夢日記 作:どりーまー
今後は覚えている限り書くことを善処することを前向きに検討したいと思います。
ちなみに一年間でだいぶ夢の趣向が変わりました。
気が付くと、私は大阪に居た。
周りを見渡せば雑多な繁華街が広がっていて、行き交う人もまた旅人のようだった。
この場所には来たことがないし、ここに来る以前の記憶も失われている。けれどここがどこで、私がどこに行くべきかは分かりきっていた。
東京へ行け。
なぜ東京なのかには疑問を挟まず、心の声に従って、私は駅へと足を向けた。
雑多で静寂な繁華街を背にすると、どんよりとした空を貫くような摩天楼が見えた。
右手には、新幹線の切符が二枚握られていた。
一枚は私のものだ。もう一枚は──ノイズが走る。
迷うことなく、真っ直ぐと歩く。不思議なことに駅までの道は分かっていた。いや、歩くたびに道が生まれ、私の前に道が出来ていくのだから当然だった。
駅に辿り着く。名もない駅は学生とサラリーマンの波で溢れていて、私はそこをぼうっと眺めていた。
瞬きを一つ。
人波は消え去り、そこに残されたのは私を除きたった一人の少女だった。
その少女は、私が苦手なタイプの人間だった。こんがりと焼けた健康的な肌、それと対照的な明るく染められた長い金髪、第一印象は分かりやすい『ギャル』と言ったところだろうか。
しかし決して毒々しい派手さは無く、シンプルな夏服と、手首にアクセサリーがワンポイントあるだけ。
何か困ったように携帯を見つめながら眉根を寄せる少女は美しく、活発そうな格好とは裏腹に静謐を伴った美を感じた。
君は誰か。
そんな事を聞く必要は無かった。ゆえに、私は代わりに尋ねる。
「どうかしたのか」
普段なら、こんな風に話しかけるなど考えもしないし、考えたとしても絶対に実際に行動はしないとは理解していた。
少女はこちらを見た。
遠目からは分からなかったが整った顔立ちに青い瞳が付いていた。大きくパッチリと開いたその瞳は、どこまでも深い海を思わせるサファイアブルー。
神秘的なその姿はまるで夢のようで、私は思わず息を飲んだ。
「────東京へ」
少女から零れた言葉は、この一言。
鈴のように透き通ったその声は、ぼんやりとしている私の脳髄を撃ち抜いた。恋や愛ではない。ただ純粋に、彼女という存在に心が引き寄せられ、焦がれた。
たった一言に含まれた意味は、私にはすぐに理解できた。
右手に目を向ければ、そこには新幹線の切符が二枚。
「九州ではなく、東京?」
私はなぜそんな事を聞いたのだろうか。少女は目を細め、楽しそうに笑いながらこちらを見据えた。
ふるふると首が横に振られ、それに伴い金髪がふわりと揺れた。
私は少女に切符をぶっきらぼうに渡した。
少女は私から切符を笑いながら受け取った。
そして少女は意地悪い笑みを浮かべながら、こちらに鞄を突き出してくる。
ケラケラと笑いながら私はそれを受け取り、肩に掛けて走り出した。
「急げ」
空っぽになった駅の構内を走る。
通路を抜け、階段を飛び降り、改札に乱雑に切符を通し、ホームへと駆け抜ける。
「山手線」
隣で並走する少女が笑った。大阪の駅であるにも関わらず、そのホームからは山手線の電車が発車していた。
その電車を踏み越えながら、私達は別のホームへと駆け抜ける。
走る抜けた先には、真っ白な新幹線が止まっていた。繋ぎ目が無く、他の色は一切塗られていない、本当に真っ白な新幹線。
無駄の省かれたその電車に私と彼女は乗り込んだ。乗ったと同時、発車のベルが鳴り響いて扉が閉まる。
私達は顔を合わせて笑いあった。走って来たけれど不思議と暑さは感じられず、疲労すらなかった。
「行こう」
座席の方へ歩き出そうと振り返る少女から、ふわりと柑橘のような香りがした。
周りに誰一人いない車両の中、少女は既に座席からこちらに手を振っていた。
少女の姿を目印に座席へと向かう。
座席に着くと同時、眠気に似た疲れが突然襲う。
瞼が重い。
抗う力も湧かず、瞼が少しずつ、少しずつ閉じていく。
最後に横目で、隣に座る少女の方へと目を向ける。
にこにこと笑いながら、こちらを見ていた。
その姿に安心しながら、私は意識を落とした。
目が覚めた。
──家、か。
無頓着に北枕に置いたベッドのスプリングを軋ませながら立ち上がると、窓から見慣れた風景が見えた。
先ほどまで新幹線にいたが、いつのまに帰って来たのだろうか。
「あ、起きた? おっそー」
振り返る。
そこには、変わらず制服に身を包む少女の姿。
なぜ、お前がいる。
にひひっ、と意地悪く笑う彼女の姿に見惚れる。アップにした髪から覗く首筋まで健康的に日焼けしており、それでいて艶やかであった。
その姿に再び心臓が高鳴った。
細められた目から覗く青い眼。
愛らしくも美しい笑顔。
そしてふわりと漂う柑橘の香りは、妖しい色香。
こちらへと伸ばされる、嫋やかで細い指先。
呆然とする私へと迫る少女の手では、薄く塗られた桃色のネイルが艶を帯びて淡く朝陽を反射していた。
掌は私の目元へと向かって来て、目を覆い────
目が覚めた。
夢はいくつも重なる。
皆さま良い夢を。