『Z』映画版のストーリーを持ち込んでるんで分かるかもしれませんが、今作ではアニメ版の設定も結構採用していくと思いますのでご了承ください。
ではどうぞ
(ああ心配だ心配だ、あいつちゃんとやってるんだろうな)
左右に広がる長い廊下、並べられた数個から成る椅子の列、腰をかける女性達
廊下に敷かれているのは高級そうなカーペット、壁には絵画が何枚も飾られいかにも豪邸の廊下といったところ
(一応短時間だが、それなりの心得というものは教えておいた。あとはあいつがその通りやれるか、向こうさんがどう評価してくれるかだが……)
椅子の列の終わりの少し先にはドア、つい先程一人の少女が入室して数分が経過
その少女の帰還を待ちながら、ドアの一番近くの椅子に座るもう一人の少女がいた
(くっそ、中が全然聴こえねぇ……ん?でも終わったか)
中の様子を窺い知ることは出来なかったが、ガタリと鳴った椅子の音から終了という区切りは把握出来た
少しするとドアが開き、数分前まで同じく列に並んでいた少女が姿を見せる
「……駄目だったのか?」
「少々愛想が無い、と。そのように言われました、申し訳ありません」
「ああもういいって、こんな場所で頭下げられてもこっちが困るっつの」
どうやら開始前のレクチャーはさほど意味を成さなかったようだ
とはいえ彼女がその内容を100%実行出来るとは思ってなかったらしく、しょうがないと素直に割り切ることにした
「私ら二人の内どっちかが合格すりゃ上等なんだ、あとは私がなんとかやってみるよ」
「では私は着替えて表で待機していますので……よろしくお願いします、千雨さん」
メイド服を着た少女長谷川千雨に、同じくメイド服を着た少女絡繰茶々丸は後を託す
移動する茶々丸の背を目で追っていると、次の方どうぞと部屋の中から呼ぶ声がし千雨は覚悟を決める
(こんな真似、麻帆良祭であんな経験してなきゃする気すら起きなかったんだろうな)
いつも着用していた伊達眼鏡は外してある、気だるそうな表情と声色が呼ばれた途端豹変した
「っはーい!失礼しまーす!」
ノブに手を掛け、開けると同時に満面の笑みと猫撫で声が部屋の中に飛び込む
部屋にいたのはテーブルにつく男性二人、一人はどこにでもいるようなスーツ姿の中年男性
右手には名簿を持ち、先程千雨を呼んだのも彼のようだ
問題はもう一人、服の上からでもわかる筋肉質の身体とアフロヘアーの男
「あーっ!本物のミスターサタン様だぁ!憧れのサタン様に生でお会い出来るなんて、えへへ……ちう、とーっても感激ですっ!」
「お、おお……そうかそうか、それは良かった。えへへ……」
「えー、ではまず自己紹介からお願いします」
「はいっ!東の都から来ました、ちうです。よろしくお願いします!(嘘は言ってねえぞ嘘は、二つの意味でな)」
ちう、もとい千雨そして茶々丸が現在いるのは大陸東エリアサタンシティ
その中で一番の大きさを誇る建物、格闘家ミスターサタンの豪邸であった
(※数時間前)
「私にも出来そうな働き口が見つかった?」
「はい、こちらです」
旅の目的は、大陸東エリアのパオズ山に住んでいるという孫悟空との接触
ドラゴンボールについての情報を得るべく、千雨と茶々丸は船に乗りまずは東の都にたどり着いた
道中ネギ達の情報が得られないかと、地球上で五指に入るその大都市で数日滞在したが成果はまるで無し
仕方なく先へ進もうと東の都を発ち、次に到着したのがここサタンシティだ
ネギ達について等の情報収集と旅の資金調達のため、ここでもまた数日滞在するつもりでいた二人
ひとまずは二手に別れて地理の把握と簡単な情報収集をすることとなり、あらかじめ決めていた二時間後の現在は街中のカフェで向かい合わせに座っていた
茶々丸は千雨の前に、A4サイズ程の大きさの一枚の紙を提示する
「『メイドさん急募!あの英雄ミスターサタンのもとで、君も働いてみないか?』……なんだこりゃ?」
「ミスターサタン氏については、千雨さんは既にご存知ですね?」
「地球を悪から救った天才格闘家、だったか?この街に住んでるみたいだな」
東の都、更には東の都行きの船に乗った西エリアの港町
この世界についての情報を色々調べていた際彼の名は幾度と目にし、そして耳にしてきた
数日後に開かれる武道大会のポスターにもでかでかと写真が載っており、どうやらスペシャルゲストとして参加するとのことだ
「そのサタン氏が今度開かれる大会に先立ち、同伴させる専属メイドの募集をしているとか」
「ミスターサタン本人も参加しての面接兼アピールタイムで決定、ねぇ……」
「そこで、私達二人もそのオーディションに参加してみてはどうでしょう。時間も無いですし、すぐにでも支度をして」
「はあ!?」
改めて千雨はチラシに視線を戻し、募集要項の欄に目をやった
開催日は今日、しかも受付締切まであと数時間しかないではないか
「いや、確かに私もお前ばっかり働かせて悪いとは思ってたけどさ。これってつまり、少なくとも来週やる大会が終わるまでミスターサタンって奴の傍から離れられないってことだろ。一週間近くでここで足止めってのは長すぎないか?」
「千雨さんの仰っていることも間違ってはいません。しかし、それ以上のメリットがあるのもまた事実です」
突然の提案に千雨は難色を示すが、茶々丸の主張はこうだ
今回の肝は『天下一大武道会にタダで行ける』ということである
以前も話に上がったのだが、現在行方を追っている3ーAメンバーは何名かこの大会に足を運ぶ可能性が高い
古菲やコタロー辺りは単純に腕試し目的で参加しそうだし、ネギや夕映といった頭脳派組はそういった彼女の考えを見越して探しに来るかも知れない
ドラゴンボールについても、他の面々から更に情報を得られればより一層麻帆良への帰還に近づけるだろう
加えて世界規模の知名度を誇るミスターサタンの傍にいることで、大会までの間も新情報を得る分には世界中を旅して歩き回るよりは確実に効率が良い
「それと住み込みのお仕事のようですし、資金の節約という意味でも……」
「あーもう分かった分かった、行けばいいんだろ行けば。けど受かる保証なんて全然無いんだから、変な期待はしない方がいいんじゃねえかと思うぞ」
否定材料を持たない千雨は折れ、詳細をさらに見るべくチラシに再び目を注ぐ
(ふーん、面接兼アピールタイムは貸し出されるメイド服を着て、か。あくまで仕事は給仕メインだろうし、極端なミニってことはねぇだろ。ならここはメイド服必殺のメイドターンで、こうロングスカートをパッと広げてだな……あ、カチューシャは勿論あるんだろうな)
折れ、というよりは少々乗り気になってきた模様
思えば東の都行きの船内以降、ちゃんとした場所で寝ていない
宿賃を節約するためカプセルホテルだったりネットカフェだったり、街から街への道中では野宿さえも一度経験している
久しぶりに布団で寝られるかもと心を弾ませ、ネットアイドルちうはかつて自室で着こなしたこともあるメイド服での立ち振る舞いのシミュレートを開始していた
かくして二人はメイドオーディションに臨んだというわけだ
受付まで行ってみると、名前を書いてメイド服に着替えたらあとは並ぶだけという千雨に言わせれば『ザル過ぎるがおかげで助かった』進行方法
この世界に籍を持たない二人も問題なく受けることが出来たわけだが、茶々丸の結果はあまり好ましいものではなかった
茶々丸がメイドとしてアピール出来る点といえば掃除・洗濯・料理といった家事スキルの高さなのだが、単なる一室では口頭でしか伝えられずそれを印象づけさせるのは難しい
そもそもサタン側も今回のオーディションではそういうスキルを持ったメイドを求めているわけでなく、主な条件は『愛想がいい』・『可愛らしい』・『一緒にいて気分がいい』といったものとなる
そういったアピールはやはり上手く出来なかったなと、茶々丸は振り返りながら扉を抜け庭に出た
面接兼アピールタイムが終わると、参加者は更衣室でメイド服から着替え一律的にここへ出るようになっている
全員の審査が終わってから夕方に合格者をまとめて発表するらしく、まだ敷地内には多くの参加者が残っていた
「……?なんでしょうあの人だかりは」
千雨との合流を円滑にするべく茶々丸は出口近くで足を止めるが、そこである光景が目に入る
本宅とは別の建物が隣に一つ、そこの窓や入口に多くの女性達が集まり中を覗き込む
聴こえてくる声は大別して二つ、一つはその女性達による黄色い声
もう一つは建物の中から聞こえる、男衆らによる気合の入った太い声
建物の入口に掲げられた看板には『ミスターサタン道場』の文字、中にいるのはトレーニングに励むサタンの弟子達だった
「でぇぇぇやああっ!」
「ぐああっ!」
「「きゃー!カロニー様ー!」」
黄色い歓声の向かっている先は、道場内中央のリングで技を決める一人の金髪の男
相手の突進を素早くかわし、後頭部へ回転蹴りを叩き込みダウンさせる
(カロニー……記事で見たことがあります、確かサタン氏の二番弟子でしたね)
今いる場所からさほど離れてないこともあり、茶々丸も道場に足を運んでいた
カロニーはリング中央に陣取り、向かってくる他の弟子達を一人また一人とスパーリングの形で下していく
それを茶々丸は値踏みするが、強いといってもやはり表の世界レベル止まりかという結論をすぐに下した
(あの時対面した限りでは、サタン氏の実力も……)
強いことは強いだろう、ただし気・魔法等による裏の世界を知る彼女は彼らを完全な『強者』と見なすことは出来なかった
(……おや?)
一通り見て概ねのレベルもわかり去ろうとした茶々丸だったが、一人の人物の存在が彼女の足を止める
ロングの黒髪を耳の横辺りから左右で二つにまとめ、ハンドグローブを両手にやる気十分な『少女』が一人
歳はネギより一つか二つほど上だろうか、それでも背丈はやはり小さくウエイトも道場にいる者の半分以下しかない
「よっし!カロニー、次は私よ!」
握った右拳を左掌に力強く打ち込みやる気十分、少女はリングに上がりカロニーとのスパーリングを開始する
(あの年齢であの動き、かなり筋がいいですね……倍以上ある体格相手に、あそこまで立ち回れるとは)
現段階の実力で言えば、少女も健闘しているがカロニーの方が上だ
ただし両者の体格差を考えれば、少女の健闘がいかに凄いかが分かるだろう
仮に今の彼女がカロニー並みの体格を持っていたとすれば、マットに沈んでいるのは間違いなく彼の方だ
数年後にはサタンより強くなってもおかしくない、そんな評価を茶々丸はしていた
(ただ、この世界での一番の使い手がサタン氏ということを考えるとそこから先はどこまで伸ばせるか……古菲さんのように良い師に出会えればもしくは、といったところでしょうか)
裏の世界を知らずにいながら、あそこまでの実力を身につけた一人のクラスメイトの姿を茶々丸は再生する
決着はというと一人辺り三分区切りと決められていたらしく、ジリリと鳴ったベルが二人の動きを止めさせた
「ふぅ、流石に疲れたな。よし、じゃあ一旦休け……こら!何だそこのおっさん!」
他の弟子から受け取ったタオルで汗を拭いながらリングを降りようとしたところで、カロニーは突如として声を荒らげた
オーディションもあり多くの人が屋敷内に入っているということで、外からなら今日は道場の見学を許可していた
しかしその男は一声もかけず、道場の中へ平然として足を踏み入れている
「ほー、随分立派な道場だ。ここの主の地球の英雄様は、相当金を貰ってつぎ込んで建てたと見える」
「おい!無視するんじゃない!」
「……ん?」
二回目で自分が呼ばれた事に気付いたか、それとも答えるのが面倒でさっきまで耳を貸さずにいたのか男はようやくカロニーの方へ顔を向ける
「勝手に中まで入られちゃ困るんだよ!部外者はとっとと……」
「いや失礼、ここはミスターサタンの道場と思って足を運んだんだが……本人はいないのか?」
「わっ!?」
(っ、速い)
屋内にも関わらず、風がカロニーの頬を撫でる
そこからひと呼吸するよりも速く、男はリングに一瞬で上がりカロニーの背後まで移動していた
その動きは、茶々丸をして『速い』と言わせるほどのもの
加えてよく見てみれば、男の風貌はかなり異様
後頭部から長く伸びる三つ編みはともかく、そこ以外の頭部はヘルメットのようなもので完全に隠れている
両目もスコープのようなものを装着しており、服はピンクを基調とした中華風のそれ
「ミ、ミスターサタンに何のようだ!」
「なぁに、会えば一瞬で済む簡単な用事さ」
何より一番茶々丸が気になったのは、その服の胸部に書かれた血のように赤い一文字
『 殺 』
「ミスターサタンを、殺しに来た」
先程のベルが告げたのは、スパーリングの終了の他にもう一つ
とてつもなく危険な香りを放つ、この男の来訪も告げていた
次の話の文字数がかなり多くなったので、2話に区切るか現在考え中。
次回更新は一週間後くらいになりそうです、ではでは。