[未完]名探偵コナンX相棒 首都クライシス 探偵たちの最期の決断 作:npd writer
『この事は我が国の、延いては国際社会の安定と平和に貢献するもので…』
佐藤副総理の会見を切ったチンはパソコンの前に移動すると、外務省のホームページに掲載されていた瑛里華の写真を見た。
コナンと別れた右京と冠城は、退院したチンが泊まっている港区のホテルの一室に来ていた。窓から見ることができる東京タワーやレインボーブリッジは煌びやかに灯を点していたが、そらとは裏腹に室内には重々しい空気が漂っていた。
「瑛里華さんや毛利さんのこと、一言も触れてませんでしたね」
「…これで、二度目だ」
冠城の言っていた通り、日本政府の記者会見ではテロと戦うということを強調して伝えており肝心の交渉に関する事は一切、伝えていなかった。そもそも記者会見で交渉について触れていないことから、政府が『レイブン』との交渉に無関心であることが伺えた。
チンの、二度目という言葉に右京や頷きながら彼の後ろへ回った。
「確かに、『レイブン』の言う通りならば瑛里華さんは7年前と今回、二度国に見捨てられたことになりますねぇ」
「この国は、国民の命よりもテロとの戦い勝つことを、優先したわけですね」
そう言う、チンの身体は小刻みに震えていた。パコソンをじっと見つめているため、彼がどんな表情をしているか分からないが、彼が怒りに震えている事は仕草や行動からすぐに分かる事だった。
「…私は、日本ほど平和で美しい国は無いと思っていた。敗戦から奇跡の復興を成し遂げた国、だがこの国が再び戦争を始めるとは」
「戦争、ですか?」
ソファに座ったまま、顔をチンの方向に向け聞いた冠城に対してチンは、窓を眺めたまま静かに言った。
「えぇ。日本人が日本人であるという理由だけでテロの標的になる。女も子供も関係ない、例えばその子たちが先日病院で会った小学生であろうとも。しかもこの戦争には終わりがない。相手は降伏を宣言する国家を持たない」
チンの言葉に頷いた右京は、部屋を何気なく眺めるとテーブルには先日殺害された、ジェイ・ノリスの個人写真と経歴、殺害現場の写真、そして布の上に置かれ綺麗な色をした、貝を見つけた。
「美しい貝ですね、これは?」
「ナンヨウダカラガイ、チューク諸島の貝です」
「チューク諸島というと、グアムの少し南にあるサンゴ礁に囲まれた島ですね」
冠城が言うと、チンは肯定しながらどうしてこれが手元にあるのか語った。
「えぇ。以前、ノリスが島を訪れた時に土産に貰った物です。身近に置いておくと、幸運が訪れると」
右京は貝をテーブルに戻すと、チンの言葉を聞いた。
「杉下さん、冠城さん。ノリスのためにも瑛里華さんのためにも、必ず『レイブン』を逮捕しましょう。そのためにはどんな協力でもします」
多くの人々が寝静まった深夜、もうすぐ日付が回るという時刻になっても右京と冠城はまだ特命係の部屋に残って事件の捜査をしていた。
「もうすぐ身代金の支払い期限がすぎますね…」
右京は自身のティーカップに紅茶を、冠城は自身のマグカップにコーヒーをいれて飲んでいた。隣の組織犯罪対策部5課の職員は既に大半が帰っていた。
「要求は今回も拒否される、『レイブン』はそう予測しているのだと思います。寧ろ、気になるのは…」
「要求を拒否した場合のメッセージ『大勢の人々が見守る中で日本人の誇りが砕け散るだろう』」
「『レイブン』は何らかの具体的な計画を持っているのでしょう。問題なのは、それが何かということです」
立ち上がり、紅茶を口にする右京に冠城は不吉なことを口にした。
「その計画、もう動き出しているのかも。それにしても、どうして『レイブン』は7年も経って瑛里華さんの事件を持ち出してきたんでしょうかね?」
「その答えを見つけられれば『レイブン』の手がかりになるのは間違いないのですがねぇ」
その夜、東京都のとある空きビルには数人の男と1人の女性がいた。薄暗い室内には蝋燭の灯りと何台ものパソコンによる光、白熱灯の明かりが室内をわずかに照らしていた。
この場所こそ右京やコナン、警視庁が血眼になって探している『バーズ』のアジトだったのだった。
拳銃に弾を込め、撃つ構えをしているは髪をロングにした中高生風の女子。7年の時を経て先日、姿を現した鷺沢瑛里華その人だった。
やがて、近くの扉からジェイ・ノリスを殺害した首元にカラスのタトゥーがある男が現れた。
男はビルに残っていた男たちのうち、ハッカーのみを残しあとの2人はリーダー格と思われる男に従ってビルを後にした。
部屋についていたテレビからは都内でおきた食中毒騒動について放送していた。
「僕より上のハッカーはなかなかいないと思うよ?」
キッチンで入れてきたコーヒーを瑛里華に渡しながらハッカーは呟いた。
「日本でもFBIみたいにハッカーを雇ってくれたらいいのに。『レイブン』は今度の仕事を最後にするって言ってたし」
このハッカーこそ、外務省のホームページをハッキングするほどの腕前を持つ凄腕ハッカーで『バーズ』の一味でもあった。
まだ若く、才能溢れる彼はハッカーという職で自分の持ち味をフルに活用していた。
「最後の仕事?」
「うん、でも心配なんだよね。『レイブン』の情報の一部が警察に流れたみたいだし」
ハッカーがコーヒーを入れなおしにキッチンへと消えていく同じタイミングにテレビでは中毒症状を訴えた患者が救急車で運ばれていく様子が映し出されていた。その映像にはチンや阿笠博士、チンを介抱する右京も映っていた。
その映像を見た瞬間、瑛里華は驚き音を立てて立ち上がった。
既に大半の職員が帰宅した警察庁の長官室には金子長官、甲斐官房付き、社警視庁広報課長が集まって『レイブン』に関する情報交換を行っていた。
窓から見える永田町の町並みは警察内部に張り詰める空気とは裏腹にとても美しく、こんなことがなければずっと見続けていたい、と社は心の中で考えていた。
「7年前の事件の際、『バーズ』が身代金の要求をしたのは駐英大使館に対してでした」
「無論、大使館は本国へ事態を伝えんたんだろうね?」
長官室のソファに座っている甲斐が尋ねると、彼の対面に座っている社は頷き、タブレットを見ながら続けた。
「えぇ。その上で要求を無視するよう外務省に提案したのは当時の駐英大使、柳沢克彦。金子長官、甲斐さん。その柳沢克彦ですが…」
そう言い、金子の前にタブレットを置いた社はある項目を彼らに見せた。それを見た金子と甲斐はお互い顔を見合わせると、社にタブレットを返した。
「社くん、この件は君の方から直接、山崎警備局長に話してくれないか?」
何か複雑な理由があると察した社はそれ以上のことを言うのをやめ、了承した。
「ところで、昨日警視庁公安部が毛利小五郎を公務執行妨害で警視庁に連行してきました。彼は容疑を否認しているようですが、日下部事務次官が彼の送検を迫っていることから、警察としては早めに送検するということです」
「そうか…日下部事務次官が…」
金子の言う日下部は法務省の事務次官でキャリア官僚であるが検事出身ではない事務次官だった。その事務次官が急いでいると言うことは何か理由がある、金子はそう考えていた。