運も実力のうち。
後方から走ってくるトラック。
ソイツは荷台の幌や操縦席の側面を、いかにもあとから取り付けた装甲板で覆っている。
だが軍用設計と比べると、大きく劣るのは間違いない。 グレイプで砲撃すれば廃車確定だろう。
体当たりしても良い。 少なくとも、ビークルとしてなら此方が上だ。
「相手はトラックだよ! 纏めて葬っちゃえ!」
「そうさせて貰う」
レンに同意する。 敵が纏まっているのはセンサー反応でも分かる。 爆発物で一網打尽に出来るチャンスだ。
だが距離があるな。 砲撃を外してしまえば、脅威を感じて逃げてしまうかも知れない。
ココは初弾で決めたい。 命中率を上げるべく、相手を誘う様にゆっくりと走ってみる。
すると助手席の奴が、ハーネスで身を支えて、身を乗り出しているのが目に付いた。
手には、ライフルストック付きの拳銃。 信号銃の外見に棒状の奇妙な標準器が付いている。
そして銃先端には卵の様な塊。
装甲車に拳銃弾で対抗するとは思えず、先程の爆発を思い出し
「掴まれ!」
右に急ハンドル。 助手席が左なので、狙えない運転席側へと逃げる。
車体がガクッと揺れて、体が逆方向へ。
刹那。 先程まで車体があった地面が爆発。 地面を大きく抉り、再びグレイプが揺らされた。
「拳銃なワケないか!」
「《カンプピストル》。 ハンドキャノンだ」
エムが激しく揺れる車内で、冷静に説明。
泣き顔の名残を残しつつも、聞き取りやすい様に話してくれた。
「小型の擲弾発射器。 軽装甲なら破壊出来るだろうが、この車両なら大丈夫だろう」
ガンカメラを見つつ、耳を傾けた。 その間、背後では助手席のヤツが銃先端に再び榴弾を差し込んでいる。
単発式らしい。 隙が大きいな。
「そうか。 ならば接近しても平気か」
「武装があれだけとは思えん。 狙撃やマシンガンの件もある。 先ずは様子を」
ズドォン!
相手が再度発射。 近付いていたのと、油断してたのもあり、命中を許してしまった。
「うひゃあ!?」
グレイプの砲塔部分に当たったらしい。 上部でド派手な音と振動が伝わって、レンが悲鳴を上げる。 可愛い。
だがエムの言う通りだ。 流石グレイプ、なんともないぜ。
「ワンちゃん! モタついてないで、早く撃ち返しちゃえ!」
「ふむ。 お返しといこうじゃないか!」
距離は十分。 そう意気込んで、グレイプで砲撃! はい戦闘終了!
……とは問屋が卸さず。
「むっ?」
「ストーム、どうした?」
「撃てない。 砲身が歪んだらしい」
ダメージ・コントロールパネルを指差しつつ、言う。
カーナビを思わすサイズの液晶に、グレイプの簡単な側面図。 その砲身部分が真っ赤に染まっている。 異常状態につき、使用不能だとおっしゃる。
おーい。 軍用ビークルだろ、しっかりしろ!
戦時中はこんなコトなかったろ!?
「なに、体当たりすれば良いさ」
そう思って、更に速度を落とす。 トラックの速度が更に勝り、距離が縮まっていく。
すると、トラックは右側面に逃げた。 距離を開けつつも丁度、グレイプと並列。
ふん。 わざわざ当てやすい位置に来てくれるとは。 体当たりしてやる!
そう思ってハンドルを切ろうと思ったら。
「待て! 逃げるんだ!」
エムが警告。
何故なのか、それは直ぐに分かった。
トラックの幌が破れたのだ。 中が丸見えになったと思ったら……中から人。 全員で三人。 男っぽい見た目だが、全員女だと分かる。
そして助手席含め皆一様に、ハンドキャノンを構えているコトも。
狙いは……グレイプの車輪。
「くっ!?」
慌てて急ブレーキ。 刹那、ポンポンと擲弾を撃たれまくる。
逃げ切れずにグレイプの側面装甲や地面に命中、連続で爆発に次ぐ爆発。
装甲を軽く凹ませ、地面を抉り、弱点とも言える車輪が壊れる。
軍用なので、パンクは気にしなくとも、壊れはする。
「ちょっと! 止まるなら止まるって言ってよね!?」
「許せ。 ドンドンくるぞ、備えろ!」
しかも一度の発射で終わらない。
仲間がリロードしている間は他者が撃ち、撃ったものがリロードする時は、最初にリロードした者が撃つ……ローテーションが組まれていた。 結果、連続で休みなくドカンドカンと音が響く。
くそっ。 一斉射なら、その後の隙を突いて体当たりしたものを。 これでは近寄れないし、装甲や車輪が壊れるのを待つだけだ。
「ワンちゃん、構わず体当たりしちゃいなよ! 被弾しても、爆発が近くで起きたら、向こうだって被害が出るし。
車輪が壊れても、体当たりするだけの余裕はあるでしょ!」
「そうしたいんだがな。 相手の運転手、かなり腕が立つらしい。
付かず離れず、そして仲間が撃ちやすい様に走行している」
「それに、トラックには五人しかいない。 何処かに一人、潜伏していると思うべきだな」
「それって……この先の荒野?」
「そう考えるのが妥当だ」
ドカンドカンと、グレイプの側面やタイヤ、地面を爆発させる相手。
ダメコン表示も、全体的に黄色になった。 被弾して表面の形状が異なっているからか。
ハンドルがガクガクと暴れ始める。 危険だな。
体当たりしようと近寄るも、素早く離れられたり、速度を調整されて別の方向へ回避しやがる。
それでいて、仲間に負担が行かないようなポジショニング……。 厄介だ。
「装甲車がトラックに負ける。 笑えないな」
「ワンちゃんのドライブテクニックが悪い!」
「すまん。 体当たりは諦める」
「誘われたのは俺達らしいな」
「ああ。 そして俺達は」
「運が悪い」
エムと共に苦笑した。 こんな状況でも笑えるもんだ。 いや、こんな状況だからか。
そして戦場で運に頼る気はないが。
故になんとかしなければ。 行動を起こそう。
「エム、運転代わってくれ」
「分かった」
「大丈夫だ! 自分を信じろ!」
「信じるよ。 だが……狭くて動き難い」
「……頑張れ」
狭い助手席に巨体とデカいバックパックだ。 何が入ってるのか知らないが、お陰で身動きするのに苦労している。
隣の運転席まで遠そうだ……。
だが頑張れとしか言えない。 レンにして貰うコトも考えたが、身長の都合、アクセルに足が届かない。
「取り敢えず、ハンドルを握ってくれ」
「ストームは?」
「俺はハッチから、上部に出る。 砲塔が駄目なら、直接戦うまでだ」
「死ぬぞ!?」
「ワンちゃん!?」
「このままじゃな。 とにかく、運転は頼んだ!」
そう言い残し、助手席と運転席の間にあるハッチを開ける。 風圧を感じつつ、上半身だけ身を乗り出した。
リムペットガンを当てられれば、纏めて倒せるハズだ。 無理でもトラックを破壊出来る。
しかし相手も気付いたのだろう。 反撃させまいと此方に撃ってきた。
加えてマシンガンまで撃ってくる。 直ぐに対応出来る様に、置いてあったか。
「くっ!」
思わずハッチを半開きに。 俺の周りに無数の火花と金属音。 そして爆音。 何が何でも出させたくないのか!
「え、援護する!」
そのとき。 レンの声がしたと思ったら、後方のハッチが開き。
半泣きのウサギがヒョッコリ出てきた。 なけなしの勇気らしい。
「何してる! 早く戻れ!」
「一人じゃ無理でしょ!」
叫ぶように会話しつつ。 ウサギ……レンはP90の銃身をトラックに向けて指切りのバースト射撃。
互いに走行し、ましてや此方は安定しない走り方。 当てるのは困難だろう。
それでもP90を使い慣れたからか、トラックに火花が散り始める。
これで敵が引っ込んでくれれば、良いのだが……必死らしい。 負けじと撃ち続けてきた。
「負けるかぁ!」
レンが叫ぶ。 叫びつつも発砲する。
何発かはキャノン持ちの腕に運良く当たり、キャノンが下向きに。 発射するタイミングだったのか、そのままトラック下部へと発射。
ズドォン! とトラックのすぐ近くの地面で爆発が起き、トラックが爆風に耐えられずに横転。
「うおお!?」
「や、やったぁ!」
速度が出ていたので、そのまま地面を横滑りに。 大量砂埃と騒音を撒き散らしながら、俺達の後方でやっと止まった。
エムも見ていたのか、合わせてグレイプを停めてくれる。
だが終わりではない。 センサー反応は全て健在だ。
俺はすかさず指示を出していく。
「………銃撃戦になる。 状況に備えろ。 エム、後方の敵を頼めるか?
一人、別のセンサー反応がある。 最初は近寄ってきていたが、離れたところで止まった。
恐らく狙撃兵だ。 この辺は荒野の境だが、狙撃ポイントは自然と限られると思う。 見つけられるか?」
「了解。 何とか射程圏まで近寄る」
「頼む。 レン、俺とここに残ってくれ。 五人全員、ココで倒す。 援護頼むぞ《ラッキーガール》」
「わ、分かった! やってやるぞ!」
それぞれ意気込み、最後の戦いへと身を投じていく。
相手は連帯も戦略も技術も武装も人数も。 そして勇気も。 十二分であろう。
一歩違えば、やられていたのは此方だった。
「俺達は勝てる!」
それでも、俺たちは一先ず勝利した。 それは
「《ラッキーガール》がいるからな!」
運良くも、様々なタイミングが重なってトラックを無力化したレンがいる。
運に頼る気はないが……仲間を頼るのは悪くないと思うのだ。
そろそろ決着をつけたい。