ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

15 / 74
第14話 咸卦法発動! 猛烈ピンチの友を救え

「……もう一度確認するぞ、お前達はこの世界地図に見覚えがないんだな?」

 

 日はほぼ沈み、空も大半が夜に染まる

 

 アスナ達二人は天津飯と餃子にそれぞれ抱えられ、舞空術であの場所から移動

 

 暫く行った先にあった洞窟で四人は身を落ち着かせた

 

 天津飯達が拠点としても利用するその中にあったのは毛布と食料、他には僅かな調理具と衣類のみ

 

 ひとまず天津飯は毛布を手に取り、夜になるのにその格好では寒かろうと言ってまき絵へ投げ渡す

 

 その毛布にまき絵がくるまったところで、天津飯は自己紹介を交わすと改めてアスナ達から話を聞いた

 

 この時二人が主に話したのは、先程まき絵が言ったことの補足

 

 学校とは自分達が通う埼玉県の麻帆良学園のこと

 

 突然パーッと光ったのも、よくよく思い出してみればそれより前からクラスメイトの超鈴音の周りでおかしな光が出ていたこと

 

 気が付いたら山の中というのは、突然光った直後に気を失ってしまいこの山までどう来たかがまるで把握していないこと

 

 とりあえずはこの三つを話すと、気になる点は幾つもあったが天津飯が真っ先に問いただそうとしたのはこのことだった

 

 埼玉県とはなんだ?

 

 自分達と同じ言語で話す相手からそれを訊かれたのだから、アスナ達は最初面喰らっていただろう

 

 さらにアスナ達が今いる場所を天津飯が話すと、少女二人で顔を見合わせ首をかしげる

 

 世界単位での東西南北の区分けなど、聞いたことなどあるわけもない

 

 天津飯側とアスナ側で明らかな齟齬が生じていることが分かる

 

 そこで天津飯はその齟齬を明確にするために、アスナ達に世界地図を書かせてみることにした

 

 ペンと一緒に一枚のチラシを出し、裏に大まかでいいから書いてみてくれと一言

 

 分かりましたとアスナは答え、ペンを片手に格闘開始

 

 ……そうなのだ、そう形容出来るほどアスナの顔は険しかった

 

 大まかでいいと言ってるのに、その大まかな形を思い出すだけでも四苦八苦しているのがよく分かる

 

 手が止まってから暫く経つと、隣にいたまき絵にバトンタッチ

 

 しかしまき絵も同様、すぐに手が止まる

 

 これでは埒があかないと悟った天津飯は、書くのをやめさせて自分達が持つ世界地図を広げた

 

 本当は二つを同時に比べて見たかったが、書けないのあればしょうがあるまい

 

 すると、二人共が自分達の知る世界地図とは違うと答えたのだ

 

 明らかに異なっているからこその即答だった

 

 これに対し改めて確認を取った時に口にしたのが、冒頭での天津飯の台詞である

 

「だ、だって形全然違うし……あ、それに私達がいた日本だって何処にもない!」

 

「に、日本?天さん……これってどういうこと?」

 

 まき絵の主張に、今まで話を聞いていただけだった餃子も思わず声を漏らす

 

 餃子に尋ねられた天津飯は腕を組み、アスナ達の顔を交互に見やった

 

(二人が嘘をついている様子はない……ならば何故こうもお互いの地球についての情報が噛みあわないんだ。それこそまるで別物、地球が二つなければ説明が……地球が二つ、いや、地球がもう一つ?)

 

 ここで天津飯は、タイムマシンで未来からやってきたかつての仲間のことを思い出していた

 

(『ほんの些細な変化が起こるだけで、何通りもの未来が生まれてしまう』あいつは確かにそう言っていたな……これは根本的な部分、つまり『未来』を『地球』に置き換えたとしても通じるものがあるんじゃないか?)

 

 つまり今の時代から彼の時代までの十数年という規模ではなく、それぞれの地球を完全な別物と認識してしまうほどの大規模な変革だ

 

 そうして生まれた別次元の地球とも言える場所から、アスナ達はやってきたのではないか

 

 天津飯の中ではそう仮説が立てられていた

 

(だがあくまで推測の域でしかない……確信を得ようにも、ここにいる四人では到底たどり着けまい)

 

「あの……どうしました?」

 

(ここから一番近い場所だと……南西にあるカリン塔、か)

 

 だがなんにせよ、今日はもう遅い

 

 アスナ達の方へ向き直り、いや大丈夫だととりあえず返答する

 

「ひとまず今夜はもうここで休んだ方がいい。今いる場所から南西に下ったところにカリン様という仙猫がおられるから、とりあえずは明日そこへ行って話をしてみよう」

 

「は、はい……」

 

(せんびょう……千秒?)

 

「それじゃあ僕、晩御飯作る」

 

「ああ、頼む餃子」

 

 これ以上、この場で出来ることはなかった

 

 大まかな行動方針を二人に伝えると、餃子は晩御飯の支度にとりかかり天津飯は奥から木製の皿をアスナ達の分まで取り出す

 

 二十分もするとキノコと山菜のスープが完成し、気絶する前も含め半日近く何も食べていなかった二人は瞬く間に平らげた

 

 その後天津飯はアスナにも毛布を渡し、早くも四人は床につくこととなったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んん、むにゅう」

 

 しかし0時を回って少しした頃、まき絵は目元を擦りながらその身を起こす

 

 毛布こそ貸してもらったが、ベッドや敷布団といった気の利いたものはこの洞窟の中には無い

 

 よって寝る場所は地面の上、少しでも寝やすいよう石は除去されていたがやはり硬い

 

 毛布もただかけるのではなく全身に巻くようにして寝てみたが、それでも朝まで熟睡するには程遠かった

 

「おしっこ……あっ」

 

 洞窟の出口を見やり、立ち上がると寝ぼけ眼でそのまま歩き出す

 

 すると途中で地面にあった何かを蹴り飛ばした

 

 寝るのに邪魔だとアスナが外して枕元に置いていた鎧だ

 

 まき絵ほどでないが少なからず眠りが浅かったアスナは、この音で目を覚ます

 

「うん?……まきちゃんどしたの?」

 

「……トイレ」

 

「あ、そう、いってらしゃーい……」

 

「うん……」

 

 しかしまき絵同様寝ぼけ気味だったアスナは、おぼつかない足取りで外へ出ようとするまき絵をそのまま気にせず送り出した

 

 まき絵は洞窟を出ると、山道を前へ前へと歩き続ける

 

 この時夜風はまるで吹いていなかったのだが、それがまき絵にとって幸運だったかと言えばそうではない

 

「あれ……トイレ……どこ?」

 

 この時のまき絵の目的は『用を足せそうな場所を探す』ではなく『トイレを探す』だった

 

 つまるところ、現在位置を記憶から完全にすっ飛ばしたまま出ていったのだ

 

 一吹きでも夜風に当たれば眠気も吹っ飛んで気が付いただろうが、そうはならない

 

 そんなまき絵が我に返ったきっかけは、あまりにも彼女にとって災難な出来事であった

 

「……んう?」

 

 グニュ、暗いなか足元も注視せず歩いていたまき絵は何かを踏んづける

 

 何だろう、そう思うよりも先に彼女の耳に飛び込んだのは

 

「ブモオオオオオオオオオオッッ!」

 

「ひゃっ!?」

 

 けたたましい猛獣の咆哮

 

 途端にまき絵は目を大きく見開き、同時に目の前の存在を確認した

 

 まき絵のいた世界でめったにお目にかかれないであろう、全長3メートル近い大イノシシ

 

 踏んづけていたのはそのイノシシの尻尾、慌てて足を引っ込めたがもう遅い

 

「な……なんで私ばっかりーー!」

 

「ブモオオオオオオオオオオッッ!」

 

 イノシシの顔は明らかに怒りのそれであり、まき絵が背を向けて走り出すと少し遅れて彼女を追いかけ始めた

 

 まき絵はもと来た山道を戻りながらひた走るが、当然ながら速さはイノシシの方が上

 

 近づいていく足音の大きさに比例してまき絵の焦りは増していく

 

 曲がり道で時折距離を稼ぐが、その度にイノシシはぶつかった木をなぎ倒して自身のパワーをありありとまき絵に示す

 

「ブモオオオオオオオオオオッッ!」

 

「たっ、助けてアスナー!」

 

 半泣きになりながらもついに見えてきた洞窟の入り口では、愕然とした表情で立つアスナがいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げっ!?何よあのイノシシ!」

 

 まき絵が洞窟を出てからなかなか寝直せず半起きでいたアスナは、イノシシの咆哮を耳にし何事かと洞窟の入口まで足を運んでいた

 

 すると段々と大きなってくる鳴き声、しかも何やら木が倒れる音まで聞こえてくるではないか

 

 身構えていたら案の定、その正体はこちらへとやって来た

 

 ただし、そのイノシシに追いかけられる佐々木まき絵というオマケ付きで

 

「ちょっとまきちゃん何したの!?」

 

「尻尾踏んだら怒っちゃったのー!」

 

(カードで魔力貰うだけじゃ……無理ね)

 

 アスナは短く溜息を吐くと、両手を上げてそれぞれ均等に別の力を込める

 

 左手に込めたのは魔力、右手に込めたのは気

 

 このままではただの魔力と気、もちろんまだ先がある

 

「左手に魔力……右手に気……」

 

「おい、何が起きた!っ、いかんアスナ、下が……」

 

 天津飯も起きてきたようだが、もうアスナは止まらなかった

 

「咸卦法!」

 

「!?」

 

 絶妙なバランスで調整された魔力と気、二つを両手を合致させることで完全に融合

 

 魔力でも気でもない、咸卦の力を全身に纏う

 

 纏った次の瞬間には、まき絵とイノシシの方へ駆け出していた 

 

(い、今のは一体……気ともう一つ別の何かを出したと思ったら、二つを組み合わせた!?)

 

 まき絵の横を通り抜け、イノシシの猛突進を正面から受け止める

 

「っ、こっのぉ……」

 

 ぶつかって最初は一メートル近く後退を強いられるが、次第に咸卦の力がさらに増していくと状況は一変

 

 ぶつかった初めの位置まで押し戻し、そのまま後ろへとイノシシを下がらせる

 

 もう一度確認するが、このイノシシの大きさは全長約3m

 

 それを15の少女が正面からの押し合いで圧倒した挙句

 

「……だりゃああああっ!」

 

 たった今、捻りを加えながらぶん投げた

 

「ブモギャアアンッ!」

 

 身体の側面を地面に打ち付け、先程までとは質の異なる鳴き声を発するイノシシ

 

 少しして起き上がるが、さっきのような気迫はまるで感じられない

 

 まき絵とアスナを交互に睨んだのを最後に、そそくさとその場から去っていった

 

 アスナは咸卦法を解除し、へたりこんでいるまき絵を見下ろす

 

「あーびっくりした……大丈夫まきちゃん?怪我ない?」

 

「いや、むしろ私の方がアスナにびっくりしてたり……あ、天津飯さん」

 

「おいアスナ、今一体何をした?ただ力持ちなだけですとは言わせんぞ」

 

 すると天津飯が、二人のもとへ歩み寄る

 

「え!?えっと、これはですね……」

 

「少なくとも、最初に気を使っていることだけは俺にも分かった。だがその先がサッパリだ……確か『魔力』と言ってなかったか?」

 

(もうこれは……まきちゃんがいるからって黙り通すのは無理みたいね)

 

 アスナは洞窟で天津飯に事の次第を話した際、まき絵がいることもあって魔法についての言及は避けていた

 

 そもそも魔法と言ったところで大半の者は信じないだろう、と見当がついていたこともある

 

 しかしどうも、この後更に天津飯の言葉を聞くと魔法に関する認識があるようなのだ

 

 ネギと再会して、まき絵にバレたと知られても文句を言われる道理はあるまい

 

 こう考えたアスナは、先程使っていた咸卦法のことも含め『魔法』についてのことを皆に話すのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてそれから数時間後、かくして色々あった初日の夜が明けたわけだが、朝食を採っても一行に出発の気配はない

 

「天さん、多分あれじゃ数日は雨」

 

「だな……」

 

 カリン塔のある南西の方角、その上空を広範囲に渡って大きな雨雲が覆い尽くしているのを天津飯の三つの目が捉えていた

 

 このままカリン塔へ舞空術で飛んで移動するとなると、まず雨の直撃を受けてしまうだろう

 

 迂回しようにも結局はカリン塔周辺で雨に当たってしまうし、抱えられたまま移動するアスナ達の負担を考えるとやはり最短距離で行きたいところである

 

 仕方なく天津飯は事情を二人に話し、カリン塔へ行くのを数日延期することに決定した

 

 だが幸いなことに、こちらに天候の大きな崩れはない

 

「じゃあ天さん、僕行ってくる」

 

「ああ、頼んだぞ」

 

 時刻が午前9時を回った頃、餃子は北東の方角へ向けて飛び立った

 

 北の都まで出向き、当面のアスナ達の衣類を確保するためである

 

「すみません天津飯さん、寝泊まりさせて貰ってる上に服まで……」

 

「別に構わんさ。それより……本当にやる気なのか?」

 

「はい」

 

 天津飯から荷物の中から、修行着を一着引っ張り出す

 

 実は昨晩、改めて寝ようかとなった時に彼女は天津飯にこう提案していた

 

 どれだけのお返しになるかは分かりませんが、私に修行を手伝わせてもらうことは出来ませんか?と

 

 答えは今になるまで先延ばしにしていたが、改めて彼はアスナの意志を確かめる

 

「確かにアスナの……咸卦法と言ったか、あれは興味深いし相当の力を秘めている。だが結局肝心のお前の実力が伴わなければ、俺の修行についていくことは到底出来んぞ」

 

「分かってます、だからほんの少しの手伝いだけでもいいんです。このままお世話になりっぱなしなのは、私の性分じゃないんで」

 

「…………」

 

 結局のところ、天津飯がアスナの面倒を見る形に近くなることは想像するに容易かった

 

 しかしその一方で、あることが一武道家として頭から離れないでもいた

 

(気にならないわけじゃない……もしこのポテンシャルを秘めた彼女が、俺との修行でどこまで実力を伸ばせるのか。というのはな)

 

「やっぱり……駄目ですか?」

 

「…………受け取れ」

 

「え?おっ、とと」 

 

 しばし無言でいた後、天津飯は持っていた修行着をアスナへと投げ渡す

 

 唐突な出来事にアスナはもたつきを見せるが、地面に落とすことなくそれを両手で受け止めた

 

「俺や餃子が見せた空を飛ぶ技、舞空術というんだが……お前ほどの才能が有れば、数日でコツを掴むことも難しくないかもしれん」

 

「じゃあ……」

 

「カリン様の所へ行く時も、俺や餃子に抱えられたままよりは幾らか自分で飛べた方がいいんじゃないか?もっとも俺の修行に音を上げず、舞空術を覚えられたらの話だがな」

 

 天津飯はもう一着修行着を取り出し、着替えながらそうアスナに聞こえるよう呟く

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ここから二十分ほど歩いた所に、あの滝とは別に普段から使ってる修行場がある……今日はそこでするとしよう」

 

「はい!」

 

 まき絵が昨晩歩いたのと同じ道を天津飯は進み、アスナは慌てて修行着を羽織りながら彼の後を追った

 




 これにてアスナ編終了、次回はおそらく1話のみでの構成になります。

 ただ今回の分で書き溜めのストックが本当に尽きた上かなり書き直しが必要なため、次回の投稿は明後日以降になると思われます。

 今まで毎日投稿してまいりましたが、次回分を含めこれから投稿ペースが遅くなっていきますことをどうぞご了承くださいませ。ではでは
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。