*光の城へ突入。
空爆も砲撃も効かぬアレ。 歩兵による接近を試みます。 そして鉄屑登場。
『仕事は終わった! 帰る!』
「空爆、効果ナシ」
うん。知ってる。 見れば分かる。 淡々と無線機越しに報告してくるスカウトにイラッとしつつも無線機をしまいこみ、俺は発煙筒をぶん投げた。
前進中のプレイヤーと歩兵の為だ。 援護しなければ。
ひょっとしたらアレも攻撃を続ければ壊れるかも知れない、という希望的観測を持ちながら。
しばらくして赤いスモークが狂った空へ立ち昇ると、間を置いて弾が四方八方から飛んでくる。 今回は爆発はしないが、威力の高いカノン砲だ。
前方の目標と周辺に着弾しては派手に煙を立てていく……が、晴れれば無傷のソレが露わに。
『砲撃止めー!!』
「砲撃効果認められず」
そして効かぬ。 固定目標なのに、砲撃が効かぬウザさ。 戦時中に幾度となく味わってきたが……また味わうとは。
だが構わず誘導を続けよう。 今度は衛星砲だ。 ビーコンガンで目標に向かってトリガーを引き続けてピンク色のレーザー照射を行う。
するとレーザー地点に、空に向かって光の柱が立つ。 眩いばかりの太くて白い柱は、宇宙から地上に降り注ぐ光学兵器の一種だ。
軌道上にある軍事衛星サテライト・W1によるバルジレーザー照射。 照射モードは最大出力で要請。 砲身が融解するまで照射を行って頂く。
GGO内の装備品に光学兵器の威力を減衰させるアイテムがあるが、装備しても意味を成さない程に強力な攻撃だ。
『システムに異常発生! 修理が必要だ!』
「効果ナシ」
それでもダメだった。 全く恐れ入る。
ならグロッケンにトドメを刺したテンペストミサイルを試そうじゃないか。
そうして、別のビーコンガンを使用。 もれなく巨大なミサイル、テンペストが飛翔してきた。
そして目標の《光の壁》に衝突。 巨大な火球を生成し、衝撃波がここまで来る程派手だったのにも関わらず、
『我々は人類の勝利を確信している』
「テンペスト、効果ナシ」
いやぁ。 本当どうなってんだ、あの技術。 俺の電磁トーチカもアレくらい強化してくれないかなぁ。
だが持ち得る兵器は他にもある。 正直使いたくなかったがEDFの機密兵器、スプライトフォールを要請してみるか。
『ファイヤ♪』
楽しそうなサテキチ姉さんの声が無線機越しに聞こえたと思えば、目標に空から複数の光の槍が刺していく。
謎の女科学者が大好きなスプライトフォールだ。 バルジレーザーと同じ衛星砲であるが、照射時間や方法が異なるもの。 照射時間は僅かだが、瞬間火力なら此方が上。
コストが悪く、使い勝手が悪いのと女科学者が苦手なのだが構っていられない。
だがしかし、
『作った人は天才に違いないわぁ♪』
「効果ナシ!」
「まるで駄目じゃないか!」
目標は健在ときた。
やれやれ。 空爆誘導兵の火力は役に立たないか。 戦時中に味わったコトを再び味わうとは。
目の前には駐屯地。 制圧目標だ。 その外側には大きなアンテナを付けた機械が複数。
そして上空を覆う光の半透明のドーム。
そのドームの中から、前進中の歩兵部隊に敵が一方的に銃撃を加えていた。 お陰でバタバタとプレイヤーが倒れては光の粒子になって消えていく。
逆にこちら側の攻撃は全て受け付けていない。 ズルい。
「やはり突入するしかない」
ありとあらゆる攻撃を受け付けず、逆に中から一方的に撃てる……俺の電磁トーチカと似ているソレ。
それは戦時中に見た《シールドベアラー》。
プライマーの技術であった。
まさに侵略者。 いや、どっちが侵略者なのだろうな。 議論する気はないが。
「こちらストーム・ワン。 要請による攻撃を中断し、ビークルを要請、突入する!」
『早く来てねパパ! コッチはマジでヤバい!』
『レンちゃん待っててねぇ! 今迎えに行くから!』
『敵の抵抗激しく進軍は困難な状況だ。 壁の外に出てきた敵対処で手一杯……ピト!? 装甲車より先に行くな!』
『歩兵はAFVの側を離れるな! 砲撃に頼れ……おい、そこの女! 離れ過ぎだ死ぬぞ!?』
『つーかあのアマ、容赦なく味方を盾にしてるんですけど! 挙句にグレネードで味方ごと吹き飛ばしてるんだけど!』
先行している味方からの無線を聞きつつ、俺は遮蔽物の岩から飛び出して前に進む。
なにやら不安にさせる声が聞こえてくるのだが、きっと大丈夫だ。 たぶん。
硝煙弾雨の嵐の中。 常に銃弾の飛翔音が耳元で聞こえ、そのくせ遮蔽物は少ない。 生存率は著しく低いが、それでも進む他ない。
シールドベアラーの対処方法は、光の壁の中に突入して機械を破壊する……そんな戦法だからだ。
それを《死に戻り》可能なプレイヤーに任す。 そうでなくても弾除けとして使う。
だがGGOの武器だけでEDFに勝つのは至難の業。 支援は不可欠。
俺は発煙筒をひとつ取り出した。 とあるビークルを要請するためだ。
こんな時こそ、あの鉄屑が役に立つだろう。 何も巨大怪生物ばかりにしか役に立たない訳ではない。
突入する。 でも被弾率ヤバイ。 なら装甲車より頑丈なアレだよね。
「上陸作戦みたいだな。 揚陸艇はないが」
背を低く。 だけど可能な限り走って。 そしてボヤきながら前進だ。
前から、後ろから。 敵と味方の弾丸が無数に交差する最前線。
たんたんたん。
びゅんびゅんびゅんびゅん。
鳴り止まない銃撃音と飛翔音。 まるで耳元でずっと羽虫が飛んでいるかのよう。
それでも前進。 前進。 また前進。 肉弾届くところまで。
俺の隣のヤツが、眉間を撃たれてひっくり返って消えた。
前の何人かが、爆炎に飲まれて消えていった。
前に行けば行くほど数は減る。 被弾率が上がるからだ。
「進め……レンを救う為、全て終わらせる為だ」
だが臆せず進む。 敵に背を見せるな。
今の荒野は光の粒子がひたすら輝く、美しい戦場。 同時に多くの戦士が散っている場でもある。
そんな戦士たちの為に、俺はなるべく前の方に発煙筒を投げた。 皆の盾になりつつ、前進する為に。
話は少し戻り、場はグロッケン……だった場所。
その巨大なクレーター内は、多くのプレイヤーで賑わっていた。
ログアウトした者も祭りだと舞い戻り、挙句に日本のみならず、アメリカ、ロシア、アジア系等の様々な国から日本サーバーにログインしてきた多くの野次馬たち。
その大半はログインしたての初心者。 銃の撃ち方を知らない、興味がない、という者もいる。
どういうことか。 GGOは銃と硝煙の世界だというのに。 まさか香蓮みたいな理由でもあるまい。
「どんどん人が集まってきています!」
「皆、ストーム・ワンの指揮下に入りたいと詰め掛けてますよ!」
「原因を聞こうか」
いくらなんでも急な展開だ。
ワンちゃんたちは駐屯地攻略の作戦会議を中断。 話を聞きに行く。
味方になりたいと言われるのは嬉しい限りだが、得体が知れないのも事実。 EDFに恨みを持つプレイヤーもいたのだから、警戒もしたくなる。
ところが、聞いてみれば様々な理由からで人によりバラバラだった。
「ストームさんが愛する者の為に強大な侵略者を倒そうとしてるって聞いてね。 協力したくなったのさ」
「EDFに恨みを晴らす時! 止めても参戦すっからな」
「強い奴につく。 それだけ」
「チート対チートを見たいから」
「大規模な戦闘イベントがあると聞いて」
「少しはサーバーが平穏になるなら手を貸す」
「ネットで凄い話題になってたから」
「SAOやALO内でもGGOの話題で持ちきり。 私みたいに、コンバートシステムで来てるヤツも多い」
「この戦争を動画投稿サイトにUPすれば、きっと凄い再生数になるだろうから」
「自分の実力を試したい」
「愛する者を助ける為に強大な敵に挑む……燃える展開だからさ!」
「我々の時代の戦い方が役に立つ時か」
「アバターの色や武装で、ブルージャケット扱いされて迷惑してるの。 元凶を消せるチャンスだから助けてあげる」
「閃光の名前が先にいっちゃって……そうしたら何故か「ウィングダイバーかい?」とか聞かれ始めて。 違うって証明も兼ねて参加する」
「システムを凌駕した存在……いや、何でもない。 前に似たようなコトがあってね」
「お前は嫌いだけど、面白い情報が得られそうだしナ」
何だか私利私欲だったり、雰囲気に流されていたり、英雄な雰囲気を持つ人やら誤解を受けて迷惑してる人まで。
何にせよ、ワンちゃんは味方として引き入れることにした。 猫の手も借りたいのだ。 プレイヤーだろうと理由がどうだろうと戦力になり得るなら銃を持って撃ちまくれ。
「皆、すまない。 力を貸してくれ」
この様な理由で大所帯となったワケだが、武器も足りなければ経験もない。 人が多いと統制も困難だ。
こんな時、本部や戦略情報部がいてくれれば助かったが、残念ながら連絡が取れない。 だからといってワンちゃんや軍曹のみで指示するのも難しい。 今頃訓練や打ち合わせなんて間に合わない。 そんなことしていたら、増援がグロッケンにやってくるかも知れない。 そうなる前に短期決戦だ。
ならばと、簡単な話を皆にしていく。 後からログインしてきた人にも分かりやすい話を。
「俺たちはこれから、荒野の駐屯地を攻撃する。 皆には突撃して欲しい。 ひとりでも多く駐屯地の敷地に入り込んで破壊活動をするんだ。 以上」
「おいおい。 隊長なんだから、具体的に指示を出したらどうだ?」
「構わない。 最悪は現地で言う」
「なんだよ。 英雄の噂は嘘かぁ?」
「所詮はチート任せ、人任せのクズ野郎か」
ざっくり説明して終了。
文句を言うヤツがいたが、細かいと柔軟性に欠ける。 大人数だと指示も届かない。 それに戦闘慣れした人もいるのだから、変に縛り付けるより各自の判断で闘って貰えば良いとの判断だ。
どちらにせよ、EDFのセンサーで隠密行動は無理。 互いに人柄も戦闘力も分からないからSJみたいに連帯は期待出来ないし、銃の性能や兵士のステータスは相手が上だ。
優っているのは歩兵の数くらいだろうか。 なんだか自分たちが開戦時に群れを成し、基地を襲撃した侵略生物みたいだとワンちゃんは自傷気味に笑った。
だが突撃するしかないのは変わりなく。 駐屯地でシールドベアラーと思われる防衛装置が確認された以上、ロングレンジ戦法は行えない。
想像の通りならば、全ての攻撃は内部に届かない。 アレはドーム状に壁が展開する電磁トーチカのようなものだと思えば良い。 ただの電磁トーチカなら上空の攻撃は防げないが、ドーム状では空軍や衛星砲は駄目。
よって、ワンちゃん……エアレイダーは封殺されたも同然。 歩兵による突入しか方法はない。
危険極まりなく、成功率も効率も悪い。 だがこれ以上体制を整えられたら勝ち目もなくなるだろう。
「時間が惜しい。 今すぐ荒野に行くぞ。 各自、準備が出来た者から突入開始だ。 戦闘や移動方法は各自の判断に任せる」
フカやピト、エムも来てくれる。 レンが拉致されたコトを知るや否や、助けてくれることになった。
迷惑をまたかけるが、ワンちゃんは、この世界でのイザコザを最後にするつもりでいる。
このようにして、冒頭のシーンへなるわけである。 エアレイダーの火力が役立てず、プレイヤーの小火器での突撃敢行。
作戦成功率は低い。 絶望的かも知れない。 だが昔と違い、死への恐怖が薄いプレイヤー達が肉薄してくれる。
敵は無限じゃない。 弾薬が切れれば抵抗出来なくなるだろう。 プレイヤーの心が折れるのが先か、相手が折れるのが先か。 持久戦だった。
そんな時。 戦場に変化が訪れた。 最初に気付いたのはスカウトだ。
「円盤確認!」
指さす方向。 低空を平らで丸く、プロペラなしで飛んでる物体が。 下部に機銃のようなものがあり、しかしそれは実弾兵器ではなく軽量の光学兵器であった。
その様はまるでプライマーが使用していたソレだ。 いよいよ侵略者である。
やがて射程に捉えたのか、光弾をバーストで撃ってきた。 もれなく何人かは被弾して蒸発してしまう。
「駐屯地から無数のドローンが!」
「うわっ!? 光学兵器を積んでるのか!」
波のように押してくる円盤の威圧感で、たじろぐプレイヤーたち。
初めてみるドローンの、圧倒的な数に逃げ出したくなる皆であったが、EDFのいる戦場では悲劇が続くものだ。
「おいおい、ありゃなんだ!?」
駐屯地より後方から、そして歩兵部隊の後方からも巨大なシルエット。 輸送機4機に紐で繋がれて輸送されている。 比較的安全な場所にいたエムがスコープ越しに確認してみれば、驚愕するモノが。
「なっ……ロボットだと!?」
それは丸みを帯びた巨大な人型ロボットだった。 全高40メートルは超えている。
駐屯地側は紫色で、重厚そうなボディに武装は確認出来ない。 だがそれでも、このタイミングだ。 EDFの兵器で投入されたのだろうし、大抵はロクでもない。 見た目は格好悪いが、見た目に騙されてはいけないコトは、エムは知っている。 ワンちゃんとかワンちゃんとかワンちゃんとか。
「隊長! 丸みを帯びたロボットが現れたんだが、分かるか?」
EDFのコトはEDFに聞けば良い。 そんなわけで後方で援護しつつ前進中のワンちゃんに聞いてみる。 何か対処法を知っているだろうから。
だが返答がこない。 激しい戦場では生きていても、無線機が大丈夫でも返答が出来ないコトもあるが、やはり不安になる。
「隊長?」
『ああ、すまん。 こちらでも確認した。 状況は最悪だ』
どうやら生きていたらしい。 無事なのは何よりだが、最悪とは何事か。 やはりロクでもないものだったか、アレは。
『俺も要請したんだが、ソイツは《ギガンティックアンローダー・バルガ》だ。 元は作業用クレーン』
「作業用……アレがか?」
『言うな。 俺たちの世界でも問題が多発してロクに使われなかった。 だが耐久力とパワーは凄まじい……それと、ソイツは《ストライクバルガ》だ。 ULTIMATEの名を冠している程に強力で、破壊はほぼ不可能と謳われている』
「EDFの兵器でもか?」
『俺たちの兵器でも無理に近い。 テンペストを喰らわせても壊れないだろうな。 いや、何度もやれば壊れるだろうが……連続で要請は出来ない。 その間にやられてしまう。
くそっ、俺がバルガを要請するのはお見通しだったか。 こうなれば昔と同じで殴り合いだ』
そうこう話している間にも、ストライクバルガとワンちゃんの要請したシルバーのバルガ……ウォーバルガは輸送機から切り離され、駐屯地とワンちゃんと歩兵部隊の間に着地。
凄まじい土埃を舞わせて、衝撃で最前線の歩兵が一瞬、宙に浮かぶ。 かなりの質量なのだろう。
そして、紫のヤツは足を大きく上げたと思ったら、最前線にいたプレイヤーを踏み潰した。 蟻のようにぐちゃり、と。
「うわぁ!? なんだこのロボット!?」
「化け物だぁ!」
「う、撃て! 的はデカいんだ!」
慌てて、撃ちまくるプレイヤーたち。 だが小銃弾でどうにかなる相手ではない。 EDFの兵器でも駄目なのだ、表面に火花を散らすばかりでビクともしない。
「どうする? 破壊が無理なら迂回するか?」
『いや、動きは遅い。 俺がヤツを抑えるから、その間に進んでくれ!』
「足下を潜れと?」
『そうだ』
「隊長も人使いが荒い!」
『お前なら出来る! 自分を信じろ!』
全く。 結局はそうするしかないらしい。
バルガで楽に駐屯地まで駒を進めると思ったが、余計に危険なコトになってしまうとは。
『ドローンはGGOの武器でも何とかやれる筈だ。 エム、シャーリー、トーマ、それとブルージャケットの……あー、ライサンダー持ちの女子! お前たちの狙撃銃で叩き落としてやれ!』
『了解』『分かった』『ダー!』
『……ねぇ? 何度も言うけど私はブルージャケットじゃないし、使っているのはライサンダーって武器じゃないから』
『よし! 各自の判断に任せて前進されたし!』
『ちょっと聞いてる!?』
オープン回線で、知らない人の名前が飛び交うが、指示は通ったらしい。
若干1名、不服そうだったが、戦場とは理不尽極まりない場所だ。 我慢して銃を持って頂きたい。
『俺はバルガに乗り込み、ヤツを抑える! 歩兵部隊は構わず駐屯地に突入しろ!』
無線でそれだけ聞こえると、やがてシルバーのバルガが動き始めた。
巨大ロボット同士、巨人同士は互いに向き合うと、挑発するかのように背中のスラスターを吹かし、手首をグルグルと回して見せる。
そして互いに近寄りあい、
『バルガ、交戦する!』
クレーンが、いや。 拳が交差した。
互いの胴体に拳がぶつかり、銃撃音に負けないくらいの金属音と火花が散っていく。
それは男と男の語り合いにも見えて、興奮させるものでもあったのだが、
「そういうゲームじゃねえから、これ!」
誰かが叫んだ言葉には、皆が頷いて同意したのだった……。