西の都、カプセルコーポレーション研究室に少女が一人
これまで二週間、毎日欠かさず足を運び作業を続けていた
今は顔に遮光面をあてがい、右手にハンダを持ち溶接作業に勤しんでいるところ
「ふっふっふ、いよいよ大詰めですね。あとは設計図通りに……」
「ハカセー、そろそろ明日の支度しろってブルマさんが……って、まだやってんのそれ」
そんなところを彼女は、葉加瀬聡美はクラスメイト早乙女ハルナの入室によって作業を中断された
ハンダのスイッチを切って遮光面を外し、やや不満そうな顔で葉加瀬はハルナと顔を合わせる
「もータイミング悪いですよ早乙女さん、もう少しで終わるところだったのに……」
「ハカセの言う『もう少し』ってのは、十分二十分じゃ済まないじゃん」
ハルナはもう数歩中に踏み入り、研究室内を見回した
あちこちに散らばる鉄片、工具、部品
今朝ここを訪れた時はもう少し片付いていたはずなのだが、半日足らずでここまでとは恐れ入る
そんなことを考えながら、台上に置かれた一本の腕に目をやる
「ところでさ、そんなに凄いわけ?この茶々丸さんの強化パーツってのは」
「凄いなんてものじゃありません、見てくださいこれを!」
葉加瀬が横にあるパソコンに手を伸ばしてキーを叩き、ある画面を表示させた
体表が網目状にレンダリングされた人体図で、そこから腕の部分にカーソルを合わせアップで写す
より詳しい構造が書かれた設計図のような画面になり、葉加瀬はまくし立てるように語り始めた
「これはそこにある右腕のものでして……ここ!ここのパーツです!手首の可動を補佐するものなんですが、軽量性動作性耐久性諸々が今の茶々丸のそれとは比べ物になりません!」
「ちょっ、ハカ……」
「さらに特筆すべきは、動力に対するパフォーマンスの良さ!茶々丸の動力は魔力なのでやや勝手が違ってしまうんですが、それを差し引いても相当のパワーを発揮出来ます!いやー、魔力作動に対応出来るよう、こちらでオリジナルの調整をしたのが一番骨でしたよ……」
「いや、もうい……」
「そ・し・て!これら全体を覆う表面装甲!防御性能は計算上、超さんの未来技術と魔力を合わせた今のものより数段上!しかもこれに魔力による強化も加えれば、今までの茶々丸とはまるで別物の強さに……」
「ストーーップ!もういいからハカセ!」
止めるタイミングを数回逃した後、ようやく葉加瀬の語り口を半ば無理やりだが止める
手を両肩に置き顔を迫らせ、確実に声が耳に入る距離から静止の言葉をかけた
「え?しかしこれ以外にも両足や中核部の装置が……」
「い・い・か・ら!」
工学的な知識を持たないハルナにとって、これ以上踏み込んだ話となれば理解も出来ず苦行となるのは自明の理
それにここへ来たのはハカセを連れ戻すためである
ここに長居すればするほど向こうのペースに呑まれ、手こずることになりそうだ
そう確信したハルナは、強硬手段に打って出ることに決定
「(これなら始めからブルマさんが呼びに行けば良かったのに……)アデアット」
「あ、またお手伝い用のゴーレムですか?って、ちょっとちょっと早乙女さん!」
「はい回収ー」
ゴーレム数体がかりで担ぎ上げ、葉加瀬を運び出した
「さて、こんなもんかしらね」
「すみませんブルマさん、色々手伝っていただいて」
ハルナが葉加瀬を呼びに行ったのと同時刻、こちらでは既に支度を完了させていた
トランクスが参加する天下一大武道会、その会場へ向かうための支度
会場は海沿いにあり、西の都からは飛行機での移動となる
一種の日帰り旅行のようなものだ、荷物を詰めた小型のポーチをのどかは両手で持った
「いいのよのどか。なんせ明日は……だもんね」
「はい……」
押さえつけるように、ポーチを胸の上で強く抱く
そこから数秒口をもごつかせた後、のどかはゆっくり口を開いた
「……ネギ先生と、会えるから」
未来のトランクスがこの時代にやって来たあの日
ブルマは電話で久しぶりに、パオズ山のチチに連絡を取っていた
悟飯の大会参加の是非、それを確認するためだ
結果彼だけでなくピッコロの参加を知ることができ、加えて非常に有益な情報も得る
ネギ達の存在、そして今度の大会に悟飯と共に姿を見せるということ
それを聞いた当時ののどかの様子は、ブルマは今でも鮮明に思い出せる
あの時は安堵・歓喜諸々の感情が合わさり、その場で膝を折り涙を両目から零していた
「私も気になるわね、のどかがここまでゾッコンなネギ先生がどんな人なのか」
「も、もうっ、ブルマさん……」
「はーい、ハカセ連れてきましたよー」
そうしている間に、ハルナが葉加瀬を連れて戻ってきた
彼女の分を済ませたら、もう今夜はやることはない
明日に備えて寝るだけだ、一同は最後の支度に動いた
「アスナ、そろそろ寝た方がいい。明日は早朝から会場まで飛んで移動するからな」
「あ、はい。すみません天津飯さん」
場所は西から、北へ
北エリアの山奥で拳と蹴りを空に放つアスナ、そんな彼女のもとに天津飯が歩み寄る
額や首にうっすらと浮かぶ汗をタオルで拭いながら、アスナは彼の方を振り返った
「それにしても、本当に良かったのか?あのままお前の仲間達と合流しなくて」
「いいんですっ。あの時も言いましたけど、ネギには同日まで内緒にしてびっくりさせてやりたいし、天津飯さんの修行のお手伝いは大会前の最後までしたかったですから」
日時は一昨日の朝まで遡る
カリン塔を登り切ることに成功したアスナは、数日前から天津飯と天界での修行を行っていた
カリン塔より更なる高所であるここは一層酸素も薄く、組手一本やるにしても強い負荷がかかる
実力を高めるにはうってつけの場所、そうアスナは確信
いっそのこと大会前日までいようかと考えていた時、ピッコロ達はやって来た
“楓さん!?それに刹那さんも!”
“アスナさん!ご無事でしたか!”
アスナや刹那からすれば感動の再会、顔を合わせるやいなやすぐに抱擁を交わす
楓も抱きつきこそしなかったが、笑みを見せ二人の様子を眺めていた
しばしして落ち着きを取り戻すと、これまでの経緯をアスナと刹那は語り合う
とは言っても、実は大体のことをアスナは把握していた
下界を見下ろす力を持つ仙猫カリン、そして地球の神デンデ
ここ数日で知り合った二人に下界を見てもらい、見つかった範囲で仲間達の現状を既に教えてもらっていたのだ
大会に向けて修行に励むネギ達や古、あとはハルナや茶々丸の存在も確認済み
上記の者らに共通することは、今度の大会において合流の目処が立っていることだろうか
そのことを刹那にも伝えると、多くの面々の無事が知れたたためか、向こうもどこかホッとした様子を見せた
それから少ししてピッコロから、楓達が今から特別の修行メニューを行うためこれ以上相手は出来ないこと、そして明日にはネギ達を連れてくるかもしれないことを聞かされる
これを受けてアスナが下した決断は、『ここでの修行を今日中に打ち切る』
カリン塔まで来る一因となったランチは既に元いた山から姿を消している、そうカリンから先日聞いてもいた
ネギ達と近い内に会えることが確定していることとも併せ、ネギが来る前に山へ戻ることを天津飯に提案
刹那達と大会での再会を約束し、ほどなくして天界を降りたというわけだ
「まーあえて言うなら、特別の修行メニューが何か気になったってことくらいですかね。一緒に参加してみたい気持ちも若干あったんですけど」
(わざわざ天界まで来て特別な修行、か。アスナにはまだ早いと思って教えなかったが、もしや……)
楓達の行動に思うところがあったが、天津飯は口には出さない
一方でアスナは動きを止めたこともあってか、北国の夜山の寒さにその身を軽く震わせていた
確か今日の夕食のスープがまだ残っていたはず、餃子達の所まで戻り火を通してもらえば身体も暖まるだろう
そう天津飯が教えてやると、アスナは一礼をしてこの場から離れる
「……まさかピッコロ達も出るとはな。一武道家として、今から楽しみになってきた」
拳を握り、天津飯は天界のある上空を見上げた
「っでやああああー!」
「お見事、しかしまだ隙が大き過ぎかと」
「えー!?」
場所は北から、東へ
ミスターサタン邸のトレーニングルームで、汗を流す少女がいた
サタンの一人娘ビーデルの攻撃を、茶々丸は最低限の動きで捌く
今しがた受け止めた蹴りのキレと威力を賞賛する一方で、時折垣間見える攻撃時の隙を指摘
不満そうな声をあげるビーデルに、茶々丸は言葉を続けた
「多くの格闘技に言えることですが、威力の高い技はそうでないものと比べ隙が生じやすいものです。それをどこまで突き詰めて減らしていくか、また、使いどころを誤らず戦えるか……ビーデル様が強くなれるかは、それ次第です」
「……うん、わかったわ茶々丸!私もっともっと技を磨く!」
「とはいえ今夜はもう遅いですし、明日は大会もあります。切り上げましょう」
これにビーデルは大きく頷くと、茶々丸と共に器具の片付けを開始した
まだ一週間と経っていない両者の師弟関係だが、屋敷の使用人やサタンの弟子からは『まるで姉妹のよう』と評判、良好な関係を築いているようだ
「明日はお互い、頑張りましょ!」
「はい、私もビーデル様の御健闘をお祈りしています」
明日開かれる天下一大武道会、これにはビーデルも腕試しの一環として参加を決めていた
加えて、オープン参加なのだから一緒に出ようと彼女にせがまれ、やや流され気味の形だが茶々丸も一応ながら参加を表明
名目上、茶々丸は『サタンがわざわざ遠くからスカウトしてきた弟子』という風に周囲から認知されている
あの道場破り紛いの殺し屋を追い返したのは記憶に新しく、思わぬ優勝候補の登場かと参加決定時はサタンの弟子達の間で少々騒がれた
しかし彼ら以上に心中穏やかでない者がいることは、外からこっそり窓越しに様子を伺っている彼の姿を見れば明らかだろう
(えええ、えらいこっちゃ……このままじゃあの子が優勝して、私と戦うことになってしまう)
ミスターサタンは明日起こり得る光景を頭に浮かべ、顔を青くしていた
天下一大武道会の優勝者には、賞金一億ゼニーと世界温泉巡り旅行
そしてもう一つ、格闘技世界チャンピオンであるサタンへの挑戦権が与えられる
茶々丸の実力については、過去に自身を圧倒した桃白白とのあの闘いを観たため完全に把握済み
試合をすれば負けることは明らか、向こうが加減を誤ればあの戦闘力だと大怪我もあり得る
かといって変に八百長を持ち掛けても、ビーデルに疑われる危険性が高い
(しかしどうする?当日腹が痛いと言ってうやむやに済ますか?だが……)
「サ・タ・ン・さ・まー」
「んおおっ!?」
チャンピオンのプライド、自身の命、父としての威厳
あらゆるものが天秤にかかり、どれも完全には傾ききらずガタガタと揺れ続ける
何か案はないか、そう頭を悩ませていたところへ後ろから声がかかった
膝上十センチ前後のミニスカートを擁したメイド服にエプロン、そしてカチューシャを着用
サタン専属メイドの長谷川千雨は、声高らかに彼を呼びすぐ横まで駆け寄った
「ち、ちうちゃん?」
「サタン様、もう名前を覚えてくださったんですか?ちう、とーっても幸せです!」
サタンの前では『ちう』として振舞うと決めている彼女は、笑みを決して崩さない
そのまま、サタンを探していた理由、伝えるべき要件を話す
「あ、いっけなーい、大事な用があって来たんでした」
「大事な用?」
「はいっ、サタン様にお客様です。ただいま客間で、天下一大武道会のプロデューサーさんがお待ちになっています」
「そ、そういえば、大会の最後の打ち合わせがあったんだったな。分かった、今から向かおう」
「すぐにサタン様のお飲み物もお持ちしますね!」
それから十分程か、千雨はカップとポットを乗せた盆を手に客間へと入室した
テーブルを挟み、サタンともう一人の男性が向かい合い会話を交わしている
明日行われる大会、天下一大武道会のプロデューサーだ
「お待たせしましたサタン様。あ、お茶のおかわりお淹れしますね」
「ああ、すまないね」
お茶の淹れたカップをサタンの前に置き、プロデューサーの空のカップに新しくポットからお茶を注いだ
勿論ここでも、千雨は『ちう』を崩さない
プロデューサーは千雨と一度言葉を交わすと、彼女がお茶を淹れるのを横目に再びサタンと話し始めた
「それで、次は決勝戦ですね。準決勝終了から少々時間がかかりますので、その間に銀河戦士役の方々には地下への移動、配置を完了してもらいます。運営スタッフの同行は最小限、細かい指示はインカムを使います」
(……銀河戦士役?何の話してんだ?)
二人の手にそれぞれ収まっている数枚綴じの資料、プロデューサーが新たにページをめくり説明する
新たに淹れたお茶を置くと、千雨はプロデューサーの資料をさりげなくだが覗き込んだ
その後のプロデューサーの説明も耳に入れ、大まかな内容を把握する
(成程、な……ようはプロレス的なアトラクションか)
『今回の大会のため東西南北の銀河から特別に来てくれた、ぶっちぎりの戦士達』
上記のような肩書きで出場者とは別に、四人の人物が大会の途中で参加する
とは言っても本当に各銀河から呼ぶわけではない、その正体は派手なメイクで素顔を隠したサタンの弟子達だ
出場者同士の試合とは別に彼らとのカードも組むことで、大会の進行の中だるみを防ぎ、単なる試合とは違った面白さを観戦客に提供するという試み
「メイクや衣装合わせの最終確認は明日の早朝、こちらへスタッフが伺います」
「うむ。こちらも四人の選出は済ませてあるし、大会に出場できないことも納得してもらっ……」
当然ながら、銀河戦士役の者は正規出場者として大会に参加はできない
銀河戦士が出るところまで勝ち進めばブッキングが起こるし、かと言って敗退者の中から見繕おうとすれば大会前のお披露目が出来ず衣装やメイクの準備が大変になる
そういうわけでサタンも弟子の中から銀河戦士役を選ぶ際には、幾らか慎重になり相応の見返りも用意しておいた
(……あぁ~~っ!その手があったか!)
そのことを思い返すと同時に、サタンはある案を頭の中で閃かせた
残された時間を考えると実現可能かは分からない、けれど目の前にプロデューサーがいる以上聞いてみる価値はある
サタンは身を乗り出し、プロデューサーにある提案を持ち掛けた
「プッ、プロデューサー!その銀河戦士なんだが、今から一人交代させることは出来んか!?」
「え?」
現在時刻は午後十時
半日後、天下一大武道会 開催!
それぞれ単体で一話分の内容が書けず、三つまとめて一話になりました(キリよく40話になったのは偶然です)。
次回から大会編突入ですが、おそらく次も一週間以内の投稿は厳しいです。多分月末か2月の頭までお待ちいただくことになるかと。
ではでは