残る席は一つ、それを争う選手は二名
長かった予選もいよいよ終わりが間近に迫ってきた
選手の数は減っても、戦いがそこにある限り観客達からの声援が減ることはない
加えて目を向けるべき戦いが一つに絞られたことで、客席ではある種の一体感のようまで感じられるようになってきた
「ブルマさん、あの緑の人って確かすっごい強いんでしたっけ」
「ええ、そうよ。ヤムチャとは比べものにならないくらいにはね」
「え、そんな……」
そんなとある一画で、残る二名の選手を知るもの達が集まり開始から通して予選を観戦していた
「ピッコロさんはこっちの世界でのせっちゃん達のお師匠さんやからなー、めちゃくちゃ強いんやで」
上からハルナ、ブルマ、のどか、木乃香
なかでも刹那とピッコロ両名をよく知る木乃香は、更に言葉を続けた
「けどせっちゃんかていっぱい修行したん、うち知っとるもん。勝つのは無理かも知れへんけど、最後まで応援するえ」
(さあ、まずはどう仕掛けてくる?)
木乃香達が見守る中、まだ両者とも動いていなかった
いや、正確には両者『とも』と括るのは間違いだろう
ピッコロは、動かない
刹那は、動けない
(精神と時の部屋での組み手では、毎度毎度正面から突っ込んで来ていたが……)
(あれは組み手という体だからこそ、やられ続けても己の糧とすべくやっていた。しかし今、同じようにしてむざむざとやられるわけにはいかない)
過去の記憶からピッコロは刹那が取り得る行動を予測するが、その予測は刹那も読んでいた
過去に修行で多用した行動は即ち、ピッコロにとって一番捌きやすいそれと化す
(となれば、飛ぶなり廻るなりして少しでも俺を攪乱させるような行動をとってくるか?)
(正直、不安が無いわけじゃない。まだ実力の一端すら碌に見れていないこの人を相手に、直接試したことのない動きが何処まで通用するかというのは。だが……)
しかし初めてのものをぶつけるのも、それはそれでリスクが伴うのも確か
どちらにせよ、強敵を相手にする以上刹那は取るべきリスクを選ばなくてはならなかった
いやむしろ、リスクを選ぶことが出来る現状を幸運に思うべきなのかもしれない
(……出し惜しみはしないと、たった今決めたばかりだ!)
しばし選択を躊躇し、動けなかった刹那だがついに決断する
「……やああああっ!」
刹那はピッコロへ瞬動で急速に接近を図り、同時に右手に気を込めた
(ほう、まさかの同じ行ど……いや、流石に違ったか)
正面からの突撃だったが、これまでとは違っていた
右手に込めた気は打撃にではなく無数の気弾の生成に使われ、刹那同様高速でピッコロへと迫る
姿勢を低くし交差させたピッコロの両腕に、気弾は全て着弾し爆ぜた
(なるほど、威力は確かに上がったがこれは……読めたぞ)
あえて一度攻撃を受け威力を確かめたピッコロは、威力にそぐわない大きさの爆煙の意味を即座に把握
「……そこだぁっ!」
目の前が晴れるよりも先に、左腕を自身の左横に構える
「っ!」
直後、回り込んでいた刹那の蹴りと交錯した
「だだだだだだだあっ!」
そこで刹那は止まらず、続けざまに気を込めた両拳を叩き込みにかかる
(瞬動、だったな。あの一瞬のうちに、更に二回もか……)
気或いは魔力を用いての移動術、瞬動
刹那の元いた世界ではメジャーな技だが、弱点もある
一度発動すると途中での方向転換が難しく、一定以上の達人相手には隙を生みかねないことだ
それを刹那は、『目標距離の途中でもう片足を使って再度瞬動を行う』という方法で方向転換を実現させた
無論超高速の中減速もなくピンポイントで地を蹴るため、難易度は相当高い
しかしこれにより、見かけは瞬動だが虚空瞬動さながらの動きが可能となる
瞬動を知る者にとっては虚を突ける技だったが、ピッコロは即座に看破してみせた
(だが、俺の耳を甘く見たな)
そう、気弾の爆発で視覚を奪っただけではピッコロを撹乱するには至らず
蹴りというアクションが入る瞬動の特性上、発動ごとに足と地のぶつかる音がどうしても発生する
ピッコロの持つ類慣れなる聴力は、爆音の先に潜むその音を完璧に捉えていた
(今繰り出している攻撃も、最後に見た時よりパワー・スピード共に桁違い。だがそれでも……)
更には刹那の連撃を、一度も有効打を与えさせぬまま必要最小限の動きで捌き続ける
そして打った拳の数が百に届こうかという頃、ついにピッコロの手が刹那へと伸びた
「っ、ぐ……」
「いい加減にしろ、あと何百発打っても俺には届かんのが分からんか」
右手首を掴み、単調なまま変わらずにいた今しがたの攻撃に悪態をつきつつ締め上げる
押しても引いても、ピッコロの手は微塵と動かず刹那をその場に留めた
「どうせならもっと……」
「うわぁっ!」
「色々足掻いてみせろ!刹那!」
直後、ピッコロは刹那を宙へ放り投げる
(くっ、言われなくてもそのつも……っ!?)
「はあぁっ!」
(虚空瞬動!)
そこから、ほんの一瞬の間だった
刹那がすぐに体勢を整え見据えた先にいたピッコロは、気功波を撃つべく左手をこちらへと向けていた
自分へ気功波を撃つつもりだ、そう刹那が認識した直後にそれは撃ち出された
対処を考える余裕など無きに等しく、刹那は咄嗟に空を蹴って命中を免れた
(今のは、食らえば間違えなくやられていた……)
この回避は本当にぎりぎりで、横を通り抜けた気弾から感じた気の密度は、耐えきれない威力の一撃だと十二分に物語っていた
四肢が弾け飛ぶ、身を突き破るとまではいかないまでも、骨肉がひしゃげ焼け爛れ動けなくなるレベルはあったとしてもおかしくない
そんな攻撃をピッコロが躊躇いもなく行った
(……そうだ、今のは避けてもらわんとな)
これまでの修行で見せたものとは比べ物にならず、見る者によっては殺意があるとも受け取られかねないこのピッコロの行動
(邪念で動きを鈍らせ、避けられるものを避けられんようなら話にならん。お前の覚悟、どこまで本気か見せてもらおう)
その真意は、彼の体感時間でいうところの半年近く前まで遡ることになる
~大会二日前 精神と時の部屋~
「刹那殿が、でござるか?」
「ああ」
白、白、白、白
ひたすら白が果てなく広がる、精神と時の部屋
そんな空間の一画で、白だらけの中ではよく目立つ二つの緑
緑髪の長瀬楓と、緑肌のピッコロがそこにはいた
修行で掻いた汗を流すため、楓が湯浴みをし丁度終えて出てきたタイミングでのこと
「ここでの修行は最後までついてきたし、力もつけた。だが、どうにもあいつからは何度も本気に近い殺気を感じてな」
「殺気……」
「今回だけでなく、思い返せばこれまでもだ。お前含めて何人も纏めて相手にしてて然程気にしてなかったんだが、一対一でもああでは流石に目立つ」
カーテン越しに楓は、ピッコロが魔術で出した修行着に着替えながら話に耳を傾ける
部屋と同じく白いカーテンは彼女の影を明瞭に映しているが、雄雌の概念がないナメック星人のピッコロにはまるで興味はない
二週間共に生活してきた楓もそのことは重々わかっており、薄布一枚しかない仕切りもまるで気にせずその動きは淡々としていた
「それはまあ、なんというか……おそらくピッコロ殿のことを、仮想敵として認識し過ぎてるのではないかと」
「何だと?」
「拙者達が初めて会った時のやりとり、忘れてはないでござるよな?」
修行着は麻帆良祭で龍宮真名と戦った時と、つまりはこの世界にきた時のものと同じ
湿った足のせいで履きにくい足袋にやや苦戦しつつ、楓は言葉は続けた
「拙者達の力を見るべく、あたかも害を為す敵のように装い挑発。刹那殿はそれに乗り、助太刀に入った拙者諸共大敗を喫したでござる。あれが、相当堪えたんでござろうな」
「……もう少し分かるように話せ」
「負けた瞬間、刹那殿の胸中には何があったか。一つはほぼ間違いなく、木乃香殿を守れぬことに対する悔恨の念でござろう」
あの時刹那は木乃香をカモと共に戦闘場所から離れさせたが、自身と楓が倒れた場合どうなるか
開戦前の口ぶりをそのままピッコロの本性と受け取った場合、後を追って危害を与えていた可能性が高いと刹那は考えたはずだ
「ピッコロ殿から真意を聞かされた後も、それが胸に刻まれたままだとしたら……」
「無意識のうちに俺を、正真正銘の敵であるかのように見てしまってたということか。初めて会った時と同様に」
「それプラス、修行で何度も打ち負かされる度にその悔恨の念は晴れぬまま、最初ほどでないにしろ徐々に積み重ねれば……まあ、これは拙者の予想でござるゆえ参考程度にしていただければ」
「いや、充分だ、大体把握出来た。だとすれば、少々勿体なかったか……」
「勿体ない、とは?」
着替え終え、間にあるカーテンを取っ払い楓が姿を見せる
湯上がりでほのかに湿った肌と髪、赤みが普段よりもある頬が目に付くが、ピッコロはまるで意に介さず
「あいつがそういう気でいたのなら、もう少し修行のやり方があったってことだ」
一対一での修行を刹那→楓の順で行ったことに、幾らか後悔を見せているようだった
(お前が俺を敵のように見てしまっていたのなら、俺もギリギリまで『敵』として振る舞ってやろう……)
刹那が避けた後も、ピッコロの攻撃は続いた
先程同速度同威力の気功波を、両手から交互に撃ち出していく
それらを刹那は、舞空術と虚空瞬動とを併せて次々と回避する
これも初撃と同じく、すぐ横を通り抜けるギリギリの回避
(明らかに違う、今までのピッコロさんと!)
「そらどうした!これじゃあ、いつまで経っても俺に次の攻撃は届かんぞ!」
現在、刹那とピッコロは一定の距離を保っている
刹那としては接近して攻撃を図りたいところであったが、この気功波の波状攻撃がそれを阻む
距離が近づけばそれだけ回避の所要時間が短くなり、直撃のリスクが高まる
とはいえこのままでは、ピッコロの言うとおり一方的な展開が続くのも確か
「こっ、のおぉっ!」
「ずぁあぁっ!」
刹那は牽制に気弾を一発放つが、それをピッコロは即座に撃ち落とす
そして攻撃の手は緩まない
(これも駄目か!)
(そうだ、もっと抗え!足掻け刹那!)
(ならば……)
それを受けて再び刹那の右手に気が込められる
しかし今度は少し時間を掛けて、念入りに
その間も気功波は襲い続けるが、それでも必死に避けつつ続ける
(これなら!)
「む?」
溜めること数秒、刹那は右腕を伸ばし撃ち出す
ただし正面にでなく右側、ピッコロのいるのとは見当違いの方向だ
発射方向に一瞬疑問を抱くピッコロだったが、すぐにその意図を察した
(なるほど。俺の気功波の斜線上から外して、時間差攻撃か)
刹那の気功波は、弧を描きながらピッコロへと向かってきていた
先程の気弾は両者の間を真っ直ぐ通っており、ピッコロの気功波の通り道でもあった
そのため刹那への攻撃を兼ねて撃ち落とすことが出来たわけだが、今回はそうもいかない
(あの気弾を撃ち落とそうと俺も気功波を放てば、それは刹那の攻撃とはなり得ない。すなわち気功波一発分の猶予をあいつに与えることになる)
(かといって私への気功波攻撃を続けるなら、着弾は必至。どこまでダメージが通るかはともかく、手元を狂わせられるだけの威力は込めたつもりだ!)
今度は刹那が開戦の時とは逆に、ピッコロに択を与えてみせた
その上、どちらを選んでも自身のすべき動きを予め定めてある択を
(あとは、この攻撃を避け続けてピッコロさんの行動を見届け……)
「だが、残念だったな」
「!?」
ただしそれは、ピッコロがその択を素直に受け取った場合に限る
これを失念していた刹那は、自身の目の前に現れたピッコロを前に思わず固まった
「俺があの場から動かないと、なぜ思いこんでいた?」
「ぐっ……」
その間に、ピッコロは刹那の襟元を掴み
「はぁっ!」
「がぁぁっ!」
足元へ投げ落とす
背を地に叩きつけられ、刹那は息を吐き出した
ここでもし投げられた身体の向きが反対であったら、刹那は終わっていたかもしれない
上向きであったために、拳を握るピッコロの姿をすぐに見ることが出来た
「!!」
直後、自身の横でピッコロの拳が床を砕いた
これもまた、食らえば一撃で勝負ありとなる攻撃
認知してすぐに身を転がしていなければ、間違いなく食らっていただろう
(やはり感じる、修行では感じなかった殺気を、これまでの攻撃全てに!)
(……やっと気付いたか)
刹那はすぐさま跳ね起き、大会前までのピッコロとは違うことを確信する
(そして未だ消えず、か……そうだ、それでいい)
そしてピッコロは、気付いた様子の刹那に対しほんの僅かだが口元をつり上げた
(こちらの殺気を受けて消え失せる殺気など、所詮は覚悟の無い紛い物。さあ、もっとぶつけてこい!)
これまでと同じく、決着まで書き上げ済み。推敲したのち近い内に投稿します