「此方はEDFのストーム・ワンだ! 直ちに武装放棄の上、投降しろ!」
いつもの荒野。 ミミズの怪物を倒した後に雑談をしていたら、武装した無法者集団と邂逅、発砲された。
その上でこの様な呼びかけを行なっている。
プライマーと違い、相手は人間だ。
意思の疎通が出来る希望をもって、声を掛けてみたのだが
「ふんっ、噂のストーム・ワンも、実はビビリなんじゃねーのか?」
「PK上等のGGOで何を言ってんだか」
「黙ってやられろ!」
「レア装備を寄越せ!」
とまあ、相変わらずだ。
今はピトやレンと共に、かつて建物の一部であったであろう、壁に隠れている。
壁には無数の弾丸が撃ち込まれ、砂埃と銃声が止まない状況だ。
「くそっ、かつての市街戦を思い出すな」
「PK上等のコソ泥に報復は常識よ! ワンちゃん、気にせず殺っちゃいな!」
「ピト。 瞳孔が開いてるぞ」
ピト、嬉しそうに言うな。
戦闘に飢えているのか。 こんな時、とても嬉しそうだ。
戦闘で生死を実感し、喜ぶ人もいる。 意義のある死を求めて闘う者もいる。
ピトは………どうなのだろうか。 明るい雰囲気の裏に、何を求めているのか。
「わ、ワンちゃん………ププッ」
「レン、お前もか」
こういうのは、俺は求めないがな。
「ほら、多少は緊張感を持て。 身動きとれないんだぞ」
そう言いつつ、ロボットボムを解き放つ。 それらは機械音を発しつつ、自走して無法者達に突っ込んで行く。
やがて発砲音に混ざり壁の向こうから爆音が聞こえるが、少し音が近いな。 先に処理されたらしい。 ロボットボムは最近ダメだ。
まあ、囮程度なら十分だが。
「他にもあるんでしょー? 空爆とか砲撃とか! 援護してあげるからさ、ね? レンちゃん?」
「もちろん! ワンちゃんが今頃何を呼んでも驚かないし、楽が出来るなら」
そう言って、銃身のみを遮蔽物から出して発砲するブラインドファイヤを行う二人。 根暗撃ち、ゲリラ撃ちとも言ったか?
被弾率を低下させる代わりに命中率の悪い撃方で、味方への誤射の危険がある撃方でもあるが、相手への威圧という意味で効果はある。 ありがたい。
だが何を呼んでも驚かないときたか。 人間、慣れとは恐ろしい。
無法者が減らないのも、そういう部分があるのかも知れない。
ここは心を鬼にして………いや、α型にしてアレを要請しよう。
「ああ、少し待て」
そう言って発煙筒を側面に投げた。
赤色の煙がモクモク上がり始めたソレは、ビークルの投下地点を指示するもの。
その為、安全な場所で焚くのが一般的。 やむを得ない場合もあるが。
「ちょっとー、隣が煙たい」
「これくらい我慢しろ」
「砲撃要請?」
「いや、ビークルを呼んだ」
ぶーぶー言うレン達と会話してる内、輸送機ノーブルがやってきた。
硝煙弾雨の激しい戦場でも輸送してくれる、頼もしい存在だ。
『コンテナ、投下!』
「うわっ! 噂の航空機か!?」
「ティルトローター、いや、ジェット機?」
「低高度をホバリングしてる! 撃て、撃ち落とせ!」
「武装は確認出来ないが、コンテナを投下したぞ!」
そして撃たれまくってもビクともしない存在だ。
機体の表面を無数の火花が散っているが、揺れもしない。 一応、コックピットやエンジン部分を狙っている様だが。
金色の装甲と良い勝負なのではないか。 言い過ぎか。
そして投下されたコンテナが地面に着くや否や、一瞬で消滅。
輸送機が何処かへ消え、煙が晴れてくると見えたのは、小さな戦車だった。
《メルトバスター》登場である。
見た目はブラッカーだが、溶解液噴射砲(メルトガン)を搭載した特殊戦闘車両だ。
市街戦用に開発された兵器らしいが………荒野でも使えんコトはない。 使おう。
「おっ、戦車!? かなり小さいけど」
「乗り込んでくる、二人はここにいろ。 それと………あまり見ない方が良い。 特にレン」
「任せて! 目隠ししておく!」
「ピトさんは良くて、私はダメなの………?」
子供にはショッキングだろうからな。
普段の撃ち合いもそうだが、今回はヤバめだ。
俺は遮蔽物から飛び出して、素早くメルトバスターに乗り込んだ。 撃たれまくったが、車両の装甲に守られる。
「うわっ、戦車だ!」
「怯むな! ちっこい戦車だぞ!」
「機銃もない! オモチャの類だろ!」
無法者共め、これで逃げれば見逃したところを。 やはり撃たねばならないか。
プライマーではなく、人にやるとはな。 だが、恐怖心を与えねば。
逡巡したが、俺は決意し………トリガーを引いた。
「ピトさーん、目隠しされちゃ分からないよ」
「主砲からね、やらしい液体を出したよー」
「は、え? からかわないでよー」
「それでね。 浴びた連中『さ、酸だー!』って叫んでね、皆溶けていくよ! おねーさん、ゾクゾクしちゃう!」
「え、ええ!?」
「あ、盾を持った大男が………あー、ダメだわ。 盾ごと溶けたわ」
「………見なくて良かったかも」
よし。 生き残った無法者は逃げたか。
我ながらエゲツないと思う。 だが、確実に相手に恐怖を与えただろう。 これが噂になり、無法者が減れば良いが。
「あんなのがスクワッド・ジャムに出たら、大騒ぎだろうねぇ」
「イカの……ジャム?」
「変なの想像させないでよ!」
「でもさ、イカの塩辛って、言わば……、それじゃない?」
これでダメなら、次は燃やす。 ウェスタを要請してナパーム弾を投下する。
セントリーガンでも良い。 鉛玉と爆発と光線に慣れた連中だからな。
どこまで通用するか分からんが、生理的な悪寒を感じてもらわないとならない。
「イカはスクウィド。 今回は、スクワッドね。 おわかり?」
「スクワッドって?」
「英語で《班》とか《分隊》って意味。 軍隊で言う、中隊とか小隊とか、小分けの区分があるでしょ?
分隊は、その最小単位。 だいたい十人くらいらしいけどね」
メルトバスターの砲塔を下げつつ、レン達の元へ戻る。 地面に履帯の跡をつけながら。
何か話しているが、ショッキングなシーンは見ずに済んだ様だ。 良かった。
一生見なくて済むなら、それに越したことはない。
「ふーん……。 ジャムは?」
「J、A、Mで、パンに塗るアレの意味もあるけど、元々は、ぎっしり押し込むって意味なの。 トラフィック・ジャムが交通渋滞の意味だって言えば分かるよね」
「うん、分かる。 銃が作動不良起こして、空薬莢や弾丸が詰まるジャムと一緒でしょ?」
「そうそう。 そっちを先に言えばよかったか」
「すると……、分隊が、ごちゃ混ぜ?」
「そういうこと。 つまりはね」
「つまりは?」
「スクワッド・ジャムってのは、この《ガンゲイル・オンライン》の中で、少数チームを組んでバトルロイヤルをやろうって大会なのよ」
さて。 レンの隣に戻ってきたぞ。
このままタンクデサントをして、町に帰る方法も考えたが、万が一を考えると危険だ。
戦車から降りて、新たな発煙筒を炊く。
武装装甲車両《グレイプ》を要請した。 部隊輸送に特化したビークルだ。 兵員輸送用車両、と言えば分かりやすい。
しかし、武装と名にある通り、車体の上部に砲塔が付いている。 輸送用とはいえ、戦闘力は侮れない。
戦車はリムペットガンで破壊しておく。 悪用されたら大変だ。
「ちょっと、また煙たいんですけど?」
「ああ、戦車が爆発した!」
「色々仕方ないだろ。 ところで何の話をしていたんだ?」
「スクワッド・ジャムの話だよ」
イカの……いや。 この場合は軍事用語の類か?
「………分隊か?」
「話が早い! そんでね、チームを組もうと思うんだ」
チーム? 今もチームだと思っていたが、増やすのだろうか。
それとも書類等の登録系の話か?
「いいんじゃないか? 俺も付き合うよ」
「流石ワンちゃん! わっかるぅ!」
「あの、ピトさん? ワンちゃんが参加すると色々マズイんじゃ………?」
「大丈夫! 何とかなるって!」
どこがどうマズイのかは知らないが、何とかなるなら良いんじゃないか。
228基地奪還作戦に参加した精鋭部隊も、当初は互いに反りが合わなかったが………何とかなったし。
「てな訳で。 レンちゃんとワンちゃん! SJに出て!」
「はい? わたしが? ワンちゃんと?」
「ピトは?」
「そう。 私はダメなんだ。 その日は……、中学以来の親友の結婚式でね。 さすがにそれぶっちぎってゲーム大会出たなんてバレた日にゃあ……、よしんば死なずに優勝しても」
「うん、リアルで殺されるね」
「友人は大切にしろ」
「でしょ? 是非参加して欲しいのだけど、その日、暇? デートとか結婚式とかない?」
「ないよ。 てかピトさん? ワンちゃんを見ながら言ってるけど、リアルで会ったコトないからね?」
リアルで会ったコトがない、というのは。 多分、プライベートのコトだろう。
レンが突然いなくなる際、自宅に行ってるのだと思われるが………その度にヘリや徒歩で捜索するものの、未だに何処に住んでいるのか分からない。
連絡は取れるから、無事なのは分かる。 だが、瞬きした瞬間に消えるのは、心臓に悪い。 アレは何度経験しても慣れない。
「そうなの? じゃ、取り敢えず参加ね! 手続きはやっとくから! チーム登録だから名前があればオッケーだし」
「ちょ、ちょっと待って! どうしてそうなるの?」
「何事も経験だよ!」
「そうだぞ。 いきなりライフル渡されて実戦より余程良いぞ」
「だって、わたし、ワンちゃんと組むの!?」
「お、やる気が出てきたね。 いいことだ」
「聞いただけ!」
「他にも呼ぶよ。 男だけど、まあ、変なヤツだけど、ぶっちゃけ頭の中はほとんど犯罪者だけど、悪いヤツじゃないから。
いいヤツでもないけどね。 そいつとも組んでよろしく!」
おお、戦友が増えるのか! 有難い話じゃないか。 仲間は多い方が良い。
戦友が時間を稼ぎ、その間に俺が空爆や砲撃要請を行うという連帯が出来るからな。
「え? 男二人に女一人になるの?」
「うん。 今までと男女比逆になるね! でも大丈夫っしょ!」
「…………。 ピトさーん、それでわたしが『わあい! 分かりました!』って言うと思う?」
なんだ。 レンは不満そうだな。 男が増えるのが嫌なのだろうか。 女性の感性は分からない。
「何事も経験だよ!」
「ピト、良いことを言うな。 何、深く考えるな。 いきなりライフルを」
「いや、もうその話は良いから」
「ねえレンちゃん。 私が思うに、レンちゃんはリアルでいろいろ抱えてるでしょ?」
「えっ?」
そうなのか。 レン、驚いてピトに顔を向けたぞ。
「すまない。 俺が側にいながら、気付いてやれなかった」
「あ、いや」
「鬱屈した感情の裏にはワンちゃんもいるだろうけどね、他にもあるでしょ? だから、GGOに、よく言えば鬱憤晴らしに来た。
悪く言えば、逃げてきた」
なに!? 俺も原因か! やはりか、自宅探しにヘリを飛ばすのはやり過ぎだったか。
「何で分かるの? って顔してるけど、簡単に分かるよ。 だって、私がそうだもん!」
すっかり黙り込んでしまったレン。 励ますというか、謝るというか………俺は頭を撫でてやる。 強めに、グリグリと。 嫌がらず、なすがままだ。
倒れないように足に力を入れてるから、放心はしていない様だが。
「私は現実で憤ることやどうしようもないことが多すぎるから、ここで暴れているの。
うん、まあ、最近は私が殺る前にワンちゃんが殺っちゃうけどさ」
「ピトさん……」
君達、俺のコトが嫌いなのかも知れないがね、本人の前で言うのはやめようか? 俺が放心したくなるよ?
「だからね、どうせ現実にできないことをやるんなら、思い切ってやろうぜ! って言いたいのさ!
チームバトルロイヤルの銃撃戦なんて、現実で、できる? というか、やりたい?」
何の話か分からないが、撃ち合いは避けたいところだ。
エイリアンの歩兵部隊とのドンパチは大変だった。 囮を相手にしていると回り込まれたり、建物に隠れられたり。
「だから、暴れようぜ! 水曜日の朝までになんも返事がなかったら、参加ってことにするね!」
そこまで言って………ピトは柔らかな笑顔だけになった。 レンは………黙って、ただただ俺に頭を撫でられる。
こんな時、何て声を掛ければ良いのか。 分からないな。
「その、なんだ。 何か有ったら、あー。 俺で良ければ相談に乗るぞ?
今は………取り敢えず車に乗ってくれ。 町まで送る」
こんな事を言ってしまう。 他に良い言葉があるだろうに。
今日は、いつもよりアクセルが重かったな………。
次回、リアルのレンちゃんとのやり取り?