[未完]名探偵コナンX相棒 首都クライシス 探偵たちの最期の決断   作:npd writer

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小野田官房長と日下部検事の関係が決定的になるエピソードです。

どうして日下部検事が小野田官房長をあんなに憎んでいるのかここで判明します。


72 小野田官房長

荒々しく小野田の部屋を後にした日下部は警察庁を出ると一度深呼吸をした。気分が荒れている時や落ち着かない時はこうして深呼吸をして体の空気を入れ替えることで冷静さが戻ってくるのを日下部は理解していた。

 

 

 

 

羽場の窃盗事件を担当する紗世子に全てを話すことを決意した日下部は、東京地検のエントランスホールが見渡せる通路に紗世子を呼び出した。

 

「羽場は私の協力者だ。彼が窃盗事件を犯したのも私がーー」

 

「それでも彼を起訴します」

 

「何!?」

 

エントランスホールを見下ろしながら話していた日下部は、驚いて紗世子を振り返った。

 

「まさか公安警察、いやその上の小野田官房長からのーー」

 

「安心して。彼の口からあなたの名が出ないよう、裁判はうまくやってみせるわ」

 

そう言って笑みを浮かべた紗世子は、ポンと日下部の肩に手を置いた。

 

「そんな話をしてるんじゃない!」

 

日下部に手を振り払われた紗世子は、平然とした顔で歩いていった。

 

 

 

 

後日、日下部は公安警察に直談判しようと警視庁へ向かった。既に小野田からの圧力がかかっていると思うが、彼ではないぶん、話がしやすくなると日下部は考えていた。

 

正門を通ろうとしたところで、ポケットのケータイが震えた。紗世子からだ。

 

「はい」

 

『羽場が自殺したわ』

 

「……は?」

 

日下部は思わず持っていた鞄を落とした。

 

『理由はわからないけど、拘置所で公安警察が異例の取り調べをしたすぐ後にね』

 

プツッと電話が切れて、日下部の手からケータイが滑り落ちた。

 

がくりと膝をついた日下部の眼前に、そびえ建つ警視庁があるーー。

 

その場にうずくまって、日下部は絶叫した。

 

 

 

「ちょっと、お待ちください…!日下部検事!」

 

怒りに震える日下部はすぐに警察庁へ向かうと秘書の制止を無視し、官房室長室の扉を音を立てて開けた。

書類にサインをしていたのか万年筆を持っていた小野田は突然の来客にも戸惑うことなく応対する。

 

「ちょっと、入る時にはノックぐらいしてくださいよ。それがマナーってやつじゃない?」

 

そう言い、小野田は手で合図して秘書へ退室するよう命じた。秘書は一瞬、小野田と錯乱状態の日下部を2人だけにするにはリスクだと考え引けずにいたが、小野田が凄みを効かせた目つきで秘書を見つめたため彼は気後れしつつも一礼して扉を閉めた。

 

無論、直後に彼がSPの応援を要請したのは言うまでもない。

 

 

 

「それで?アポなしで今日は何の用ですか?」

 

「とぼけないでもらいたい!あなたなら今日、拘置所で誰が死んだか情報が入ってきているだろう!」

 

喧嘩腰でくる日下部に対して小野田はとぼけた感じで応対した。

 

「拘置所って言っても東京だけじゃない。君はニュースに出てくる人の名前全て覚えられますかね?無理でしょ?人の脳ってそんなに物事を覚えられないようになってるんです。しかも僕って人並みより記憶力はないよ。だからちゃんと名前を言ってもらわないと誰のことか僕は分からないね」

 

「羽場二三一のことだ!知らないとは言わせないぞ。なにせ、あんたには数日前に聞かせてやったんだからな!」

 

羽場は鞄から再びファイルを取り出すと見せびらかすように小野田の机の上に投げつけた。

 

「彼は今日、拘置所で自殺した!お前が作り上げた公安警察のせいで!どうしてくれるというんだ!?」

 

怒り狂う日下部に対して小野田は執務椅子に座ったまま、何も言わなかった。肩で息をしている日下部をずっと見つめたまま、反論もすることもなくただ見つめているだけ。

 

 

 

 

やがて長く重々しい沈黙を破るように小野田が口を開いた。

 

「まず最初に公安警察は僕が作ったんじゃない。僕は助言したにすぎません。そもそも長官官房室は事務方、彼ら公安警察に文句を言いたいならうちの警備局か警視庁の公安部に行って説明した方が筋ってもんでしょ?」

 

「もう羽場氏の身柄はそちらに送ったはずです。ですから後の対処は全てそちらにやっていただきたかったんだけど、やっぱり不満?それに彼はもう犯罪者、犯罪者を捕まえるのが我々の仕事です。いくら君の『()()()』であっても犯罪を犯した人間を釈放するよう要求するなんて馬鹿馬鹿しくない?」

 

「貴様、羽場が『協力者』と知っていて……!」

 

「この一件で公安警察の事が明るみに出たらこの国の安全が損なわれ、人1人を失う以上に日本という国家が危ぶまれるもっと危険な事が起きるはずです。僕の責務はこの国が繁栄を続けられるよう、警察という組織がこの国のために成すべき任務を全うできるようにすることです。君に言うには酷かもしれないけど、人1人の命と約1億人の国民の命と国家、天秤にかけた時にどちらを取るのが有益なのか、君だったら分かるはずです」

 

「無論、僕の主張が全面的に正しいなんて思っちゃいない。そもそも、全面的に正しい人間なんてこの世にいない。つまり、日下部検事。あなたも()()()()()。なのに、それを自覚していない分、タチが悪い。まさか、絶対的正義がこの世にあるなんて思ってるわけじゃないよね?正義なんて人の立場で変わるんだから」

 

反論しようとする日下部の思惑を壊すように小野田は畳み掛ける。いつもの軽い口調は消え、彼から放たれる真剣な言葉は日下部の壊れかかった心に沈んでいく。

 

 

小野田 公顕と言う人物は、どんな時でも日本のために尽くすことを誇りに思っており、その為なら殺人事件であろうか、横領事件だろうが国の利益になり得ることは目を瞑るのが彼のやり方だった。そしてそれを切り札として各省庁に蔓延る古い官僚たちを一掃し、警察庁に大きな貸しを作るやり方で警察庁の力は増大していった。

 

やり方はどうであれ、それが小野田が長年権力の中枢に居座るまでそしてその後小野田が取ってきた常習手段だった。その一端が日下部に触れたに過ぎなかったが日下部の中の憎悪を増大させるには格好の材料となっていた。

 

 

 

「官房長、そろそろお時間です」

 

再び、2人がいる長官官房室が重々しい空気に包まれた頃、先程退出していった秘書がドアを遠慮がちに開けて中の様子を伺いながら尋ねた。小野田は秘書に一言礼を言うと席を立ち、去り際に言った。

 

「これから私は隣に行きます。長官同席の中、実行役の神輿を担ぐ私がいないと色々不便になるでしょうから。この話はここまでに。あ、あとこの件で一々私どもに来られると応対できかねますから、次からアポを入れてくださいね」

 

そう言うと、小野田は今度こそ部屋を出て行った。1人取り残された日下部は去っていった小野田の方を見ることはなかったが、小野田のデスクに両手を叩きつけるとドアを荒々しく開けて彼も去っていった。

 

 

 

その日は奇しくも警視庁と警察庁の溝が決定的に深くなる事となる『警視庁 人事刷新案』が警視庁に提出された日であり、小野田が殺害される直前の出来事だった。




こうして見ると小野田官房長は、様々な敵を作りながらも自分の信念のために行動している、右京さんに近い人物ですね。

相棒の中でも裏で暗躍したり、特命係の味方になってくれたりと面白い展開を見せてくれた官房長はもういないと考えるとやっぱり寂しいです……。
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