「サタン様、お飲み物のお代わりをお持ちしましたー!」
「おっ、ちうちゃんありがとう」
天下一大武道会
間もなく開始ということもあり、屋内屋外問わず観客席には次々と人が集まってきていた
予選が始まる頃には、隣の者と肩を合わせるほどに賑わいを見せることだろう
そんな、良く言えば賑やか、悪く言えば窮屈な空間とはまるで別の場所に、彼はいた
先日臨時で雇い入れた専属メイドからジュースを受け取り、ミスターサタンは僅かに顔を綻ばせた
手にしたコップを口元で傾けながら視線を正面に戻すと、その先に見えるのは大会の予選会場
全部で八つあるステージを見下ろすような形で一望でき、まさに特等席と呼ぶにふさわしい
いまサタン達がいる場所は、今大会のVIPゲストのためだけに用意された特別観戦席
テーブルには昼前ということもあって様々な皿料理が並び、壁側には冷蔵庫もありすぐに飲み物やデザートを用意できる備え
一人が摂る分にしてはやや量が多めにも見えるかもしれないが、この席に招かれたゲストはサタンだけではない
「いやーミスターサタン、いよいよですな」
斜め後方に座る肥満体型の男が、サタンの名を呼んだ
男性ながら胸元や両手に高価な装飾品をあしらえ、いかにも『富豪』という雰囲気を漂わせる
天下一大武道会を開催するにあたりスポンサーとなった、VIPゲストの一人ゴージャス・マネー氏であった
「息子のドルが喜んでくれてるのは勿論ですが、なんでもミスターサタンの娘さんも参加されてるとか。御健闘を祈ってますよ」
そもそも天下一大武道会を開く切欠となったのは、マネーの息子であるドルの誕生日
プレゼントとして何がふさわしいかをわざわざ占いババのもとまで相談に出向き、結果としてサタンをゲストに迎えた催し物をしようということになったのである
その当人のドルはサタンの隣に座り、ペットのカメレオンとの戯れもそこそこに、サタンと会えたことに対する喜びを噛み締めていた
世間一般の認識では、サタンは地球の危機を救ったスーパーヒーロー
そんな彼と始めに握手をした際のゴツゴツとした手の感触がまだ残っているのか、時折右手を閉じ開きしている様子が見られる
「は、はは、どうも……」
サタンはマネーにビーデルについての話題を振られると、途端に表情が変わった
あくまで『いつも通り』を保ったままにしようという意思はあるようだが、明らかに動揺を含んだ顔色を見せてしまっている
サタンの専属メイド千雨は、表情こそ見れなかったが声色からサタンの違和感を確認
(あーあ、やっぱり気にしてら。そりゃ当日になってあんなこと言えば、怒っちまうのも無理ねえだろうに……)
原因を知る彼女は周囲から顔を背け、『ちう』でなく『長谷川千雨』を表に出し呆れ顔で息を漏らした
「それではもうじき着陸です、皆さんはスタンバイをよろしくお願いします」
(……ビーデル様は、そろそろ控え室で支度を終えた頃でしょうか)
会場に向かう一機の飛行機、その中から茶々丸は外を眺める
バトルアイランドの姿が明確に映り込み、今しがた言われたように着陸までは秒読み
身に纏う派手な装飾の衣服を辺りに引っ掛けぬよう気をつけ、その場から立ち上がると出口の方へ近付く
その動きはいつもの茶々丸のような精密さをあまり感じさせず、どこか違和感を覚える
原因は今しがた名前が挙がったビーデル、そして今の自分の状況であった
昨日の晩、サタンに呼び出され頼まれた内容は『大会参加を辞退して運営側に回る』こと
もう少し細かく言えば、『大会ゲストとして東西南北の銀河からやってきた、銀河戦士役を演じる』である
地球外からやって来たことをアピールさせるためか、体表はパステルカラーで派手にメイク
衣装も先述の通りかなり派手で、その出で立ちは頭部のアンテナがなければ彼女を茶々丸だと知り合いが認識するのに少々骨になりそうなほど
ともかく、昨晩茶々丸は現在の主であるサタンの頼みを引き受けてしまい、既に自室へ戻ってしまったビーデルには今朝になってサタンと共に報告
これが明らかに失策で、突然のことにビーデルは憤慨し碌な会話も出来ぬまま両者は離れることになってしまった
(相談もなしにいきなりは失敗だったようです。大会が終わったら、ビーデル様に謝罪しなくてはいけませんね……)
回想を終えたのと同じ頃に機体全体がやや揺れ、着陸を知らせる
ハッチが開き、エスカレーター状のタラップが出てくると茶々丸はそれに乗ってゆっくりと降り始めた
「天下一大武道会の特別ゲストとして参加することになった、4つの銀河を代表するぶっちぎりの戦士がただいま到着しました!おおっと、早くも盛り上がっております!」
「はは、なんだよありゃ。さしずめ正体はサタンの弟子ってとこか?」
コーラ缶を片手に、飛行機から降りてくる戦士達を見て笑う者がいた
彼もまた、天下一大武道会への参加を決めていた選手の一人
クリリン達のような舞空術での移動ではなく、優勝して賞金を手に入れるんだという自信の表れか旅客機に搭乗してこのバトルアイランドにやって来ていた
「うおっ、女の子もいるのか!?しかも結構可愛い……やっぱ地球の英雄扱いされると、美味しい思いが出来るわけか」
「あ、見つけたー!ブルマさーん!いましたよー!」
「お、ハルナじゃないか」
そして彼、ヤムチャはタイミングよくハルナとの合流に成功する
群衆の中でも、ヤムチャの着ている山吹色の道着はよく目立つ
近付いてヤムチャの顔を確認すると、ハルナは振り返りブルマ達へと腕を振りながら呼び寄せた
ハルナ達はブルマが所有する自家用機でやって来ており、つい先ほど降りてきたばかりだという
ブルマ、のどか、葉加瀬と続き、ヤムチャの前に姿を見せる
「父さん達は家で留守番よ、ベジータもここには来てないから安心しなさい」
「そっ、そうか、なら良かった……お、トランクスも来てたのか」
「だぁー、あぁー」
加えてもう一人、ブルマの腕の中でご機嫌そうな顔を見せる赤ん坊にヤムチャは目を向けた
一年前に共闘した未来のトランクスとは別の、いわば現代のトランクス
何度か遊びに来ていたことで顔を覚えているのか、ヤムチャと目が合うと声をあげ前方に手を伸ばす
純粋無垢なその振る舞いにヤムチャは笑みを浮かべ、指を一本出して握らせてやった
「あれ?大会ゲストの銀河戦士とかいうのは……」
「ああ、さっき飛行機から降りてもう向こうに行ったみたいだぞ」
「ありゃりゃ、少し遅かったか……あ!」
辺りをキョロキョロするハルナに今しがた起きた内容を教えてやり、自身の後方をサムズアップで示す
賑わいを見せるここら一帯の中で、とりわけ彼らが通っている箇所は歓声が多くあがっておりわかりやすい
大方偽物だろうと辺りをつけながらも一度は見ておきたかったハルナは、やや表情に後悔気味の色を出す
「おかえりなさいトランクスさん、結構早かったですね」
「おいおいハルナ、トランクスはここに……」
「選手自体の数は大したことなくてね……ヤムチャさんじゃないですか、お久しぶりです。もしかしてあなたもこの大会に?」
「……えっ!?」
続いて出た言葉にヤムチャは『ん?』といった表情、指は後方を示しているが顔は赤ん坊トランクスがいる表面を向いたままだ
しかし次に後方から聞こえた声に、思わず顔をひきつらせつつ振り向いた
「ごめんなさいねヤムチャ。私達が来たのは、あんたじゃなくてトランクスの応援をしになの」
「それとブルマさんが確認を取ったそうですが、孫悟飯さんとピッコロさんという方も出場するみたいです。トランクスさんが言うにはとても強い人みたいですけど……あれ?」
「……」
目の前に、もう一人のトランクス
横から聞こえるブルマと葉加瀬の言葉を最後に、ヤムチャの動きは完全に止まった