グレ男戦。 でもあっさり子兎は……。
プログラムにないコトは実行不可。
そんなの、プレイヤーと運営の話でしかありません。 そして「ソレ」にこだわり続ける限り、
プログラムの世界に無いエフェクト等が起きる当異常事態。
それでもプログラムである以上はプログラムの問題だとした固定観念に囚われたから、今日まで運営は解決するコトが出来なかったのでしょう。
プレイヤーも同様です。
今、目の前で殺意を向けて来る子兎も例外ではありません。
幾度となく繰り返された世界にて、真面目な彼女は終始、EDFをバグやチートだとしか考えませんでした。
そうして何度もEDFに殺されては、諦めてログアウト。 GGOから離れていき……世界は終了。 流れは多少異なれど、どの時間軸でも最後はそうでした。
ところが、今回は違う。
EDFを本物としています。 この世界で生きる者だと。 死んでしまう者だと。
その上で、殺そうとする彼女の目は決意に満ちてる。
今までにない目です。
これもSTORMー01。 貴方の影響が強い。
熊や毒鳥、子犬や舎利たちにも影響を与えていますし、これはいよいよ世界を救えるのでは?
もしそうなら、手を尽くすべきでしょう。 昔の俺みたいに。
でも今の俺は、悪いヤツなので。
何度も《再出撃》をしているうちに、新しい反応を見たくなってしまいましてね。
そのひとつに、STORMー01を殺してみる、というのがありまして。
そうしたら、今回の時間軸はどう反応するのか興味が尽きません。
半殺しにしただけで、子兎はこーんな反応をしてくれるんですからねぇ。
その逆に。 子兎を殺したらSTORMー01が、どう反応するのかも気になりますし。
まあ、ですから。
「愉しませてくれよ?」
今度の兎は、美味しく調理します。
所詮はゲーム。 プログラムに則った行動しか出来ないプレイヤーが、何処まで出来るか見ものですよ。
「殺す!」
おっと。
おっかない目でレンが叫ぶと、凄い速さで俺に突っ込んできました。
「逃がすかぁっ!」
すると並走して横から発砲。 シツコイですねぇ、まるで親の仇かのような。 ああ、親みたいなものでしたか。
何発かは喰らいましたが、アーマーを貫通するには至らず。 それでも衝撃で痛いものは痛いので勘弁して欲しいです。
そんなわけで反撃しますかね。
ココはGGOらしく銃で相手してあげましょう。
そう思って、徹甲榴弾をフルオートで撃てる特殊小銃、ミニオンバスターを手に持ちます。
「これなーんだ?」
「っ!?」
それを見た子兎は目を見開いて驚きました。 そりゃコレが何なのか知ってますからねぇ。
そして全力で距離を離していきます。 射程が短いのをSJ2で学びましたか、良く観察していらっしゃる。 或いは偶然かな?
逆に死角に入ろうと突っ込んできたら、アンダーアシストで距離をとって撃つか、C20爆弾で自爆するか蹴り飛ばしましたが。
けれど。
「今度は俺が逃がさない番だなぁ!?」
容赦なくフルオートでお返し。 加えてアンダーアシストで追いかけます。 黙って逃すほど俺は優しくないのですよ。
でもね、徹甲榴弾はわざと外してあげました。 あくまで炸裂時の破片が掠る程度に留めます。
簡単に殺したらツマラナイですからね。 子兎にはもっと足掻いて貰わなきゃ。
レンは足下に着弾、炸裂して飛び散る破片や、爆風によろけつつ、ビークルだった鉄屑に身を隠します。
小さな身体ですから、被弾率が少なくて隠れるのは容易でしょう。
「さっきまでの威勢はどうしたぁ!?」
俺は煽りながらも、隠れていそうな鉄屑や遮蔽物にフルオート。 徹甲榴弾が喰い込み、炸裂して遮蔽物を細かく刻んでいきました。
おうおう……今頃子兎は恐怖で震えていることでしょう。 自身ではなく、ワンちゃんが死ぬ恐怖に。
ああ、可哀想に。
「私が死ねばワンちゃんが死んじゃう!」と。
ああ! そんな姿、見てみたい!
それでも健気に状況打開方法をアレコレ考えているのでしょうが、このまま隠れられたりチマチマした事をされては面倒です。
甚振って、こっちのペースに引きずってあげますか。
「隠れんぼは終わりにしようぜ?」
武器をグレラン《UーMAX》に切り替えてトリガーを引きます。
ポンッと小気味良い音がすれば、回転式弾倉が一つ分回転。 吐き出された弾頭は、放物線を描いて遮蔽物の裏へ着弾。
刹那、派手な音と共に遮蔽物ごと子兎を吹き飛ばしました。
ビンゴ! といっても、センサー反応で位置はバレてますが。 直撃させるのは容易ですが、ココはわざと外してあげたのです。
アレ、俺ちゃん実は優しくない?
「はぁはっ……くっ!」
そんな子兎は決戦仕様の強力な爆風で地面に転がされます。 ですが、まだ闘志は尽きませんか。
素早く起き上がりP90の銃口を向けてこようとします。 よほど隊長を傷付けたコトに怒りを覚えたのか。
そして守りたいのか。
だから、
「諦めろよ。 俺みたいに」
「っ!?」
へし折ります。 その思いを。
教えてやります。 無力だと。
アンダーアシストでレンを上回る速度で近寄り、銃弾を浴びるより先にP90を蹴り飛ばしました。
「がっ……! こ、この……!」
レンは俺の言葉を無視。 ナイフを抜いて応戦しようとして、
「コレを使いたかったのかなぁ?」
「なっ!?」
ナイフをレンより先に抜きとって見せびらかしてから、
「返してあげよう、ねっ!!」
「ギャァッ!!?」
右手の平に返してあげました。
「あっ、ごめんねぇ!? 勢い余って刺さったか! アハハハッ!」
赤いエフェクトに塗れる右手を抑えて悶えるウサちゃん。 中二病かなぁ? いや、中身大学生だけどさぁ!
ああ、さてさて。
今までの経験から、レンの武装はコレで消えたハズ。 丸腰状態です。
敵を目の前にして、丸腰……この状態からの反撃方法は。
「お前だけはっ!」
飛び掛かっての、首への噛み付き。
何という、いつもの負けず嫌い。
恐ろしいケモノですねぇ。
露出した首を噛まれたら、
でも、
「諦めが悪いなぁ」
「ガッ!?」
脳天に銃床を叩きつけて床に沈めます。 轢かれたカエルみたいにベチャッと広がりましたが、加減したんで、まだ生きてるでしょう。
死んだら光の粒子になって消えるハズですし。
そんな兎の可愛い頭を帽子ごと踏んづけて見下しながら、俺は煽りながら質問しました。
ふーふー息を荒くして、すんごい睨みつけてきますが気にしなーい。
「EDFに関わって来たならさ、独りでどうにか出来るワケ無いって分かんねーの?
頭の良いレンちゃんなら理解出来ると思ったけど……数パーセントの勝率に掛けたのかい?
アハハハッ、愚かだね。 実に愚かだ。 そんなに
「た、大切だよ……! それの何が悪い!?」
ああ、そうかい。
やはり隊長の影響力は凄まじいですね。 それが分かって良かったよ。
「それが聞けて安心した」
俺は思わずニヤッとしました。
踏みつけつつも、グレランを片手で持ち上げて……砲口を向けます。
「ならさぁ、その男が死んだらどうする?」
気を失うSTORMー01に、ね。
「なっ……! や、止めて! 殺さないで! お願いだから!」
するとウサちゃん、懇願を始めましたよ?
目を見開いて闘志は消え失せ、絶望に染まっていきます。
僅かに残った希望は、敵である俺に託すという皮肉。
あとは俺次第なのだから。
トリガーを引けば、隊長は死ぬ。 引かねば死なない。
嗚呼。 愉快。 愉快だなぁ!
良い顔いただきました!
そんな顔をもっと見たい。
希望をチラつかせて反応を楽しむ事にしますかね。
「どうしようかなぁ? レンちゃん言う事聞いてくれるかなー?」
「き、聞くから! お願い……ワンちゃんだけは……殺さないで!」
あーあー。
隊長が絡むとアッサリです。 涙まで流し始めちゃってまぁ。
弱い者イジメはゾクゾクしちゃうね!
「ふーん。 ワンちゃんだけか。 じゃあさ、遠くで転がってる……ああ、軍曹っていうんだけど。 ソッチは良いんだー?」
そう言って、砲口を軍曹たちに向けます。 同じように気を失ってますが、まだ生きてますよ。
俺がトリガーを引けば、流石に死ぬと思いますがね。 いくら伝説級でも。
「自分の都合の良いコトをして、他を殺すのかー。 この人殺しぃ」
「お前に言われたくないッ!!」
「じゃあ、どうするの? この状態から俺を殺す? 奇跡でも信じるかい? それこそ愚かだと思うがね」
かくいう俺も信じてるんですがね。
だって隊長が現れたんですから。 皆、影響を受けたんですから。
この子兎も、飼われた身でありながら、こうも決意して闘って……絶望のワケも隊長絡みで。
でもね。 それでもEDFは強いんです。 あの壁に俺は絶望したんです。
STORMー01でも越えられるのか分からない絶望。
それでも。 ちょっと手心を加えるのは良いんじゃないかなと。 その段取りがコレなワケですが。
「あー、良いや。 こーんなにも弱いとは興醒めだわ。 隊長に飼われちゃったからかなぁ……そんなウサちゃんには、相応しい場所に連れて行ってあげます!」
そう言って、首を掴んでレンを運びます。 元来た道を戻り、地上へ戻るのです。
「ぐっ……ひぐっ」
「泣こうが喚こうがお前を
まあ。 STORMー01だけ、反乱軍だけでは運命に抗うのがキツいってなら。
この子に、GGOプレイヤー達にも協力して貰いましょうって話。
そもそも、この世界は俺たちEDFのモノではなく。
彼ら、彼女らのモノ……ゲーム世界なのですからね。
拉致される子兎。 そして残されるワンちゃんたち。