だいぶ遅くなった感が……。 なかなか進まぬ。
グレラン購入編。 小悪魔に操られるワンちゃん……。
裏路地の店に入ったら、あろうことか、EDFの兵器が売られていました……。
問題の兵器は《最終作戦仕様》のグレネード・ランチャー《ヴァラトル・ナパームZD》というもの。
歩兵用ナパーム弾専用のグレネード・ランチャーで、レンジャーが扱う武器。 装弾数4発前後とはいえ最終作戦仕様の威力は凄まじく、喰らえば火ダルマを通り越して辺り一帯が蒸発しかねない。
この手のモノは通常の擲弾と異なり、爆発してハイお終いではないのが特徴か。 その場で暫く燃焼する為、単に敵に撃ち込むだけでなく壁や天井面に撃ち込んで、一時的な火の防壁を作るコトも可能。
……照明弾代わりに撃ちまくっていた隊員も少なくない。
EDF隊員は愉快だからね。 多少はね?
ただ誘導兵のワンちゃんや、武器に詳しくないレン、初日のフカには馴染みのない武器ではある。
しかし目の前で売られちゃってる以上、ほっとくワケにはいかない。 EDFの兵器が悪用されたら大変だ。 印象が悪くなってしまう。
いや、もう遅いけど。
ワンちゃんは隊員としてほっとけず、丁度他の接客を終えた若いお兄さん店員に話し掛けて事情を聞くコトにした。
「店員よ。 アソコのグレランについて聞きたい」
「あっ! 連発式グレネード・ランチャーですね! 僕、初めて見ましたよ! つい最近実装されたそうで、どこかの遺跡で発掘されて、先日、《MGLー140》2丁とその……《ヴァラトル・ナパームZD》というのが店に入ったんです!」
店員は、商売人らしい快活な口調と爽やかな笑顔を送ってきた。 どうやらワンちゃんが隊員であるコトや、売り物が異界の兵器だと分かっていないらしい。
服装が作業着だし、グレランはGGO世界のと酷似しているから、仕方ないとも言える。
だからと言って見過ごせない。
ワンちゃんは引き続き、情報収集を行う。
「黒いのもソコで?」
「そちらは、米軍スタイルでサングラスを掛けた人が売りに来た様です」
「サングラス?」
「大規模な《スコードロン》に所属しているそうですよ。 皆同じ様な格好で、主にM4かM16と思われる武装等で統一している他、統制も取れている強いトコだとか。 でも売りに来た方は小銃より重火器が好きだと言っていましたね」
あれれ。 サングラスや米軍風って部分は身に覚えがある気がするよ。
その点はレンだけでなく、ログイン初日のフカすら思った。 特にワンちゃんは既視感が酷い。
「まさか、ワンちゃんじゃないよね?」
「今はサングラスを掛けてはいるが、俺じゃないぞ」
「わたしを勧誘したおじさん達かね?」
「ああ、そっち側だな。 恐らくEDFのレンジャー隊員。 そして……たぶん、知っているヤツだ」
「友だち?」
「悪友だ。 学生時代からのな」
心当たりのある人物を思い、苦虫を噛み潰したような顔をするワンちゃん。
よほど嫌なヤツらしい。 最終作戦仕様を売りに出すくらいだし、ロクでもないのは確かだ。
「とにかく、だ。 コレはEDFの兵器であり威力の程度に関わらず、売られて良い物ではない。 すまんが店員よ、預からせて貰うぞ」
「ええ!? こ、困りますよ! 僕、生活出来なくなっちゃいますっ!?」
回収しようとしたら、慌てた店員に止められた。 どうもGGOで生計を立てている人のようだ。 コレにはワンちゃんも手を止めてしまう。
戦後のヒャッハー共や、虚ろな目をした生存者と比べると、目の前の店員の目は潤っている(涙だが)ではないか。 そして、かなり前向きな生き方に見える。
ココで強制的に武器をロハで奪えば、彼は生活出来なくなり、絶望を味合わせるコトになる。 隊員として、彼の生気を、希望を奪うワケにはいかない。
……一方で、運営の頭を禿げ散らかしているコトには気付かないんだけど。 ソレはソレ。 EDFの知るトコロではない。 無知って恐ろしい。
「分かった。 ならばコイツを買おう。 それで良いな?」
「お、おお! ありがとうございます! ありがとうございます!」
「ついでにEDFに入隊すれば、衣食住は確保出来るぞ?」
「え? EDF?」
「何でもないです。 気にしないで下さい」
どさくさに紛れて勧誘するワンちゃんをレンは妨害しておく。 油断も隙もあったものじゃない。
けれども少し遠回りになったが、事態は収集の方向へ向かっていそうだ。 コレならば彼の生活も守られるし、GGOの秩序もちょっぴり守られる。 EDFとしてもレンとしても安心だ。 後腐れなく、さっさとフカの武器を買って帰ろう。
ところが、場が冷却され始めたところに当のフカが油をぶち撒けやがった。 小悪魔な子犬は、なんと物欲を満たすべくして、可愛らしくオネダリを開始してしまったのだ。
「パパー? 茶色の方も欲しいけど、その黒いのも欲しいなー? 全部買ってくれたら、もっとパパのコト好きになっちゃうかも!」
「ちょっと美優!?」
上目遣いで親犬にねだる子犬。 ちょいと欲に忠実な所為で、場を別の方向にバーニングさせてしまう。 これにはレンも思わず本名を叫んでしまった。
お願い。 これ以上、面倒増やさないで。
「よーし! パパ、最終作戦仕様買っちゃうぞー!」
「いえーい! パパ、だぁーい好き!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「この駄犬がッ!?」
案の定、パパ呼びされた駄犬は調子に乗ってしまう。 一方で思惑通りに操れた小悪魔は小躍りし、店員は命が繋がる喜びに歓喜し、ウサギは頭を抱えてしまう。
武器を買うだけなのに、何故こうも騒がしくなるのか。 どれもこれもEDFとワンちゃんの所為だ。 こんな調子で、本当に毒鳥を救えるのかしら。
「ああ、もう! ピトさんのコト忘れてないよね!? 真面目にやってよワンちゃん!」
「うおっ!? 足を蹴るんじゃない!」
「だって、ソレ、EDFの武器だよね? レギュレーション違反だよね? そんなの持ったら目を付けられちゃうでしょ!」
駄犬をボールのようにバシバシ蹴り始め、レンは荒ぶりだす。 茶色の方はGGOの銃だから問題ないだろうけど、EDFの銃なんて持ったら、絶対後々に面倒じゃないか。 コレは自身だけでなく、親友のフカを守る為でもあるのだ。
「売られて良いモノじゃないって自分でも言っていたでしょうが! 責任持って自分で管理するなり処分して! フカが可愛いからって、EDF関連の武器はあげちゃダメだからね!」
「いや! しかし! 欲しがっているのを与えてナニがイけないんだ!」
「いけなさ過ぎるでしょーが!? フカはEDFじゃないし、余計なコトに巻き込ませる気? 大切ならその辺もしっかりしなきゃ!」
「ならばEDFに入れば良い! そして強い武器を持てば、それだけでも安心するだろ! ピトを説得するのにも有利になるかもしれないじゃないか!」
「強過ぎるのも問題だよ! オーバーキルは嫌われるんだよ!」
ぎゃあぎゃあと親子喧嘩を繰り広げる両者。 ゲームバランスや銃的な意味でガン無視していれば、どっちの言い分も合っている気がする。
特に今回は遊びでは済まされないのだし。
ワンちゃんは娘に甘々の親バカではあるが、仲間やピトの件を忘れてはいない。 言っているコトも本気なのだが、それが余計にレンを怒らせる要因になっている。 多くのプレイヤーがワンちゃんやEDFを敵として見ているのは明らかだからだ。 ソコにこれ以上、首を突っ込む行為はしたくない。
それと、レンとしては…………その、他の子と仲良く話しているのを見ると、イライラしちゃうし。
そんなやり取りを側から傍観していた元凶のフカは、知ってか知らずか、どこか嬉しそうにする。
「いやー。 コヒー、じゃなくてレンに恋人が出来ていたとは」
「今のをどう好意的に見ればそうなる!?」
「じゃあ親子」
「じゃあ!? じゃあって何!?」
フカの不意打ちで、別の刺激を喰らったレンは蹴るのを中断。
恥ずかしさから否定したい気持ちと、元凶を責めたくとも友情との狭間で揺れちゃったり、恋人や親子だと言われて、ちょっぴりの嬉しさが混ざり合い、でも認めたくなくて……混乱してしてしまう。 ウサギの心境は複雑を通り越してカオスと化していく。
そんなレンに対して、チャンスと見たワンちゃんはレンの要望に沿う話を持ち出した。
これ以上蹴られては堪らない。 娘に蹴られるとか、精神的ダメージが酷いので。
「よし、こうしよう。 EDFの武器は俺が預かる。 代わりに茶色のを二丁、フカにあげる。 コレで良いな?」
「え、ああ、うん。 それなら許す」
「えー? パパ、黒いのくれないの?」
「許してくれ。 代わりにソラスパンをあげるから」
「いや、そんな怪獣のパンはいらないよ。 後でツマミをしこたま奢ってくれたら許す」
「あのー、買ってくれたのは嬉しいのですが……店内で騒がしくするのは……えっと、ご遠慮願います」
「……うっ。 すみませんでした」
「……皆、許してくれ」
店員の言葉で、ようやく場が静まった。
命の恩人(?)に話辛く、今まで黙っていた店員だったが、話が長引いては堪らないと勇気を出した結果だった。 よくやった。
大金を落とす客だからって、無遠慮に店内で騒いではいけない。 良い子は周囲に気を付けて、迷惑をかけないようにしよう。
その後。
店員がグレランの素晴らしさを駅前の路上販売なノリノリトークで語り、店員とフカが盛り上がった。
GGO最強とか言ってもいたが、EDFの兵器群が無ければそうであろう。
1つのランチャーで、煙幕弾やらテルミッド焼夷弾やら照明弾やら《プラズマ・グレネード》を撃てるのは魅力的ではあるが。
取り敢えず、2丁の《MGLー140》と大量のグレネードをワンちゃんは買ってあげたのであった。
最終作戦仕様はワンちゃんが借り持ち。 スリングで背負っている格好。
ソレをこっそりフカに渡さないか、隣でレンが睨みを利かせている。 この調子だと、そのうち拠点に押し掛けるかも知れない。 その場合、押しかけ女房と揶揄されそう。
「なあ、レン。 そんなに睨まなくて良いじゃないか」
しかし。 当人は大変居心地悪い。 幼女に睨まれても、ちっとも嬉しくない。
「ワンちゃんが、その武器をフカに渡さないか心配だから」
「ちゃんとEDF隊員に渡す。 心配するな」
力無く、そう返すワンちゃん。
落ち込んでいるワケだが、調子に乗って子犬に構い過ぎた結果だ。 ウサギの機嫌を損ねた代償は軽くはない。
さっさとEDFと合流して、グレラン渡してしまおう。 そうしよう。
ワンちゃんは天を仰ぎながらも、そう思った。 そんなワンちゃんを知ってか知らずか、フカが快活な声を上げる。
「その前にさ! ソレ、撃ってるトコ見せてよ!」
「いやいや駄目だよ後悔するよ、それより装備品とかの買い物しない?」
フカの言葉に、レンはすぐさま対応。 威力が気になるのは分かるけど、EDFの武器なんて嫌な予感しかしない。
ワンちゃんの武器や座標伝達で、空軍やミサイル群が飛んで来る光景ばかり見てきたから、そう思うのは仕方なかった。
だが、アレらは歩兵の持てる火力じゃない点に気を付けたい。 そもそも銃ですらないし。
でも、やっぱね。 ヤバい武器には変わりないよね。 ヤらない方が良いか。
「そんなのは後でいいっしょ! ね? パパ?」
「いやぁ! じゃあ一回だけダゾ?」
「だああ!?」
アッサリと気分がアガり、調子に乗り始めるワンちゃん。 やっぱこうなりました。 この駄犬、ちっとも反省していません。 パパという魔法の言葉で、ホイホイ小悪魔に操られてるんですがソレは。
「……したっけ(そうしたら)、射撃練習場に行こっか」
もう怒る気も起きず、諦めて、力無く提案するレン。 けれども犬どもは、容赦なく追い打ちをかけていく。
「なあにを言っとるんだね! バトルができるフィールドにきまっとろうが!」
「よし! 早速荒野にでも行くか! ナニ、万が一はパパが守る!」
今度はレンが天を仰ぐ番になった。 GGOの空は、今日も赤い空である……。
EDF隊員もボチボチ出て来る予定。