レンは150cmに満たないチビな女の子ですが、それはGGOという、フルダイブのVRゲーム世界での話。
現実のレンは身長183cmの女子大生、小比類巻 香蓮(こひるいまき かれん)。
長身コンプレックスな彼女はVRMMO≪GGO≫にて、身長150cmにも満たない理想のチビアバターを手に入れました。
レンはヴァーチャル・チビを楽しみます。
また、根が真面目なレンです。
このゲームの戦いもやってみようと思い、チュートリアル等を行い、色々学び、モンスター狩りをして楽しむ日々を送ります。
そしてある程度の経験を積んだ頃。
女の子らしい可愛い服を求め、戦闘服をピンク1色にしてしまいました。
銃の世界で可愛い服を求めるのは間違いですが、身長と相まって、人の目を引きます。
「前も見たが、相変わらずちっこいな」
「ピンクだし、女の子だったの?」
「子供か?」
「可愛いな、おい」
「小さいなあ。 あんなアバターあるんだ」
「やっぱNPCか?」
ビルの谷間に、けばけばしいネオンが溢れる町を歩けば、皆は口々にそう呟くのです。
普段の彼女なら、口元が緩むトコロでしょう。 実際、ピンクに染める前にも皆に注目され………緩む衝動を抑えられませんでした。
でも今は違います。
注目して欲しくありません。 顔も引き攣っています。
別にPK(プレイヤーキル)をやっちゃって、報復を恐れている訳ではなく
「うわっ! 何だアイツ!」
「なにあれ……? 背負ってるの通信機?」
「隣のヤツの保護者か?」
「格好良いな」
「バイクのヘルメット……じゃないよな」
「レア装備か?」
隣を歩く、ストーム・ワンが原因でした。
フルフェイスの、バイクのヘルメットの様なモノを頭に被り、顔を覆うバイザー部分は非透明で顔を確認出来ません。
胴には丸みを帯びた防弾チョッキの様なモノを装備。
背中には大きな箱状の、通信ユニットを背負っています。
他にも様々な通信機が付いており、どれが何用なのか全く分かりませんが………いずれも《GGO》には存在しない装備です。
ですから、注目されるのは仕方ないのです。 ただ、本人は《エアレイダー》装備は珍しいのだろう、という少しズレた認識でした。
「素晴らしいな、この町は。 人類の復興は夢じゃない」
「あはは………」
「だが町の外は怪物や無法者、か」
しかも会話もズレている様に感じます。
レンは世界設定の最終戦争だとか、プレイヤー達は宇宙船に乗って来たとか、その辺の話かと思いました。
ですが、レンは付き合うつもりはありません。 助けてくれたとはいえ、装備も会話もオカシイ人です。
戦闘で航空機を呼びましたし。 そんな人、聞いた事ありません。 危ない人です。
「えーと、それでは。 この辺で」
「駄目だ。 外に行く気なら、俺も行こう」
「ひとりで大丈夫ですので」
「駄目だ。 どうしても行くなら、俺も行く」
レンはストーム・ワンから逃げようと思いましたが、失敗しました。
その後も似た様なコトを繰り返し、最終的に走って逃げようとします。
レンは俊敏性を高く上げていたので、撒けると考えたのですが
「待てレン!」
振り返れば、某お掃除ロボットの見た目をした《スピードスター》が凄い速さで迫っており、足元を掬われて追い付かれました。
次に町の建物や人を縫う様に走りましたが
「レン! 待つんだ!」
空からバリバリと唸る機械音と共に声がして、見てみれば戦闘ヘリ《N9エウロス》で追い掛けてこられ、追い付かれました。
物陰に隠れても、何故か直ぐに見つけられます。
レンは知りませんが、ストーム・ワンはセンサーの反応で探しているのです。 色々とズルいです。
小さい頃の鬼ごっこや隠れんぼを思い出して、少し楽しんでいた部分もあるレンですが………こうも一方的だと、ツマラナイ。
それに町中でそんなコトをしたものですから、二人はスッカリ有名人に。
レンはこれ以上、変に注目されない為にも結局は諦めて
「あー、はい。 一緒に戦いましょう………」
「宜しくなレン。 それと、敬語は要らない」
「よろしく、ストーム・ワン………」
渋々ペアを組む事にしました。
そうして3ヶ月以上の間。
砂漠フィールドは空爆やら衛星砲やらミサイル群の嵐が吹き荒れました。
この嵐に巻き込まれた不幸な怪物や無法者は、大抵《蒸発》しました。
大抵はストーム・ワンの所為です。
それでも人間とは慣れる生き物らしく、レンはこの光景にスッカリ慣れてしまいました。
「EDF! EDF!」
戦闘終了後の、謎の掛け声にも。
そしてある日。 町に戻ると
「アイツがストーム・ワンか!」
「アイツひとりに、討伐隊が全滅したってか!? マジかよ!」
いつもより騒がれました。
いつの間にか送られていたらしい、ストーム・ワン討伐隊を殲滅してしまった様です。
「あのー、君の保護者? なんだけどさ。 武器の使用を自重してくれる様に頼んでくれない?」
討伐は無理と認識されたのでしょう。
レンは懇願されましたが、首を横に振るしかありませんでした。
レンにストーム・ワンの制御は無理です。
それに保護者じゃない! そう言い返したかったレンですが………その時、声に出す気力がありませんでした。
さて。 2025年が最後の月に入った頃。
ストーム・ワンは恐懼の対象としてすっかり有名になり、レンはその子供という誤認が広がっていました。
最も、ストーム・ワンに自覚はありませんでしたが。
『ピトフーイ』と名乗る女性プレイヤーと会ったのは、そんなときでした。