レンちゃん、原作通り撃たれるの巻。 そして……。
「あと私たちと敵の二チームだけど……これで優勝しても、嬉しくないなぁ」
コンバットフレームを放棄、悪用を避ける為に爆破処理した後。
そう言いながらレンは、グレイプから降車してしまった。 ずっと車内にいるのは嫌だったのかも知れないが危険極まりない。
エムも引き止めに一緒に出て来てしまう。 コレはいけない。
「早く中に戻るんだ。 いつどこで、誰が撃ってくるか分からないんだぞ?」
「あと1チームだし。 最後くらい、何かしら役に立たせてよ。 それに、もし撃たれてもワンちゃんが何とかするでしょ?」
「そういった状況は避けたいんだが」
「レン、素直に戻ろう。 危険だ」
レンのお気楽な態度に、怒れば良いのか呆れれば良いのか。 俺の味方はエムだけか。
戦時中、レンみたいに悠長なコトを仲間が言った次の瞬間には酷い目に遭ってきたものだ。
優勢だと言えば敵の戦略にやられたり、新種に出くわしたり、大軍勢が押し寄せて来たり。 楽な仕事だなんて言った日には巨大な怪生物が乱入ときた。 最悪だ。 いわゆる、お約束というヤツ。
だから、あまりそういうコトは言わない方が良い。 その度に何とかしてきたが、散った仲間は数知れず。
「スキャンの時間だし、見たら戻るよ」
「おいおい」
言うコトを聞かずに、スマホの様な機器……サテライト・スキャン端末を見始める。
何か、戦時前の現代人だ。 そして言うコトを聞かぬ子供ときた。 反抗期の娘を持った親とは、こういう気分なのだろうか。 そう考えると少し口元が緩んでしまう。
「さあ、どこだ? どれくらい離れている?」
レンが呟く。 俺の端末は壊したから、見るコトは出来ない。 代わりにセンサーを見てみると。
距離は分からないが、そんなに遠くないな。 やはり危ない。 レンが見終わったら、さっさと中に戻って頂こう。
「あれ……え……あれ?」
そう思った刹那、遠くから発砲音。
飛翔音も合わせて聞こえると、目の前でレンが3メートルくらい吹き飛んだ。
何が起きたのか。 理解するのに時間は要らない。
レンが撃たれたのだ。
「レェン!?」
理解するより早く、弾かれた様に駆け寄るのと、レンの小さな身体がぐしゃり、と地面に叩きつけられたのは、ほぼ同時であった。
「退避だ急げッ!!」
レンの小さな身体を担ぎ、全力疾走しながらエムに叫ぶ。
レンは何とか生きているようで「あー?」とか「えー?」と呻き声を上げているが、様子を見る余裕がない!
俺が言い終わる前に、エムは既に行動を起こしてくれた。 グレイプに乗り込むついで、後部扉を半開きに。 直ぐに閉められる様にだ。
びゅん、びゅん、という弾丸の飛翔音が近くから、遠くから聞こえてくる。 たん、たん、という遠くからの発砲音も。
スナイパーだ! クソッタレ!!
「頼む!」
「分かった!」
レンを後部座席の空間に放り込み、エムが素早く扉を閉めた。 瞬間、閉めた扉に火花が散る。 逃したくないらしい。
だが逃げる。
この辺は遮蔽物が少なく、見通しが良い。 ロケット弾の類を撃ち込まれる可能性がある。
レンを安全な場所まで連れて行く。 治療はその後だ。
びゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅびゅんびゅびゅびゅん。
弾丸の飛翔音が、さっきより遥かに増えて聞こえ始めた。 今度はマシンガンか。
グレイプに無数の火花が散っていき、俺の周りに砂埃が立つ。
そして背負っている通信ユニットが被弾してしまったが、構ってる場合じゃない!
運転席まで全力で走り、その勢いのまま転がり込む様に入り込む。
ハンドルにしがみつくと、そのまま右足で思いっきりペダルを踏み込み急発進。 身体がシートに押し付けられるも構わず全力走行だ。
とにかくこの場から離れねば!
激しく風景が変わる中、俺はレンが心配で、声を出してしまう。
「エム! レンは生きてるか!?」
「生きてる。 今、救急治療キットを打っておいた。 助かるぞ」
「ワンちゃん、そんなに吠えなくて良いよ。 大丈夫だから」
「……そ、そうか。 良かった」
「ただ、放り込むのは乱暴じゃない?」
「許せ。 あの場から直ぐに避難しなきゃ危なかったんだ」
俺の慌てる声とは裏腹に、エムの冷静な声とレンのいつもの口調が返ってきて、俺は安心させられて気が抜けそうになってしまう。
いかんいかん。 まだ安全とはいえない。 走り続けよう。
「距離は600メートル先。 スナイパーにもギリギリの距離だったんだろう。 静止目標をやっと当てられる距離だった。
銃は7.62ミリクラスで、発射間隔が狭かったので自動式、最低10発は入るマガジン装備だ」
「ああ。 ボルトアクションより厄介だな」
マシンガンと合わせて、あの連射……精度は射手か銃か、特別高くない様に感じたが、制圧力が高い。
あの弾幕の中を1発も被弾しないで、グレイプに乗り込めたのはラッキーと言える。
ただ、レンは被弾してしまったが……。
「レン、エム……すまない。 俺がもっと警戒していれば」
「良いよ。 そもそも今まで撃たれなかったのがラッキーだったし」
「ああ。 あと10センチ上に当たっていたらレンは即死だった。 そしてあの弾幕だ、掠めればやはり死んでいただろう。
だが生き延びた。 それはストームの装甲車があって、こうして逃げられるからだ。 ありがたい」
二人の優しさが身に染みるよ。
心で感謝しつつ、しかし今後の展開を考えねばならない。
取り敢えずあの場から離れつつあるのだが、俺はどこに向かっているのか。
考えなしに走ってしまった。 それを汲み取ってくれたのか、エムが教えてくれる。
「ストーム、この先は荒野だ。 前のスキャンからこの距離だ、敵は乗り物を手に入れた可能性がある。
追い掛けてくるだろうが荒野は岩が多い。 車両は厳しいから、敵も徒歩になる筈だ」
「それに! わたしの、ピンク迷彩も役に立てるかも」
「そうか。 なら」
レンが撃たれて、吹き飛んだ光景がフラッシュバックする。 その逆方向……居住区。 住宅地に敵はいる。 ならば。
「住宅地に戻る」
「へ?」
どっちの声か。 困惑の声が聞こえて直ぐに
「ワンちゃん、さっきの話……聞いてた?」
「潰しに行く」
「いや、まあ。 ワンちゃんなら一捻りかもよ? でも」
「レン。 敵は非道だ。 戦場にそんなモノを求めるな、と思うだろうが。 レンを平気で撃った連中を俺は許せん」
それだけ言うと、俺は1度車両を停止させる。 車外に出て、空爆要請をする為だ。
居住区ごと跡形も無く消し飛ばしてやる。 相手は子供すら容赦なく撃てる惨忍な連中だ。
俺は外に出て、無線機器を手に取る。
そして要請……出来なかった。 うんともすんとも言わない。
「むっ?」
手に持つ無線機器に異常はない。 そしてまさか、と思い、背中に背負った通信をアシストする……通信ユニットを下ろして、見てみると。
大穴が空いていた。 先程の、銃撃を喰らった時のだ。 この場で即座に直すのは困難なレベルである。
ならば砲撃要請は?
発煙筒が無い。
撃たれた時に落としたか? 最低だ。 これでは輸送機も呼べない。
「どうしたの、ワンちゃん?」
固まる俺を心配してか、レンが声を掛けてきた。 素直に言うしかないか。
「……通信ユニットが撃たれて故障した。 空軍は呼べない。 砲兵隊も駄目。 現状持ち合わせている武装で戦うしかない」
「えっ!?」
「何だって?」
ヤバい状況になった。
エアレイダーからエアを取ったら、ただの歩兵……いや、それ以下じゃないか?
「ど、どどど、どうするのワンちゃん!?」
「俺たちの出番か」
「すまん。 俺も出来るだけ援護する」
そう言いつつ、運転席に戻った。 先ずは荒野に向かおう。 そこで潜伏する。
セントリーガンやリムペットガンで戦うしかない。 それと、今乗っているグレイプ。
こんな事なら、コンバットフレームを破壊するんじゃなかったなぁ。
過ぎたコトを悔やんでも仕方ないけどさ。
「荒野に向かう」
「……ストーム。 その前に大切な話をしたい。 二人で」
エムが、何か深刻そうな声を出してきた。
どうしたのだろうか。 大切な話? 戦略上の話か? でも二人って。
「助手席に乗ってくれ。 レン、すまんが少し通信を切る」
「えっ? この状況下で?」
「悪いな。 何かあったら、直ぐに通信を直すさ」
「……ストーム、すまん」
通信を切って、エムを助手席に移動させる。 大きな身体に大きなバックパックでは、助手席がとてつもなく窮屈そうだ。
だがそれでも、無理矢理ねじ込む様に、エムは入ってきた。 余程話したいのか。
「それで、話とは?」
「あ、ああ、えっと、その」
歯切れ悪く、エムらしくない。 そう思って見たエムの目は……涙が浮かんでいて。
表情は死への恐怖で歪みまくっていた。
「ストームさん! お、お願いします! 降伏を。 降伏をして下さい!」
今までの、エムの屈強な大男のイメージが一気に崩れ去った。
まあ……なんだ。 罵倒したり気持ち悪がったりはしない。 死ぬのが怖いのは皆同じだから。
俺はただ、エムの顔を見つめて、何時もの口調でワケを聞いてみた。
話くらいは聞いてやろうと思う。 なに、敵が来るようなら、逃げながらでも聞いてやるさ。
矛盾があるかも?
次回、エムとお話予定。