「アイヤーーーーーッ!」
「わっ、古ちょっタンマ!」
飛び込んでくる、カンフー少女の鉄拳
普段とまるで違う重さの全身にいつも以上の力を込め、クリリンは動く
左横、次いで正面ギリギリに古の拳が飛ぶ
身体全体を右に傾け直後にバックステップで後ろに回避するという行動の結果起きたもので、少しでも遅れれば間違いなく拳は彼の顔ないし鳩尾を抉っていただろう
古の攻撃は続く、体軸を安定させた拳・蹴りが絶え間なく襲いかかる
後退を主とした回避は、閉鎖空間である重力室内では限界がある
これ以上の後退は後々行動の選択肢を狭めかねないと判断したクリリンは、攻撃の対処方法を変更
足を止め、腕を前へ出し直接攻撃を受け止めるという新たな防御手段をここでとった
(ぐっ思った以上に重い、これが六倍の重力……いや、それを差し引いても古の攻撃力は格段に上がってる!)
侮っていたわけではない、しかし今まで通りの気構えで防御をした結果驚かされたのは事実
下がってしまった足をすぐ戻し、これ以上押されてたまるかと一撃一撃を正面から迎え撃ち防ぎにかかる
「まだまだアルーー!」
「……っの!」
それらを数発捌き、幾らか今の重力に慣れてきたところでようやくクリリンが反撃に打って出た
身を低く屈め、下段水平の回し蹴りで古の足を刈りにかかる
「うおっ!?」
古から漏れる驚きの声
それは、今まで古が見たクリリンの動きの中で一番早かったのではないだろうか
右の蹴りの直後のため一本のみでその身を支えていた左足は呆気なく床から離され、身体全体を斜めに傾けさせる
(よしっ、これでひとまず……)
ひとまず古の攻撃は止んだ、とこの時クリリンは思った
直後に倒れざまから古が咄嗟に放った気弾が自身に迫るのを、その目で見るまでは
「気だっ……」
「クリリン、もっと本気見せるアル!」
受け止めた腕で爆発した気弾の向こう側から、古の声
万が一流れ弾が壁や床に当たり、重力室が壊れてしまっては元も子もない
自分はもちろん古も重々に承知しており、気功波は撃ってこないだろうとクリリンは考えていたが完全に裏をかかれた
気功波の生成がまだ上手く出来ないのもあるが、撃ってきた気弾に攻撃力は殆ど無し
弾かれたり避けられたりしても設備の致命的な損傷には至らない、あくまで牽制のための気弾
実際クリリンは腕を交差し防御したことで追撃の時間を奪われ、古が再び体勢を戻すための時間を与えていた
急接近した古の左手がクリリンの右腕を掴み、懐へ潜り込まんと引き寄せる
初めての手合わせの際にもあったこの流れ、それをクリリンは
「だったら見せてやる……よっ!」
「なっ、へぶ!」
あの時ほど甘くない、そう言わんばかりにカウンターを古に決めてみせた
腕を掴んできたのは片手一本、振りほどくことは難しくない
肘を固定点として、そこから先を手首を返しながら小さく右に一回転
左回りに捻られた古の右手は中指から小指の三指がクリリンの腕から離れ、そのまま逆に古の腕を掴み返す
引き寄せ体勢を崩させながら腕から手を離し、空いた左脇に右掌底を打ち込んだ
(この返しは、前に私が教えた……)
「どうだ古。いきなりだったんで驚いたが、もう同じ手は食わないぜ?おっと、こいつもな」
「ぐぐっ……」
懐に潜り込んでから打つつもりだった古の拳は、まだ解かれていなかった
クリリンが右腕を引くその瞬間を狙って放ったが、左手で正面から掴んで止められる
「そらっ!」
「わわっ」
力を込めて押し切ろうにも、元々の力の差を考えれば正面突破は不可能
すかさずクリリンは古の右手首を握り、彼女の重心を崩し回転させ投げ飛ばす
合気のような投げで小さな円を描き高速で投げられると、外れかけて直してなかった右のヘアゴムが完全に外れ古の背とほぼ同時に床についた
古は咄嗟に受身を取りはしたが、クリリンの左手に右腕を掴まれたままで主導権は動かない
(ここまで即座に対応されるとは……完敗アルなこれは)
古に極端なダメージは一切無し、動きを封じるないしは無力化するのに最適の威力でクリリンは反撃を行った
それも気を高めての力による制圧ではなく、古に教えてもらった内容も踏まえての『柔』によるものが大半を占める、完全対応に要した時間も初日と比べうんと短い
一方で古は自身が誇る中国拳法こそ主軸において拳を振るったが、序盤に主導権を握った要因は六倍重力に耐え自在に動けるようになった慣れとパワーの向上
クリリンと対比してみれば、どちらかというと『剛』に重きを置いたような攻めを見せていた
あの時と丁度逆、しかもそれに気付いたのは今
これ以上の戦闘続行は意味を成さないと確信した古は、息を口から漏らし右腕に込めていた力を抜く
それを左手を通して察したクリリンは古を開放、かくして決着はついた
「……遅いかもしれないアルが、不意打ち紛いの真似をしてすまなかたアル」
「いいっていいって、結果的には久しぶりに緊迫感のある組手が出来たわけだし。けどそれにしたって、随分腕を上げたじゃないか」
「まだまだアルよ、んっ……まあ今度の大会、そうでなくとも元の世界に戻るまでには、クリリンの今以上の本気と正真正銘の勝負をしてやるアル!」
古は六倍の重力に抗いながら上体を起こす、吹っ切れた様子で敗戦に対する悔しさは殆ど見られない
頼もしい表情を見せられてクリリンからも力が抜ける、そして六倍の重力下にいることを改めて認識した
「にしてもやっぱ効くなぁこれ。悟空やベジータはともかく、ヤムチャさんや天津飯はこれの倍近くで修行してたのか……」
「スイッチ、もう切ったほうがいいアルね。うんしょ……」
「あ、俺が切るよ。お前はそこで少し休んで……うおっ!?」
「!?」
一歩踏み出したところで、クリリンから驚きの声が漏れる
力だけでなく気も抜けていた、注意が足りなかった
先程取れ、足元に落ちていた古のヘアゴムにクリリンは気付いていなかった
(やばっ、古にぶつか……)
ヘアゴムについていた玉を踏んで前方へと転倒、その先には古
あまりに突然のことで向こうも回避行動をとれておらず、このままでは激突は必至
クリリンの体重は四十五キロ、そして今この場の重力は六倍
頭部の重さは全体の一割前後なので、およそ二十七キロのヘッドバッドが炸裂してしまうことになる
(こっ、の!)
咄嗟にクリリンは左腕を伸ばし、肘を曲げつつも床に手をつく
何とか勢いを殺し、激突は回避
「あっ」
ただし回避したのは激突のみ、古への突撃は避けられず
「っ!?っ!?」
古は半開きの口で顔を真っ赤にしたまま胸元を見る
自身の右胸には、勢いを殺しポフンといった感じで飛び込んできたクリリンの左頬
一方の左胸には、つける床が近くに無くパーのまま乗っかってきたクリリンの右手
「わっ悪い、く……」
クリリンはしまったという顔ですぐ顔を起こし謝罪の弁を発しようとしたが、届くことはなかった
「いっいい、いきなり何するアルかぁぁぁ!?」
「がああぁっ!」
故意ではないとわかっていたが、恥ずかしさから飛び出した右拳は完全に無意識の産物
話そうと開けていた口の下顎部分を頬とまとめて完璧に捉え、自身に被さるように位置していた無抵抗のクリリンを重力室の端近くまでぶっ飛ばす
先程まで触れていた両胸を左腕で覆い、息を荒くしてクリリンが地に伏せるのを見届けた
「いい、いくら私より強い男だからと言ても、やっていいことには、限度が……はっ」
ここで、ようやく冷静に状況を整理するに至る
「し、しまたアル!クリリン!クリリーン!」
クリリンに起き上がる様子はない
急いで古は立ち上がり、クリリンの元に駆け寄る
うつ伏せになっていたため、下に手を差し入れ仰向けに返す
古の一撃はクリリンの顎をこれ以上ないほど正確に捉えており、脳を揺らし完全にダウン
肩を揺すっても、両頬にビンタをかましても起きない
「とと、とりあえず外へ運び出……ぐぐぐ、重いアルぅ……」
片腕を自身の肩にかけ、持ち上げようとするが六倍重力下では中々上がらない
目を『><』にしながら粘ること十数秒
「……しまた、装置を切るのが先だたアル!」
訂正する、古はあの時点でやはり冷静ではなかった
「なんじゃなんじゃ!?古ちゃん、クリリンに勝ちおったのか!一体どうやって!」
「あ、あはは……(とてもじゃないが言えんアルよ)」
クリリンを背負いカメハウスに戻った古だったが、亀仙人の問いに答えることは出来ず
暫くして目を覚ましたクリリンも同様で、『いいパンチを食らってしまった』とだけ亀仙人には答えた
最近の平均文字数からしたら今回ちょっと短めになりました、もう一回古達の出番回ったら長めに書きたいです。
次回は週末ですお楽しみに、ではでは。