[未完]名探偵コナンX相棒 首都クライシス 探偵たちの最期の決断   作:npd writer

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日下部がどうして()()()を憎んでいるのか、そしてそれが誰かが今回分かります。


71 日下部の怨念

「そうです。あの男はあなたにも関わりがあるはずです。絶対にね」

 

日下部は右京を見上げると、過去を探るような口調で言った。

 

「恐らく彼が最も憎む、公安警察関係者は……」

 

「公安警察関係者は!?」

 

コナンが口調を強めて聞くと、右京は全員を見据えると静かに口を開いた。

 

「官房長……。小野田 公顕 元警察庁長官官房室長、ですね?」

 

「……あぁ、正解だ。私が言ってきた男の正体は杉下警部の言う通り小野田官房長だ。今でも彼を思い浮かべるたびに憎々しい感情が蘇る……」

 

日下部があの男として憎んでいたのは、元警察庁長官官房室長で右京の元上司でもあり、警視庁篭城事件の直後に殺害された小野田だった。

 

「私の……私の、大切な『協力者』を犠牲にしたのはお前ら、公安警察。いや、公安警察を作り、力を強め、その上に立つ小野田が許せなかった……!だから、私はあの男を殺そうと!しかし、結果的にはこのようなことに……」

 

「やはり、そうでしたか」

 

「羽場さんはアンタの『協力者』だったんだね」

 

右京とコナンの言葉に、日下部は驚いて顔を上げた。

 

「な……なぜ、それを……」

 

「スマホの暗証番号だよ」

 

コナンは東京地方裁判所の廊下で日下部とすれ違ったときのことを思い浮かべた。

 

あのとき、ピッポッパ……とトーン信号が聞こえて振り返ると、日下部がスマホのロックを解除するために5桁の暗証番号を入力していた。

 

「あれは『88231』と打ち込まれた音だった。珍しくて気になったけど、入力する音を消してなかったのは忘れないため?『羽場二三一』をーー」

 

日下部は『違う……』と首を横に振り、安室を指差した。

 

「小野田へ、そしてコイツらへの復讐心を肝に銘じるためだ!」

 

敵意を向けられた安室は動じることなく、淡々と答えた。

 

「公安警察の『協力者』は全てゼロに報告され、番号で管理される。だが、公安刑事同士は互いの『協力者』を知らない。まして『協力者』を抱えている公安検事がいたなんて、7年前まで知らなかった」

 

「だからあのとき、私の『協力者』を簡単に切り捨てたのか!」

 

激しい怒りに肩を震わす日下部に、コナンは「なるほど」と言った。

 

「裏があったんだね。7年前、羽場さんが起こしたあの窃盗事件には……」

 

「あれは……」コナンを振り返った日下部は、地面に視線を落とした。

 

「私が羽場に頼んだんだ。『NAZU不正アクセス事件』の捜査のために……。そのアクセスデータが被疑者の出入りしていたゲーム会社にあると知った羽場は、それを盗み出そうとして……公安刑事に捕まったんだ」

 

「そしてこの捜査を極秘に指揮していたのが、小野田官房長だった」

 

右京の言葉に日下部は首を横に振るがその後に続けた。

 

「いや、正確には公安警察を動かしていたのは、小野田の命を受けた当時の公安部参事官。参事官は小野田の部下で彼からの指示で極秘に捜査を進めていた」

 

「何故、彼が極秘に捜査を進めたのか。私は気になって調べたのだが、小野田は日本の被疑者がアメリカの宇宙局のデータを盗んだ際、アメリカ空軍の極秘ファイルも一緒に盗んだ事に外務省からの連絡で気付いたそうだ。もしこの事が明るみになれば日本とアメリカの国益に大きな損害が出る、そう考えた小野田は自らは手を下さずに参事官に極秘に指示して間接的に公安警察を動かしていた」

 

「なるほど。そして公安警察は被疑者が出入りしていたゲーム会社に目をつけたという事ですね」

 

右京が言うと、日下部は頷き話を続けた。

 

「公安の『協力者』は、違法で危険な調査を余儀なくされる。だからこそ、公安と『協力者』の関係は、肉親よりも強くなる。決して金だけで繋がった関係じゃない。使命感で繋がった、まさに一心同体だ……」

 

そう言いながら、日下部は7年前のことを思い返した。

 

 

 

 

逮捕された羽場が拘置所へ移送されると、日下部はすぐに拘置所へおもむき、羽場と接見した。

 

接見室に現れた羽場は日下部と目を合わせることなく透明の防護板の前に座り、日下部は刑務官に目で合図をして本来はしない退室をしてもらった。

 

「……なぜ、私の『協力者』だと取り調べで言わなかった?」

 

羽場は顔を上げて日下部をチラリと見ると、首を小さく横に振った。

 

「私のミスで、あなたから公安検事の身分を奪うわけにはいかない」

 

日下部は思わず身を乗り出し、防護板に顔を寄せた。

 

「私のことより今は自分のことをーー」

 

「正義の身分を奪われるつらさを、私は誰よりも知っている」

 

羽場はそう言って悔しげに俯いた。

 

バンッ。日下部は2人を隔てる防護板を叩いた。

 

「頼む!自分の人生を考えてくれ!」

 

羽場は顔を上げると、防護板越しに日下部の手と自分の手を重ねた。

 

「自分の人生より、多くの日本人の人生の方がずっと大切だ」

 

「……!!」

 

それは、日下部が口癖のように言っていた言葉だった。

 

「いつも言ってた、あなたのその志は、私も同じだ」

 

それまでやつれた顔をしていた羽場が凛とした眼差しを向ける。日下部は何も言えず、奥歯を噛み締めた。

 

何が起ころうと己の信念が決して変わらないように、羽場の意志もまた、どう説得したところで変わらないーー日下部は悟った。

 

 

 

 

「それで?検察庁の公安検事が僕に何の用?」

 

羽場を解放するため、次に日下部が説得に向かったのが警察庁だった。その庁内でも各省庁や公安に顔が効き、ありえないことをやってのける人物と日下部が考えた時に、唯一思いついた人物がおり、協力を仰ごうとした。その人物こそ当時の官房室長である小野田だった。

 

長官官房室長室の革張りの執務椅子に座る小野田はデスクを挟んで立つ日下部を見据えた。日下部は小野田の真意を読もうとするが、彼の仏頂面な面構えからそれを読み取ることを難しく感じていた。

 

「官房長の力をお借りして現在拘置所にいるこの人物の解放にご尽力いただけないかと思いまして」

 

日下部は持参した鞄からファイルを取り出すと中身を取り出して小野田の机に並べた。そこに書かれていたのは勿論羽場に関することだった。

 

「公安検事である君の頼みだからてっきり公安の事件の再捜査だと思っちゃった。要は、この人を自由にしてほしいってこと?」

 

「はい。政界にも太いパイプを持つ官房長なら事務次官や法務大臣に顔が効くでしょう。どうか彼を解放してください」

 

日下部は恥も顧みることなく頭を下げた。羽場を解放するためならどんな手を使ってでもやり遂げなければ、そんな固い信念に日下部は動かされていた、いや犯されていたのかもしれない。

 

「多分、無理だね。できたとしても今度は我々が非難を受けちゃうかも」

 

その言葉は唐突に発せられた。それと同時に日下部が抱いていた希望に小野田は意識か無意識か大きな風穴を開けたのだった。

 

「む、無理とは?」

 

「だってこの羽場っていう人、もう起訴されるよ?」

 

その唐突すぎる言葉に唖然とした日下部は激しく狼狽し小野田のデスクにバンッと音を立てて両手を置いた。

 

「あれは羽場のせいじゃない!私が……私が、指示したことだ!事件にしたいのなら羽場を起訴せずに私を逮捕すればいい!」

 

「そんなに自分の主張を通したいのなら今すぐ検察庁に行けばいいじゃない。ここで僕を怒鳴っても何も変わらないよ。それは君でも分かるよね?」

 

感情的になる日下部に対してあくまでも小野田は冷静にいつも通りに返す。仏頂面の裏に隠されたしたたかな言動や先を見透かしたような振る舞い、小野田が得意としてきた話し方に日下部は振り回され、すっかり冷静さを失い、荒々しく部屋を出て行くとそのまま東京地検を目指した。

 

 




日下部検事がどうして小野田をあんなに恨んでいたのか少しでも分かっていただけたら幸いです。

因みにまだ日下部と小野田のエピソードはまだ少し続いていきます。
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