何とか第一回SJは終了へ。
エムは岩陰を上手く伝って身を隠しつつ、狙撃手を倒しに行った。
エムも狙撃が得意そうである。 判断能力も高い。 荒野で狙撃手同士のタイマンとなるだろうが、必ず勝ってくれると信じている。
「エム。 生き延びてみせろ」
「生き延びるさ、隊長」
短いやり取りだけ交わし、荒野の中へ行くのを見届けた後。
俺とレンはグレイプから降車。 勿論、トラックとは逆方向だ。
そしてすかさず荒野側に電磁トーチカを設置。 側面にも展開。 狙撃や爆風に備える。
万が一だ。 背中から撃たれたり、ハンドキャノンで吹き飛ぶのは御免被るからな。
「レン。 五人を相手にする。 厳しいだろうが、全滅させるぞ」
「任せてよ。 わたし一人ってワケじゃないし、何とかなる!」
士気は上々だな。 レンに人を撃たせるのは抵抗があるが。 成る可く俺がトドメを刺そう。
「でもさ、装甲車で轢き殺した方が良くない?」
あれ。 俺が思っているより、レンちゃん汚れてない?
「エゲツないコトを言うんじゃない」
「えー? 戦場でそういうの、求めないんじゃないの、たいちょーさん?」
子供が言うには、インパクトが強過ぎるよ。
戦場に慣れ過ぎた結果だろうか。 隊長、将来が心配。
「……あー、なんだ。 グレイプは車輪をやられている。 動きはするが、ハンドリングは劣悪だ。
一方で、生身の相手の方が小回りは効く筈。
一回で轢き倒し、全滅させてくれる程、相手は甘くはないだろう。 移動中に反撃を喰らって、悪いポジションで身動き取れなくなるかも知れない。
相手側とは100メートル前後か、かなりの至近距離だが……他に遮蔽物もない。 このまま戦う」
説明が終わるのが早いか、銃撃音が。 同時にグレイプから金属音。
慎重に覗いてみれば、横転したトラックを遮蔽物にしつつ、敵群が撃ってきている。
「マシンガンによる弾幕か。 グレイプを破壊出来るほど、ハンドキャノンの残弾はないようだな」
「やったじゃん。 取り敢えずココは安全だね」
「油断大敵だ。 背後に狙撃手がいるワケだしな」
激しい銃撃音の中、レンと話し合う。 無線もあってか、会話に支障はない。
だがしかし。 いつまでも話してるワケにはいかない。
エムが後方で奮闘しているのに、ノンビリしていては示しがつかん。
「セントリーガンを使うか」
そう言って、大きな緑色の箱を用意。
大きな工具箱の様な見た目だが、壁や地面に張り付いて、起動ボタンを押すと足が伸び、多砲身が顔を覗かせる。
そしてカメラで敵を識別、追尾して自動で敵を撃ってくれるシロモノだ。
「ふっ!」
そしてグレイプを飛び越える様に、セントリーガンをぶん投げた。
今回使用するセントリーガンは《ZEーGUN10》である。
従来の改良型で軽量化に成功。 防衛線が構築できるほど大量の銃座を設置できる。 基本性能も高い。
その数10台以上。 これで2対5から12対5となる。 形勢逆転。
正に十二分の備え。 一時的にだが。
「いやいやいや。 多過ぎない?」
「多いな。 まあ全部使おう。 コレ、射程距離が短いんだよ。 こんな時こそ使わなくてどうする」
「いやー、そういう問題なのかな」
そして全部投げ終える。 中々大変な作業であった。
敵もロクなもんじゃないと考えたのか。 セントリーガンの箱にも射撃を加えてるが、そう簡単に破壊出来るモノではない。
「よし、起動する」
ボタンをポチポチポチポチポチッと連続で。
そして一斉に箱から脚が生え、多砲身が前に突き出て。 ぐりんとトラックの方へ向いたと思ったら。
一様にマズルフラッシュを焚いていく。
ズガガガガガガガガガガッ!!
「いやぁ。 地底でもお世話になったが、地上でも世話になるなあ!」
「……うわあ。 どっちがエゲツないんだか」
そしてシューと音が聞こえ、銃撃音が鳴り止み、静寂が支配する頃。
センサー反応から敵群消滅。 念の為に、サプレスガンを構えつつ、様子を伺いに行く。
そこには穴だらけになったトラック。
慎重に裏を見に行くと……貫通した弾にやられたのであろう、五人の遺体。
男っぽい見た目だが、皆女性だと分かる。 匍匐姿勢を取って被弾率を下げようとしたようだが。
セントリーガンは優秀だからな。 壁の向こうの敵すら感知する。 姿勢を変えても、銃身も合わせて下向きになったのであろう。 そしてやられたと見える。
ただ、敵がいない時や射程圏外でも無駄撃ちするのは頂けないが。
「クリアだ。 エムを助けに行こう」
「……流れ的に後方で勝利したエムさんが、苦戦する私たちの援護に来てくれるドラマを期待してたんだけど」
「戦いは綺麗な話ばかりじゃないからな」
余力を残して勝てる分には、構わない。
今はエムを助けに行こう。
《荒らしのワンちゃん》ことストーム・ワンが、特に苦労なく敵を殲滅した後。
荒野では銃撃音が響いていた。
それは狙撃手同士の戦い。 変な装置やら要請やらを使わずに《EDF》がSJ内で、GGO基準で戦っていた。 ここにきて、恐らく初めてである。
互いに無言。 位置を特定されないよう、そして良いポジションを取れるよう、逆に相手の気持ちや戦略を考えて、移動を繰り返していく。
偶に発砲音がすれば、そこから位置と距離を考える。 逆に撃った側は直ぐに場所を変える。 その進行方向に何があるか。 逆にそれがフェイントなのか。 目に見えない心理戦も含みつつ、互いに伏せ撃ちの姿勢をとる。
最早、勝利はない。
華奢で優美に見えるシルエットが特徴の、ロシア製の狙撃銃《ドラグノフ》を握るトーマは思った。
すらりと背の高い黒髪の女で、ドラグノフ用のマガジンポーチを腰の横にいくつも付けて、体の前には胸をカバーする防弾プレートだけ。
スナイパー特有の、伏せ撃ちがしやすい装備。
後は前から撃たれるか、背後から撃たれるかの違いだろう。 どうせ死ぬなら、今《まとも》な奴を殺してからだ。
ボス達、トラックに乗っていた五人の仲間はストームを倒すのに失敗。 全滅してしまった。 残されたのはトーマだけ。
カーチェイスなんて、武装した装甲車相手にするものじゃないだろう。
だが《かの者》……ストームに対抗するには、余程遠い位置からか、至近距離での戦闘だとの判断故に。
変な乗り物を用意出来るというから、対抗する武器として小型の擲弾発射器……カンプピストルという、ドイツのモノを使って。
だが、出てきた乗り物は軽装甲ではなく。 破壊するのは叶わなかった。
あのチームへの戦果としては、ピンクのチビを撃てたこと。 そしてストームが背負う、変な装置を撃ったこと。
結果としてか、都市部を吹き飛ばした航空機が来なかったこと。
勝てなかったにしろ、ストームに……ここまで攻撃出来たのはGGOでは初めてである。
かつては討伐隊が組まれたが、傷をつける事も叶わずに全滅したというから、この戦果は少しだけ、少しだけだが誇らしい。
(皆死んだ。 だが私は生きている。 最後まで……足掻いてやる)
自身を鼓舞し、スコープ越しに索敵。 相手も同じだろう。 先に見つけた方が勝てる。
そして……生きても死んでも、恐らくこれが最後だという確信にも似た何か。
そんな決意をしていたトーマであったが。
空から降ってくる、無慈悲なロケット弾に気付くコトは終ぞ無かった。
「すまないエム、レン。 ガンシップと衛星砲に要請する為のビーコンガンがあった!」
戦闘終了後。 勝手に転送されたと思ったら、最初の待機エリア。
そこでエムと再会し《EDF》は全員揃った。 そのタイミングで頭を下げて謝っておく。
気付いた時、慌ててビーコンガンを構えつつ、センサーを頼りに敵スナイパーの後方の高台へ。
無防備な背中を晒す敵にビーコンを撃ち込み、ガンシップにロケット弾を撃ち込んで貰った。
そしてスナイパーは爆炎に飲み込まれ、全てが終わったのである。
「……わたしたちの苦労や不安は一体」
「ああ……」
どっと疲れた表情をされてしまった。
い、いいじゃないか。 こうして生き残れたんだから。 結果オーライ! ダメか。
「わたしは……、このまま酒場に戻るのが怖いし。 ワンちゃん、あと宜しく」
「僕は……、とても疲れた……。 質問攻めとか苦手だし、今日は落ちる」
「リアルでは、僕なんだ。 エムさん」
「あ? ああ……」
互いに疲れた声で会話するレンとエム。 俺のせいか。 申し訳ない。 次はこんなコトないようにしなければ。
あ、そうだ。
「ああ、エム。 とりあえず生き延びたワケだ。 俺の件も本気でないと思うし。 もう大丈夫じゃないか?」
「だ、だといいけど……」
「なんの話?」
「男同士の話だ。 気にするな」
「……まあ良いや」
レンにピトのコトは話せないからな。 俺とエムが直接本人に話してみるしかない。
だが今は……帰ってゆっくり休んでくれ。 疲れたであろう。
「そういえば、優勝しちゃったけど……、何かもらえたよね?」
「あ? ああ……。 優勝賞品、か……」
何の話か分からんな。 だが話が長引くのだろうか。
「先に帰るぞ。 二人とも、よく頑張った。 ゆっくり休んでくれ」
「ん? ああ」
「帰り方、分かる?」
「分かるぞ。 目の前のパネルに『酒場に戻りますか?』ってある。 『YES』のボタンだろ?」
「……それで大丈夫じゃないかな」
「じゃ、おやすみ」
「おやすみー」
そして俺は『YES』を押す。
刹那、「そんな文、あった?」とか聞こえたが無視する。 疲れているのだろう。
こんな感じで。
記念すべき《EDF》の初戦闘は終わったのである。
後日談へ。
続きは未定……。 どうしよう。