場所は、パオズ山とは遠く離れた別の山
パオズ山と比べても遜色ないほどの自然にあふれ、豊かな動植物に澄んだ川
川の上流へ上流へと上っていくと、その先にあったのは巨大な滝
ゴゴゴゴゴと大きな音を立てながら流れ落ちるその滝に、ある人物が座禅を組みながら打たれていた
(悟飯が言っていた例の大会まで、あと二週間か……)
その人物とは、孫悟飯の師ピッコロ
全身の肌が緑色という極めて特徴的な容姿を持つ、地球から遠く離れた星『ナメック星』出身の戦士だ
一年前に起こったとある戦い以降、ピッコロは住む場所を同郷の知り合いが暮らす神殿へと移していた
しかし二週間後に行われる天下一大武道会の話を耳にし、本腰を入れて修行をしようと現在はこの山に篭り修行を行っている
(悟飯は勘を取り戻すまで俺とは修行しないと言っていたが……組み手の相手がいないというのはいささか退屈だな)
ここ一年は平和が戻ったこともあり勉強続きで、まったくと言っていいほどトレーニングの類を怠っていた悟飯
そんな今の自分がピッコロと一緒に修行をしても迷惑を掛けるだけだと、悟飯は合同稽古の一週間延期を申し出ていた
それまでに実践の勘を取り戻してみせる、ということだろう
(それに、一年前にセルを倒した時のあの強さ……その域にまでたった一週間で戻せるかどうかは疑問だ、いくらあの悟飯でもな)
とは言っても、愛弟子悟飯と本気で戦えるまたとない機会
ピッコロは悟飯がやってくるその時まで、ただ己自身のみで修行を重ねるのみ
降り注ぐ大量の豪水にも一切うろたえることなく、閉じた瞼は開くそぶりを見せず
「……ん?」
しかし、彼のその両目は突如として開かれた
「今、何か光ったな。それに俺の知らない気が全部で……四つ」
滝の水圧など完全無視といった様子で、彼は禅を解いて立ち上がり滝を出る
その後グッと力を込めて全身から軽く気を出すと、身体中に付いていた水滴が吹き飛ぶ
「……行ってみるか」
感じた気がある場所までの最短距離、木々が生い茂る森の中へと彼は入っていった
「……生き倒れか?いや、にしては妙だな、服があまりにも綺麗過ぎる」
一分ほど森の中を進み、目にしたのは地面の上で倒れ込む少女三人+小動物一匹だった
右手に野太刀を握りしめ、自身の黒髪を左側へひとまとめにした小柄な少女
腰まで届く綺麗な黒髪を持つ少女、背丈は野太刀の少女と同じほどでやはり小柄
最後の一人はその二人よりも頭一つ分ほど背が高く、着ている服の中に大量の武器を仕込んでいることをすぐにピッコロは見抜く
(邪悪な気は感じない……が、まずは話を聞かねば始まらんな。さっきの光も十中八九、こいつらと関係してると見てよさそうだ)
「う、ううう……何処でぃここは……」
(む?こいつ、喋れるのか)
今から無理矢理でも起こすか、自然に起きるのを待つか
どうするかと考ようとしたその矢先で、一匹の小動物(オコジョ)が呻き声をあげながら覚醒
目を擦りながら周囲を見渡すオコジョは、後ろから摘み上げられピッコロと目を合わす
「おいオコジョ、幾つか訊きたいことがある」
「んあ?…………うぎゃああああああああっ!まっ、魔族だああああああああっ!?」
途端にそのオコジョ、アルベール・カモミールは自身の小さな身体から絶叫を辺りに響かせた
「……つまりお前らは、その超という知り合いの魔法陣の光に飲み込まれ、気が付いたらこの場所にいたというんだな?」
「ヘ、ヘイ、オッシャルトオリデス……」
ピッコロの左手に胴を丸々掴まれながら、カモミール(通称カモ)はガクガクと全身を震わせつつも何とか彼に答えを返す
先ほどまでカモは魔族だ魔族だとぎゃあぎゃあ騒ぎ続け、これでは進展しないと悟ったピッコロがほんのちょっと力を込めながら胴を掴み一言
『静かにしろ、このまま握り潰してやってもいいんだぞ?』
カモや彼の主がよく知る吸血鬼さながらの迫力で言い放たれ、自然と言葉は止まっていた
そこから色々と話を聞き出し、現在へと至る
「け、けどピッコロの旦那、俺っち達マジで別の地球から来たって言うンすか!?」
「少なくともさっき聞いた情報からでは、そうとしか仮説が立てられん」
カモが口にした地名、人物、出来事
それら全てにピッコロはまるで覚えがなく、逆にピッコロが口にした地名等にもカモは首を捻った
カモ達の記憶が意図的に操作されていない限り、そう考えるしかないとピッコロは結論付けたのだ
(魔法陣による転移魔法……悟空の瞬間移動を大規模かつ無差別的にしたものに近いと考えれば、ドラゴンボールでの帰還も不可能ではないだろう。むしろ今俺が気になるのは……)
この件については話を打ち切り、ピッコロはカモを握ったまま少女三人に視線を向ける
「まあ元の世界へ帰る手段については何とかしよう、一応アテがある」
「まじっスか!?」
「ああ、だが一つ条件とでも言おうか……このガキ共相手に試したいことがあってな」
「え?」
カモも遅れて、まだ目を覚まさずにいる少女らの方を首だけ回して見た
そのカモに見えるように、ピッコロは左手の人差し指で三人のうち二人を指差す
「そっちのノッポとそっちの剣士、とりあえずこいつら二人を起こせ」
カモは漸くピッコロの右手から解放され、早くしろと急かすピッコロの機嫌を損ねぬよう慌てて彼女達のもとへ走った
素早く肩辺りまで駆け上がり、頬をペシペシと叩きながら名を呼ぶ
「刹那の姉さん!刹那の姉さん!起きて下せえ!」
「……んっ……」
反応あり
ピッコロが剣士と呼んだ方の少女、桜咲刹那の瞼が上がる
起きてくることを確信したカモはその場から即離脱
「とおっ!楓の姉さん!楓の姉さんってば!」
素早く隣の少女、長瀬楓のもとへと飛び移り、先ほど同様に頬を叩きながら呼びかけた
「むにゃ……カモ殿、何事でござるk……!?」
「カ、カモさん!ここは一体!?っ!お嬢様!」
周囲の異常に気付き、二人が跳ね起きたのはほぼ同時
刹那は三人目の少女、近衛木乃香のもとへすかさず移動し剣の柄に手を
楓は懐からクナイを取り出して構え、ピッコロにこれ以上ないほどの警戒を見せる
「お嬢様!ご無事ですか!?」
「ふみゅ……せっちゃん?」
気絶していた木乃香に刹那は慌てて呼び掛け、木乃香覚醒
これには安堵したいところであるが、現在目の前にはそれ以上の非常事態があり刹那には不可能
既に刹那は抜刀を終え、楓以上に鋭い目でピッコロを見据えた
「おい貴様!ここは何処だ!それにネギ先生やアスナさん達を何処へやった!」
それに対しピッコロ
(ほう、思った以上にデカい気だな……そっちの女も同じくらいか)
「答えろ!」
決して動じず、二人の品定め
どうやら二人の強さは想像していた以上のそれであり、余裕も含め口の端が僅かに上がる
(それに俺のことを敵と認識しているようだな、これはこれで面白いか……おいカモ)
「へっ?」
あることを思いついたピッコロは、カモに念を飛ばして刹那達へ聞こえぬように伝達
当初は事情説明後にしようと考えていたが、気が変わった
(こいつら二人、少々いたぶらせてもらうぞ)
「はあぁっ!?ちょっ!ピッコロの旦那そりゃどういう意……」
「おいガキ共、ネギの居所が知りたいんだったな?」
ピッコロは舞空術でゆっくりと浮上しながら、見下すように刹那と楓に目を向ける
「特別サービスだ、この俺に傷一つでも付けられたら教えてやる」
「なっ!?」
「…………」
このピッコロの挑発に顔を歪ませたのは刹那、楓は無言だが僅かに眉をひそめた
「どうした、かかって来ないのか?」
(あれ、これってヤバくねえっすかね?)
明らかに一瞬即発な雰囲気
ピッコロの容姿にやや怯えているのか、木乃香は刹那の後ろにつき服の裾を摘まんでいる
このことも含め、刹那の中でどんどん怒りが湧き上がっているのをカモは察した
(ピッコロの旦那が何考えてんのかは知らねえが、刹那の姉さんと本気でやり合うなんて事態になったらタダじゃ済まねえっての!)
カモは慌てて刹那のもとへ
「あの、刹那の姉さん、ちぃっとばかし聞いてもらいてぇことが……」
「カモさん!木乃香お嬢様と安全な場所へ!」
「えええっ!?」
しかし刹那はカモの言葉に耳も貸さず、地面を蹴って飛び出す
愛刀『夕凪』には、自身の気と共に練りだした雷を纏わせた
「ふっ!そうでなくてはな!」
「貴様ぁぁぁっ!逃げる気か!」
刹那が動いてくれたのを見て、ピッコロは後退
森の奥へと進み入り、それを刹那が吠えながら追う
「刹那殿!待つでござる!」
楓も同様に飛び出し、冷静さを欠いていると容易に分かる刹那の後を追った
「ああああっ!二人とも行っちまった!」
高速で移動する二人に追いつく術は、カモには無い
「雷光剣!」
夕凪から放たれた斬激が、雷と共にピッコロへと襲いかかる
「ずああああっ!」
しかしピッコロはこれを、全身から噴き出した気で全てはじき返す
先程水を飛ばしたそれとは勢いがまるで段違い
二人が交戦を開始した場所は、出口も見えぬほど木々が生い茂った森の中
刹那は近くの木の枝に足をつけ、攻撃を防がれたことに舌打ちした
「くっ!今の攻撃を防ぐとは……っ、楓!」
「一人では危険でござろう、助太刀いたす」
すると後ろから追ってきた楓の気配に気付き、振り向けば楓が両手にクナイを持って参上
二対一
しかしピッコロは、その余裕を崩さない
(さて、どこまで出来るか試させてもらおうか……)
「はあっ!」
楓の手から投じられる、三本のクナイ
それが開戦の合図だった