「のどかー、借りる本決まっ……あら」
五大都市の一つだけあって、西の都の図書館はかなりの大きさだった
麻帆良学園の図書館島を知るのどかやハルナからしても、設備の充実具合や蔵書数には中々に目を見張るものがある
平日ながらそこそこの人数が足を運んでおり、一旦別行動をとったブルマがのどかを見つけるのには少々時間を食った
大テーブルの隅に座って数冊の本を積み、真剣に読み込むのどかの姿
視線は決して本から外さず、首から下もページをめくる両手以外は殆ど動いていない
今しがた掛けた声も届いていないようだ、はてどうするかとブルマは腰に手を当て思考する
(……まあ、急いで借りて帰らなきゃってわけじゃないし、もう少しここに居させといてあげますか)
思えば、誰かを伴っての図書館来館は何年ぶりだろうか
学生時代に何度かあった程度で、それ以降はまるで記憶にない
現在の親しい人物として思い浮かぶ者達が大抵、読書とは遠縁にある者ばかりのため誘ったことすらなかった
そう考えると今回は滅多にない機会、ブルマは自分も何か本を探すかと踵を返す
(お昼になったらどうするかは、ハルナと合流してからかしらね……)
さて、そのハルナだがブルマとの合流を放棄し空を飛行中
「さーて、先遣隊は上手くやってくれてるかしらね……」
先程公園で目撃した謎の飛行物体、その正体を確認すべく彼女は飛行用ゴーレムで西の都から出ていた
彼女が魔法含めた『異能』に関わり始めたのは、麻帆良祭途中からとかなり日が浅い
そういったファンタジー要素への慣れも少なく、本件への興味を抑えることは難しかった
とはいっても単なる無鉄砲な行動を控えるあたりは、一度ネギ達と修羅場をくぐっただけのことはあるか
今乗っているゴーレムとは別にスピード重視で別のゴーレムを三体、正確な地点把握も兼ねて現地へと派遣していた
「上手くいったらスケッチさせてもらおうかしら、なんせ本物の宇宙人とあればそれこそ滅多にない機会。むっふっふ、パル様ゴーレム軍団の一いっったあああぁぁ!?」
しかしそれが成功に結びつくかは別問題、過去にもあった痛みがハルナの全身を走り抜ける
ゴーレムが受けたと思しきダメージが、術者ハルナのもとに返ってきた
まさかと思い、慌ててアーティファクトのページを開く
「げっ、マジ?」
本来ページから抜け出し白紙となっている筈の部分に、既にゴーレムが戻っていた
痛みがあったのは一回のみ、つまり一撃をもってしてそのゴーレムが倒されたということになる
(……あーこれはやばいかも。やっぱ一旦ブルマさんとこ帰痛たたたっ!」
心中の呟きが、いつの間にか口から出る叫びへ
またもダメージがハルナを襲う、これで残るゴーレムは一体
飛行用ゴーレムの動きも止め、痛みと思考を落ち着かせようと深く呼吸を二回
「えっと、残ってるのはヤムチャゴーレムだけ、と。戻ってこいって指示も出せないし、ダメージ覚悟でもう引き返した方が無難ね……ってあら?」
アーティファクトのページを開いて確認、またもやられたようだ
このままだとヤムチャゴーレムがやられるのも時間の問題ではと察したハルナは、仕方ないという思いが強いなか撤退を決める
もし自身が鉢合わせした時のことを考えると、身の安全の保証がまるでないのは明らか
そこで念のため自身の周りに護衛用のゴーレムを出そうとしたところで、正面からこちらに向かってくる何かを捉えた
ヤムチャゴーレムだ、こちらに一直線で飛んでくる
「おお、身の危険を感じて戻ってきたのね、中々優秀な判断してくれるじゃないの。ん?ちょっと待って何あれ」
ただし、後ろに別の者を引き連れて
もしやあいつ、敵を振り切れずここまで逃げてきたのではないか
そんな考えが頭をよぎり、ハルナの背筋を震わせた
「ゴッ、ゴーレム全員召喚!」
ダメージのフェードバックはこの際いい、とにかく時間を稼がねば
そう考えたハルナはアーティファクトから片っ端、それこそあの一件で封印していた三体のゴーレムすらも壁として召喚する
飛行用ゴーレムの向きを反転、後ろには目もくれず逃げの一手を打った
「女の子!?ね、ねえ待って君!」
「うわぁ!?」
しかしゴーレムの動きはまたも止まる、今度はハルナの意思でなく外部からの力によって
一瞬で進行方向に回り込まれ、ゴーレムの頭に手を伸ばされる
「君、ヤムチャさんの知り合い?それに今現れた悟空さん達は一体……」
「あれ、何か見覚えのあるような……ああっ!」
ハルナの目の前に現れたのは、一人の青年だった
肩に掛かるか掛からないかくらいの、男性にしてはそれなりの紫色の長髪
顔立ちは中々のもの、加えてヤムチャ同様鍛えているのか服の上からでも体格の良さが分かる
ハルナは記憶を掘り起こし、ある人物と見事に合致した
それは以前書庫で見たアルバム内の、一年前の写真に写っていて
それは何回か抱かせてもらった、ブルマとベジータとの一人息子によく似ていて
「もしかしてトランクスさん!?未来からタイムマシンで来たっていう!?」
「え!?」
それはずばり、正解だったわけだ
ハルナとトランクスの邂逅には、事故的な側面も強かった
理由としては、ハルナが派遣した先遣部隊のビジュアル
アイデアが行き詰まっていたハルナは、のどかとの合わせ技を使いブルマの協力のもと何体か新作ゴーレムを完成させていた
のどかとの合わせ技というのは、いどのえにっきでブルマの表層心理を読み取りその絵をハルナなりにアレンジを加えて完成形にするというもの
いどのえにっきに浮かばせるのは、過去にブルマが出会った敵
その結果作ったのがザーボンゴーレムと名も知らぬフリーザ軍兵士ゴーレム、先遣部隊の内のニ体だ
服装はフリーザ軍戦闘服のままでご丁寧にスカウターまで装備(機能再現まではしてないが)、過去にフリーザ達と戦ったことのあるトランクスは敵と認識し思わず攻撃してしまった
ヤムチャゴーレムを選出し、先遣隊全滅を避け無事に合流出来たのは不幸中の幸いか
「へー、それじゃあ人造人間は無事破壊できたのね」
「はい、それとセルも。これで別の過去にセルが現れることもなくなりました」
さて、ブルマからすれば一年、トランクスからすれば三年ぶりの再会だ
その再会は西の都図書館で行われ、今は自宅へ戻らんと四人で移動中のところ
親子二人の会話を、のどかとハルナは後ろでそれとなく聞きながらついていく
「そっか、今ブルマさんの家にいるトランクス君とは別人なんだ」
「分岐した先の未来から来たって話だもんね、そうなると超りんの話も現実味が前より帯びてきたというかなんというか……」
『未来を変えるため、時を越え過去へとやってきた』
トランクスと同じ目的を持っていた人物を、二人は知っていた
「それでトランクス、こっちにはどのくらいまでいるつもり?」
「悟飯さんや他の皆さんにも一回会っておきたいですからね、もし迷惑じゃなければまた何日かお世話になってもいいですか?」
「もっちろん、何日かなんて言わず一週間二週間くらい居てちょうだい!それにしてもこのタイミングで来てくれるなんて、渡りに船だったわ」
ブルマとトランクスの会話に戻ろう、一年前の戦いでもそうだったがトランクスはブルマの家に身を置くようだ
加えてブルマの言葉に何か含みがあると感じ、どういうことかとトランクスが尋ねると天下一大武道会の存在を聞かされた
「そんな大会が……」
「優勝者には賞金一億ゼニーと、世界温泉巡り旅行ですって。クリリンくん相手にヤムチャじゃ、正直頼りなかったのよね」
今までヤムチャへしてきたサポート、重力室の提供や時折食事に同席させたことは実はブルマが提示した交換条件
優勝した時の賞金は全額受け取っていい代わりに温泉巡り旅行はこちらに譲ること、というものだ
ヤムチャの一番の参加目的は賞金だったため文句なく承諾、更にはハルナのゴーレムを修行相手として借りることも出来ここ数日ヤムチャはブルマに頭が上がらなかったという
「え?その大会に悟飯さんやピッコロさんは出ないんですか?それに……」
「実際私もそこが気になってたのよ、ヤムチャは『どうせ悟飯はチチさんにどやされて勉強三昧、ピッコロは悟飯絡みでもない限りそういったイベントには出ないだろ』って言って確認もとらなかったけど。なんにせよこれ以上なく頼もしいわ、出てくれるわよね?」
他ならぬ母からの頼みだ、トランクスは了承する
しかし一方で、話に挙がらないある一名の人物についてトランクスは気になってしょうがなかった
「……父さんは、出ないんですね」
「……」
ブルマは無言の肯定、概ねの事情をトランクスはそれで察した
「お久しぶりです、父さん」
「……」
ブルマ宅に着くと祖父母への挨拶もそこそこに、トランクスはある部屋へと向かった
脇のボタンを押し、扉が横にスライドして開くと見覚えのある背が目に入る
まだ陽の高いうちからベッド上で横に寝そべるその男の姿は、当時の彼を知る者からは異質にしか映らなかった
「今回は17号と18号、それにセルを倒せたことを報告しに未来から来ました。悟空さんや父さん達のお陰です」
「……」
言葉は返ってこない、聞いているのか聞いていないのか、聞こうともしてないのかは後ろ姿だけではわからない
第一に成すべき筈だったことはこれで済ませた、しかし今はそれ以上に成すべきことがトランクスにはあった
「……驚かないんですね、母さんは図書館の中にもかかわらず大声をあげてましたよ」
「お前がここへ来る途中の時点で、先に気付いただけだ」
三年ぶりに聞いた父の声に、かつて感じた覇気は無かった
「用が済んだなら、さっさと出ていけ」
「……未来の世界で三年間、一人っきりでずっと修行してきました。地球を守る戦士はもう俺しかいないから、そして……」
ベジータの言葉に従うこともなく、部屋の中へさらに足を踏み入れる
「父さんや悟飯さんに、強くなった姿を見てもらいたかったから」
「……出ていけ」
「もう一度、相手をさせてくれませんか。ずっとというわけにはいきません、けど少しの間だけでも父さんの修行の手伝いを……」
「出ていけと言ってるのが聞こえんのか!!」
「っ!」
さっきまでは何も感じなかった、だから恐れることなく踏み入れることが出来た
なのに今の怒号はどうした、かつてと同じものを感じ足が止まる
「……俺は、戦うことをやめたんだ」
「父さん……」
次に発せられた言葉は、比べられぬほど弱々しい
けれど、これ以上近付こうとトランクスは思えなかった
踵を返し部屋を出る、ベジータから声は掛からない
両者背中合わせのまま、最後にこの言葉を残して
「母さんがチチさんに確認を取りました……今度の大会、悟飯さんとピッコロさんも出場するそうです。俺もそれに出て、悟飯さんに勝って優勝してみせます」
「!?」
「その時はどうか、もう一度俺のよく知る父さんの姿を見せてください……お願いします」
扉が閉まり両者の間を遮断する、両者とも再び開けようとはしない
外から聞こえる交通の音とは別に、部屋から離れていくトランクスの足音が嫌にベジータの耳についた
怒りか、悔しさか、自己嫌悪か
「……くそったれがっ!」
振り下ろされた右拳はベッドを叩き、そばにあった枕は天井に届かん勢いで跳ね上がった
くそったれとくそったれで、くそったれがダブってしまった。
リメイク前では大会前のベジータに触れなかったこともあり書くたび苦戦の連続です。
次回も一週間後の予定です。ではでは