ピトフーイの手紙。 怯えるクマさん。 その時、ワンちゃんは。
「エム。 理由を聞いても良いか?」
降伏してくれ。 そう言ったのは死への恐怖に取り憑かれたエムだ。
そんなエムに俺は尋ねる。
「分かっているでしょう? ストームさん。 貴方の銃は強力ですが、本来の戦闘スタイルは『そう』じゃないからです」
敬語で話し始めた。 涙が流れるのをなんとか堪え、声を震わし、今にも消えてしまいそう。
だがイラついて怒りはしない。 ただ黙って聞くのみだ。
「空爆、砲撃、乗り物……貴方が要請と呼ぶ類(たぐい)。 それらGGOのバランスを大きく崩す圧倒的な火力で、敵を捩じ伏せる。 それが貴方です」
うむ。 よく分かったな。 エムとは初めての共闘なのに。 だがもう一声くらい欲しい。
「ただ、来るまでの間や要請中は無防備。 基本は味方の後方から支援を行い、銃は自衛や援護目的。 最悪は周りの味方に助けてもらうのでしょう。
ですが、今回は……今の貴方はそれら支援が行えない。 残り1チームとはいえ、銃のみでの戦闘。 厳しいでしょう」
そうそう。 味方歩兵が敵軍を食い止めてくれないと、たちまち群れに飲み込まれてしまう。 要請どころではない。 俺はワンマンアーミーじゃないのでな。
といっても。 リムペットガン一丁でどうにか出来る場合もなくはない。
今回もリムペットガンで十分。 無理か。 スナイパーいたし。
「降伏理由にはならない、と思うでしょう。 レンも僕も、弾を1発だって使ってない。 戦う力はある。 勝算が無いワケじゃない。
で、でも僕は……死にたくない!」
「その辺を詳しく聞こう」
弱々しくも、死にたくないと訴えるエム。 だが俺が要請出来なくなったコトだけが理由ではないハズだ。
態度が急変した理由はもっと、別にある。
「俺が要請出来るコトは、最初の森の時点では知らなかっただろ。 知った後も冷静に、地形や敵の情報を教えてくれたじゃないか。
何があった? 途中で何か『知った』のか?」
尋ねてみると、エムはビクッと大きな身体を震わせる。 そして便箋を取り出すと、震える手で俺に差し出してきた。
何だ。 ヤバいコトか。
「……これは誰からの、いや。 ピトからのか」
無言でコクリ、と頷かれた。
「読むぞ?」
再びコクリ、と頷かれた。
中を開き、手紙を広げる。 他人の手紙を読むのは抵抗があるが、重要なコトが書いてある模様。 話を進める為にも読まねばならない。
開いてみると、綺麗な文字が並んでいる。 読み易い。 そして書いてあるコトは大変物騒なモノだった。
『やほうエム。 奮闘中かね? ちょうど1時間が経ったら読むようにいいつけておいたけど、破ってないだろうね? 破っていたら殺すよ? 今すぐしまえ』
「す、ストームさんの異質さが書いてないか、破ってしまいましたが」
「大丈夫だ。 仲間は売らん」
隣のクマ……じゃなくて、エムはウンウンと激しく首を振っている。 嬉しいらしい。
続きを読もう。
『私の代わりに参加しているんだから、代わりに存分に楽しみなさいよ!
といっても、ワンちゃんのせいで勝手に終わるかもね』
手紙に俺のコトが僅かに書いてある。 嬉しい様な、悲しい様な。 複雑な気分だ。
『それでも死んだら殺すから。 なんとしても生き残りなさいな。 バトルは緊張感がないと、やっぱり楽しめないよね!
さあさあ、存分に楽しめっ! 生を感じなさい! いじょー』
文はここまで。 ふむ。 ピトらしいな。 殺すだのなんだの言っているが、緊張感をほぐす為の冗談や励ましの様に感じる。
遠回しの応援に、俺は少し口角を上げた。
「むっ? 裏にも文字が」
裏を見てみると、別の文字が書いてある。
俺のコードネームが大きく、デカデカと書いてあるではないか。
そこには、こう書かれていた。
『ストーム・ワンを殺せ』
「っ!?」
笑顔から驚愕へ。
そして慌ててエムを見るも。
銃口を向けられているとか、発砲されるなんてドラマな展開はなく。
涙と鼻水でグシャグシャにした顔で、エムは不気味に笑い始めたのだった。
「ははははっ! やっぱり……殺せない! あの女、無理難題を押し付けやがる! あははははっ!」
「……エム」
笑いつつも狭い助手席で、自身の手元を見るエム。
そこには閉所にて有利であろう、サイドアームの拳銃が右手に握られていた。
セーフティが掛かった状態で、だ。
「何ででしょうね? ヘルメットや防弾着を身に纏っている貴方を、ライフルや拳銃で殺すのは難しいでしょうけど。
どうしてか、撃つ気が起きないのです」
「……それは俺も分からん。 自分自身に聞け」
「いや、何となくですが。 理由は分かってるんです」
なら聞くなよ。
少し思ったが、今は黙っておく。
センサー反応を見ると、そこそこの速度で敵群が向かって来ているのが分かったからだ。
位置がバレた。 そして追ってきたか。 ノンビリは出来ないな。
「ストームさん。 貴方を見ていると、どうしてか、もう少し頑張ろうという気持ちが出て来るというか。
それなのに、殺したら全てを否定するみたいで。 だから……上手く言えないですが、そんな感じなのです」
涙と鼻水で滅茶苦茶になりながらも、笑顔は穏やかになるエム。
なんて言えば良いのか。 怒れば良いのか、呆れれば良いのか、笑い返せば良いのか。
だが手紙の内容といい、俺のコトといい。 別の問題がでてきてしまったぞ。
「言っているコトは全く分からんが。 取り敢えず、ピトの指示通り俺を殺さないとなると……どうなる?」
「わ、分かりません。 他に何も書いてなかったから。 『殺そうとしたけど、その前に降伏してしまった』という言い訳を考えたワケですが」
ああ。 それで降伏を頼んだのね。
でもなぁ。 レンを平気で撃つ連中に降伏はしたくない。 したところで、結局殺されるだろう。
結局のところ、最後まで戦うしかないのだ。 戦時中みたいに。
「悪いがエム。 最後まで戦って欲しい。 要請は無理だが、俺も銃や他の装備で援護する」
センサー反応が近い。 もうすぐ射程距離かも知れない。 レンも気付いたのか、運転席を隔てる壁をドンドンと叩いている。
「安心しろ! エムもレンも、俺が守ってやる! EDFは仲間を見捨てない!」
そう言い終わるや否や、近くの地面が大きく抉れて、グレイプが少し揺らされる。
グレネードランチャーか何かだろうか。
砲塔を回しつつ、ガンカメラで見ると、装甲を後付けしたトラックが向かって来ていた。
かなりの速度だ。 追い付かれる。 俺は通信をオンに直し、ハンドルを握りしめた。
「決着を付けよう。 エム、お前には仲間がいるコトを忘れるな。 自信を持て! 銃を取れ! 先ずは目の前の敵を倒して生き残れ!」
エムは一瞬呆けたが、直ぐに涙と鼻水を拭い
「了解だッ! ストーム分隊長ォ!!」
自分に喝を入れる様に、大きな声で返事をする。 良い声だ!
「レン! 揺れるぞ、掴まってろ!」
「わ、分かった! 私に出来るコトあったら、手伝うから。 遠慮なく言ってよ!」
レンも良い返事だ!
俺はアクセルをもう一度、踏んづける。 再び走り出したグレイプは、先程より遅めである。 ここで決着を付けたいからだ。
荒野に辿り着いて、降車したタイミングを狙われるかも分からん。
装甲も武装もパワーもある軍用ビークル、グレイプだ。 輸送車だからって、トラックに負ける程弱くはない。 急ぐことはない。
さて。 やってやろうじゃないか。
カーチェイス。 悪友とやった日を思い出しつつ、俺は再び笑った。
次回、ちょいオリジナル回予定。