パオズ山、のどかな自然が広がる美しい山だ
流れる川では魚達が優雅に泳ぎ、空では鳥達が綺麗な鳴き声を囀らせ飛んでいる
しかし現在、パオズ山にて飛んでいるのは鳥だけではなかった
十メートルほど上空に一人、地上十数センチのところに一人
飛んでいるというよりは、その場で静止しているため浮いているという言い方の方が正しいか
犬上小太郎と雪広あやかはそれを暫く続けたあと、ゆっくりと高度を下げて地面に着地した
両者額に汗を垂らし、地に足が付いたことを確認するとフーと息を吐く
「凄いよコタロー君!たった三日でもうそこまで出来るなんて!」
「気のコントロールの仕方を覚えればすぐ出来る言うたのは悟飯の方やろ?元々、気自体はこっち来る前から俺は使っとったさかいな」
天下一大武道会に向けて、コタロー達は悟飯の家に居候しながら修行を続けていた
主な内容としては悟飯がコタロー達に、自身の持つ技術を教えつつ簡易的な組手の相手を務めるというもの
コタローの強襲事件があった翌日から開始、今日で三日目になる
初めはネギとコタローだけが参加していたのだが、初日の晩に話を聞いてから二日目以降はあやかも参加
気の扱い方の初歩的な内容ということで舞空術について教えている段階だったので、ついていける範囲までならいいではないかと悟飯が言ったためネギとコタローも了承している
現在の成果だが、まずコタローについては悟飯が驚くことからも分かるが著しいものがあった
『浮く』そのものは初日が終わるころには会得、そこから高度を上げていく段階に入ったのが二日目
三日目である今日の開始時点では、幾らでも飛べると言わんばかりに空高くまで飛んでいく
一方、一日遅れのあやかもコタローほどではないがかなり順調
今は十数センチを数秒浮かすのがやっとだが、それでもこちらは充分過ぎる成果と言えた
「あとさっきはあやか姉ちゃんに合わせとったけど、もう横移動やって楽勝や。ほれ」
さらにコタローは、悟飯に自身の上達ぶりを見せつける
数十センチほど身体を浮かばせた後、上でなく横、悟飯の周りをグルリと一周飛んだ
「そういえばネギ君、大丈夫かな……」
さて、ここで今いない残りの一人、ネギについて悟飯が触れた
ネギと悟飯達との間には、決定的な違いがある
ネギが使うのは魔力で、悟飯達が使うのは気だ
初日に舞空術を悟飯が教えようとした時、この問題が露呈した
戦闘時、例えば拳に込めて攻撃力を上げる、といったような時の使い方はどちらもさして違いはない
しかしいざ舞空術で飛んでみようとなると、そうはいかなかった
コタローのように上手くコツがつかめず、悟飯も魔力の扱い方についてはアドバイスが送れない
二日目の後半辺りからだろうか、ネギは舞空術関係の練習については森の奥で一人でおこなっていた
「あいつのことやし平気やと思うけど……そんなら、俺が様子見てくるわ」
コタローはネギがいる森の方を向き、浮いたまま全身に気を込めてみる
目に見えて気が体表に出たのを確認すると、続いて身体を少し前傾
「これの練習もかねて……なっ!」
次の瞬間、コタローは舞空術で高速で飛び出した
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……」
ネギは始動キーを唱え、自身の周りに魔力を纏わせる
発動させようとしているのは、自身が得意としている風系統の魔法だ
(普通にやって出来ないなら、これで少しでも補助になれば……)
本来魔法使いは舞空術、ネギのいた世界での一般的な呼び名でいうと浮遊術を覚えなくても空は飛べる
ネギもそれは例外ではなく、元の世界でも父から貰った杖を使って飛んでいた
現在その杖は麻帆良の土地に置き去りであるが、ネギが真剣にこの技の習得に励んでいる理由はそれだけではなかった
「
自らの父、ナギ・スプリングフィールドの言葉を思い出したからだ
正確には彼の従者、アルビレオ・イマが自身のアーティファクトによって再生したナギの人格が放った言葉というべきか
”あーー しかし何だ アレだ ホラ 浮遊術がねーとハイレベルじゃキツいぜ?”
普通の魔法使いなら、箒や杖で飛ぶことさえできれば大抵の移動に関しては問題ない
ナギが言っていたのは前述の通りそれよりも上のレベル、空中戦における優位性を見越しての助言だった
箒や杖で飛ぶ場合、仮にその上で魔法を行使しようとするとコントロールの都合上最低でも片手の使用が不自由になる
肉弾戦となればそれが不利になるのは尚更だ、跨っているため足技は使えないことに加え、片手が塞がって満足な攻防も出来ないのは空中で敵に接近された時に致命的だ
もっとも今の時代、ここまでハイレベルの戦闘機会に立ち会う魔法使いの数は少ない
すると結局のところ習得までの苦労の割に見合うリターンはあまりなく、『箒や杖で飛べれば問題ない』ということで落ち着いてしまうのだ
そのためネギも麻帆良祭での格闘大会があるまでは覚えようという気はなく、彼と同い年くらいには既に習得していた父とはこの時点で大きく差があったことになる
「このまま……体勢を維持、このまま、このまま……」
気の使い方と通じる部分は参考に、他は殆どネギ自身の我流によるこの特訓
何とか浮くところまではこじつけたが、どうも魔力の使い方が全身から見てムラが出るのか体勢が安定しない
そこで風魔法を併用して不安定な部分の補助として使用したところ、どうやらネギの思惑通りとなった模様
ネギの全身は風によって周囲に土ぼこりを上げながら、ゆっくりと上昇していった
ある程度の高度にまで達した後、ネギはそこから少しづつ
あくまで風魔法は補助、純粋に魔力だけで飛ばなくては実戦において意味を成さない
風は収まり、逆に魔力そのものはさらに強さを増す
まるで、補助輪という支えを失いながらも全速力で走り出す自転車のように
「……できたっ!」
おおよそ上空五メートル、ネギは確かに浮遊術でその身を中に浮かせていた
喜びを露わにし、下の様子を見る
杖に体重を預けて飛んでいた頃とは、この上空五メートルはてんで違っていた
「おっ、ようやく出来たんかネギ」
「うわっ!コタローく……」
早速このまま飛んでいって悟飯達に見せよう
そう考えたネギの目の前に、コタローがいきなり姿を見せた
「ちょっ、待って待って!いきなり下がったからバランスが……わっ、わっ!」
「はははっ、なんやそれ下手くそやなー」
コタローは舞空術で急接近して目の前で急ブレーキ
コタロー自身としてはちゃんと止まれるように調整したのだが、衝突を恐れたネギは思わず速度をつけて後退
そこから突如バランスを崩し、軸のずれたやじろべえのように身体を前後左右に非常に不安定な様子のまま揺らす
それがかなり滑稽に見えたのか、コタローの口元を緩ませ次に笑い声を発せさせた
手を伸ばし掴んでやると、すぐにネギは体勢を立て直す
「まあなんにせよ、これで全員飛べるようになったな。はよ悟飯達と合流するで」
「うん……え、全員?」
「んーまあ、あやか姉ちゃんはまだ十数センチやし『飛ぶ』いうよりは『浮く』やな。けどあやか姉ちゃんセンスあるで」
「嘘!?」
この後、どっちが早く悟飯のところに着くか競争しようとコタローが提案し、結果はコタローの圧勝
負けず嫌いであるネギがこの後浮遊術の腕を上げ、コタローにリベンジを果たすのは僅か三日後のことであった
さて、実力からしてネギ達より遥かに下であるあやかも参加して稽古を行っていることからも分かるが、悟飯のネギ達に対しての指導はかなり緩い
基本的にはネギ達のペースに合わせ、向こうから何か要望があればそれに応じてアドバイスや組み手の相手を務めたりといった感じ
「魔空包囲弾ーー!」
しかし彼の師、ピッコロは刹那達に対してスパルタを貫いていた
コタロー以上に飲み込みの早かった刹那と楓は、現在舞空術で遥か上空にいた
その周囲にピッコロは気弾を大量に放ち、着弾する前に空中で静止させる
「さあ!威力は加減してやったがそれでも触れればダメージは避けられん!舞空術で抜け出してみるんだな!」
気弾はそれなりの密度で弾幕を形成しており、抜け出るための最低の隙間はあるがほんの些細なブレが命取りになると言えた
「ピッ、ピッコロの旦那!幾らなんでも覚えたての二人にあれは無茶じゃねえッスか!?」
「そ、そうや!もし本当に大怪我でもしたら……」
不安そうな表情でカモと木乃香が上空を見上げながらピッコロに抗議するが、ピッコロにやめる気はない
強くなりたい、そう言った二人に現在出来る最高の修行をさせている
それだけのことだ、そう言ってピッコロは空中の気弾の静止に努める
「いやいやいや、いくら木乃香嬢ちゃんの治癒魔法があるってそんn……って早っ!?」
「……ほう、気付いたか」
「あいあい」
楓帰還、これはカモや木乃香が予想する以上に早かった
ピッコロの横に立ち、楓はいつもの糸目のまま口端をほんの少し上げる
「意地が悪いでござるなピッコロ殿も。一箇所だけ、単に直進するだけで方向転換なしに抜け出せるルートを用意しておくとは。」
「別にチマチマ細かく間を縫って抜け出せとは言っていない、それにそうやって抜け出そうとしているあいつも正解だ」
未だ上空に残る刹那は、細かく移動と空中静止と繰り返し少しづつ魔空包囲弾を抜けていく
楓よりも舞空術、というより対空行動全般に才のあった刹那は、楓に少し遅れて脱出し地上へと降り立った
「はあっ、はあっ、はあっ……」
しかし当たれば即アウトのプレッシャーは大きく、長時間かわし続けていた刹那の疲労は楓の比ではない
呼吸は荒く、地面に汗が一筋落ちた
「何をボサッとしている刹那、次は俺と二対一の組み手だ早く準備をしろ」
「ええ!?ピッコロの旦那、刹那の嬢ちゃん疲れてるんだし少しくらい休憩させたって……」
「ほう、ほんの一分や二分舞空術で飛んだからってもう休憩か。随分といいご身分だな、刹那」
「カモさん……私は平気です、ご心配には及びません。始めましょう」
刹那は無理やり呼吸を整え、全身に気を通してピッコロを鋭い眼光で見据える
この三日間だけでも、ほぼ一日中通しての鍛錬の成果か刹那の気は明らかに上がっていた
しかし刹那はこの現状に到底満足してはいない
(見ていろ、大会まであと十日……今はまだこの様だが、何としてでも鼻を明かしてやる!)
(刹那殿の原動力はまさにコレでござるからなぁ……まあ単純に強くなりたいという理由だけでこの修行を続ける拙者も、相当なのでござろうがな)
鼻を明かすとまでは言わないが、二週間修行した結果実際どこまで伸びたのか試すにはピッコロの言う大会は最高の機会だ
楓も刹那同様ピッコロの指示に従い、気を込めて刹那の隣に立ちピッコロと向かい合う
「お嬢様、お下がりください」
「う、うん……」
「そうだな、今日は……こうしてみるか」
木乃香(と彼女の肩に乗ったカモ)が遠くに移動したのを確認すると、ピッコロは自身の足元に指先から光線を飛ばす
それをぐるりと一周、完成した半径一メートルちょっとの円の中にピッコロは仁王立ち
「俺はここから出ん、思う存分かかって来い。ただし離れて休もうものなら容赦なく気功波が飛んでくるのを覚悟しておけ」
「……あいあい」
「いくぞぉっ!」
二人は同時に駆け出し、ピッコロめがけて拳を振るった
悟飯とピッコロ、そしてそれぞれの師事につくネギ達と刹那達
まるで正反対の修行生活を送る両者が相対するのは、もう少々先のことである
この話から暫く、にじファン版に無かったハーメルン版オリジナルの分の話が続きます。