~大会数日前、パオズ山~
「すごいですあやかさん!始めたばかりで気功波のコントロールをもうここまで身に着けるなんて!」
「ええ、ですが……なかなか消耗が激しいですわね」
ネギとコタローが修行のためピッコロのもとに留まり、離れ離れになってから数日
ネギ達ほどとはいかないまでも、あやかはパオズ山にて修行を自分なりに進めていた
悟飯も日中はネギ達と合流して修行することがほとんどで、今回見てもらっているのもピッコロの所から戻ってきてからの夜遅く
前方十数メートル先に用意された的を、あやかの放つ気功波が捉え粉々に砕いていた
「だとしても、あそこまで遠くはなかなか上手く狙えませんよ。元々合気柔術……でしたっけ?武術をやってるからかもしれませんが、筋がいいです」
「そう言っていただけるのは嬉しいんですが、やはり数発撃ってこの調子では……実戦では使えないんではありませんこと?」
「そうですね……」
常人では到底為し得ない成果に悟飯は称賛の言葉を贈るが、多大な消耗によって実用性を伴っていないことにあやかは未だ不満を残していた
「消耗を抑えたいなら、例えば……こうやって、球状にするとかして一発ごとの消費量を少なくするとかでしょうか」
「えっ、気の形を変えるんですの?」
そこで悟飯は手の平に気功弾を浮かべ、解決策を提示する
手に宿した気をそのまま光線状に放っていたあやかは、こうした方法があるとは知らず目を丸くした
「はい。他にも僕の知ってるのだと……薄平たくして円盤状にしたり、指先からより細いのを出したりとか」
「色々ことが出来ますのね…………!?」
「あやかさん?」
「形を自在に変えることが出来るなら、もしかして……けど、わたくしのは気ですし……いえ、それでも形だけなら……」
「あ、あのーあやかさ「悟飯さん!」 は、はいっ」
そして、あることを閃いた
「ありがとうございます!わたくし、次にネギ先生に会うまでにすべき目標を見つけることが出来ましたわ!」
「え?は、はい。良かった……ですね?」
「では早速、始めますわよー!」
そしてあやか一世一代の特訓が、始まった
~大会前日、神の神殿~
「どう、でしょう?ネギ先生……わたくしなりに、頑張ってみたのですけれど」
遙か上空で気功波が放たれ、消えた
あやかがネギと再会したのは、彼がちょうど大会前最後の修行を終えたタイミングであった
前日に再会しそびれたこともあって、あやかはより一層テンションを高めネギに飛び付く
そしてすぐ、特訓の成果のお披露目となった
お披露目と言っても、ただ気功波を一回撃つだけの簡素なもの
しかしそれであやかにとっては、そしてネギにとっても充分なものであった
「……凄いです!いいんちょさん!」
「!?」
ネギがあやかに駆け寄り、両手をとる
修行を終えたばかりで疲れもまだ抜けていない筈なのだが、それを感じさせぬ笑みを浮かべていた
「僕は悟飯君やコタロー君みたいに『気』には明るくないですけど、これがすごく大変なことで、いいんちょさんがとても頑張った結果というのは分かります!」
「え、あの、その……」
「それに、色んな選択肢があった中でこれを選んでくれたって言うのが……ちょっと照れ臭くもありますけど、僕嬉しいです」
「ネ、ネギ先せ……あっ」
久々の再会、予想以上の賛辞、伝わる温もり、正面から飛び込む笑み
「い、いいんちょさん!?」
「あ、あかん!いいんちょが鼻血出して気ぃ失っとる!」
全ての要素が絡み合い作用した結果、あやかはネギに負けない満面の笑みを浮かべたまま気絶した
~大会当日 ステージA~
「
「は!?」
あやかの右手から放たれた気功波は、七つに枝分かれして一斉にアスナへと襲いかかる
それぞれが目映い光を帯び、先端は鋭さを伴った細い形状
アスナはそれに見覚えがあり、それをあやかが放ったという事実に面食らった
(なんでネギの技をいいんちょが!?)
そう、あやかが今しがた放った気功波は、ネギの使う|魔法の射手(サギタ・マギカ)に酷似していたのだ
今までの戦闘で、あやかが気を用いて戦うことは既に分かっている
なのに、魔力を用いて戦うネギの技が飛び出した
あやかが舞空術を修めていたことの驚きと併せて、アスナは思わず固まってしまった
(ネギ先生からお墨付きをいただいた、雪広あやか渾身の一撃を食らいなさい!)
実際のところ性能はともかくこうして形状を真似することは、魔力と気の違いはあれど不可能ではない
気をコントロールして練り上げ、イメージに沿って形を変えられることは多くの先人が証明している
だがあやかがこの技を目にしたのは、まほら武道会での試合と悟飯との修行の最初期のみ
にも拘わらずほぼ完璧に再現出来ているのは、過去に悟飯が述べたようにあやかに気の才があったことと、それ以上にネギへの尋常でない愛故の賜物であろう
(さあ、どうですの!?)
その場から一歩も動かないアスナへ、光の7矢は全弾着弾する
命中を確信したあやかは、威力はアスナに対しどれほどかと次なる期待を寄せる
しかし悲しいかな、その期待は途端に消え失せることになった
(……なっ!?)
理由はアスナが持つ特有の、この異世界においては唯一無二とも云える能力
「……忘れてたわけじゃないけど、こっち来てからはこれ使うの随分久しぶりかしらね」
ネギから聞かされていなかったあやかは、文字通り自身の成果を無に帰してしまった
「
少し前にステージFでの勝ち上がりを決めた天津飯は、クリリンやトランクスとは違い未だバトルステージ上に留まっていた
アスナのいるステージAが未決着であり、移動中に肝心な瞬間を見逃すことを危惧したためだ
今日に至るまでアスナと共に修行してきた天津飯は、当然ながらアスナのこの力を知っていた
「初めアスナに言われた時は到底信じられんかったが……やはり、改めて見ると恐ろしい力だ」
切っ掛けは餃子を含めた三人での修行中、餃子の放った気弾を天津飯が弾き、アスナの方へと飛んでしまった時だった
天津飯は避けろと叫ぶがアスナは構わず突進、直後に気弾は消滅
アスナの攻撃を防いだ天津飯は即座に修行を中断、彼女を問い詰めて真相を知る
「あの時は万が一を恐れて試すことはしなかったが、もし本当に気や魔力の大小に拘わらず全てを打ち消せるのだとすれば……あいつは強力な矛だけでなく、隙の無い完璧な盾も所持していることになる」
矛とは言うまでもなく、気と魔力を合わせた秘技『咸卦法』のこと
「今はまだ、仲間のあいつらには実力で負けてるかもしれんが……」
額の第三の目はアスナを見据えたまま、左右の目は横に向けられ三人の戦士を捉える
彼同様既に勝ち上がりを決めたネギ、コタロー、楓
「正しい師に就き、今後も修行を続ければ……追い抜く日はそう遠くないかも知れないな」
予選の最中も天津飯は各ステージに目を配らせており、三人の戦いぶりも見届けていた
とりわけ、かつては互いにしのぎを削った間柄であるヤムチャを倒したコタローの戦いは三人の中で相当に注視しており、天津飯の中ではなかなかに高い評価を残している
それを踏まえた上で、天津飯はアスナに対し先程のような評価を下していた
「ただ惜しむらくは、現時点でまだ基礎の力が足りていないこと。そして……」
「何故ですの!?ダメージが通らないのはともかく、当たった痕跡すら……」
「……あー、ごめんねいいんちょ。私こういうの効かないのよ」
「き、効かない?」
「そ。ネギから聞いてなかった?」
「い、いえ、何も。……やはりアスナさんも、飛べるようになってましたのね」
申し訳無さそうにしながら、アスナはゆっくりと舞空術であやかのもとへと向かう
気功波で迎撃出来そうな隙があるようにも見えたが、効かないことを理解したのかあやかはただその様子を目で追い続ける
「まあね、そして修行も目一杯したわ。あんたがどれほどやったかは分からないけど、多分それ以上には」
「……でしょうね。今の攻撃が効く効かないを抜きにしても、前より差が開いたのは明らかでしょうし」
光の7矢がかき消された直後の焦燥はいつの間にやら消え、穏やかな表情だった
アスナも『悟飯との交戦のため早く倒そう』という様子は一切見られなくなり、同様な表情を浮かべていた
「けどあんたが強くなったってのは、刹那さんが言ってた以上に伝わったわ」
「それはどうも」
「修行中ちょっと気にしてたのよね、これ以上差がぶっちぎりで開いたら張り合いがなくなるし、あんたに悪いかな~って」
「またまた、見え透いたご冗談を」
「冗談じゃないってば」
「まあ、そういうことにしておきましょうか。では、そろそろ……」
「ええ、終わらせましょ」
上空で、二人は構えをとる
直後、飛び出し攻撃が交錯した
アスナの第一撃、右の蹴りをあやかは左腕で受ける
あやかの第一撃、右手で掴みかかるがアスナの左手刀が叩き落とす
アスナの第二撃、左手をそのままあやかに伸ばし衿を掴んで引き寄せ頭突きを一発
あやかの第二撃、頭突きに怯まず左で拳を作りアスナの脇腹に叩き込む
アスナの第三撃、気によるガードで攻撃をものともせずお返しにこちらも右拳で腹に一撃
アスナの第四撃、両手で改めてあやかを掴み直し下へ投げ飛ばした
「い、いいんちょさん!?」
「おー、派手に水柱が上がったでござるなぁ」
ネギと楓は、場所をコタローのいるステージBに移していた
ヤムチャとの戦いを終え倒れ込んだままのコタローが中々起き上がってこず、心配になったためだ
「まあ、あやか姉ちゃんも修行したとはいえ俺らほどガチちゃうしな。妥当やろ」
しかし楓が少し気を分けてやると、このように健在な様子を見せていた
未だ動かずにいるのは天津飯と同じく、残りの戦いを見届けるため
そしてたった今、けたたましく響く水音と立ち上る水柱が一つの戦いの決着を告げた
「にしても、アスナ姉ちゃん長引かせ過ぎだったんちゃうか?最後のあれ見る限りもっと早く終わらせられたやろ」
「ふむ、おそらくはいいんちょになるべく深手を負わせぬよう、加減の度合いを探っていたのでござろうな。あとは……」
感じ取れる気の大きさと序盤の攻防から、コタローは両者の間に相当ある実力の開きに気付いていた
にも拘わらずそこそこに決着が長引いたことに疑問を持っていたが、楓が推測を立てる
「……強くなったいいんちょとの勝負を、あっけなく終わらせることが心惜しかった。とかでござろうか?」
「は?まだ他に悟飯も残っとるんに、それは流石に悠長すぎやろ」
「……きっとそうだと思うよコタロー君、ほら」
「ん?あっ!」
楓の推測にコタローは難色を示すが、ネギは逆に支持し遠方を指さす
そこにはバトルステージから離れ、着水したあやかの様子を見に向かうアスナの姿があった
「悟飯殿とのことを考えているなら、まず取れない行動でござるな」
「はい、それにいいんちょさんは……アスナさんの親友ですから」
「親友、か……」
ネギと楓は3―Aでの二人の様子を思い出しながら、コタローは親友という言葉を胸中に残しながら、あの時の二人と同じような穏やかな表情でそれを見届ける
再び発生した、水音と水柱を認知するその瞬間までは
「「……え?」」
「……おや」
(は!?いやいや、何?何が起き………は?!)
アスナは水中に引きずり込まれた一瞬で、頭の中に幾つもの疑問符と感嘆符を並べていた
楓の推測通りアスナはあやかを倒すための加減の度合いを序盤は探っており、その結果に合わせてあやかを投げ飛ばした
しかしその検討付けも幾らか誤算があった
投げる際に予想よりも大きい抵抗があやかから生じ、それでもなお投げようと余計に力を込めたため、力の加減と投げ飛ばす方向を誤ったのだ
その結果が、先程の巨大な水音と水柱である
もし気を失ったまま水中に沈んだ場合の危険性を考えたアスナは、あやかが上がってくるか確認すべく水面へとギリギリまで近付いた
直後に、これである
「……ぷはぁっ!えほっ、えぼっ」
自らを引きずり込んだ力は着水して間もなく解け、アスナは水面から顔を出す
続けてすぐ隣で別の人物が顔を出し、第一声をあげた
「おーーーっほっほっほ!油断大敵ですわよアスナさん!」
他でもない、あやかだった
アスナが危惧していた気絶状態では全くなく、自らと同じくずぶ濡れになったアスナの様子を見てしたり顔な笑みを浮かべてすらいた
「……あんたねえええ!」
対照的にアスナは眉をつり上げた怒り顔で、即座にあやかの方へ向き直り両手で肩を掴み激しく前後に揺する
「なんてことしてくれてんのよーー!」
「予想通り過ぎて笑えますわねアスナさん!さっきも申しましたでしょう油断大敵と!」
「は!?ふひゃっ!」
あやかは一切物怖じせず、こちらは両手を伸ばしアスナの両頬を掴んで引き延ばした
「まだ予選が済んでないにも拘わらずさっきのような気の抜けよう!わたくしとあなたの今の実力差なら、本来難なくかわせる筈でしょう!?」
「ふぉっ、ふぉれふぁ……」
「こんな奇襲も想定出来ないあなたが、悟飯さん相手に奇襲混じりで勝負を挑もうなんてちゃんちゃらおかしいですわね!」
「ぷふぁっ、あんたが溺れてないか心配して見に来てやったのに何よその言い草は!」
「むぐふぅむ……ぷはっ、それが余計なお世話と言うんです!」
両頬に掛かる指を振り払うと、アスナも負けじとあやかの頬を掴む
それをどうにか振り払うと、あやかも再び頬を掴む
『孫悟飯選手、予選通過!』
「だいたいあんたは!」
「アスナさんこそ!」
悟飯の勝ち抜けがアナウンスされたが、二人の耳には入らない
水に浸かったからといって頭が冷めることはなく、ヒートアップは続く
悟飯が気付いて止めに降りてくるまで、二人の取っ組み合いは続いた
「惜しむらくは……ああして変なところで熱くなって、肝心な時に気が抜けるところ。か」
天津飯はひとり、ため息を漏らす
さて、残るバトルステージはあと一つ
「これで、全部済んだか」
「はい」
ステージHに残っているのは、こちらも佳境であと二名
「変に出し惜しみするのはやめておけよ、刹那。俺がヤムチャみたく悠長に待つとは限らんぞ?」
「言われなくても、ですよ。ピッコロさん」
他の全ての戦いを見届けた両者は、真剣な面持ちで向き合った