GGDF(完結)   作:ハヤモ

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GGDF終了へ。
主人公のストーム・ワンの本名が出てきますが、当作中上の設定です。 なお、この名前は原作の作者様の、別小説に出てくる登場人物名に似ていますが、似ているというだけ。


格好悪く笑顔で、さようなら。

 

荒野にある駐屯地で待っていたのは、デザートピンクの戦闘服に身を包んだ、小さな女の子。

 

夕焼けのように染まる世界で、迷彩効果を発揮しているから、なんだか見難い。

よく見ないと、存在そのものを認知出来ない気さえする。 それが、消え行くEDFを表しているようにも見えて……なんだか悲しいな。

 

待ち伏せされているとは考えたが、まあ、そうなるか。

 

興味本位で訪れたプレイヤーや、帰路に着く為に、すれ違う多くの隊員らを背景に彼女は言う。

 

 

「ねぇ。 本当に帰っちゃうの?」

 

 

寂しそうな声が聞こえた。

すまない。 そう思いつつも、俺は真っ直ぐ答える。

 

 

「ああ」

 

「……お別れも言わずに?」

 

「元より存在していない。 交わってはいけないんだ、レン」

 

「…………うん。 そうだよね。 GGOは、ワンちゃんには狭過ぎる犬小屋だよ」

 

 

声を震わしながら、目尻に浮かぶ涙に耐えながら。

目の前の子兎は、自身の感情に堪えながら冗談を言った。

 

こんな時。 グレ男だったら何て言うだろうか。 明るく返答するのか、何も言わずにすれ違うのか。

そんな本人は、今いない。 本部や情報部と共に先に帰ってしまった。 GGOに疲れたんだそうだ。

 

俺が対応に困っていると、レンは、ストレージから銃を取り出す。

黒いP90に、サプレッサー等のオプションパーツを付けまくった見た目の銃だ。

弾倉は後付感満載で、後部サイドにEDF製の箱型弾倉がくっ付いている。

 

俺が作った《P90 PDM》だ。

EDFの武器はストレージに仕舞えない筈だが、どうやら、素体がGGO製だと仕舞えるようだな。

 

 

「コレ、返すね。 わたしは要らない」

 

「持ってろ。 記念だ」

 

「GGOじゃ、レギュレーション違反だから」

 

「なら使わなけれ「良いから持って帰ってよ!!」……っ」

 

 

急にキレて、PDMを押し付けてくるレン。

その瞳にある涙を溜めるダムは、決壊しかけだ。 雫がひとつ、頰をなぞっていく。

 

 

「ご、め……ワンちゃんを思い出し……いけな、から」

 

「そうだな。 EDFの部品も、極力残すべきではない。 レンも……成る可く早く、俺の事を忘れろ」

 

 

俺は胸に押し付けられた銃を受け取る。

出来れば、コレを持って暴れるレンの姿を見たかったが、もう叶うまい。

 

だけど。 それで良い。 レンも何が正しいか葛藤して、自身の心に背きながら話している。

 

その想いを無駄にしてはならない。

 

 

「それと……はい。 この装備も」

 

「ビーコンガンに、無線機。 そして発煙筒か。 受け取ろう」

 

 

M4が渡したであろう、エアレイダー装備を受け取る。 無線機は口頭による座標伝達なので使えなかったようだが、他は使いこなしているように見えた。

 

狙撃が苦手な部分は、俺と共通していたが、誘導は上手かったな。 流石だ。

帰る前に褒めておかねばな。

 

俺は手袋を取ってスッ、と手を伸ばす。 そして兎の耳が付いたような帽子をとって……優しく頭を撫でた。 身長が低いので撫で易い。

 

サラサラの髪の毛が心地良く、いつまでもこうしていたいものだ。

こんな時に、いや。 こんな時だからこそ、そう思ってしまう。

 

 

「頑張ったな」

 

「……うっ」

 

「偉いぞ。 良くやった」

 

 

今だけは……これくらい、互いに我慢しなくて良い筈だ。

 

 

「良い人を見つけるんだぞ。 勝手にいなくならない、良き理解者を」

 

「ズルい」

 

 

レンは、ポショリと呟いた。 次にコツンと額を防弾着に当てたと思えば、そのまま両手を回してくる。

ギュッと締め付けて、でも顔は上げずに埋めたままで。 俺はただ、撫で続ける。

 

 

「……このまま、こうしてたいよ」

 

「俺もだよ」

 

 

段々と、周りの喧騒が消えてきた。

皆、地球に行ったか。 プレイヤーなら飽きて離れたか。

 

なんにせよ、皆には帰る場所がある。 俺やレンにもある。 そして、今は帰る時間なんだ。

 

だからもう、終わろう。

 

俺はレンを優しく引き剥がした。 レンは別れの時だと察したのか、それでも抵抗しないで素直に離れてくれた。 良い子だ。

 

 

「元気でな」

 

 

最後だ。 すれ違い側に、ひとなで。

 

そして、レンの横を通り過ぎてーー。

 

 

「ワンちゃん!」

 

 

前に、回られた。

その顔は、ニッと笑顔だ。 とびきりの、太陽みたいな素敵な笑顔。

目尻に涙は見えるけど、それより遥かに勝る。

 

 

「香蓮。 小比類巻 香蓮(こひるいまき かれん)!」

 

「ん?」

 

「わたしの、本当の名前!」

 

 

嗚呼。 レンは、プレイヤーネームだものな。

こひるいまき かれん。 それが真名か。

 

俺は思わず、ニッと口角を上げた。 きっと、俺は嬉しかったのだろう。

 

 

「良い名前だな!」

 

「ねえ! ワンちゃんの名前教えてよ!」

 

「おいおい……ゲームでは、マナー違反で危険な行為をしている自覚はあるのか?」

 

 

くつくつと笑いながらも、俺は言う。 真面目なレン……いや、香蓮らしくないじゃないかと。

 

 

「それ、今言っちゃう? 空気読んでよー、それにワンちゃんは本物なんだし! 騙る必要は無いよね?」

 

「ハッハッハッ! それもそうか! いや、すまんすまん! じゃ、改めて名乗ろう!」

 

 

不平等だしな。 フェアにいこう。

俺は正しく向き直り、はっきりとした口調で答えてやる。

 

英雄だの救世主だの死神だの《荒らしのワンちゃん》だの《かの者》だのと言われたが。

 

実際の、本名だなんて平凡なものなんだよ。

 

 

「犬山 陸(いぬやま りく)だ!」

 

「いぬっ!? やっぱワンちゃんなんだ! アハハハッ!」

 

「おいおい、笑うなよ」

 

「ごめんごめん! で、でも……あははっ!」

 

 

これはひどい。

まあ最後だしな。 湿っぽい終わり方より笑って別れた方が気持ち良いだろう。

目元は湿っぽいがな。 お互いに。

 

 

「うんうん! 満足!」

 

「そうか。 じゃ、元気でな……香蓮」

 

「うん……元気でね、陸」

 

 

今度こそ、レンの横を通り抜ける。

その先には地球に繋がるゲートだ。

 

手前で、軍曹チームやグリムリーパー隊、スプリガン隊が待っていた。 優しい連中だ。

 

俺は振り返らない。 真っ直ぐ、ただただ歩く。

 

生きている限り、闘いは続く。

俺たちの地球での仕事が待っている。

 

EDF。 ひとつの内戦が終わり、元の戦場へ進み行く。

 

 

 

 

 

ストームチーム。 これより、地球に帰還する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

EDFの基地は光の粒子となって、跡形もなく消えてしまった。 痕跡を消す為だと思う。

 

荒野に残ったのは、戦意のないプレイヤーと、棒立ちする「わたし」。

 

そして、壊れたEDFの武器や乗り物の破片群。 原型が判るほどに残された大物もある。

 

ーー極力残すべきではない、だなんて。 たくさん残ったじゃん。

 

 

「コヒー!」

 

 

そんな時。 とても聞き覚えのある声が。

振り返れば同じ背丈の、金髪のフカ次郎が駆け寄って来たトコだった。

 

今まで何処にいたんだろう。 ワンちゃんなら、もう行っちゃったよ。

 

 

「パパ達、行っちゃったねぇ」

 

「うん。 フカは、グロッケンにいたの?」

 

「いんや。 遠くで、パパとレンが抱き合うシーンを堪能してた」

 

「見られてたか! はははっ」

 

「……コヒー」

 

 

空元気に、乾いた笑みを浮かべる。 フカは、わたしの心境を知っているだろうから……誤魔化せないだろうけど。

 

せめて、自身の気持ちだけは、溢れないように。 正反対の言葉を繋げて誤魔化し続ける。

 

 

「あー! 清々した!」

 

「そうなのかい?」

 

「うん! GGOのチート集団が消えて、これで、いつも通り! 飛行機は飛ばないし、戦車やロボットが暴れる事もない!

いつもの……いつもの銃と硝煙の世界! 何もない!」

 

 

ああ。 わたしは、何を言っているんだろう。

いや、EDFは確かに迷惑な存在。

多くのプレイヤーや運営も、コレで喜んでいることだろう。

 

 

「派手な爆発も見なくなるだろうし!」

 

 

見守ってくれる人が、いなくなって。

 

 

「あ、でも金ヅルが消えたのは痛いなぁ」

 

 

楽しく買い物に付き合ってくれる人が、いなくなって。

 

 

「これからは、地味に……クレジットを稼がなきゃね!」

 

 

頼れる背中が見えなくなって。

 

 

「こんな事なら、クレジットを全部預けろーって、言うべきだったかな?」

 

 

優しく撫でてくれた記憶は、色褪せ始めて。

 

 

「エネミーを倒……のに、苦労するかな……フカ、手伝っ……くれる?」

 

 

あの温もりは、もうない。

 

 

「無理すんな」

 

「へ? 何が?」

 

 

偽り続けられるほど。

あの温かさを忘れられるほど。

 

わたしは、強くなくて。

 

 

「ちょ、ちょっとフカ……どうしたの、急に抱き締めて」

 

「涙ボロボロ流しながら、無理して話さなくて良いんだよ」

 

 

だから、フカに、美優に抱き締められたとき、耐えられなかったんだと思う。

 

 

「ひっく……うぐっ、グスッ」

 

「泣いて良いんだよ。 泣き止むまで、抱き締めておいてやる」

 

「う、うっ……うわああああああ!!」

 

「よしよし」

 

 

背中を優しく、ぽんぽんされる。

その感触は本物じゃないけれど。 心をじんわりと温めてくれるのには、十分だった。

 

 

 

 

 

この日。 EDFはGGOから姿を消した。

 

大きなログと痕跡を残して、あの不思議な人たちは消えたのだ。

運営やVRに関わる開発者、研究員、役人や警察、軍人は首をひねるばかりで答えを見つけることは終ぞないだろう。

きっと、それで良い。 これが最も平和的なのかも知れないから。

 

《GGDF事件》は、こうして幕を閉じた。 多くのプレイヤーの記憶に残ったEDFも、やがて色褪せ、風化し、忘れられていく。

 

ただ、これだけは言っておきたい。

 

EDFは、ストーム・ワンは本物であったのだと。




さらばEDF。 さらばGGO。
駄文だなぁとか、途中で方針や設定が滅茶苦茶じゃ? と思ったり、ガバガバやんと色々後悔したり、やっておいて落ち込むコトもありました。

でも、何だかんだ終わりに。 自身としては、完走(?)出来たのは良かったかなぁと。 酷い作品かもですが……。
続編や別小説を書くかは未定です。 感想を頂ければ幸いです。 ここまで読んでくれた方々、付き合って下さり、ありがとうございました!

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