「お待たせしましたお客様、こちら鯉の甘酢あんかけになります」
「おおっ!
「しっかしよく食うな古……」
港町に到着した二人は、ちょうど昼時ということもあり近くの料理店で昼食をとっていた
海に面した港町だし魚料理が美味いだろうと考え、頼んでみるとこれが大当たり
気の枯渇・疲労・空腹の三拍子が揃っていたことも併せ、古はたちまち最初に注文した料理を平らげていた
今来たのは追加で頼んだもので、クリリンは既に食べ終え食後のコーヒーを口に運んでいる
「まあ好きなだけ食っていいって言ったのは俺だけどさ……夕食のことも考えろよ?」
「あむっ……んぐ。それは勿論わかてるアルが、帰りのことを考えると食べて力をつけねばと思たヨ」
「だな。帰りは色々荷物も持つし、途中でお前を運ぼうと思っても多分無理だ」
クリリンの見立てでは、万全の状態の古ならカメハウスまで舞空術で帰ることは容易い
しかしそんな急激な成長を見せているとはいえ、クリリンからしてみればまだまだ未熟であることも事実
帰りは本格的に舞空術の扱い方も教授してやろう、そうクリリンは思った
「材料を買うのは最後に回して、お前の気が全快するまでは町の中を色々回ってみるか」
「いいアルなそれ!んむっ、あむっ……」
ならば早く食事を済まそうということで、古の箸の進みが早まる
それでいながら、料理の味を楽しむことは忘れない
美味しそうに次々食べていく古の姿を、テーブルの向かい側から見てクリリンは思わず笑みをこぼす
規模こそまるで違うが、同じように食べる親友のかつての姿を思い出していた
それから二時間ほど、クリリン達は町の中を色々と見て回った
「これが明日出る大会のポスターアルな。ふむふむ、世界チャンピオンミスターサタン……世界チャンピオンいうことはクリリンよりも強いアルか!?」
「え?ははは……」
水産業が主となる港町ゆえ娯楽こそ少ないが、カメハウスに閉じこもりっぱなしだった古にとって英気を養うのには充分、亀仙人の狙いが的中したとも言える
「さて、それじゃそろそろ市場の方に向かうか」
「そうアルな」
短時間ながら町の散策を楽しんだ古の表情は明るい、クリリンの後ろをウキウキな足取りでついていく
クリリンはポケットに手をさし入れた、買い物のメモを取り出すためだ
亀仙人に抜き取られて古に渡った後、彼女が着替えに行った際回収していた
(んっと、メモメモ……あっ!)
「わぶっ!」
探り当てたクリリンは直後に足を止め、背中に古がぶつかる
これについては古が多少よろけただけで済んだものの、向こうが突然止まって起きたとなっては追求の一つもしたくなるのが道理である
どしたアルかと古が尋ねると、クリリンは慌てた様子でメモと紙幣数枚を手渡してきた
「悪い古、急用を思い出した。ここを道なりにまっすぐ行けば市場に着く、これ渡しとくから一人で先に買いに行っててくれないか?」
「えー!?」
「あとで埋め合わせするから、な? すぐ戻る!」
反転した古の表情をなるべく見ずに、クリリンは元来た道を引き返す
慌てたままなのか、左手には先程古に渡した紙幣が入っていた財布
右手には、ポケットに入っていたもう一枚の紙を握り締めたままでだ
「クリリーン!ありゃ、行ってしまたアル……」
あとを追おうにも古はこの町の地理に明るくない、既に角を一つ二つ曲がっており探すのは難しいだろう
市場への道とクリリンが引き返していった道、全くの正反対を交互に見やった後古は頬を膨らませた
「……なーんか怪しいアルな」
とはいえ、彼からの頼みを無下にするわけにもいかない
ならばさっさと買い物を済ませ、戻ってくる前にこちらから出向いて探してしまおうか
古はそんなことを考えながら、進行方向を変えず市場へと駆け足で向かった
それから時間にして十数分くらいだろうか
古と別れた際には無かったホイポイカプセルを握り締め、クリリンは再び市場へ向け歩を進めていた
眉は八の字に下がり、足取りもさほど軽くもない
「流石にさっきはちょっと無理やりだったか……」
唐突に別行動を提案したことにやや負い目を感じていた模様
右手を開き、カプセルがあるのを確認しまた握る
「まあ、夕食までは内緒にしたかったってのもあるけど……あとでちゃんと謝らないとな」
出発前に古に見つかる、連れていってやれと亀仙人から言われる
始めの予定と変わりすぎて、幾らか戸惑ってしまった
しかし一方で、ああして一緒に町を歩いて回ったのは悪くなかったようにも思う
カプセルをポケットに入れながらクリリンはそう振り返った
早く合流しようと足を早め、一軒二軒と店の前を通り抜ける
もう一軒を過ぎ、角を曲がれば市場まですぐ
そんなタイミングで、事件は起きた
「っざけんじゃねーぞ!ちっくしょー!」
「うわーーー!」
「きゃあぁー!」
「!?」
怒号、銃声、ガラスか何かが割れる音、怒号の主とは別の者の悲鳴
これらが数秒足らずで一気に背後から繰り出され、クリリンは足を止め振り返る
そこにあったのは酒場、入口から何人か客が飛び出してきた
「……あっ!あの声!」
一連の要素の中で最もクリリンを駆り立てたのは、初っ端に発せられた聞き覚えのある声
既に足は動いていた、意を決して店の中に突撃する
中に残っていたのは数名、カウンター近くで怯える店員を除けば客はただ一人
「んぐっ、んぐっ……っぷぁー。おいもっと酒持って来い!」
「ランチさん!」
実に数年ぶりの再会、かつてはカメハウスで一緒に暮らしていた仲間、ランチがそこにいた
クリリンの存在に気付いたのは、声を聞いて数秒後
顔の赤さも併せ、相当酔っていることが伺える
「……ん?おおっ、クリリンじゃねーか」
「何やってんすかこんな真昼間から!」
店の中で強盗でもしてんじゃないかと当初は不安がよぎったが、どうやらやけ酒をしていただけでひとまずクリリンの焦りは増幅を止めた
とはいえ『銃を片手に』酒をあおっているのは大問題に変わりないわけで、知り合いとして見過ごすことも出来ずすぐ近くまで詰め寄る
ランチはその間ジョッキに酒を淵まで注ぎ、音を立てながら一気飲み
「何だ?話聞いてくれるってのか?んぐっ、んぐっ……」
「そりゃ気にもなりますよ、もしかして天津飯関け……ひっ!」
「そうだよ!天津飯が……ああちっくしょー!」
しかし『天津飯』の言葉でそれはピタリと止む、ジョッキをテーブルに叩きつけ銃を持つ左手を高々と上げた
再度発砲、カウンターから聞くに堪えない悲鳴が飛び込む
「ランチさん銃下ろして!天津飯と何かあったんですか?」
「……天津飯がな、女連れてたんだよ」
「は?」
ランチを制し続きを聞いたクリリンは、一瞬意味が分からなかった
自分が知る天津飯は、ストイックな武道家である
平和になった今もおそらくは、どこかの山にでも篭って餃子と共に修行に励み続けている
そう思っていただけに、ランチの言葉には衝撃だった
自分やヤムチャならともかく、彼がそうしている図が想像できない
ランチは更に酒を流し込み、続けた
「北エリアの山奥に、十五かそこらの若い女連れ込んでてよぉ……しかも餃子と一人づつかは知らねえが、二人もだぞ二人も!」
「は、はあ……」
「悟空もとっくの昔に結婚しちまったし、んぐっんぐっ……ぷはぁ、一人もんはもうオレ達だけってわけだ」
(あ、そうか。ヤムチャさんとブルマさんが別れたこと、ランチさん知らないんだ)
ランチはクリリンの肩に回し、自らの方へ引き寄せる
回した腕の先には空のグラス、すぐさま酒が注がれクリリンの口元へ迫った
「飲め」
「いや、あの、ランチさん?」
「なんだぁ?独り身同士飲み合おうっていうオレの誘いを無視するってのか!」
面倒くさいことになった、クリリンはそう結論せざるを得ない
戦闘力を度外視したこういう怖さというのは、ブルマ等も含めそう抗えるものではない
いつになったら解放してくれるだろう、事情を知らぬ古は市場で待ちぼうけをくっているところか
「わ、わかりました。じゃあ、ちょっとだけ……」
そんなことを考えながら、グラスに手を伸ばしたクリリンは酒を数口ほど飲んだ
酒好きというわけではないが、亀仙人から誘われた際に快く付き合うくらいの嗜みはある
しかし今飲む酒はとてもじゃないが美味しくは感じられなかった、すぐ隣にあるランチの視線が重々しい
満足するか、はたまた酔い潰れるのはどれほど先か
店員達は干渉する気は欠片もない、店内は二人だけの空間と化していた
店の外の一般人も、ランチを恐れて入ろうとしない
一般人とは異なるカテゴリーに属する彼女が入店したのは、それから五分ほど経ってからのこと
「オレはな、かれこれ十年以上あいつのことを追ってたんだ、一時期一緒に居たことだってあったさ。それがなんで、ぽっと出のガキんちょに取られるんだよー!」
「ランチさん、だからその話はもう何度も……」
「見つけたアルよクリリンー!」
「あん?」
「げっ!古!」
店の外から飛び込んできた声
まずランチ、次いでクリリンが酒場の入口を見やる
まだ酒場に入るには早すぎる少女、古菲がクリリンを見つけ乗り込んできた
「お前なんでここに……」
「買い物終わらせて待ってたのに全然戻らないからアル!そしたら銃声が聞こえて、まさかと思て来てみたらズバリだたアルよ」
慣れない町だから大変だったと、口を尖らせ更に古は言う
両手には買い物袋、既にメモにあった材料は購入完了
クリリンの隣まで来ると足を止め、店内を見回した
そもそもここを見つけた切欠は銃声
店内で銃を持った強盗か何かがいて、それをクリリンが撃退する光景を浮かべここまで来たのだ、なのに店内はさほど問題は無いように見える
「ありゃ?もう倒しちゃたアルか?」
「えっと、その……」
「ならさっさとカメハウスに帰るアル、ほら」
古の目に映るのは、クリリン含め客二人が酒を飲んでいるという、なんてことはない普通の光景
一旦荷物を左手に全部まとめ、右手でクリリンの腕を掴んで引っ張った
「ま、待て古!今はちょっと……」
「むぅ、また隠し事アルか?今日はクリリンそればっかりアル!」
クリリンは焦りから慌て顔で古を制す、問題はその行為がどう見えるかだ
本日二度に渡って同じような表情を見せられた古には、また自分をのけ者にしようとしてるのではと疑念を抱かざるを得なかった
眉をつり上げ不満を口にする、そこでついに彼女が動いた
「……てめえも裏切りもんかーー!」
「わ!?ランチさんタンマタンマ!」
ランチは再び銃をとり、今度は銃口をクリリンへと向ける
銃ごときであっさり死ぬ奴じゃない、そう知っていることもあって躊躇いなく引き金を引いた
弾は咄嗟に銃口を覆ったクリリンの掌に全弾命中、突き抜けることもなくその場に落ちる
とは痛いものは痛い、クリリンは受け切ったあと手首から先をフルフルと振った
「っつ~~~……い、いきなり撃たないでくださいよ!」
「うるせぇ!さっきまでオレと同じ独り身みたいに振舞っときながら、ちゃっかりてめえはこしらえてんじゃねえか!」
「はあ!?」
そしてランチの突拍子もない発言に、口を半開きにした
次に古の顔を見ると、突然の発砲+手で受け止めたクリリンに対し大きく目を見開いて固まり気味
すぐランチの方へ戻すと、彼女の顔がさっきよりすぐ近くに迫っていた
「違いますって!古は単に昔のランチさんみたく居候してるだけで……」
「さっきの今でそんなこと言われたって信じられっか!もういいお前には聞かねえ」
クリリンの言葉に信用が置けず、ランチは怒りの形相のまま席を立つ
古の方へと近づく、古もランチの接近を認知すると我に返り身構えた
古は、銃を向けてくるなら即沈めるつもりでいた
しかしランチは銃を下ろしたまま、代わりにもう片方の手を小指を立てた状態で上げる
「おいガキんちょ、お前こいつのコレか?」
「……?」
小指を立てるというこのジェスチャーだが、どうも日本独自のものらしく中国出身の古には通じていない
何度か繰り返しこのジェスチャーのまま尋ねるが当然進展はなく、要領を得ずランチは苛立ちを募らせる
普段なら『通じていない』と判断しすぐ言い方を変えそうなものだが、いよいよ酔いが本格的に回ってきたのかその発想に至らない
ランチからすれば、古がただ無言を貫いてるように見えていた
「……だあぁぁぁっ!ほら見ろクリリン!こいつは無言の肯定と見たぜオレは!」
「だから違いますってランチさん、落ち着いて……」
「オレの話を同情した風に聞きながら、心ん中じゃ自分には女がいるってほくそ笑んでたんだろ!」
「……女?」
ランチは声を荒らげ、クリリンはこの場を収める術を知らず狼狽する
そして古は、ランチの言葉から先程の質問の意味をようやく把握した
「あー嫌だ嫌だ!悟空やヤムチャはいいとして、天津飯やてめえはこんなガ……んぎゃっ!」
「!?」
ランチが突如ぶっ飛ばされたのは、その直後のことである
下手人は他でもない、やや顔を赤らめた古だった
「なっ、何言てるアルかもう……確かにクリリンは私より強い男アルが、あくまで亀仙流としての師弟関係でアルからして……」
咄嗟に手が出た割には加減はしっかりしており、カウンターをぶち抜いて気絶こそしているが、逆に言えばただそれだけに留まっている
怪我と言えそうなものは、木の破片による四肢の浅い傷くらいしかない
クリリンがあれほど対処に困ったランチを、相手の言動もあったとはいえ古はたった一発で黙らせた
「……ああっ!今度もやてしまたアル!」
「わかった……帰ろう、古」
「え!?でもあれクリリンの知り合……」
「いいから、あの人なら大丈夫だから」
「はっはっは、そりゃ災難じゃったのうクリリン」
「笑ってますけどね武天老師様、こっちは本当に大変だったんですから」
亀仙人が笑い、クリリンが渋い表情を見せる
あの後クリリンと古は無事帰宅し、今はもう日は落ち切り夕食の時間
買ってきた食材で五月が思い切り腕を振るい、テーブルを全員で囲みご馳走に舌鼓を打つ真っ最中だった
特に古は帰りの舞空術で他の者より消耗していたためか、昼食時と同様に次々と口へ運んでいく
その一方でクリリンと亀仙人の会話にも耳を傾けており、口に入ってたものを飲み込むとそれに加わる
「そういえばクリリン、買い物前に別れた時言てた用事というのは、あの人と会うことだたアルか?」
「ん?なんじゃクリリン、向こうで教えてなかったのか」
「元々夕食の時にって段取りだったじゃないですか。それを武天老師様が『一緒に連れてけ』なんて言うもんだから……」
こっちは大変だった、繰り返し亀仙人にそう零したクリリンは椅子から降りた
テーブルから離れて部屋の中央まで移動、充分なスペースが目の前にあるのを確かめると、ズボンのポケットからホイポイカプセルを取り出した
親指でスイッチを押し、放り投げる
「ほら古、こっち来て開けてみろ」
「木箱、アルか?」
ホイポイカプセルの存在については重力室の一件もあり知っているため、特に驚きは無い
煙の中から現れたのは、数十センチ四方の木箱
クリリンに言われるまま古は箱の所まで移動、葛籠と同じような形状の蓋に両手をかけ持ち上げる
「……え?」
ここ二週間で見慣れた色、山吹色と紺色が古の目に飛び込んだ
山吹色の道着が上下一セット、紺のアンダーシャツが一枚、同じく紺の帯が一本に靴が一足
今日は違う格好だが、普段ならクリリンがいつも着ているものが一式揃っていた
畳まれた道着の上に手を伸ばす、よく見れば『亀』の字もちゃんと書かれている
着続けくたびれたようにも見えず、完全に新品
「今日の夕食とは別に、前から用意してたんだよ」
「五日ほど前じゃったか、クリリンが提案してきてのう。二週間とはいえクリリンやわしのもとで修行した以上、古ちゃんも立派な亀仙流じゃ」
「今日は色々とごめんな古、気に入ってくれるかは分から……」
「クリリン!」
あの時クリリンが持っていたもう一枚の紙は、仕立て屋で注文した際の引換書
数日前古が重力室に篭っている内に、内緒で港町まで飛んで注文していた
事情を話すと共に今日一日の振る舞いを詫びるクリリン、その言葉を途中で古の声が遮った
「明日の大会、これで出るアル!当然アルよ!」
道着を胸に抱いたまま、目をギラギラと光らせる
「亀仙流古菲!明日はこれまでの修行の集大成を見せることをここに宣言するヨ!」
「……だな、期待してるぜ古」
「クリリンも優勝アルよ!」
カメハウスで武道家が二人、決意を新たに今夜から闘志を滾らせていた
少々ペースが悪くなってきましたが、次回投稿は一週間後を目標に精進いたします。2015年もどうぞよろしくお願いします。ではでは