[未完]名探偵コナンX相棒 首都クライシス 探偵たちの最期の決断 作:npd writer
「8歳で向こうに行ってから…、自分が向こうでどうも思われたのか分かってた」
瑛里華が握っている拳銃は震えていた。今、瑛里華は自分にとって苦痛で、恐怖だったあの日の出来事を鮮烈に2人に語る。
「ハッピーバースデー!」
7年前、まだ瑛里華が10歳だった頃のイギリス・鷺沢参事官別荘。その屋敷ではその日、参事官の令嬢であった瑛里華の誕生パーティーが開かれていた。招かれたのは参事官の友人やイギリス外務・英連邦省のアジア局に務めていた外交官やその家族だった。
当時、彼女の友人だった3人の少女は明るい声音で言うと、黄色い猿の人形を瑛里華に差し出した。
瑛里華は戸惑いながらも、「ありがとう」と言って、受け取ろうとするも途端に猿の人形を持っていた少女は、ホールの床に人形を落とした。
そして隣にいた長身の少女が言う。
「あら、せっかくあなたみたいなのを選んだのに」
そう言うと、3人の少女はスキップしながら階段の方へ向かう時、歌を口ずさむ。
「Big yellow moon♪Your turn is done♪」
ホールから2階に繋がる階段まで来ると、3人の少女は揃って瑛里華を指差して、馬鹿にしたような笑みを浮かべて言った。
「She is a big yellow monkey !」
3人は反省する素振りを見せずに階段を駆け上がり、2階に向かう。次にホールで談笑していた外交官や妻たちが、屋敷で働いている執事に案内されて同じく2階に向かった。
彼らは瑛里華を弁護したり少女らを止めることはおろか、瑛里華の存在すら気付いていないと言わんばかりに、彼女に一言も声を掛ける者はいなかった。まるで、瑛里華の存在を否定するかのように。
そしてホールで来客を迎えていたメイドたちも、小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、キッチンと入っていった。
「2年間、一生懸命努力してきたけれども、受け入れてはもらえなかった。それで、受け入れて欲しいって…、願いを込めて…」
7年前の記憶が鮮やかに蘇る。7年前の瑛里華の心には、殺意や自信を馬鹿にした人々への恨みはなく、ただ自分もみんなと一緒に遊びたい、偏見されたくない、受け入れて欲しい。そんな思いがあった。
そんな瑛里華はまさかコナーが渡したものが、後の自らの人生を変えるものだとは知らずにティーポットにシロップと聞かされていた液体状のものを注いだ。
「クローゼットから出た時は、ドキドキしてた…。世界が変わってるんじゃないかって…。でも……」
その後、瑛里華と3人の少女はかくれんぼをして、逃げる役の瑛里華は客間のクローゼットに隠れていた。しかし、見つける役の少女は中々現れない。瑛里華は、心労の疲れからか眠ってしまった。
時が経ち、いつまでたっても少女は現れなかった。もしかしたら、また仲間外れにされたのではないか。そんな思いで客間から出てみると廊下に一人、口から血を吐いたメイドが倒れているのが、目に映る。
驚いた瑛里華は、父にこの事を伝えるべくホールに繋がる階段を駆け下りると、そこには先ほどのメイドと同じく血を吐いた執事が階段に倒れ込んでいた。
まさか、と思いパーティーが開かれているであろう大広間に向かうとそこには、かくれんぼをしていた少女を始め、外交官やその妻、更に父の亡骸が残されており、皆一様に血を吐いてソファや床に倒れ込んでいた。
瑛里華はテーブルの上に、あのシロップを入れたティーセットだけが残されていたことに気付いた。ここで、自分が入れた液体状のものが魔法のシロップなどではなく、人を死に至らしめる毒物であることに瑛里華は勘付いた。恐怖でその大広間から逃げるように走って去ると玄関に、あのシロップを渡した、友人であるデニス・コナーが立っていた。
「これが君の望みか…。仕返しがしたかったんだね」
黒いコートを羽織り、黒い帽子を深くかぶったコナーは、ゆっくりと玄関から歩いてきた。その姿は、瑛里華には悪魔のように見えたのかもしれない。
「君を黄色いと嘲笑っていた友達、それを見て楽しんでしたメイド達。そして君のお父さんは、忙しくて君を助けなかった。皆に仕返しがしたかった」
コナーは瑛里華に顎に手をそっと添える。瑛里華は一瞬、自分が殺したであろう、この屋敷にいた人々の亡霊が背後に現れる気配を、感じた。
コナーは瑛里華の目線まで自身の体を屈ませると、瑛里華にそっと語った。
「この事は、誰にも言わないであげる。後でおいで、僕のところに」
そう言うと、コナーはコートを翻して去って行った。玄関に取り残された瑛里華はその後、警察が到着するまで呆然とホールに立っていた。
「私は…本当は仕返しがしたかったのかもしれない…。だから、こんな事になってしまったんだと思ってた」
瑛里華は弱々しく震えた声で右京と冠城に語った。それでも右京らに向けた、銃は下ろさない。
「いいえ。瑛里華さん、殺したのではコナーであって、あなたではない」
右京は瑛里華に穏やかな声で語った。瑛里華を刺激しないように、細心の注意を払いながら。
「いいですか。自分たちと違うからという身勝手な理由で、平気で人を傷つけ、排除しようとする人間はどんな国にもいます。勿論、この日本にも」
「コナーはあなたの傷ついた心に漬け込んで、あなたに呪いをかけたのではありませんか?あなたは、人殺しだと」
瑛里華は泣きそうになりながらも銃口を冠城から、右京に向ける。冠城は右京が狙われている状況により一層、警戒を高めた。
そんな冠城の不安を他所に、右京はゆっくりと瑛里華の方へ歩み寄る。
「あなたは、誰も殺してなどいない」
後ずさりする瑛里華に右京は追いつくと、左手で拳銃を握ってる瑛里華の手を抑え、右手で銃口を覆うようにしてそっと瑛里華の手から拳銃を抜き取った。
瑛里華は今までの緊張から解放されたからか、右京に手を握られたまま床に座りこんでしまった。その隙に、右京から拳銃を素早く受け取った冠城は、ジャケットの内ポケットにしまい込んだ。
「コナーは、なぜそんな事を?」
右京の横に立っていた冠城は、スマホを取り出しながら率直な疑問を右京にぶつける。
「身代金と引き換えに瑛里華さんを返した時に、何も喋らせない為でしょう。コナーは、彼女に完全に顔を覚えられていたでしょうからねぇ」
この後の話も、ここからの続きとなります。