悟飯が師との約束を思い出した一方で、時を同じくしてその師はというと
「でやあああ!」
打撃音を周囲に響かせ、一対一の組み手を行っていた
自らと相対するは長瀬楓
場所は初日に拳を交えたあの森の中
刹那が爆符によって倒した木々は彼の手によってとうの昔に片付けられ、今では地上戦に適した広い平地と化している
全力で向かってくる楓に対し、ピッコロは右手を使わずに左手一本で相手をしていた
「どうした!最初より動きが鈍いぞ!」
だがそれでも、ピッコロは完全に防ぎきっている
顔からは汗一つ出ていない、むしろ汗をかいているのはひたすらピッコロに攻撃を仕掛ける楓の方
そんな様子を刹那・木乃香・カモの三名は、二人から少し離れた場所で座りながら眺めていた
よく見ると木乃香の手には杖、その先には刹那がおり傷を治療しているようだ
「しっかしピッコロの旦那……やっぱりと言うか何と言うか、ただモンじゃねーな」
「はい、ああして我々と何時間も続けているというのに……」
木乃香の肩に乗っていたカモが呟き、それに答えながらも刹那はピッコロ達から目を離さない
「全然疲れへんもんな……はいせっちゃん、治療済んだえ」
「ありがとうございます、お嬢様」
木乃香の杖から灯っていた光が消え、彼女自身から終了の知らせを受ける刹那
これには刹那も一旦視線を外し、木乃香と正面から目を合わし礼を述べた
「ずああああっ!」
「ぐっ!」
「ええって、ウチも練習になって……うわっ、楓さん!?」
二人が会話を交わし始めてまもなく、それは中断を止む無くされる
先程まで受けに回り続けていたピッコロが、ついに楓へ反撃
左拳から放たれた拳圧は楓をあっという間に吹き飛ばし、刹那達の頭上を飛び越え周りに残っていた大木の内の一本に激突
その幹は楓がぶつかった箇所から二つにへし折れ、倒れる際耳に響く音と思わずむせ返りそうになる砂煙をあげた
そこから楓は身を左右に揺らしながら姿を現す、しかしこのままピッコロへ再び攻め込めるほどの力はもう無い
心配そうに駆け寄る木乃香のすぐ横まで移動すると、脱力して尻餅をつくようにその場で腰を下ろす
「次!刹那!」
「は、はい!」
ピッコロの声を聞くと、刹那はすぐさま立ち上がって駆け出した
その手に夕凪は無し、我が身一つでピッコロへと猛攻を開始する
「ほなすぐに治したるさかいな、プラ・クテ ビギ・ナル……」
「毎度毎度、すまぬでござるな木乃香殿……あたたた」
木乃香は詠唱し、刹那の時と同様に杖の先に光を灯す
手馴れた様子で、今度は楓の治療を始めた
現在ピッコロ達三人の修行は、木乃香も含めた四人合意の上で以下のように行われている
ピッコロVS楓(その間刹那を治療)
↓
楓がダウン
↓
刹那と交代
↓
ピッコロVS刹那(その間楓を治療)
↓
刹那がダウン
↓
楓と交代
これを、食事や睡眠等の時間を除いてほぼ一日中延々とだ
ただしこのサイクルは木乃香の治癒魔法がないと成立しないこともあり、彼女の魔力切れが一応の区切りとなっている
最初はすぐ魔力が切れてやや効率に難が見られたこの修行も、毎日続けたことで自力を上げたのか木乃香の最大魔力が目に見えて上昇、長時間での修行が可能になった
刹那と楓同様、彼女もまた自らの腕をこの一週間で上げている
楓の治療もすぐ終わり、二人はピッコロと刹那の組み手に目を移した
「でやあっ!」
刹那が右拳を放つが、ピッコロは左手で難なく受け止める
「まだ動きが、甘いっ!」
「ぐふっ!」
気絶する一歩手前に威力を調整された右の膝蹴り、刹那の腹を捉え彼女の口から空気を無理やり吐き出させた
思わず腹を押さえようかと左手が動いたが、そんな時間をピッコロは与えない
刹那の拳を止めていた左手で、横へとなぎ払う
「ぐっ!まだだあっ!」
倒れ込む前に何とか受身を取った刹那は、鋭くピッコロを睨みつけ再び飛びかかる
しかしその攻撃もまた、ピッコロには届かず
数発刹那の拳をひょいと避けた後、姿が消えたかと一瞬錯覚する速度で身を屈める
そこから右足を伸ばして足払い
重心のバランスはいとも簡単に崩れ、受身を取るより先に脇腹と肘を強く地に打ちつけた
「っつ……がぁっ!」
後は、楓の時と同じ
ピッコロは左拳を突き出し、刹那を吹き飛ばす
ただし射出角度が低かったためか、楓ほど高くは飛ばずの低空飛行
地面に数度身体をぶつけながら、転がるようにして木乃香達の前に倒れ込んだ
「そう言えば、あむ……ピッコロ殿が言うように、もう一週間が過ぎたのではござらぬか?」
「確かにそうやね、孫悟飯君やったっけ?」
天気は快晴、日は高々と登り現在は一同の真上に位置している
元いた世界とは日にちも異なり、こちらでは現在5月
ひと月ほどのズレがあるわけだが、今いる地域の気候と麻帆良の六月のそれとは大きな差はなく、違和感を覚えることはあまりなかった
さて、修行を一旦切り上げた一行は今は昼食の時である
最後に吹っ飛ばされた刹那の治療を終えたところで木乃香の魔力が打ち止めとなり、時間もちょうど頃合だった
こちらに来てから彼女達が食べているのは山に自生する植物や木の実が主で、今食べているのはキノコを火で炙ったものと林檎
一方で摂食の習慣を持たないピッコロは、時折竹製の水筒から水を飲みながら皆が食べ終わるのを待つ
というのがいつもの光景なのだが、ピッコロは水筒を脇に置き木乃香達の方へ向き直り口を開く
普段は彼女達の会話に進んで加わることはないのだが、今回は話題が話題であったため自然と加わっていた
「そうだな、本来なら今日の朝にはここに来ている筈だ」
「ピッコロさん迎えに行かんで良かったん?びゅーんって飛んでいけばすぐ着いてたやろ」
「そんなものいらん。来ないということはあいつなりの事情が何か出来たということだろう、わざわざそれにちょっかいを出しに行く必要もあるまい」
「まあ修行相手ってことなら、今は刹那の姉さん達がいるわけッスからね」
(もっとも、これがいかほどピッコロ殿の修行になっているかは疑問でござるがな)
カモの言葉に、楓は胸の内で苦笑していた
そうこうする間に食事も終わりに近付き、火の始末のため水を持ってこようと木乃香が立ち上がる
ここから少し行くと川があり、ピッコロも含め一同がそれを飲み水として使用している
朝食の時にも使った残りを容器に入れておいたのだが蓋を閉め忘れ、山の動物が目をつけたのか先程覗いてみると見事に中身が空になっていた
「ほな、うち新しい水汲んでくるえ」
「ではお嬢様、私もお供しま……っ!?」
木乃香の後を追おうとし、刹那が片膝を立てる
次いでもう片方も立てようとしたところで、彼女は動きをピタリと止めてしまった
時間にして一秒ほどだろうか、硬直が解けるとサイドポニーを大きく揺らして顔を向けた先は自身の後方
(こっちに何者かが、向かってきている?しかも気の大きさからするに……)
(ピッコロ殿に勝るとも劣らぬ相当の腕前と見たでござるよ)
こちらへと急速に接近してくる巨大な気
刹那だけでなく楓も感知しており、まだ姿こそ見えていないが二人が向いた先は完全に同方向だ
ピッコロとの修行を通じてこういった感知能力も向上してみせた二人に対し、木乃香とカモはわけがわからず刹那達とは違った意味で動きを止めてしまう
「えっと、せっちゃんどないしたん急に?ピッコロさんわかる?」
「悟飯がこっちへ向かってきている。それを気の動きで把握した、ただそれだけのことだ。もっとも……」
ここで修行する前だったなら、二人が反応するのはもう少々遅れていただろう
そういったことでも修行の成果が現れた、それ自体はいい
しかしピッコロが望んでいた結果とはやや差異が見られたようで、彼は眉をひそめていた
「……悟飯が近付いているという一点に気を取られて、肝心なことに気付かないようではまだまだだがな」
木乃香との会話を切ると、今度は刹那達にも聞こえるようピッコロは声を震わせる
「まだ気付かないか!こっちに向かっている気は、悟飯の他に幾つだ!」
「え?他に?」
「……む!?」
刹那達はピッコロの方へ向き直り、それからすぐ元の方向へと意識を戻す
ピッコロの発言の意味するところを真っ先に把握し、実行に移したのは楓
意識を集中し、悟飯のすぐ傍にポツポツとある複数の小さな気を感じ取った
「二つ……いや三つでござるか?」
「そうだ、加えてその内の一つからは気とは別に大きな力が感じ取れる」
「っ、まさか……」
そう言いながらピッコロは僅かに木乃香へと目をやる、それに気付いたのは刹那の方が早かった
懐から一枚のカードを取り出し、まずはこちらへ向かってくる悟飯一行に対し意識を傾倒させる
確かに感じる気とは別の力、それは木乃香も行使する「魔力」そのものに違いなかった
次はカード、自身が持つ仮契約カードから魔力を発現させ先ほどのものと比較
答えは一秒と経たず出た
「ネギ先生だ!ネギ先生がこちらへ向かっている!」
「兄貴が!?」
「ほんまなんせっちゃん!?」
「やはりか……」
刹那の驚きの声に、木乃香とカモが続く
元より刹那達の仲間の誰かとあたりをつけていたピッコロは、納得した様子を見せる
刹那が木乃香の問いに間違いないと答えると、次に飛んできたのは楓の報告
残る二つの気の内、一つはどうやらコタローであることもこの時点で分かった
「あと一人はどうも誰かに負ぶさっているのか、悟飯殿と一緒に飛んでるコタロー殿より気を解放しておらぬ故少々判別つきかねるでござるなぁ……うーむ」
「え~、誰やろ。ピッコロさんが知らんいうことは、少なくともうちらの知り合いやんな?」
まほら武道会での試合観戦、更には直接拳を交えたこともあってコタローの気の判別はすぐできた
しかし残るもう一つの気の持ち主は、どうもどちらにも該当しないようだ
ということはアスナや古、真名が対象から外される。気自体はうっすらと感じるので茶々丸も除外
「そうだ刹那の姉さん、兄貴が近くまで来てるってんならカードで直接連絡取れんじゃねえか」
はて、すると誰だろう。その疑問を解決できぬものかと更に気を探らんとし楓は集中を開始
をしようとしたところで、カモから刹那へと一つの提案がなされた
ちょうど刹那の手にはカードもある
ネギがこの世界へ来た拍子にカードをなくした、という事態になってない限りいとも簡単に叶うだろう
刹那も納得し、カモに言われるがまま自身の持つカードを額へと当てた
「……おいカモ、あのカードは木乃香が持っていたのと同じ物か?」
「そういや今まで木乃香姉さんしかカード使ってなかったっスね。アーティファクトを出す以外にも、契約を交わした
「ネギ先生聞こえますか!私です、刹那です!」
この刹那の声はほどなくして
“ネギ先生聞こえますか!私です、刹那です!”
「うぇ!?刹那さん!?」
「どないしたんや?ネギ」
「……ネギ君?」
こちらに向かって飛行中のマスター、ネギ・スプリングフィールドの耳へと確かに届いた
あの時悟飯から事情を聞いたネギとコタローは彼の師ピッコロの存在に興味を示し、今からでも行こうと提案(特に積極的だったのはコタロー)
パオズ山から少々距離があるが、舞空術(ネギの場合は魔力による浮遊術)での飛行が出来るならさして苦にもならないし問題なかろう
そう考えた悟飯は、ピッコロにネギ達を紹介したかったこともあり了承した
それとほぼ同時刻にあやかが自主練から帰還し、彼女の中で大分形になってきた舞空術の実践練習の意味も兼ねて三人と共に同行することになった
とは言っても気の総量及び技量は片道を飛び切るには足りず、申し訳なさ半分嬉しさ半分にあやかはネギに背負われていた
そうやって悟飯、ネギ、コタローの三人が飛行中というのが現在の状況
「刹那さんからだよ!多分仮契約カードからの念話で……えっと刹那さんのカードは……」
ネギも念話の返信をしようと、懐から仮契約カードをまとめて取り出す
刹那と違いネギの持つカードは従者の数だけあり現時点で七枚
なにぶんカードを扱うこと自体久々であり(来訪二日目辺りまでは、連絡が取れないか駄目元で一応使用してはみた)、どうも持つ手がおぼつかない
“ネギくーん、うちもおるでー。そっちにコタ君以外誰がおるんー?”
「わわわ!木乃香さんまで!?」
そこへ追撃をかけるように、木乃香からの念話も頭の中に響く
突然に突然が重なり、慌てふためくネギの目には七枚の内の二枚さえも捉えることは容易ではなかった
「ネギ先生、桜咲さんでしたらその左から二ば……あっ」
その様子を背中から見ていたあやかが、見るに見かねて手をカードの束へと伸ばす
ネギのことを思っての行動だったのは間違いない
「あっ……ああああっ!カード!カードが!」
しかし結果として起きたのは、カードを移動させるネギの手との衝突
それに伴う、カード全落下という大悲劇だった
「ももも、申し、申し訳ございませんネギ先生!わたくしなんてことを……」
「い、いいんちょさん背中の上でそんな、動かないでください落ちちゃいますよ!」
こんな状態でネギが拾いに行けるわけもなく、事態の把握がネギとあやかよりも数秒遅れた悟飯ら二人が慌てて回収に向かう
結局のところ、カード全回収と確認で三分
刹那及び木乃香との念話による簡易的な情報交換に五分、そこからの移動に三十分
ネギ達が刹那達と合流するのは、今からおよそ四十分程過ぎてからのことであった
次は〇〇までにとか書くと遅れる気しかしないので特に明記はしませんが、一日も早い更新が出来たらなと思いますので。今度ともどうかよろしくお願いします。ではでは