[未完]名探偵コナンX相棒 首都クライシス 探偵たちの最期の決断 作:npd writer
「島に残った人たちの運命は残酷なものだったそうです。ご存知の通り、今まで島を守る要だった連合艦隊の撤退後、トラック諸島は度重なる米軍の空襲や艦隊からの艦砲射撃等など、連合軍の集中攻撃を受けました。その惨状は正に地獄絵図だったようで…」
右京、冠城、コナンの3人は『レイブン』に殺害されたFBI捜査官、ジェイ・ノリスが、殺害される直前に残した『天田修介』という名の人物を知る、彼の従兄弟の天田光代から詳しい話を聞く事になった。
一旦、話を区切った彼女はお茶を一口飲むと、3人の目を見据えて一言一言を噛みしめるように言った。
「そして島の人たちは国から何にも知らされないまま、無防備な島で戦火の中を逃げ惑ったそうです。連合軍の攻撃は、老若男女問わずに行われ日々増していく一方でした。幼い修介さんは、母親の清子さんも攻撃の被害にあって…」
連合艦隊という大きな要を失い、日本から孤立したトラック諸島は連合軍に包囲され、連日空母から飛び立った艦載機の空襲に遭った。米軍は民間人が隠れているであろう、防空壕を始め島を徹底的に空爆していった。
一方、要を失い防空壕も敵の攻撃によって避難できなくなるほど破壊され行き場を失った人たちはどうなったのか。ただただ、敵から自分の身を守ることだけしか出来ず、浜辺や森林の中を逃げ惑うことしか抗う術はなかった。
連合軍の空爆から命からがら逃げて浜辺へ行き着いた人々。そこには幼い修介と、その修介を庇うようにしてただひたすら走る清子の姿があった。
浜辺には空爆によって吹き飛ばされた死体の数々、そして容赦なく襲いかかる敵の爆撃機。
そんな様子は戦争を経験した者でしか、味わうことのない酷い記憶だろう。
そして運良く空襲から逃れられ、飛行機から地上にいる人が見えにくくなる夜に、トラック諸島を脱出しようとした修介、清子を含めた一行にも敵は牙を剥く。
島を包囲した連合軍は戦艦、重巡洋艦からの艦砲射撃も行った。止むことのない、砲撃は島から脱出しようとボートに乗り込んだ修介、清子ら民間人と、同じく脱出を図る帝国陸軍の兵士を襲った。
そのうちの一発が、修介や清子を乗せたボートの近くに着弾しボートはその衝撃で転覆し中に乗っていた民間人は全員海に投げ出された。
助けを求める彼らを他所に、他のボートは進んでいく。
「…内地へ逃げる時も軍人が優先で、民間人の中には戻れなかった人もいたそうです」
当時は救命胴衣というものはないため浮くことは愚か、その場でもがくことも時間が経てば難しくなる。
自分たちを置いていくボートを見る暇もなく、ボートから投げ出された人たちは何とか陸地を目指し泳ぐしかなかった。
翌朝、敵からの攻撃が収まった早朝。浜辺には海から流れ着いたであろう、沢山の死体が漂着していた。
「お母さん……お母さん……」
浜辺にあった幼い体が、立ち上がり辺りを見回す。そこには死体があるだけで母親は愚か、生存者の気配はない。幼い修介は母の名前だけを呼び続けながら島内を歩き回った。
幼い彼を残酷な真実が襲う。いくら島内を歩き、母を探し回っても母の清子は姿を現さない。受け入れがたい真実が彼を絶望へと叩き落とし、彼は泣き叫んだ。母を返してくれ、そんな思いで彼は地下に保管されていた乾パンを齧りながら泣き叫び続けた。
「お母さん…!あああぁぁぁぁ!!」
「光代さんは、そのお話をどなたからお聞きになったのですか?」
右京は内地にいたであろう、光代が戦争を経験した世代とはいえ、ここまで生々しい話をできるはずはない。そう思い、率直な疑問を彼女にぶつけた。
その答えはすぐに彼女が教えた。
「修介さん本人から、聞いたんです」
右京、冠城、コナンの3人は思わず身を乗り出した。この答えは彼らの予測では考えていなかったのだった。
「天田修介に会ったんですか?」
「えぇ。もう、50年以上前になりますか。…遠い島で親を亡くして、まだ見ぬ故郷を想わない日はなかったんでしょうねぇ…」
光代は記憶を踏みしめるように、何回も頷きながら語る。
「修介さんはその後必死にお金を貯めて、19の時初めて日本に来たんです」
それはとある夏の日の事だった。光代が成人して間もない時、1人の青年が彼女の自宅を訪れた。
蝉が夏の音を奏でる中、襟付きのシャツを着て日焼けをしたのか褐色の肌をした坊主の青年。額には汗を浮かべ、慣れない日本語を喋りながら自らの身元を明かす。
「僕、天田修介デス…。…母ハ…天田清子ハ、戻ッテイマスカ?父ハ…武則ハ?」
死亡したと考えていた家族が帰ってきた。目の前で突然起こった事実に若い光代やその家族はただ驚くことしか出来なかった。
また彼が聞きたがっていた父親と母親の行方についても、幸い生き残っていた光代の両親は伝えるのに心苦しかった。
修介の父である天田武則は戦死し、母である清子も日本には帰ってこれていなかった。
「…その上、修介さん自身も特別措置法によって未帰還者として既に日本政府から戦死死亡宣告が成されていたんです」
父と母が生きている、そんな淡い希望を打ち砕かれた修介に追い討ちをかけたのが特別措置法だった。
修介が帰ってきた次の日の夜、光代はそっと障子を開けて客間の様子をのぞいた。
机に置かれた電気スタンドが部屋を照らす中、修介は正座して畳に押しつけるように広げていた紙を読んでいた。
それは昼間のうちに光代の両親が彼に渡した、修介が特別措置法によって戦死死亡宣告されたという日本政府からの通知だった。
その紙を何度も読み返した修介は紙を握りしめると、泣き叫びながら何度も拳と紙を畳に叩きつけた。何度も何度も紙をくしゃくしゃにし、拳を畳に叩きつけ泣き叫ぶ姿を障子越しに見ていた光代はひどく心苦しみ、光代の眼からは涙が溢れ出た。
「その時の修介さんの嘆きをば………見ていても、胸が裂かれるようでした」
「翌朝起きたらもう、修介さんはいなくなっていました」
「それ以降はもう、一度も修介さんには会っていないの?」
コナンが聞くと光代は頷いた。重々しい沈黙の後、光代は浮かべ体を震わせながら3人に言った。
「修介さんの両親は、日本という国を信じ、国を背負って海を渡ったんです…!そういう人たちにとって、国が行ったあの政策は…酷い仕打ちだったと思います…!!」
光代は言い終わると、力尽きたかのように俯いた。天田修介に降りかかった数々の悲劇は戦争を経験してこなかった右京や冠城、戦争を教科書でしか知ることのないコナンにとって、重々しい事実として深く心に刻み込まれた。
「今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました」
右京は光代の心身の疲労が近づいていると考えて、話はここまでとし退散することに決めた。
「私のお話は、役に立ちましたか?」
「えぇ。光代さんから聞けたお話は必ず、有効に活かさせていただきます」
光代の問いに答えた冠城は、感謝の気持ちを込めて深々とお辞儀をした。
すると、光代はコナンの方へ体を向けて聞いた。
「コナンくん、梅野さんっていうお婆さんを知っていますか?」
コナンは多くの人たちと事件を通じて知り合っているので交友関係は広いが、梅野という女性は知らないので首を横に振る。
「毎日、新宿の美術館に足を運んでゴッホが描いたとされる『ひまわり』を見ている人でね。つい最近も、鈴木財閥が世界中にある7つの『ひまわり』を集めた展覧会…確か名前は…」
「鈴木財閥がこの展覧会の為に作ったレイクロック美術館で開かれた展覧会『日本に憧れたひまわり展』ですねぇ。あっ、失礼」
右京は自らの横やり的な行動を陳謝したが、彼女の言いたかったことは前述した事なので右京の言葉を借りて光代は続ける。
「そうです。その展覧会で、2枚目の『ひまわり』を食い入るように見つめていた女性はいなかった?」
コナンはキッドとの対決の中で、鈴木財閥が世界中からゴッホの「ひまわり」を集め、それをキッドが狙ったという事件を思い出した。
その事件の過程で、5枚目の「ひまわり」も標的になったのだが、そのひまわりの持ち主である損保ジャパン日本興亜美術館及び、展覧会の会場となったレイクロック美術館で出会った1人の老婆の存在に気付いた。
理解しかかっているコナンを見て、光代は話を続ける。
「梅野さんはね、コナンくんに感謝していたよ。大事な『ひまわり』
を守ってくれた勇気ある少年だって。あの『ひまわり』は私にとって愛する人の形見だからとも言っていたわ。私からも感謝の意を伝えさせてもらうわね。ありがとう」
「光代さん。僕はやるべき事をやっただけだし、キッドもあの事件に関わっていた真犯人を見つけて欲しかっただけらしいしね。今、2枚目の『ひまわり』は鈴木財閥の金庫に保管されているから大丈夫だよ」
この話を最後に、右京、冠城、コナンの3人は話を切り上げ、コナンを保護者である妃弁護士の所へ送り届けるため、老人ホームを後にした。
こうして書いていて、戦争の描写を描くのはとても難しいと改めて感じました。
因みに、光代さんと業火の向日葵に出てきたウメノという女性の関係性は同世代という事で持たせてみました。