばかり発言する気がするので、俺はトーンを落として尋ねてみた。
急に慌てた様に話す辺り、やはり嫌いなのではなかろうか。 話す時は楽しそうに罵倒するし。 しかし何がいけないのだろう。 女の子って難しいと思う。
ションボリしつつ、だが蜂の巣にならない為に《電磁トーチカ》を目の前に設置。 青くて半透明な壁が、前方に生成された。
見た目はプラネタリウムの装置に見える。 実際、土台の上部に球体がついていて白い斑点があり、グルグルと回る。
その様子はプラネタリウムの装置のソレ。
しかし違う点として星空ではなく、この様にエネルギーの壁を発生させるトコロだ。
「何だ、それは」
「ああ。 これは……おっと」
説明するタイミングで、激しい銃撃音。 先程のグループが此方に気付き、発砲してきた様子。
ドドドドッと重い音もあればタタタタッと軽快な音も。
そして光の壁に無数の銃弾が当たり……俺のところへ届く事はなかった。
「つまり、こうだ。 壁を作る装置」
この壁、光学兵器だろうが実弾兵器だろうが防いでしまう。 ただし味方の攻撃であれば識別し、攻撃を通してくれる。
その為、内側から安全に敵を攻撃出来る優れもの。 名前のトーチカはこの特徴からきてるのだろう。
「そんな物を持っているのか。 なら俺のは要らなかったか」
「むっ? 同じ物を持っているのか」
「まあ、そんなところだ」
「ならば自分用で使えば良い。 無駄にはならないさ」
「ありがとう」
「うわあ……ムチャクチャ撃たれてるのに、ワンちゃんもエムも冷静だね」
「怪物の群れに飲み込まれて、強酸地獄よりマシだ。 機関銃とはいえ《フェンサー》を相手にしているワケでもないし」
「え? 強酸? ふぇんさー?」
「こっちの話だ。 忘れてくれ」
フェンサーは全身を覆う《パワードスケルトン》の恩恵で、普通は持てない重火器を扱うEDFの兵科のひとつ。
機関砲とか、キャノン砲を片手でブッ放す光景は頼もしくもあり恐ろしくもある。
しかもブースターで高速移動をする者もいる。 高火力に高機動……味方で良かったと思う。
特に《グリムリーパー隊》の様な。 あの隊の装備を相手にするとなると、トーチカは意味を成さない。 接近を許したら最期だろう。
あー、ヤダヤダ。 接近戦は大嫌い。
「しかし……中々の弾幕だな。 リロードのタイミングも仲間内がカバーしているのか、銃撃が止まない。
だが機関銃だけではバランスが悪い。 撃つのが好きな《トリガーハッピー》なのだろうが、周囲に気を付けるべきだ」
「ワンちゃん。 冷静に敵を評価してるけど、撃たれてから3分過ぎたよ。 反撃しないの?」
バチバチと光の壁にぶつかる弾丸の音をBGMに、通信越しにレンが尋ねてくる。
「そろそろ反撃するさ。 だが初弾を待ってからだな」
「いや、もうとっくに撃たれてるじゃん」
そのときだ。
一人の男がうつぶせに倒れたのは。
来たか。
他の仲間が遅れて気付いて、撃方を止める。 慌てて状況を掴めていない様子。 そんな混乱の空気に3発の銃撃音が鳴り響く。
そして更に二人も死んだ。
最初の1発は仕留めきれなかった分だが、最後の1発は眉間に命中。 射手の腕は確かだろう。
「あれ? 銃撃が止んだ? ワンちゃん。 何かしたの?」
「別のグループによる狙撃のせい。 俺としては地上でドンパチしてくれた方が都合が良かったんだがなぁ」
建物の中や陰にいられると、攻撃し難いんだよ。 センサー反応で大体の位置は把握出来るがな。
「つまり……、どういうこと?」
「あのマシンガン連中以外に、他のチームがいた。 それがこっちに来て背後から襲ったんだ」
「そうだ。 マシンガン連中はスキャンを見てまだ距離があると思って油断したか、それとも、近過ぎるストームに驚いて、そもそも全く見逃したか。 どちらにせよ、うかつだったな」
「エムさん。 それが分かっていて、ワンちゃんを囮に?」
「そうだ」
「ワンちゃん。 ドンマイ。 うん、でも。 ワンちゃんならゼロ距離で撃たれても死ななそうだし」
褒めてるのか馬鹿にしてるのか。
まあ良い。 狙撃手のチームが移動を開始している。 様子を見よう。
砲撃にしろ空爆にしろ、慌ててはいけない。 自分の位置に攻撃要請する真似はいけない。
「ふむ。 新たなチームは皆お揃いの迷彩服か。 地上に四人、外壁が反っているデザインのビル中層に二人。狙撃手はビルか。
何にせよ、連携が取れている。 プロだな……EDF隊員も皆こうで有れば良いのだが」
瓦礫に身を隠している、生き延びた機関銃手二人を始末しに行くのだろう。
付かず離れず、最後の一人だけは後方を警戒しながらついて行く。
よどみない動き。 角を曲がるときは小さな鏡を使う。 よく訓練されている動きだ。
「覆面連中、いい動きだな。 連携が取れてる」
「だな。 まあ、俺のやるコトは変わらん。 殲滅だ」
俺はそう言って、軍用無線機を取り出した。 昔の家庭用電話の受話器みたいなソレは、今やスッカリ使い慣れたものだ。
フォボスにプラン10を要請する。 KM6による機銃掃射では遮蔽物が多過ぎて効果が薄いし、砲撃は範囲が限られる。
遮蔽物が無くなるって?
いや、もうね。 ココは景気良くいこうじゃない。
「殲滅? ストーム、何を考えているのか知らないが、無理だ。 動きを見ていたのだろう? 不意打ちで一人倒せても、残りは身を隠される。 銃撃戦になったら最早勝てない。 狙撃手もいる。
最悪、森の中へ逃げるしかなくなるぞ」
「あー、うん。 エムさん。 見てれば分かるよ」
「俺が何とかしてやる」
そう。 何とかするさ。
味方歩兵だけで、どうにか出来ない不利な状況。 人数でも戦闘技術でも負けている。
そんな展開は戦時中で幾度となく経験した。
だが。 それを打開する為に俺がいるのだ。
「ストームの銃は吸着爆弾を射出する銃だろ? 確かに強力だと思う。 だがそれだけでは」
「銃は使わない」
よし。 機関銃手と倒しに向かった四人、ビルの二人に空爆出来る突入角度を指示した。
間もなく来るだろう。 《カムイ》の速度でなくても十分だ。
『突入開始!』
そして聞こえる若いパイロットの声。 上空に見えるエイの様な重爆撃機フォボスの編隊。
その数10機。
都市部の上空を一列に通過する形で、突っ込んで行く。 うん。 指定通りだ。
「B2爆撃機!? いや違う……いや、何故航空機が!?」
「うん。 わたしも始めは混乱したよ」
「対衝撃体制ッ! 伏せるか、遮蔽物に身を隠せ! ココにも爆風がくるぞ!」
「あ!? ああ」
「はーい」
エムが驚き、レンは反応が薄い。 人間、慣れとは恐ろしい。
『アタック!』
そう無線が入ると、フォボスの編隊が爆弾を落とした。 それも、たくさん。
プロチームが気付いたのか、手頃な屋内に退避したが、意味はない。 建物ごと吹き飛ばすからな!
そして次の瞬間。 轟音が鳴り響き地面は大きく揺れ、都市部は巨大な爆炎に包まれた。
そして強風が俺たちのいる森にやってくる。
「うおおおおお!?」
「相変わらず凄いねえ!」
木々が斜めに仰け反り、葉は散っていく。
匍匐か木の陰にいないと辛いトコロだ。 俺は慣れているけれど。
レンとエムの無線機越しの声も、どこか聞き取り難い。
まあしかし。 先程の銃撃音なんて可愛く感じられる。 2秒と言わず、5秒6秒と編隊が休みなく爆弾を投下し続けて、轟音が止むことはない。
俺は立ち続ける爆炎を背後に、拳を天に突き上げて雄叫びを上げた!
「EDFッ! EDFッ!!」
「やっぱり、こうなるんだ」
「ストーム。 き、君は……何者なんですか」
ストーム・ワン。
地上から空軍や砲兵隊、衛星や基地等に座標を伝達し、味方の支援を行うのが主であり。
これがEDFの兵科、エアレイダー。
《空爆誘導兵》の力である。
何とか第一回SJを終わらせたい……。