ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

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第34話 大スランプ!?鋼の心で突き破れ!

「はいっ、今日のお掃除おしまいー」

 

「朝倉さんお疲れ様です!」

 

 西の都からうーーんと南下、ひたすら南下した先に一軒の建物があった

 

 占いババの館、先日からそこに居候する三人の少女はそれぞれの生活を送る

 

 頭に三角巾、右手にハタキを持った朝倉は本日命じられた清掃業務の終了を宣言し身を伸ばす

 

 隣にはさよ、途中から朝倉に付き添っていたらしい

 

 寝食の場を提供する代わりに、二週間のタダ働き

 

 それが占いババから与えられた朝倉達への使命、命を救われたこともあり彼女達は従っていた

 

 ただし、どこまで真剣に取り組むかは別問題

 

「さーて、また話でも聞きに行こうっと」

 

「……あれ?朝倉さん、まだあっちの棚が終わってませんよ」

 

「ん?へーきへーき、また後でまとめてやっとくからさ」

 

 几帳面なさよが見落としはないかと点検をしたところ不備を発見、しかし朝倉はそれを放置し部屋から出ることを選択

 

 館の中での生活しか出来ない朝倉の現在の楽しみは、情報収集

 

 館にある古新聞古雑誌を読み漁り、更には闘技場戦士から話を聞いたりなどし、この世界についての理解を深めようとここ毎日は館内のあちこちへ足を運んでいた

 

「占いババさんに怒られちゃいますよー」

 

「問題ないって、ババさん今は夕映っちに付きっきりだしバレないバレな……うげっ」

 

「終わっとらんならさっさと済ませろ、飯の支度もあるでな」

 

 しかし朝倉の目の前に、その占いババが不機嫌そうな顔で姿を見せる

 

 午後はいつも夕映の魔法指導にあたっており、この時間この場所に現れることは無いはずだ

 

 一週間以上の雑用生活を過ごし占いババの行動パターンを把握していた朝倉は、予想外の現状に思わず顔を引きつらせた

 

「……ババさん、夕映っちの稽古は?」

 

「出来があまりにも悪いんで終わらせた、今は自主練中じゃろ。それとさよ、仕事じゃついてこい」

 

 朝倉の問いに簡潔に答えると、占いババの乗る水晶玉が百八十度横に回る

 

 次いで朝倉の傍にいたさよを呼びつけ、自身の横につけさせた

 

「もしかしてまた地獄ですか?」

 

「そうじゃ、明日から働く闘技場戦士を何人か迎えに行く。お主には付き添いついでに、何か閻魔の手伝いでもしてもらおうかの」

 

「閻魔のおじ様のですか?分かりました、それじゃ朝倉さん行ってきまーす!」

 

「サボるでないぞ」

 

 さよが朝倉に手を振り、占いババが釘を刺したところで二人の姿は目の前から消える

 

 部屋に残された朝倉は、苦い表情で頭を掻く

 

 今度こそ占いババからこの場からいなくなったわけだが、再びサボる気力がスっと消えていた

 

 よくよく考えれば、占いババは水晶玉を使って遠くの場所を見ることが出来る

 

 地獄からサボっている自分の様子を映し出し、それを見て現世に帰還し突如目の前にパッ

 

 そんな心臓に悪そうな光景が頭をよぎり、放り投げていたハタキを拾い三角巾を締め直す

 

「ちゃんと終わらせれば、文句言われる筋合いはないもんね。そういうことそういうこと、さっさと終わらせよーっと」

 

 夕映の様子を気にしつつも、朝倉は課せられた清掃業務を再開した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーっ、はぁーっ、駄目です。まさかここまで難しいとは……」

 

 先程朝倉が掃除していた部屋は、始めに三人が占いババ達と出会った客間

 

 外部からの者も通すことがある部屋だが、この館には余程のことがない限り部外者を入れない一室があった

 

 それが今夕映のいる、占いババの部屋

 

 周囲には魔法書が入った本棚、以前書庫で夕映が読んだものより専門性が高いものが納められている

 

 他にも何やら怪しい雰囲気を漂わせる魔法薬の瓶や、調合用のフラスコや巨大窯

 

 魔法に関するあらゆる物が詰め込まれたこの部屋は、夕映に魔法を教授するにあたってうってつけと言えた

 

 ちなみに部外者を基本的に入れないのは、魔法道具には取り扱いの難しいものが多いため

 

 それに先立って夕映は自身のアーティファクトを用い幾らか勉強しており、晴れて入室の許可を占いババからもらっていた

 

 その部屋の中で現在夕映は一人、椅子に座りテーブル上の水晶玉とにらめっこの真っ最中

 

 この水晶玉は占いババが普段使っているものではなく、別の小さいもの

 

 テーブル中央には、鍵のかけられた正方形の黒い箱

 

 本日彼女に与えられた課題は、『水晶玉で黒い箱の中身を映し出せ』

 

 ようは占いババが普段の占いでも用いる、基礎的な念視魔法の一種だ

 

 アーティファクトで術式・詠唱を前もって調べ理解していたはずの夕映だったが、結果は振るわなかった

 

 いくら魔力を込めても、詠唱を唱え直しても水晶玉には一向に映る気配がない

 

 打開策が見つからず、内容が進まず占いババも業を煮やして部屋から退出

 

 『その水晶玉は貸しておく、明日までに出来るようにしておけ』

 

 占いババにはこう言われていた

 

 それから自主練ということでこの部屋で数時間、ひたすら水晶玉に魔力を込め箱の中身を探っていた

 

 その魔力が底を尽きそうになり、ひとまず休憩に入ったところで現在に至る

 

「ひとまず魔力の回復を……あ、寝室にドリンクを置いてきたままでした」

 

 ポケットに手を入れるが、意中の物はそこにあらず

 

 最後に見た場所は何処かと過去の自分の動きを再生し、着替えの際一旦取り出し枕元に置いたことを思い出した

 

 寝室まで取りに行くだけの余力はまだ充分にある、夕映は立ち上がると部屋の扉まで足を運んだ

 

「なんとしてでも成功させねば……ってうわっ!」

 

「よう嬢ちゃん、邪魔するぜ」

 

 手を伸ばそうとしたその時、外から別の者が手をかけ扉は開かれる

 

 一、ニ歩下がった夕映の目の前に現れたのは、ここ数日姿を見せていなかったあの男

 

「アックマンさん!こっちへ戻ってたですか?」

 

「ついさっきな。嬢ちゃんがここにいるって婆さんから聞いたんで、気になって様子を見に来ちまった」

 

 全身を黒に染めたその姿は、そうそう忘れられるものではない

 

 早々にアックマンの名が夕映の口から飛び出し、ここに来た経緯を話したアックマンはそのまま入室した

 

「あっ、中に入るのは……」

 

「心配ねえよ、婆さんの許可はうんと前からもらってる。ところで嬢ちゃん、調子はどうだ?」

 

「……」

 

 自分の部屋かのように堂々と中を踏み進む、どうやら何度かここに入ったことがあるようだ

 

 テーブルの上にある水晶玉、他にも脇に置かれた魔法書等を見てついさっきまで修行の最中だったことを察したアックマン

 

 ここ数日の間にどれだけ成長していたか

 

 来訪初日から何かと目をかけてくれていた彼からの問いに、夕映は上手く返せなかった

 

「なんだぁ?答えられねぇってことは、つまりはそういうことなんだな?」

 

 否定は出来ない、無言のまま夕映は顔を俯かせる

 

 それは肯定の頷きにも見え、俯く直前に見えた表情からもそうだと推測することは容易い

 

 短く息を吐き、アックマンは近くの壁に寄りかかった

 

「あのなぁ、嬢ちゃんはまだ若いんだ。一回二回のスランプで落ち込んでちゃキリがねえ、もうちっとばかし余裕を持ってもいいと思うぜ」

 

「……時間が、無いですから」

 

「あん?」

 

 漸く返ってきた夕映の言葉

 

 それは想定していたよりも細く小さく、アックマンが聞き取るのもギリギリだった

 

「この館での二週間のタダ働きが終わったら、私は館を出て他のみんなを探しに回るつもりでした。それには占術と飛行術の魔法、どちらも必要だと思い占いババさんに弟子入りしたです」

 

「別に二週間って縛りをつけなくたっていいだろ。婆さんに頼めば一週間でも二週間でも延長してくれるさ、今まで通りタダ働きもついてくるだろうがな」

 

「タダ働きは寝食の場を提供していただいてる対価として充分納得しています……ですが魔法指導は別です、私はそれに見合う対価を今もろくに占いババさんへ返せていないです」

 

「それで焦ってるってのか?」

 

「それだけじゃありません。もしアックマンさんの言うように甘えて延長してもらったとします、それはつまりネギ先生達の捜索を延長することにもなるです」

 

 想い人が、親友が、今どんな目に遭っているかしれたものじゃない

 

 もし探しに行ける、助けに行けるのが自分しか残っていなかったら

 

 そんな最悪のケースを考えたことは、一度や二度じゃ済まされない

 

 本当なら箒で飛べるようになった今、すぐにでも探しに飛んでいきたいがグッと堪えていた

 

 さらにもう一歩先、皆の場所を占えるようになればより確実に探せると分かっていたからだ

 

 なのにそこへ向かおうとしているこの時、いつ超えられるか分からぬ足止めを食っていることに夕映は耐えられる自信がなかった

 

「ですから、私は……」

 

「……ちょいと、ある昔話をしてやるよ」

 

「え?」

 

「そこの椅子、座んな」

 

 次に吐露する言葉を探しながら、夕映は下唇を噛む

 

 そこへ、唐突な申し出がアックマンからなされた

 

 顔を上げると、さっきまで座っていた椅子をアックマンが指差している

 

 言われるがまま夕映はそこに腰をおろす、強張っていた両脚が少し楽になったように感じた

 

「ある男の話だ、その男は自分の強さにうーんと自信があった。現にこの世界で有名な武道大会でも二回優勝、当時は有頂天だったさ」

 

(……)

 

「それが、んーとそうだな……十八年前か、その男は衝撃的な大敗を喫した。最後はパンチ一発でノックアウト、相手は嬢ちゃんよりも小さいくらいのがきんちょさ」

 

(え?)

 

「当然負けて悔しかった、そしていつかリベンジをしようと生まれ故郷である地獄へと修行に戻った。だがそこからが文字通り本当の地獄だったのさ」

 

(地獄で、って……)

 

「地獄ってのは嬢ちゃんも知ってると思うが、死んだ悪人が次々とやって来る。今言ったガキンチョに倒されたやつも大勢いたな、しかもうんと強いのが続々とだ」

 

「あの、それって……」

 

「その男は地獄の悪人共にやられるたび、自分の未熟さを実感したのさ。こいつらを倒したあいつにはまだまだ及ばない、超えたと思ったら更に強い奴らが地獄にやって来る。目標はどんどん遠くへ、止まることなく離れ続けていく」

 

「アックマンさ……」

 

「けど諦めたことは一度だってねえ、今も修行を続けてる。何故だか分かるか?決して折れることのない、鋼のような心を持ち続けようとしたからだ」

 

「鋼のような心、ですか?」

 

「おうよ。そのがきんちょ……今はもうがきんちょじゃねえか、その男を倒してやるんだって強い意志によってな」

 

 さっきまで一人語りを続けていたが、ようやく自分の言葉に返してくれた

 

 夕映は自然と、アックマンの話に更に聞き入っていた

 

「何としても仲間達を探し出したい、だったか。嬢ちゃんもそういう強い意志があったから、あん時もあのドリンクを飲めたんだろ?ようは今もその延長戦よ」

 

「延長戦……」

 

「結局は最初に俺が言ったことと変わりねえ。一回二回の失敗でくよくよすんな、それに心をもっと強く持て、そういうこった。おr……ゴホン、その男もそうやって折れずにいるんだ」

 

「その男も、ですか」

 

「……そうだ」

 

 最後に見せた失敗に、夕映は口を緩ませる

 

 そもそも語り口からして不自然だった、伝聞だけでは話しきれない内面的なことも的確に述べていた

 

 それに黒い肌に誤魔化されよく見えなかったが、よくよく注意してみれば生傷がそこかしこに散見できる

 

 今指摘することは簡単だ、しかし夕映はそうしなかった

 

「十八年、ですか……一日二日でこうなっていた自分が、ひどく小さく情けなく感じるです」

 

「変われるかどうかは、嬢ちゃん次第なんだぜ」

 

「……何だか色々とスッキリした気がするです、ありがとうございます」

 

「ならいいんだ、邪魔したな」

 

 夕映の見せる顔に、来室当初の暗さは無い

 

 場所を聞いた時の占いババの機嫌の悪さから、何かあったと思い足を運んだが一応は役に立てたか

 

 目の前の結果にアックマンは満足すると、壁から背を離し出口へ歩を進める

 

 扉を閉める直前、このタイミングになって夕映は呼び止めた

 

「アックマンさん!」

 

「ん?」

 

 部屋に入り直して突っかかってくることは、彼の性格からして無いことは知っている

 

「いつか、勝てるといいですね。ご健闘をお祈りしてますです」 

 

「ぐっ……ああ、そうだな」

 

 だからこそ、このタイミングで言ってやった

 

 一応は『その男』宛てともとれる言葉だが、明らかに本意は別にあるそれ

 

 夕映のしてやったりな表情と合わせ、現にアックマンはそちらの方と解釈したようだ

 

 扉は締まり、夕映一人が残された

 

「さて、思い返せば少々私も熱くなってたようですね……アデアット」

 

 カードは本に変わり、彼女の小さな両手に収まる

 

 上手くいかない現状のまま、同じことをひたすらに繰り返す

 

 明らかに非効率であるというのに、どうも失念していたらしい

 

「行き詰まったら別方向から、これは万事において有効なのです」

 

 ページを次々と捲る夕映の目は、泳ぐことなくまっすぐと目の前を捉えていた




 次回から四週目、これで全キャラの話一通りやったら大会編に突入です。次の投稿も一週間後の予定です、ではでは。
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