東方短編集もどき   作:青い隕石

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前作『道祖神らしく』の続き的な何かです。

馴子ちゃん可愛いよ馴子ちゃん


なぞなぞを求めて

 

 

 

 「……むむっ」

 

 微かな唸り声が喉から漏れる。

 眉間にはしわが寄り、口は固く閉ざされ、身体は綺麗な三角座りの体勢2時間以上キープしている。

 

 人里近くに建てられている、比較的大きな休憩小屋。

 人も神も自由に扱える事で、様々な者が訪れるその建物の片隅に私は座っていた。

 

 身体は動かない。しかしそれに反するように頭の中が大回転をしていた。

 

 私の目線の先には、見開いた状態の一冊の本。

 手に持つそのページ総数は、およそ200ページほど。その冊子を捲る手が数分ほど止まっていた。

 

 読んでいないわけではない。内容自体はとっくに読んでいる。その内容の『答え』を導き出せていないからだ。

 

 額から静かに流れ落ちる汗。その輝きが、この長時間の激戦を物語っている。

 劣勢も劣勢。しかし、諦めるわけには行かない。

 

 ……などとカッコ良い言葉を並べてみたけれど、(はた)から見れば滑稽極まりない光景だろう。

 

 私がその手に持っている本。その表紙タイトルは次のようなものだった。

 

 

 

 『子どもに人気!なぞなぞ大全集!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は数週間前に遡る。

 

 少年から正論という名の言葉の刃を受け、これを機になぞなぞのレパートリーを増やす決意を固めた。

 なぞなぞは私の趣味。今までは出す相手自体が皆無だったが、今では人通りがそこそこある道の道祖神を担っている。

 

 人が通れば挨拶となぞなぞは欠かせない。私的には欠かせない。

 挨拶に関しては、最悪毎回同じ言葉でも違和感はないけれど、なぞなぞとなれば毎回同じでは流石に飽きられてしまう。

 実際、少年には3回目であの対応をされた。泣きそう。

 

 そうなれば、どうするべきか?

 

 ぱっと思い浮かんだのは、単純にレパートリーを増やすことである。

 会うたびに違うなぞなぞを出してくるとなれば、飽きられることはない。

 

 むしろなぞなぞを求めて子どもたちが殺到、私は晴れて大人気の神様に!えっへん!……という皮算用まで振り切れそうになり、一度冷静になった。

 人間は好きだし、特に子どもは大好き。少年少女の笑顔を見るたびに、こっちの気持ちまで明るくなる。だからこそ、私のなぞなぞでみんなを笑顔にしたい。

 

 では、問題はどこから仕入れるか?

 その回答に関しては、実はアテがあった。

 

 「……と、いうわけなの小鈴。良い本ないかしら?」

 「なる程ですね~。それならば……よし、少々お待ちを……」

 

 場所は人里。その一角にある鈴奈庵という貸本屋に私は足を運んでいた。

 ピンク髪の店員、小鈴さん。道祖神活動をしている内に知り合い、たまにお供え物をしてくれる救世主のような人間である。

 

 人里に赴いたときは、予定が合えば駄弁ったり一緒にお茶を飲んだりしている、あの巫女や魔法使いとはまた違った意味での友人だ。

 ともあれ、今回は友人としてではなく客として来た訳ではあるけれど。

 

 小鈴さんの捜索は数分ほど続き、店の角にある本棚を見ていた時に終わりを迎えた。

 

 「あ、ありました!こちらになります。貸出にしますか?買い取りにしますか?」

 

 目線の高さに収められていた本が取りされ、カウンター机の上に置かれる。

 

 私が求めていたなぞなぞ本。その一冊が目の前にある。

 レパートリーを増やすなら本。そして本といえば小鈴の店。私の目論見は大当たりだった。

 

 悩んだ末に貸出を選択し、期間や取扱上の注意事項を伝達されて、晴れて本は私の手に渡った。

 

 心の中の喜びが表情にも出てしまったのか、小鈴が苦笑してきた。

 

 「ふふっ。相変わらずね、馴子。なぞなぞの事になるといつも笑顔ね」

 

 貸出手続が終わり、接客モードから友人モードに切り替わった彼女の言葉に、私も笑う。

 

 「人里の皆も馴子の事を悪く言う人いないし、大人気ね。特に子どもたちには結構囲まれてるじゃない。去年来たばかりなのに、本当に馴染んじゃったわね」

 「えっへん!子どもは特に好きよ。だから向こうから寄ってきてくれると本当に嬉しいの。じゃ、早速アップデートしてくるわ。また今度お茶でもしましょう、小鈴」

 

 またね~と手を振る小鈴に振り返し、店を出る。

 手に持った本を胸に抱き、これで私もなぞなぞ王!と上機嫌で人里の出口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今に戻る。

 

 早速読破するため小屋に入って読み始めたのだけれど、どうせなら私自身も問題を楽しもうと思い、答えが分かるまでは次の解答ページにいかない事に決めたのだ。

 子供向けの問題だし全然大丈夫でしょ、と決めたのが運の尽き。あの日、巫女や魔法使いとの激戦を超える激戦に足を踏み入れることになってしまった。

 

 子どものなぞなぞとはいえ、知識は必要。

 地上に戻ってまだ1年の私は、日常生活をする分には概ね馴れたけれど、知識や雑学面ではまだまだ勉強不足みたいである。

 

 「うーんっ…………」

 

 大きく背伸びをし、凝り固まった体をほぐす。

 かれこれ4時間近くは格闘し、ようやく半分近く。これじゃあ明日までかかりそうねと苦笑する。

 

 頭脳も私なりにフル回転させていたせいで、心地よい疲れを感じる。

 

 考えることは楽しい。なぞなぞはもっと楽しい。

 見えない答えまでの道筋の試行錯誤。知識の積み重ね。それらを無視して飛び越える発想の閃き。

 

 何より、解けた瞬間の気持ちよさ。

 

 考えて考えて、答えが分かって笑顔になる子どもたち。

 その表情を見るために、もっとなぞなぞを覚えないとね、と息を吐き、閉じていた目を見開く。

 

 本のページ数はようやく折り返し地点。

 祭壇の謎も、本も同じ。難しい問題は後半に置かれているもの。

 

 「……よしっ!」

 

 気合を入れ直し、新しいページを開く。

 次はどんななぞなぞが待ち受けているのか……ワクワクしつつ、私は次なる問に視線を向けた。

 

 

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