[未完]名探偵コナンX相棒 首都クライシス 探偵たちの最期の決断 作:npd writer
警視庁警察学校を出た後、右京は自家用車で米花町にある毛利探偵事務所に向かった。
米花町に着いた右京は冠城が来るまでの間、毛利探偵事務所が入るテナントビルの一階の喫茶店ポアロに寄っていた。
時刻はちょうど昼時を過ぎており、ポアロ内は客が疎らであった。ポアロはいくつかの雑誌で取り上げられており、毛利探偵事務所の下に位置する喫茶店でコナンや蘭、小五郎もよく立ち寄る事から有名で右京もその存在を知っていた。
ポアロの扉についている鈴が鳴り、店員の榎本梓が振り返るとそこには英国風のスーツに身を包み、髪をオールバックにし銀縁眼鏡をかけた初老の男性がいた。
その男性は興味深そうに店内を見渡すと、一番窓際の席に座りメニュー表を眺めた。
「安室さん、お願いできる?」
客が席についた事を確認した梓はカウンターにいた1人の男性にオーダーを聞いて来るよう頼んだ。その人物は褐色肌に明るい色の髪が特徴の優男。ポアロでアルバイトをしながら、毛利小五郎に弟子入りしている私立探偵、安室透であった。安室は国際会議場の爆破に巻き込まれた傷がまだ痛々しく残っており、顔には絆創膏を貼っていた。
梓に頼まれた安室は注文を聞きに先ほど来店した英国紳士風の男性の元に向かった。
「ご注文はいかがしますか?」
「そうですねぇ、ハムサンドとダージリンのブレンドの紅茶をお願いできますか?」
「ッ!?…かしこまりました。サンドウィッチとダージリンのブレンドですね?少々お待ち下さい」
英国紳士風の男はメニューから顔を上げると、注文を聞きに来ていた安室を見た。その顔を見た安室は少しばかり衝撃を受けた後、いつもの笑顔に戻りカウンターにいる梓に注文を伝えた。
カウンターに戻った安室の脳裏には彼がまだ、入庁し警察庁警備局警備企画課に配属された頃の記憶が蘇っていた。その当時から警視庁警察学校の成績をトップクラスで卒業していた彼は優秀な人材として密かに注目されていた。
そんな中、安室にとって現在につながる“黒の組織”を潜入を決意して間もない日、彼は課長に呼び出され長官官房室に行くよう伝えられた。
警察庁には長官を筆頭にその下に次長、更に長官官房室、生活安全局、刑事局、交通局、情報通信局、そして安室が所属する警備局が存在しており、かつ附属機関には警察大学校、科学警察研究所 通称、科警研、そして皇宮警察本部もあった。
その中の一つ、警察庁の所掌事務を管轄する長官官房室、その中でもトップに位置し警察庁のNo.3でもある長官官房室長からの呼び出しに当時の安室は身が引き締められる思いをしていた。
長官官房室までの長い廊下を歩き、長官官房室長の執務室前まで来た安室は官房室長の秘書に用件を告げた。秘書は一旦、部屋に消えた。来客が来た事を告げているのだろうと安室は考えているとやがて扉の向こうから、どうぞと秘書がドアを開けた。
部屋に入る際に一礼し、再び顔を上げた安室は初めて訪れる警察庁No.3の執務室を興味深そうに見つめた。ブラインド越しに日光が部屋の中を照らし、壁にはいくつかの戸棚が置かれておりその中には資料や専門書がぎっしりと詰まっていた。また、窓際には日本国国旗が掲げられ、執務用デスクの背後には大きく、警察庁と書かれた板が設置されていた。上等な革で、作られている応接セット、執務用のデスクと椅子を見た時、力の差を安室は思い知らされた。
「ご苦労様、君は少々席を外してくれないかな?」
執務用デスクのセットになっている椅子に座る人物は逆光の為、よく見えないが組織の中で生きる安室にとってはその人物が一筋縄ではいかない人物である事を察した。
秘書を部屋の外に出した人物を改めて安室はよく見つめた。一見すると飄々としとぼけた雰囲気をまとっている人物、しかし実際は様々な策を巡らす老獪で食えない男で、警視庁特命係の誕生の謎を知る数少ない人物。壁に掛けられている肖像画の胸元には安室の階級よりずっと上の“警視監”の階級章が光っていた。
今、椅子に座りじっとこちらを見ている人物こそ、小野田公顕 警察庁長官官房室長 だった。
「突然、呼び出されて困ったかしら?降谷零くん」
やがてゆっくりと口を開いた小野田は降谷を見据えながら彼の本名を含め、静かに言った。無論、降谷もデスクの前まで来ると答えた。
「いえ、僕の方も少々時間が余っていた頃合いでしたので…。それに長官官房室長の頼みでしたら、喜んで承る所存です」
「そう、なら良かった。けどね、今日は警備企画課に依頼してるわけじゃないの。もしも、本当に警備企画課への依頼なら君に頼むような面倒せずに直接課長のところに依頼に行く。それをしなかったという事は僕の個人的な話ってわけ」
降谷は小野田に案内され、応接セットのソファに腰掛けるよう言われた。降谷が座るとその対面に座った小野田はゆっくりと語り出した。
警視庁に窓側部署がある事、その窓側部署には正義が暴走する元部下の警部と君の先輩がいる事、自分の正義について、そして降谷が潜入する“黒の組織”についての事を語った。
話が終わると小野田はゆっくりと立ち上がって窓際に移動し静かに吐いた。
「特命係誕生について僕から話したのは君を含め、ごく僅かだよ。何故、君に話したか。降谷くんは疑問に思うと思うけど、それはね。何か近いものを感じたからだよ」
「近いもの…ですか?」
「そう。君は僕と同じ、国を想うところがある。国を守るためには無茶をし、時には法をも無視する。僕はそれもやむ負えないとしているんだけど、さっき言った特命係の杉下はそれを許しはしない。まぁ、彼の性格から見てもそれは当たり前なんだけどね。でも、そんな絶対的正義ばかりを語っていたらいつかは身の破滅を招く。警備局警備企画課は公安警察の中でも最も国家に関する仕事をしているし、君がこれから潜入するところは現に危険な場所だ。それくらいの事をしなければ体が持ちませんよ。本来ならば君のような若く、優秀な人材はそんな危険な場所には送り込みたくはないのだが、君が望んだところだ。私は全力を持って応援するまでだよ」
小野田公顕の正義は大局的正義で、元部下である右京の絶対的正義とは時に水と油の関係にある。彼らは時に激しくぶつかり合い、互いの正義は火花を散らして戦う。警視庁の窓際部署の係長と警察庁の長官官房室長の間には切っても切れない秘密があった。
降谷は警視庁の窓際部署には隠された秘密がある事をこの時、初めて知った。
(この人物…、以前官房長から伺っていた杉下警部か?確かに顔はよく似ている。だとしたら公安警察の動きを察知して、我々を妨害しに来たのか?いずれにせよ、この人物には注意せねば。官房長曰く、彼の正義は…)
「…さん、安室さん?安室さん!」
記憶の遠くから、安室の呼ぶ声が聞こえてきてハッとして振り返るふと、心配そうに自分を見つめる梓がいた。梓はカウンターに入ったきり手が動かない安室を心配そうに見つめていた。
どうやら、安室は昔を回想するあまり手が回っていなかったようだった。
「大丈夫?安室さん。先日も怪我をしたばっかりなのに。どこか具合でも悪いなら休んだ方がいいわよ?」
「いえ。お気遣いだけでも十分です」
そんな事はないと、梓に言った安室だったがそれは自分にも言い聞かせた言葉でもあった。これから行われる任務は大変な事になると課長からも言われており、安室も覚悟はしていた。そんな重大な任務の前に体調不良など、笑止千万であった。
安室は体のスイッチを切り替えて、先程来店した男性の注文品を作り始めた。
小野田官房長が今まで言及のみでしたが、今回は安室くんの過去が大半を占めたので官房長が正式に初登場した回でした。
警察庁のシーンで安室の名前から途中で降谷に変わっているのは官房長が彼の本名を知っているからです。なので、降谷零という本名を、知っている人の場面では安室ではなく降谷になっていきます。