[未完]名探偵コナンX相棒 首都クライシス 探偵たちの最期の決断 作:npd writer
時は右京が『バーズ』が公開した動画の音声の一部に電車の走行音が入っていることに気付く少し前まで遡る。
警視庁の大会議室に設けられた捜査本部では刑事部と公安部の情報共有と捜査方針の決定を行っていた。先に公安部が毛利探偵事務所に家宅捜査を行なったことで意見は違えど内村や中園、目暮を始めとした3係、毛利の同期である伊丹やその部下の芹沢は良い感情を持っていなかった。
「…以上の事から毛利 小五郎氏の指紋が採れた以上、彼を重要参考人として任意同行するべきです。万が一、彼が拒否した場合に備え、東京地裁にも令状を発行するよう請求すべきです」
公安部の捜査員が着席すると、刑事部の刑事たちは複雑な表情をしていた。内村を苦虫を噛み潰したような表情で捜査員を見回しており彼の様子を見た公安部長を始め、公安部の上層部は散々虐げられてきた刑事部に一泡吹かせられると、笑みを浮かべていた。
「なるほどな。毛利 小五郎の指紋が採れている点
「その心配はいりませんよ、黒田管理官」
片方が黒いレンズの眼鏡を光らせた黒田に、入り口から声が飛んできた。伊丹や高木が振り返るとそこには空色の夏服の制服に身を包み、黒縁眼鏡をかけた一見は飄々としているが、その目の奥底には野心と何を考えているのか分からない不気味さを漂わせた人物。衣笠副総監その人がいた。
突然の登場に、高木や千葉は衣笠が誰か分からないらしく隣に座っていた佐藤に聞いた。
「佐藤さん、あの人って?」
「あぁ、あの方は衣笠 藤治 副総監。警視庁サイバーセキュリティ対策本部の創設者で、警察庁の甲斐元次長との対立が絶えないらしいと聞いたことがあるわ」
会議中なのでひそひそと話していた高木と佐藤に伊丹が興味を持ったのか、伊丹が横から幽霊よろしく顔を出した。
「要するに、くだらねぇ内輪揉めをしょっちゅう起こしてる内村部長以上に面倒くさいキャリアピープルだ」
「心配がないって…。副総監、それはどういう事ですか?」
伊丹たちが内緒話をしている頃、前方に座っていた目暮は衣笠に一礼した後、疑問を口にした。確かに、指紋が出てるとはいえそれは偽証も可能な為、いまいち確証に至っていないのが現状だった。だが、目の前にいる衣笠はどういう訳か自信ありげな表情をしていた。
「実は、私の方で独自にサイバーセキリュティ対策本部で毛利 小五郎氏のパソコンを解析した結果、サミットの予定表、爆破された国際会議場の見取り図が出てきました」
そう誇らしげに宣言した衣笠の発言に、会議室内は騒然となった。同伴しているサイバーセキリュティ対策本部の捜査員がモニターを操作すると、国際会議場の見取り図が表示された。
「現場から彼の指紋が出ているんですよね?それに今回、彼のパソコンから予定表や見取り図という証拠が現れた。以上のことから彼が今回の爆破の犯人であるという事でほぼ間違い無いでしょう」
衣笠は胸誇らしげに宣言すると捜査本部を見回した。しかし、その言動に芹沢は密かに疑問を抱いていた。
「先輩、衣笠副総監の言動ってまるで毛利さんのみを犯人と断定しているかの様な感じなんすけど…」
「あぁ。まるで毛利以外は全て除外、あくまで奴のみに絞るって感じだ。何か裏があるな…」
伊丹は前方にいる幹部たちを睨むと背もたれにもたれかかった。伊丹のいつもとは違う雰囲気に高木や千葉も気付き、興味が湧いたのか小声だ伊丹に話しかけた。
「伊丹さん、裏があるっていうのは?」
「お前たちが知ってるかどうかは分からねぇが、以前警視庁本庁で篭城事件があったのは知ってるか?」
「そりゃ、僕達だってもちろん。犯人が射殺されたっていうあの事件ですよね?あの時は当時の田丸 寿三郎 警視総監以下幹部12名が人質に取られた大騒ぎでしたから」
伊丹は高木たちが警視庁篭城事件について知っていることを確認し、昔いた同僚を思い出しながら静かに語った。
「あの時はまだ三浦さんがいた頃だったか…。あぁ、すまんすまん。んで、その篭城事件の真相を当時、俺らと特命係で暴いていくと裏で公安が暗躍していたのが分かったのさ」
「正確には警視庁公安部の一部の連中が関与してて、さっき先輩が言ってた篭城事件を起こした犯人、実は公安部の“影の管理官”て呼ばれてた人物が中国人マフィアをけしかけて起こしたテロ未遂事件の被害者だったのよ。それでその犯人は警視庁に篭城し、幹部12名を人質に取って“影の管理官”を暴こうとしたわけ」
伊丹に続いて芹沢が奥から小言で公安部がひた隠してきた“影の管理官”についての存在を高木らに伝えた。この後、“影の管理官”については小野田の取り計らいもありさほど有名にはなっていなかった。その結果、知らない人も多く高木や千葉もその一部だった。
「犯人は篭城事件の際に特殊班及び第一機動隊が突入する前に殺されたが、特命係が“影の管理官”の可能性がある人物を5名にまで絞り込んで、
高木は考えていたが、千葉はピンと来たように相槌を打って目を見開いた。
「まさかその人物は当時の警視庁副総監兼警務部長を務めていた長谷川 宗男 警視監ですか?」
「あぁ、その通りだ。恥ずかしい限りだが、特命係が血眼になって探し回ったお陰で俺らは早く彼を逮捕する事が
「「
流石にコソコソ話をするには大きかったらしく何人かの捜査員がこちらを向いた為、皆それぞれパソコンを操作したりモニターを眺めるフリをしたりした。捜査員が前を向き直したのを確認した上で会話を再開した。
「本来なら警視庁幹部であろうが何だろうが、逮捕するのが俺らの仕事だ。なのに…当時の小野田官房長はそいつらをこき使おうと逮捕を取りやめるよう働きかけたんだ」
「殺人者を黙認するって…そんな治外法権が許されるんですか!?」
高木が驚くのも無理はなかった。彼は犯罪者ならばたとえ警察幹部であっても逮捕するべきと考えていた。彼は警察の権力に屈した事はほんの片手に数えるほどしかなくいつも真っ直ぐな警察官だったので驚きが隠せなかった。
「当時、警察庁は警察省へ格上げするために工作しており、その一環として警視庁幹部を全員何処かへ飛ばす事が必要だった。一方でもし警視庁No.2が庁内で殺人とならばこれは警察の威信に関わる問題、そこで当時の小野田官房長は殺人事件を公にしないかわりに長谷川一派に多大な貸しを作り、首根っこを押さえつけたまま飼い殺しにする。そんな魂胆っていったところでしょう」
高木と佐藤の隣に座っていた白鳥も話に加わって来て伊丹たちが座るレーンはまるで一つ別の事件を捜査しているように見える。
「えぇ。杉下警部もそんな感じで推理していましたよ。今回の事件も公安がらみの事件で今、世間からは公安へのバッシングが酷い。もしかしたら早く幕引きがしたいためにこんな事をしているか、あるいは…」
「あるいは?」
「何か公安には毛利小五郎を捕まえるほかの理由があるのかもしれない」
伊丹はそう言うと話は終わりとばかりに前を向いて衣笠の方を向いた。3係のメンバーは知られざる篭城事件の真実に驚愕していたが今はそれよりも今回の事件と気持ちを吹っ切り、伊丹同様前を向いた。
捜査本部の前方にいる幹部陣は真っ向から意見が割れており小五郎の逮捕を急ぐべきと主張する衣笠、公安部長、内村とまだ不明や不可解な点が多く、十分な情報精査の上で逮捕すべきと主張する目暮、黒田、中園の3名で意見が対立していた。
「…何れにせよ、犯人は毛利小五郎氏で確定でしょう。一刻も早く次のテロを防ぐためにも彼の逮捕に力を注ぐべきと私は考えますが?如何ですか、公安部長?」
「私も、副総監の仰る通りだと思います」
「ならば早く東京地裁に令状の請求をしたら良いでしょう」
小五郎の逮捕という方針に傾く捜査本部に目暮は待ったをかけるべく勇気を持って副総監に意見した。
「お言葉ですが、副総監。爆破事件の現場の指紋には不可解な点も多く、彼のパソコンも何処からかハッキングされ如何にも毛利くんが検索したかのように工作された可能性もあります。こういった点を解決してから毛利くんが犯人ならば逮捕すべきです」
「ほぉ。つまり、君は犯人が小五郎氏であるという証拠がありながらも彼を見放しにするわけですか。なら次のテロが起きた場合、その責任は彼の逮捕を遅らせた貴方の責任になりますね。それでも良いのならば、どうぞご自由に」
「いや、そういう訳では…」
衣笠の眼鏡がキラリと光り、目暮を睨んだ。目暮は副総監であるという立場の人間の睨みにたじたじとなり反論ができなくなっていた。彼も警察官とはいえ、上の意向に逆らう事は身の破滅にも繋がる可能性がある。そういう事を平然とスルー出来るのは、やはり杉下警部とその下に着く“相棒”ぐらいだろう。
目暮の反論をねじ伏せた衣笠は改めて捜査本部にいる捜査員たちを見回し、高らかと言った。
「とにかく、現状では毛利小五郎氏が国際会議場爆破の容疑者である事は変わりありません。それに彼には港区でおきたショッピングモールで起きた食中毒事件にも関与の可能性もある。至急、東京地裁に赴き毛利小五郎氏の令状を手に入れ彼の自宅に急行し、彼を任意同行逃げるならばその令状を使って彼を連行し、事件解決に全力を注ぎなさい!」
衣笠の号令に捜査員たちはぞろぞろと動き出し公安部の捜査員達は令状を発行してもらう様、要請するため東京地裁に向かった。
なんか、大半ば劇場版llの回想になっちゃいました。
因みに、この物語の衣笠副総監は故大杉漣さんに敬意を表し、彼をモデルにしました。