ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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 結局ひと月近くかかりました、どうもすいませんカゲシンです。前回より短いですが、ではどうぞ。


第19話 夕映、決死のおつかい!?守り抜け超大金

 空飛ぶ魔法使い、といえば何を連想するだろうか

 

 普通の人なら大抵、『魔法使いが空を飛ぶための道具』ということで箒を思い浮かべる

 

 杖と箒両方持つと嵩張ることもあってネギのように杖を併用して空を飛ぶ魔法使いもいるが、基本はやはり箒だ

 

 掃く方を後ろ側にし、柄に跨って空を飛ぶ

 

 そんな誰もが思い浮かぶ光景が、少女二人の前で現実となっていた

 

 朝倉和美と相坂さよは、こちらへ向かってくるもう一人の少女を出迎える

 

「凄いです夕映さんー!」

 

「おおー!飛べてる飛べてる!」

 

 箒に乗って上空を一回り

 

 綾瀬夕映は減速しながら体勢を安定させ、ゆっくりと二人の前に着陸した

 

「ありがとうございます、この五日間ずっと練習した甲斐があったです」

 

 占いババに弟子入りして早数日、こうして午後はずっと修行の日々を送っている

 

火よ灯れ(アールデスカット)のように杖から出す単純な魔法は元々幾つか使えていたため、最初に占いババから命じられたことは『箒で飛べるようになれ』だった

 

 初日はまず占いババが実演してみせ(箒に乗って飛ぶのは数百年ぶりとは本人の談)、とりあえずやってみろの一言

 

 当然いきなり言われても飛べるはずもなく、そこから少しづつ技術を覚えて積み重ねていく

 

 そうして三日目になってようやく安定して浮くようになり、五日目の今日は朝倉達も称賛するほどの出来にまで仕上がった

 

「しっかし、そんな三日四日でほいほい飛べるもんなの?いや、元々夕映っちは下地があったわけだけどさ」

 

「色々要因はあったと思うですが……おそらくは、あのドリンクが一番でしょうね」

 

「ああ、あれね……」

 

 忘れもしない、来訪初日の夜での出来事

 

 弟子入りを志願する夕映を体よく退かせようと占いババが用意した、魔界生物の体液を使った特製ドリンク

 

 それを夕映は覚悟をもって飲み干し現在に至るわけなのだが、その際ドリンクの作用か彼女の中で色々と変化が起こっていた

 

「でもこうやって、夕映さんとお話しできるようになったのは嬉しかったです!」

 

 まず、相坂さよの目視が常時可能になったという点

 

 3-Aの中では彼女が見える者は片手で数える程度なのだが、夕映もあの日からその中に名を連ねる

 

 そしてもう一つ、これが夕映の言う一番の要因なのだが、当初より魔力が確実に上がっていたのだ

 

 飲みきった後体調を崩したのは、体内で魔力がいきなり増幅して身体が適応しきれずにいたから

 

 あの世の出来事を回想し終えると、夕映は朝倉達と別れ占いババのもとへ

 

 占いババもまた、朝倉達とは場所は違えど先程の夕映の飛行を見ており、夕映が着くや否や簡潔に評価を口にする

 

「まあ、及第点かの」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 今まで『駄目じゃな』『こんなことも出来んか』等散々に言われ続けていたことを思うと、夕映にとってこれは賛辞の言葉に違いなかった

 

 続いて占いババが切り出したのは、次なる修行の内容についてだ

 

 服の中から地図を一枚取出し、次に自身と他一名のサインが入った書類を一枚、合計二枚を夕映へと手渡す

 

「わざわざ営業時間短くしてまで面倒見てやってるんじゃ、修行がてら仕事の手伝いでもしてもらわんとのう」

 

「占いババさん、この地図は一体何処の?それにもう一枚は……念書か何かですか?」

 

「この前来た常連客が代金を持ってくるのを忘れてしまってな、後日払うということで書いてもらったんじゃよ。ここから五十キロほど行った先におるから、ひとっ飛びして回収してこい」

 

「ご、ごじゅっ……」

 

 思わず夕映は言葉を詰まらせる

 

 飛べるといっても今の夕映では自転車以上自動車未満がせいぜいであり、一定速度で飛び続けるなら片道二時間はかかる

 

 初日に脱水症状を起こしかけてしまったように、占いババの館の周囲は一面砂漠で高温な地域

 

 往復四時間近くをその環境下で飛ぶのは、かなり大変であることは想像に難くなかった

 

「暑い中飛ぶのが嫌なら、気温が下がる夜まで待ってから行くんじゃな。当然、回収してくるまでお主の飯は無しじゃが」

 

「……すぐに支度をしてくるです!」

 

「よろしい」

 

 今から飛んでいけば、往路はともかく復路は大分気温が下がる

 

 修行と夕食を両天秤にとった判断を下し、夕映はすぐさま出発の準備にとりかかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ここで占いババの商売のことについて振り返ってみよう

 

 占いババの商売は名前の通り占い稼業、やって来た客が望む内容を自身の水晶玉を使って占うというものだ

 

 無くしてしまった○○を見つけて欲しい、株を買いたいがどこを買えばいい等々

 

 代金が高額なこともあり、基本的に客は皆金持ちで金銭絡みの内容も多い

 

 その代金なのだが、一千万ゼニー(ゼニーと円の相場はほぼ同じのようだ)という大金である

 

 そんな大金を夕映は、ジュラルミンケースに入った状態の現金で渡された

 

「一千万くらいならと思ったら……なんで三千万も渡されるですかっ!」

 

 それも、想定していた三倍の金額を、だ

 

 今回の回収相手、世界一の大富豪と称されるギョーサン・マネー氏は占いババに複数回占ってもらっていた

 

 内容としては、今度10歳になる息子のドルの誕生日に何をしたらいいか、というもの

 

 すると水晶玉にミスターサタンが映り、ならばと自身がスポンサーになって武道大会を開催することに決めたらしい

 

 残り二回は開催する会場と大会のプロデューサーの選出で、息子のためならと惜しみもなくつぎ込む姿勢を見せた

 

 結果として夕映が背負っているのは、およそ三キロ少々の札束が入ったジュラルミンケースである

 

 片手で持とうとすると飛行時に操作性やバランスの問題があるため、マネー氏の家からビニール紐を貰って無理やり身体に結び付けていた

 

「しかしケースも含めて総重量が増えたせいか、魔力の消費が思った以上に進んでます。一旦どこかで休憩を取らなけれ……?」

 

 下はひたすら砂漠砂漠砂漠、どこか休める木陰は無いかと飛行しながら周囲を見渡す

 

 すると夕映の耳に、さっきまでは無かった音が突如として入ってきた

 

 鳥か何かが翼を羽ばたかせ、空を飛んでいるような音

 

 しかし音の大きさが尋常ではない、音の主がかなり巨大であることは容易に予測できた

 

 その上、こちらに向かって近付いてきている

 

 後ろから聞こえたため、振り返って確認すると

 

「なっ!?」

 

 夕映は一瞬自らの目を疑った

 

「ドラゴッ……」

 

「ようお嬢ちゃん、随分重そうなもん背負ってんじゃねえか」

 

「喋っ!?」

 

 そして直後に自らの耳も、だ

 

 目の前に現れたのは人語を解し喋る、ドラゴンに近い風貌をした怪獣

 

 占いババの館の闘技場戦士も皆人外であるが、ミイラ男やドラキュラと人型だったためこういったタイプと相対すのは初めてのことである

 

 箒に乗って飛んでいるのが珍しいのか、ジュラルミンケースを紐で身体に括りつけているのが珍しいのか、夕映のことをジロジロと見る

 

「俺はギラン、ここいらじゃちょっとした顔でな。初めて見る顔だが、面白いもんに乗ってんじゃねえか」

 

(これは面倒なのに絡まれたですね……なんか素行も良くなさそうですし、適当にあしらってさっさと退散しましょう)

 

 目つきの悪さや雰囲気は悪漢のそれであり、嫌な予感がした夕映

 

 急いでいるのでと理由をつけ、この場を離れようと試みるが

 

「まあいいじゃねえかよ、この俺が話してやってんだちょっと付き合え」

 

「いえ、本当に急用なんですから……」

 

 相手はなかなか開放しようとしない

 

 こうしている間にも時間は過ぎていく、夕映は時間が惜しかった

 

 すると夕映の拒む素振りが強くなるにつれ、ギランの方も次第に態度が変わっていく

 

「ああそうかい、そんじゃーほれ」

 

「は?」

 

「ここらじゃ新入りはみんな俺にあいさつに来るのが普通なんだよ。それを態々こっちから出向いてやったんだ、手間賃と勉強料寄越せつってんだよ」

 

(うげ、やっぱり……)

 

 ようは体のいいカツアゲだ、この辺りで初めての顔を発見して近づけばまず無条件でこの要求が可能になる

 

 予想した通り面倒な事態へと発展し、夕映の顔は焦燥をあらわにし背中のケースに意識が向いた

 

(これを奪われるわけにはいかないです!)

 

「おら、さっさと出せよ。金がねぇなら背中のケースでもいいぞ、なんか高価なもんでも入ってんだろ?」

 

(高価なもんどころか、まんま三千万ゼニーの大金です!)

 

「逃げようとか考えてんじゃねえよな?ガキだからって舐めてると痛い目見せてやんぞおら!」

 

 ギランの面相が更に悪人のそれへと変わり、両拳を交互に鳴らして怒号と共に威嚇する

 

 腕っぷしの差は明らか、正面突破は不可能と夕映は悟った

 

(戦いの歌はまだ未修得……飛んで逃げ切るしか道は無し、ですか)

 

「黙ってりゃどうにかなるとでも思って……」

 

「わ、分かりました!出しますです!」

 

 業を煮やしたギランが、ついに実力行使に出ようと夕映へとその太い腕を伸ばす

 

 しかし夕映の言葉を聞いてピタリと止め、逃げる素振りがないことを確認し満足げな表情を見せた

 

「分かりゃいいんだよ、最初からそう言ってればさっさと行かせてやったっつーの」

 

「今財布を出しますから……」

 

 そう言って夕映は、羽織っていたマントの内側に手を入れる

 

 しかし占いババから小遣いも貰っていない夕映は、背中の札束を除けば完全に無一文

 

 マントの内側にあったのは、もしものためと仕込んでおいた二つのアイテム

 

 それらを内ポケットの中で手に取ると、素早く小さな声で魔法の始動キーを紡ぐ

 

「プラクテ ビギ・ナル……」

 

「おいまだかよ財布は!」

 

(食らいやがれですっ!)

 

 そして素早く手を抜き取り、もう片方の手で小ビンの栓を外してその中身をギランへとぶっかけた

 

 一瞬何が起きたか分からなかったギランだが、その直後自身の嗅・味・触覚の三つにとんでもないものが襲い掛かる

 

「っ!?んがあああああっっぅ!!!」

 

 目に入った液体はとてつもない刺激を与えその両瞼を閉じさせ、鼻に入った液体はとてつもない悪臭を放ち、口に入った液体はとてつもない苦みを口内全体に広げる

 

 魔界ガマガエルの目玉漬け体液ドリンク

 

 魔力補充用に念のためと少量持ち出していたそれは、本来とは違った用途ではあるが確かに機能した

 

 目を閉じたことで視覚も機能しなくなったギランは、否応なく次なる夕映の攻撃を受ける

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)!!」

 

 取り出したもう一つのアイテム、初心者用の杖から放たれる三本の風矢

 

 ギランへと絡みつき、動きを完全に拘束する

 

(今のうちに!)

 

 すかさず夕映はそれぞれの手に杖と小ビンを持ったまま箒の柄を掴み、全速力で箒を発進させた

 

 目潰しにしろ魔法の射手にしろ、稼げることの出来る時間は有限だ

 

 とにかく距離を離すべく、夕映は魔力を惜しみなく注ぎ込む

 

(まだ……まだ速度が足らないです……ええいっ!)

 

 それでもこのままでは追いつかれると踏んだ夕映、手に持つ小ビンの中身がまだ僅かに残っていることに気付く

 

 先日の出来事がフラッシュバックするも、再びその液体を口内に流し込む

 

「うっ、ぐううう……でやああああっ!」

 

 体内から湧き上がる魔力は全て自らが乗る箒へと注がれ、夕映は猛スピードで加速した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お、そろそろ嬢ちゃん帰ってくるみたいだぞ」

 

「え、ずいぶん早くないですか?」

 

 日が沈み始め、空が赤く染まりだした頃

 

 夕映が不在のため朝倉が一人で夕食の支度を行い、さよはアックマンを話し相手にして時間を潰していた

 

 そうしているとアックマンが夕映の接近に気付く、一方さよは予想よりも早い夕映の帰還に少々驚いている

 

「かなり飛ばしてやがんな、別にまだ急ぐほどの時間でもねえのに」

 

「何かあったんでしょうか……」

 

「ちょっと見てくる、幽霊の嬢ちゃんはここで待ってな」

 

 そう言ってさよを館内に残し、アックマンは館を出る

 

 夕映の魔力を感知した方角を見ると、安定しない軌道でこちらへ飛んでくる夕映が目に入った

 

「おいおい、どうしたってんだよ一体」

 

 その彼女の姿を見て、アックマンの顔は苦くなる

 

 顔は疲労と焦燥に染まっているのが遠目からも分かり、アックマンがこちらを見ているということに気付いたのは大分接近してからのこと

 

 着地も大失敗、減速の加減を誤って地面を転がるようにして動きを止める

 

「げほっ、げほっ……ア、アックマンさん……」

 

「大丈夫か嬢ちゃん?何があった……って、箒についてるそいつは」

 

「帰路の途中でゴロツキに絡まれまして……撒こうとしたんですが、すみませんです……」

 

「ゴロツキ?そういや気がもう一つ……」

 

 アックマンが駆け寄ると、箒についたあるものを発見

 

 紫色をしたゼリー状のガムのようなもの、これが箒の後端にべっとりと張り付いていた

 

 そうなると箒のスピードも大分落ちる上、燃費もかなり悪くなっていたはず

 

 それでなおあのスピードを出したことにアックマンは驚くが、呑気に感心している場合ではないだろう

 

 このガムの主が既に、夕映に追いつきアックマンの背後に立っていたのだから

 

「このクソガキ、散々手こずらせやがって……おいこらてめえ、そこどけ!」

 

「……誰だか知らねえが、怪我したくなきゃ帰んな」

 

「なんだとぉっ!?」

 

 目を血走らせ、緑色の肌に赤色を混ぜた状態でギランは怒号を吐く

 

 もちろん、アックマンにどく気はない

 

 さっさと帰った方が身のためだという旨をアックマンは伝えるが、ギランももちろん従う気はない

 

 それどころか、より一層ギランの神経は逆撫でされ怒りのボルテージがさらに上がる

 

 血管が浮かぶほどに拳を握りしめ、アックマンへと殴りかかった

 

「この野ろ……なっ!?」

 

「ほれ、これで分かっただろ」

 

 しかしその拳は届くことはない、アックマンに指一本で完全に阻まれたからだ

 

 さらにギランは力を込めるが、アックマンはビクともしない

 

「んがががががが……」

 

「それじゃあさっさと」

 

「んごっ」

 

「お帰り願おう……かっ!」

 

 デコピンを顎に一発、ほんの軽くだがギランを沈めるには充分過ぎる

 

 こちらへ倒れ込むギランを抱えると、軽々抱え上げ投げ飛ばした

 

 気絶したギランは何も言わず、ただひたすらに元来た方角へ吹っ飛ぶだけである

 

「いっちょあがりっと。おい嬢ちゃん、きついんなら中まで運ぶぜ?」

 

「いえ、ご心配なく……疲れてるだけですので立って歩くくらいは何とか」

 

 夕映の方へ向き直ると、夕映は箒を杖代わりに突きながら立ち上がっていた

 

 確かに見る限り疲労はあっても怪我は無いようだ、足取りは重いが何とか進めている

 

 それでも危なっかしいと感じたのか、アックマンは速度を合わせて夕映のすぐ横について歩く

 

「本当に……ご迷惑を、お掛けしましたです」

 

「別にあれくらい大したことねえよ、まあこれであいつも二度とちょっかいかけてこないだろ」

 

 館内に入ると、夕映は括り付けていた紐を解いてケースを両手で持ち直す

 

 箒はいったん壁に立てかけ、占いババに届けると言ってアックマンから離れるように奥へと向かった

 

 そう言えばあんなものも背負って飛んでたのか、とこの時アックマンは思い出す

 

(婆さんが飲ませたあのドリンクのせいもあるが、随分頑張るじゃねえか)

 

 初めにドリンクを飲み干したことも含め、今までの夕映の意志の強さの背景には明確な目標があるのだろう

 

 でなければあそこまで我武者羅にやることは出来まい

 

(さて、なら俺も負けてらんねえわな……嬢ちゃんの事も気になるが、俺は俺で目標があるんだ)

 

「あ、アックマンさん。そろそろお食事の支度が……」

 

「オバケか……丁度良かった、予定よりちょっと早いが婆さんに伝えといてくれ。『地獄に戻りたくなったんで飯が済んだらよろしく』ってよ」

 

「え?」

 

 この日から数日、アックマンは占いババの館から姿を消す

 

 その理由を夕映達が知るのは、そしてアックマンが地獄から館へ戻ってくるのは、また次の話




 マニアックなキャラばっかり目立たせてすみません、にじファン版でもこんなんでした。

 ちょっと予定変更で書き下ろしシリーズ一旦中断、次回からは暫くにじファンでやったやつをリメイクしたのを投稿します。なので早く投稿できるといいなぁ(遠い目)
 
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