東方短編集もどき   作:青い隕石

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山姥の孤独(後編)

 突然であるが、山姥という種族は妖怪の中でも一、二を争うほどの出不精である。

 

 自らの縄張りを決めた後はほとんどその範囲から出ることなく一生を終える。趣味といったものなければそもそも家の中から出ない者も少なくない。非常に排他的であり、仮に縄張りに近づこうものなら、同種族である他の山姥に対してさえ容赦しない者もいる。

 

 自分はそれなり(山姥基準)に出歩くため、縄張り内に入ってこようとも迷惑をかけて来ない限りはこちらから手を出さないようにしている。まあ、出歩くといっても妖怪の山、またはその近辺まででありそれ以上離れることはまず無いと言っていい。

 

 理由は簡単である。

 

 狩りの対象は山の敷地内に、それこそ掃いて捨てるほどいる。また、幻想郷内屈指の危険度を誇るためか、その分獲物も逞しく育っており、中々喰い応えのあるものが多い。

 それに比べると、他の地域にいる猪や熊などは肉も少なければ味も良くない。天敵が少ないためか軟弱な生物しかおらず、とどめに数もそれほどいない。

 

 要は、身近な絶好の狩場と、遠くのいまいちな狩場のどちらを選ぶかという話である。選ぶ必要のない選択肢とはまさにこのこと。必然的に行動範囲も広げる必要が無くなり、家にいる、山中をうろつく毎日を過ごすこととなる。

 

 さて、そんな自他ともに認める引きこもりの自分だ。今日のように、用事があるとはいえ山を離れるのは大変珍しい。そして、珍しいものを見た場合に黙ってはいない者がいるわけで・・・・・・。

 

 「それではネムノさん、出不精のあなたが外出をする理由についておひとつお聞かせ願えませんかね?」

 

 ずっと前から引っ付いてくる烏天狗が再び同じ質問を繰り返してくる。

 

 先ほど言った『迷惑を掛けない限りは此方からも手を出さない』というラインを全速力で駆け抜け抜けラインを足で消してくるこの女。山を出てしばらくしてから不運にも鉢合わせしてしまい、以来ずっとメモ片手に離れようとしない。

 

 追い払おうにもスピードでは周回遅れにされるほどの差があり、武器に関しては正に今取りに向かっている最中(あっても勝てないが)。手で追い払っても文字通り蠅のように追ってたかってくるため、せめてもの抵抗として最低限の会話以外は無視をすることにした。

 

 最も、彼女は自分が言葉を返そうがだんまりを決め込もうがマシンガントークを展開してくる。しかも会ってからずっと現在進行形で。この烏、一定時間話さなければ死ぬ呪いにでもかかっているのだろうか。それならば是非ずっとだんまりをした後にくたばって欲しい。私に平穏が訪れる意味で。

 

 というより、いつも飛び回っているがこいつは仕事をしているのだろうか。縦社会に属しているはずなのに、仕事をしている姿を見たことがない。サボっているのだとすれば、それなりに親しいあの白狼天狗に報告でもしてみよう。そして首になってしまえ。次いつ白狼に会えるかは分からないが。

 

 「・・・・・武器の修理が終わったてな。取りにいくだげだぁ」

 

 「あやや、山の外ということはいつもの鍛冶屋以外ですか!いやー、キングオブ引き込もりの坂田さんにそんな人脈があったとは驚きですね。して、その鍛冶屋さんとはいったいどのように知り合」

 

 「ちょっと面借りるべ」

 

 騒がしい烏の頭をふんずと掴む。自覚しているのはともかく、他人に言われるのは少し思うところがある。ましてや、相手がこいつなら6割増しでいらつく。

 

 ぐぐぐ、と右手に力を入れてアイアンクローを決めるが、相手は「あややや、痛いですねー」とのんきな声を出しながら、すぐに拘束から脱出された。押しても引いても離れてくれない。貧乏神に付きまとわれるのはこんな感じかと一人愚痴る。

 

 「ちっ・・・・・・ついてくるのは構わんが、邪魔はすんなべ」

 

 「おや、意外ですね~。いつもならもっと抵抗してきますのに、いやーお優しい!やっぱり、『この子』がいるからですかね~?」

 

 ニコニコ顔で許可を貰えたことを喜ぶ彼女。鉈があったらいますぐ振り下ろしたい衝動に駆られるが、寸前のところで顔に出さずに留めた。

 

 ・・・・・・我ながらいつもより我慢強い対応だと思う。その原因もはっきりと分かる。

 

 ちらっと視線をやや後方に向ける。烏天狗の横・・・・・・腰あたりにぎゅっとしがみつきながらやや怯えた顔でこちらを見ていた『人間の少年』とばっちり目があった。

 

 瞬間、体を強張らせて天狗の体の陰に隠れる。そのままじっと見ていると、少しずつ、少しずつ顔を覗かせ、

 

 「け、喧嘩だめ・・・・・・お姉ちゃん、たち・・・・・・」

 

 と、小さな声で呟いた。

 

 考えなくともわかる。ちらっと烏天狗に視線を戻すと、ペロっと舌を出した表情で返された。

 毎度のことながら、人里離れた場所で少年を見つけ保護をしたらしい。その後、さあ家に帰ろうかという時に自分を見かけ、少年もろとも連れてきたとのことだ。

 

 人里からかなり距離のある場所で見つけたと聞いたため、自分の意思で離れたとは考えにくい。跡継ぎの必要性から長男は特に大事にされるため、大方、この子は次男で口減らしのために泣く泣く捨てられたか、と思案する。

 

 まだまだ親の愛情を受け、守られるべき年齢だ。心に負った傷はいかほどのものか、妖怪である自分には図ることが出来ない。

 

 「・・・・・・そんで、そんた子供さ手どごだすべでいうのが(手を出そうというのか)」

 

 「あや、心外ですねえ。私はトラウマを負った子供の心が癒えるまで保護しているだけですよ。それに、少年と言えど男性ですからねぇ。癒す方法といったら、ねぇ♪」

 

 だらしない笑みを浮かべる天狗。どうみても犯罪者そのものである。

 

 「いやー、大丈夫ですって!あってから少しの間にこの子もずいぶん私に懐きましたし、あとは連れて帰ってからおいしく頂きながら少しずつ・・・・・・あれ?」

 

 熱弁を振るう彼女だったが、『おいしく頂く』あたりの発言をした瞬間、腰にしがみついていた少年がばっと離れた。

 そのまま反対側にいる人物、つまり私にぎゅっとしがみついてきた。

 

 「や、やだ・・・食べないで・・・!」

 

 ・・・・・・おびえる少年の頭をぎこちなくもやさしく撫でる。触れられた時にびくっと体を揺らすも、その後はされるがままに体を寄せてきた。

 

 少しだけ安心の笑みを見せた少年を見ながら、固まっている天狗を見返す。

 

 「『この子も随分私に懐きましたし、あとh』」

 

 「声真似しながら蒸し返すのやめていただけませんか!?」

 

 随分と少年に懐かれている彼女(※自称)が涙目になっているのを見て、一矢報いることが出来たととりあえず満足した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いらっしゃーい!・・・ん、前より賑やかね山姥さん」

 

 「あー・・・出来れば無視してけんろ」

 

 1か月前より大所帯となっての来訪に鍛冶屋の少女、小傘が目を丸くする。彼女の中でも山姥は孤独が好きという認識らしく、自分と一緒に店に入ってきた2人を見て驚いた表情を見せた。

 その内、人間の子供を視界に入れてぎょっと自分と顔を合わせようとし・・・・・・その途中で烏天狗を見て納得したような表情に変わった。

 

 「博麗の巫女さんに言っておくね♪」

 

 「まあ待ちましょうか多々良さん」

 

 いざ家から出ようとする小傘の肩をがっちりと掴んで阻止する烏天狗。どうやらこの烏の蛮行は幅広く知れ渡っているらしい。ざまあみろと思った私は悪くない。むしろみんな思え。

 

 ぎゃーぎゃーと騒いでいる妖怪どもを尻目に、視線を下げる。

 

 黒髪に少しボロボロになった和服。未だに怯えてはいるが幾分落ち着いた顔を見せる少年。

 

 道中、烏から離れたこの少年は鍛冶屋につくまでずっと自分から離れようとせずにくっついていた。出会ってからここに着くまでにそこそこ距離があったためか、途中で足が棒になる時もあり、自分がおんぶをしたり抱えたりすることで解決した。

 その度に烏天狗から羨ましそうな視線を頂戴したが、どこ吹く風で無視してやった。この天狗は一度因果応報という言葉を胸に刻むべきである。

 

 しゃがんで目線を合わせて少年の頭を撫でると、困ったような、照れたような表情になった。

 ふっと笑っていると、いつの間にか取っ組み合いをやめた小傘と目が合った。

 

 「どした唐傘?」

 

 「あー、いや・・・・・・、前は人間に対してあまり良く思ってなかったからちょっと意外で」

 

 ぽりぽりと頬を掻きながら言葉を選んでいる小傘。はぁ、と息を吐き彼女に少年を渡した。あっ、と不安そうに呟く少年の声が耳に届く。

 

 「大丈夫だ。そこん烏と違ってこの傘はおめえば食べねぇ」

 

 「私の扱い雑すぎませんかねえ!?」

 

 「鍛冶屋。すまねが人里行く時さこの子どご連れで行ってくれねが?」

 

 「おっけー。大丈夫だよ僕、もう少ししたら慧音先生っていう優しい人の所に連れてくからね♪」

 

 笑顔で引き受ける小傘の声を聞き、少年が明るい表情を見せた。親に捨てられた可能性がある以上、一旦は里の権力者に預ける方法は得策だと感じる。小傘もそれが分かっているから、けいねとやらに頼むつもりなのだろう。

 

 すぐに彼女の方に寄っていった少年を見ながら、内心で小傘への評価を上げた。

 

 初対面の子供の警戒心を解き、すぐに打ち解けられる存在。妖怪の身でベビーシッターとやらを任せられているのも、彼女の性格によるものなのだろう。

 

 隣でorz状態になっている天狗は見ないことにした。何度でも言おう。ざまあみろ。

 

 「それじゃあこれ、依頼されてた品ね。」

 

 小傘が奥から鉈と解体包丁を持ってきた。取りに来るだけだったのに、誰かのせいでえらい時間を喰う羽目になった。

 

 先に料金を支払い、その場で覆われていた布を外す。それと同時に『ほぅ・・・』と自然に息が漏れる。

 

 そこには、見違えるほど状態が良くなった得物あった。刃こぼれが修理されていたのはもちろん、刀身から持ち手部分に至るまで傷や汚れが落とされており、光沢が輝いて見える。

 

 さながら新品同様の出来栄えに自然と称賛の言葉が漏れた。

 

 「いい出来だな。」

 

 「でしょ?曲がりなりにもこれで稼いでるからね~」

 

 ふんと力瘤を作ってアピールする小傘を端目に見ながら刃物を再び布に包んだ。正直、今まで贔屓にしていた鍛冶屋と比べても遜色ない。おまけに、店を開いたのは比較的最近だというではないか。なるほど、前の鍛冶屋が絶賛していたのも頷ける。

 

 他の者を見かけで判断してしまう癖を自覚ながら、小傘に礼を言って背を向けた。

 

 用事は終わった。後は帰るだけだ。

 

 そう思い、小屋の扉を開けようとした所で後ろから呼び止められた。少年の声だ。振り返ると、警戒心が幾分落ちて年相応の顔になった彼がいた。

 

 伏見がちになりながらもこちらを見て、少年は大きな声で言った。

 

 「あ、あの・・・・・・ありがとう、ございましたっ!」

 

 ぺこり、と頭を下げられる。妖怪に対する恐怖の感情が残りながらも、お礼を言う少年。

 

 ・・・無意識に自分の胸を押さえかけた。すぐに離し、少年に手を振った。

 

「元気でな、少年」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネムノが小屋を出てから1時間が経った。仕事が一段落して商売道具の整理整頓をする小傘。居間にちょこんと座る少年。その少年に近づこうとするたびに小傘に止められる文。

 

 人間と妖怪が一つの家の中で一時的とはいえ一緒にいる光景。それが妖怪の賢者が望んだ光景なのかどうかは、まだ分からない。

 

 「でもさ、意外だったね。あの山姥」

 

 「あや?何がですか?」

 

 「だって、前来た時は人間を毛嫌いしている節があったからさ、さっきみたいに優しく接しているのが意外でね」

 

 ちらっと子供の方を見ながら小傘が呟く。

 

 幼さが十二分に残る顔立ち。未だ力を持たずに保護される立場。そんなものに対しても、牙を剥く者、人間だからと毛嫌いする者が少なくない。

 

 初めて会った時の会話から、小傘はネムノのことを人間嫌いの妖怪だと推測した。しかし、今日会った彼女は不格好ながらも少年のことを気にかけ、相手をしていた。とてもではないが負の感情を持った相手に出来ることではない。

 

 1か月という期間で考えが変わったかとも思ったが、人間はともかく妖怪にとっての1か月はかなり短い。少しならともかく、人間に対する感情をひっくり返すほどの変化が起こったとは考えられない。

 

 悩む小傘。それに対し、文はため息を吐いた。

 

 「多々良さん。ネムノさんはずっと、こっち側ですよ」

 

 「こっち側?」

 

 「『人間に好意を持つ妖怪側』ということです」

 

 「えっ!?」

 

 小傘は、文の発言に吃驚した勢いで仕舞おうとしていた金槌を落としかけた。慌てて何度かお手玉し、無事に再び手の中に収めることに成功する。ほっと息を吐き、後ろに立つ文に視線を向けた。 

 

 「全然そういう風には見えなかったなあ・・・・・・じゃあ!」

 

 

 

 「駄目です」

 

 

 

 小傘の発言を文が遮った。普段めったに見せない真顔をした文と視線がぶつかる。急に話を切られた小傘は少しの間固まり、いったん唾を呑み込んだ。

 

 「・・・・・・どうして?」

 

 「簡単な話です」

 

 首をかしげて問う。彼女にとって人間好きの妖怪は貴重な仲間だ。未だ昔ながらの考えを持つ妖怪が多く、自身も比較的新参者故、人間について語ろうと無視されることが少なくない。

 

 山姥は妖怪の中でも古参に分類されるほど長寿であり、昔から存在する種族だ。是非とも交流を深めたい。

 

 それを、文はにべもなく断った。

 

 彼女からすれば、当然だ。坂田ネムノという人物を知って、1000年近く見てきたのだから。

 

 だからこそ、文ははっきりと言った

 

 「ネムノさんが、人間を愛する妖怪だからです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山姥は、縄張りに入り込んできたものに対しては容赦しない。ただし、『人間の子供』が迷い込んできた場合は事情が異なる。

 

 子供でも容赦なく喰らうものが9割を超えるが、ごく一部の山姥は子供を保護することがある。そして、一人で生活できる年齢になるまで、育て上げる。

 

 彼女も、そのごく一部の山姥だった。いや、大人の人間が入り込んでも追い返すだけに留めるあたり、妖怪の中でも極めて異質の存在だった。

 

 2000年ほど前、初めて子供が縄張り内に迷いこんだ。人間好きの彼女は自らの手で育て上げた。

 

 山姥の自分と一種に暮らしたからだろうか、独り立ちするころには妖怪なんぞ返り討ちにするほど逞しい存在になった。去り際彼はお礼を言った。

 

 「ありがとうございました!このご恩は絶対に忘れません!いつか、必ずお礼を返しに来ます!」

 

 手を振って山を降りる彼に、自分も手を振った。笑顔の彼を見て、彼を育てた自分が誇らしい気持ちになった。

 

 

 

 

 

 数年後、彼女は、山のふもとで変わり果て、事切れた彼を発見した。

 

 その頃、『妖怪に育てられた人間もどきが里の者どもに殺された』とのうわさが人間の村落で話題になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「分がるんだ、今ど昔は違うって」

 

 彼女は呟く。何かに訴えるように。

 

 「天狗が何度も子供とこ保護し届げでらんだ。今の人里は違う」

 

 彼女は呟く。自分に言い聞かせるように

 

 「・・・・・・だめだなぁ、やっぱ。本当さ弱え」

 

 彼女は呟く。胸を押さえながら。

 

 後悔をした回数は数えきれない。涙ははるか昔に枯れ果てた。それでも、『彼』の表情を思い出すたび、どうしようもなく胸が痛む。

 

 雲に覆われた空を見上げる。そこに何もないと分かっていながら、彼女は静かに見つめ、そして首を振った。

 

 

 

 「自分が関わらねば、お前さ幸せになったのでねが・・・・・・?」

 







ネムノさんが排他的な理由を、『山姥だから』以外で考えようとして生まれた作品です。

ちなみに前編を投稿した時は小傘を登場させる予定がありませんでした。
中編を投稿した時点では、後編のオチが全く違うものでした。

小説書くって難しい(白目)

次作品は
・カナ&こいし
・秘封倶楽部
・かぐもこ

のいずれかにする予定です(予定は未定)


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