ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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第12話 今の私に出来ること 綾瀬夕映の固い決意

「夕映さぁ~ん、晩御飯はどうですか~?」

 

「もうじき終わるです、もう占いババさんはお帰りに?」

 

「いえ、けどもう少しだと思いますので~」

 

 占いババの館は、占いババの仕事場兼居住地だ

 

 故に中には食事のための大部屋、それに隣する形で厨房もある

 

 掃除を終えた夕映が次に命じられた仕事は、今晩の食事の支度

 

 館の主である占いババは現在外出中

 

 出かけるにあたり、あらかじめ自身の付き人であるオバケにこう言っておいた

 

『あいつらの掃除が終わったら、わしが帰るまでに晩飯を全員分作っておくよう言っておけ』

 

 それを受けて夕映は厨房に入り、現在に至る

 

「けどあの世かー、さよちゃん大丈夫かな……」

 

「ん?どうしたです朝倉さん?」

 

 ちなみに、この支度には夕映にやや遅れて朝倉も合流済み

 

 自由に使っていいと言われた冷蔵庫の中身を夕映が次々と調理し、朝倉がそれを盛り付けるという段取りだ

 

 どうやら本日は格闘場の戦士達も一緒に食べるらしく、都合十人分ほどの皿を食器棚から出していた

 

「いや、何かあのオバケから聞いたんだけどさ、さよちゃんババさんと一緒にあの世の閻魔大王のとこに行ったらしいんだよ」

 

「はあ……まあオバケを従えてるくらいですし、『あの世とこの世とを自由に行き来できる能力』があの方にあったとしても今更そこまで驚きませんがね」

 

「それでさ、もしうっかり間違えて他の人と一緒に裁かれちゃったりしたら……なーんて考えちゃってね」

 

「……あんまりシャレにならない冗談はやめてくださいです」

 

 頭に天使の輪を浮かべ、両手を組みながら目を閉じ昇天する相坂さよ

 

 そんな図が容易に想像できた夕映は、思わず包丁を持つ手を止める

 

「ごめんごめん、けど凄いよねババさん。水晶玉使って宙に浮いたり占ったり、更にはさよちゃん連れてあの世までパッと一瞬でだよ?あ、それと主菜の盛り付けもう終わったよ」

 

「なら飲み物の準備をお願いします。オバケさん、そっちの棚にワインがあったんですが出しても大丈夫ですか?」

 

「はい、占いババ様のお気に入りは別の場所に保管してありますので。とりあえず二本ほど用意しておけば問題ないかと」

 

「では朝倉さん」

 

「りょうかーい」

 

 朝倉は棚の方に駆け寄り、並べられたワインに手を伸ばす

 

 ラベルを見たところで選べるはずもなく、手前にあったのから二本を適当に取り出した

 

「まあ最後のはともかく、前の二つは私達の世界の定義では正真正銘の『魔法』ですね」

 

 夕映も止めていた手を再び動かし始め、元々大詰めだったこともあり一分ほどで野菜サラダの材料の残りを切り終える

 

「朝倉さん、私もやりますのでワインを置いたら一緒にサラダの盛り付けお願いします」

 

「今置いてきたよー、そういえば夕映っちもちょっぴり魔法使えるんだよね」

 

「はい、とはいっても本当にまだ初歩の初歩ですが。現に麻帆良祭ではアーティファクト頼りで、未だに自衛の手段も持てていないです」

 

 まな板のみじん切りキャベツをボウルに空け、そこからそれぞれの分の皿に少量づつ乗せる

 

「とりあえずここに二週間は置いてもらえるけどさ、その間も練習は続けるの?」

 

「時間が取れるならやはりしておきたいですね。ネギ先生達の行方も気になりますし、この世界をあてもなく探して回るのでしたら少しでも実力をつけておかないと」

 

 続いて先に切っておいた別のボウルの野菜も、順に皿の外側から円を描くように盛り付けていく

 

「そうだよね、ネギ君達も無事だといいんだけど……」

 

(ただ、初心者同然の私が二週間やそこらで身に付けられることはたかが知れているです。魔法辞典である私のアーティファクトがあるとはいえ、やはり厳しすぎます) 

 

 最後にあらかじめ用意していたドレッシングを、入れ物を振ったのち全体にかけて完成である

 

「よっしできたー、それじゃ隣の大部屋に運んでいこっか」

 

(『みんなの居場所の特定手段』と『移動手段』、探そうと思えば最低でもこの二つが無ければ話になりません。そしてそれらを私一人の力で二週間の間に会得することは……到底無理です)

 

「……夕映っち?」

 

(特定手段と移動手段……占う、飛ぶ……)

 

「夕映っちってば!」

 

「っ!す、すみません朝倉さん、ちょっと考え事をしていたです」

 

 夕映の目の前には、両手にサラダの皿を持ちやや呆れ顔を見せる朝倉がいた

 

 いつまでたっても動かないことに業を煮やし、少々強めに呼ばれたことでようやく夕映は彼女に気が付く

 

「用意出来てなかったらババさんなんて言うか分かんないよー?下手したら、ただ働き一週間延長!なんてことも……」

 

「い、急ぎましょう!」

 

 慌てて夕映は目の前のサラダを手に取り、朝倉より先に厨房を飛び出す

 

 占いババがさよを伴って帰宅したのは、最後の一皿を並べ終えてから一分も経たないギリギリの時間だった 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもビックリしましたー。あの世ってああなってたんですねー」

 

「どんなだったの?さよちゃん」

 

 占いババの帰宅後、一同は長テーブルを囲んで夕食をとっていた

 

 夕映達の料理はまあまあの出来だったのか、占いババは褒めこそしないが文句も言わず黙々と口に運んでいる

 

「閻魔のおじ様は初め怖いなぁーって思ったんですけど、話してたらとっても優しい方だったんですよ」

 

 ちなみにさよは食べられないので、席につくだけついてみんなと話しているだけである

 

 さよの隣にいる朝倉は、彼女のあの世での土産話に耳を傾けていた

 

「ちなみにさ、その閻魔様ってのはやっぱり閻魔帳と杓持って裁いてたりとかしてたわけ?」

 

「んーと、ノートらしきものは持ってましたけど杓ではなく木槌でしたね、裁判所の偉い人が使うような。それと周りも働いてた鬼さんもなんですが、全員ネクタイにスーツで真面目な感じでした」

 

「え、なにその現代的職場」

 

「……」

 

 イメージとかけ離れた内容に唖然とする朝倉、元いた世界では古くから伝わる神格だったためそうなってしまうのも無理はないか

 

 一方で夕映は初めに数口食べてからどうも箸の進みが遅く、どこか心此処にあらずといった様子

 

「あ、ごめん夕映っち。さよちゃんの話しならご飯の後にまとめて私が……って、おーい」

 

 会話に入ってこないのに気付いて朝倉が話しかけるも、反応せず

 

「さて、それじゃあもう寝るかの。後片付けはまかせたぞ」

 

「……っ!ま、待ってくださいです!」

 

 そんな夕映が大きく動いたのは、占いババのこの言葉を聞いてから

 

 占いババがナプキンで口元を拭い終え、椅子を降りようとしたところで夕映は席を立つ

 

 そのまま占いババの方へ急いで足を運び、正面に立った

 

「少し、よろしいでしょうか?」

 

「……なんじゃ、簡潔にな」

 

 夕映は占いババが乗ろうとしていた水晶玉を一瞥した後、話し始めた

 

「占いババさんは魔女、つまり私達の世界で言うところの魔法使いなのですよね?」

 

「うむ、確かに占う時や水晶玉を浮かす時は……お前さん達でいうところの魔法を使っておるかのう」

 

 訊きたいのはそれだけか?と占いババは話を切り上げようとするが、夕映はそれを許さなかった

 

「……何の真似じゃ?」

 

「ここに居させていただく間、どうか私に魔法のご指導をしてもらえないでしょうか!」

 

 膝を折って両手両足を床に着け、頭を深々と下げる

 

「ちょっ、夕映っちいきなり何やっ……」

 

「厚かましいお願いであることは承知の上です!ですが、どうしても貴方様のお力が私には必要なんです!」

 

 これには朝倉も驚きを隠せなかった

 

 そんな彼女の声を遮るようにして夕映は声を荒げ、必死に頭を下げ続ける

 

「そういえば、お前さん達以外もこっちに来ているかもしれんのじゃったな……そいつらを探すためにわしの魔法を、といったところかのう」

 

「はい……もちろん仕事もちゃんと続けるです。仕事外で空いた時間、ほんの少しだけでも構いません!」

 

「断る、わしは弟子を取る気は……」

 

「お願いです!」

 

 夕映に諦める様子は、微塵として感じられない

 

 占いババはここでしばしの沈黙、次に出す言葉が早々には思い浮かばなかった

 

(こやつ、このままじゃテコでも動きそうにないのう……)

 

「別にいいじゃねえか婆さん、弟子の一人や二人くらいとったって」

 

 ここで、膠着状態の二人に割っている男がいた

 

 アックマンは飲んでいたワインをテーブルに置き、占いババのすぐ横まで移動する

 

「婆さんくらいの腕なら、人にもの教えるくらい簡単だろ?どうせ金持ってくる客は対して来ねえし、昼前までで仕事切り上げて面倒見てやれよ」

 

「アックマン、お主他人事だと思って……ああ分かった分かった、それならチャンスをやるわい」

 

「本当ですか!?」

 

 思わず上げた夕映の顔には嬉しさが容易に見てとれた

 

 ちょっと待つよう指示すると、占いババは水晶に乗って厨房へと入っていく

 

 ほどなくして、何やら厳重に包装された上に紐でぐるぐる巻きにされた瓶を一本持ってきた

 

「本当にわしのもとで真剣に修行する気があるか、その覚悟を試させてもらおうかの」

 

「覚悟……ですか?」

 

 占いババは紐をつかみ、ゆっくりとほどく

 

 続いて包装紙を取っていくと、瓶の中身が姿を見せる

 

「ほれ、さっさと立って」

 

「はいで……うっ!」

 

 中に入っていたのは、ドロドロとして青みがかかった茶色の液体だった

 

 しかもその他に瓶の底で転がる物があり、一体何だと注視してみるとそれは目玉

 

 コロリと転がった目がちょうど夕映の視線とかち合い、思わず顔を遠ざけた

 

「おい婆さん!なんだこのゲテモン!」

 

「魔界ガマガエルの目玉漬け体液ドリンク、じゃったかの確か名前は。200年位前にうちで働いてた闘技場戦士がお歳暮か何かでくれたんじゃが……どうも見た目が酷くて飲む気になれんくての」

 

 それならなぜ200年も放っておいたとアックマンが訊くと、どうもかなりのレア物らしく捨てるに捨てきれなかったらしい

 

 占いババは蓋に手をかけ、ポンという小気味いい音と共に瓶から外す

 

「ねえババさん、まさかそれを夕映っちに飲ませようってんじゃ……うわ、くっさ!」

 

 自分の席からは動いていなかった朝倉だが、途端に辺りに漂った悪臭に鼻をつまむ

 

 ちなみにこの時点で、瓶と朝倉との距離は5メートル近くはあった

 

「これをコップ一杯、吐き出さずに飲み干してみい。そうしたらお前さんの要求とアックマンの言った条件、どちらとも呑んでやるわい。心配せんでも魔界のスポーツドリンクみたいなもんじゃから、毒はありゃせんよ」

 

 手元にあったコップに、そのおぞましいドリンクをなみなみと注ぐ

 

「と~~っても臭くてと~~っても苦くてと~~っても不味いらしいが、わしの弟子になる覚悟があるならそのくらい楽勝じゃろ?ほれ、弟子になりたいなら飲まんか」

 

「……」

 

 鼻をつまみながら、占いババは片手でコップを夕映のいる方へと押しやった

 

 夕映はコップの中のドリンクを見つめながら、動かない

 

(婆さんの奴、チャンスとか言っときながら……やっぱり端っから弟子にする気なんてねえんじゃねえか、こんな劇物めいたもんあの嬢ちゃんに飲めるわけねえだろ)

 

(ふぉっふぉっふぉ、常人なら口に含んだ瞬間ぶちまけるレベルじゃ。弟子なんて面倒くさいもの、わざわざとるわけないじゃろ)

 

 夕映の右腕が小刻みに震えを見せる

 

 あとは向こうが音を上げるか、口に含んで一瞬で吐き出すのを待つだけ

 

(もう数秒して動かなかったら、あと五秒とか言って焦らせてやるかのう)

 

 そう心の中で考え数秒、閉じていた占いババの口が開いた

 

「飲む気がないなら時間切れにするぞ?5……4……っ!?」

 

「なっ!?」

 

「夕映っち!?」

 

 数字を言い始めた直後、コップへと伸びる一本の腕

 

 その先にあった右手は確かに、コップの真ん中をしっかりと掴んでいる

 

 占いババはその腕の元を見て辿ると、そこには覚悟を決めた表情の夕映がいた

 

(まさか、こっちが急かしたとはいえ本当に飲む気か!?)

 

「やって……やるです!」

 

 腕を手元に戻し、コップの淵を自らの唇にあてがう

 

 0距離で漂う猛烈な悪臭に涙目になりながら、彼女は

 

「んっ……ぐっ……ぐうっ……」

 

 コップの中身を口内へと運んだ

 

(ほれ、吐き出せ!)

 

 途端に口内に走る強烈な苦み、渋み、臭み

 

 過去にさんざん他人から不味い不味いと評されるドリンクを嬉々として飲み続けていた彼女にとっても、ドリンクという範疇を超えたこれはあまりにも手強すぎた

 

 すぐさま吐き出したくなる衝動に駆られるが、懸命にそれを堪え続ける

 

 空いた左手はスカートのすそをこれでもかと握りしめ、両目もまた痛みが走るほどにまで強く瞑った

 

(ネギ先生の……のどかの……みんなのために私は、ここで引くわけにはいかないんです!)

 

 首の角度を上げ、そのまま流し込みにかかる

 

 次の瞬間、夕映の喉はゴクリと確かに音をたてた

 

「なんじゃと!?」

 

(嘘だろおい!)

 

(このまま……一気に!)

 

 そこから数度、大きく飲み込む音が部屋の中で響く

 

 夕映が口からコップを離してテーブルへ置いた時、コップの中は完全に空だった

 

「し、信じられん……」

 

「婆さん、さっき言ったこと覚えてるよな?調子に乗ってあんな約束す……っておい嬢ちゃん、大丈夫か?」

 

 占いババが狼狽する様子を見て、珍しいのかニヤニヤ笑いながら話すアックマン

 

 だが横目で見た夕映の様子を見ると、その顔はすぐに戻された

 

 ぼんやりと半開きな目は焦点が合わず、飲み干したばかりの口からは荒い呼吸音が漏れる

 

「少々気分が……朝倉さん、埋め合わせは明日するので、申し訳ないですが先に一人で部屋で休ませてもらってもい……あうぅ」

 

「夕映っち!?」

 

 とうとう朝倉も席を立ち、夕映のもとへ駆け寄って肩を貸す

 

「私も部屋まで一緒に行くから!」

 

「すみません、一晩寝れば治りますので……流石にあのドリンクは手強かったです、うっ」

 

「わ、私も一緒に行きます!」

 

 30センチ近い身長差で歩きにくそうであったが、夕映は朝倉に連れられて部屋を出ていった

 

 さよも後を追っていき、残ったのは占いババの館のいつもの面々

 

「……魔界の生き物の体液をコップも一杯飲みゃ、そりゃ調子もおかしくならぁな」

 

「しかし、まさか全部飲むとはのう……」

 

「こんなんで約束反故にしたらあの嬢ちゃん、明日何するか分かんねえぜ?」

 

「わかっとる……幾らか魔法を教えてやればいいんじゃろ、流石に今回はわしもやり過ぎたと反省しとるよ」

 

 占いババは水晶の上に座りなおし、部屋の外へと出ていく

 

「明日の支度をせにゃならんでな、あーあ忙しくなるわい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ私は、晩御飯の後片付けしに戻るね」

 

「はい、すみません朝倉さん。おやすみなさい」

 

「おやすみー、お大事にね?」

 

 部屋のドアが閉められ、夕映は真っ暗な部屋の天井を見つめる

 

(なんにせよ、これからですね。明日は今日以上に大変なのは確実ですし、早く寝なければ)

 

 布団に入ると、今日の疲れがドッと出てきたのか夕映は自分の瞼が重くなるのを感じた

 

(しかし今は大分楽になりましたが、実際飲み干した後はかなり焦ったですね。まさか……)

 

 夕映はあの時、朝倉が自らのもとへ駆け寄った時のことを思い出す

 

 朝倉の声に反応して僅かにそっちを見たのだが、朝倉のすぐ横に彼女の姿が確かにあった

 

(さよさんが普通に目視出来るようになるとは思わなかったです、一瞬このまま死んでしまうのかと。移動中楽になり始めてからも見え続けてましたし、どうもあのドリンクのせいみたいですね)

 

 朝倉とさよはそのことに気付いていない様子だったので、朝になったら挨拶がてら話しておこう

 

 そう考えて少ししたあたりで、夕映はいつの間にか眠りに落ちていた

 

「ネギ先生……のど、か……待ってて、ください……です」

 




 以上で夕映編終了、次回も2話構成の内1話を投稿予定です。

 ちなみにですが、魔界ガマガエルはDB原作には登場しません。今回書くにあたって、『ナメック星にもいるくらいだし魔界にもカエルくらいいるだろ』という考えから生まれたオリジナル設定です、一応補足しておきます。では
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