ネギドラ!~龍玉輝く異世界へ~   作:カゲシン

55 / 74
第54話 古菲、葛藤す ネギvsクリリン

『準決勝第二試合はネギ・スプリングフィールド選手と、クリリン選手との戦いです!』

 

(あいつが古の学校の先生で、拳法の一番弟子、そして……)

 

 第一試合、つまりはコタローと悟飯の試合を終え会場の熱気は更に高まっていた

 

 四方八方から歓声がバトルステージへ絶え間なく飛び込み続けている

 

 そんな中でもクリリンと相対する少年、ネギの声は透き通るように届いた

 

「よろしくお願いします!」

 

 右拳を左掌に当てて、一礼

 

 一人の武人として礼を重んじたネギの行動に、クリリンも軽く頭を下げて応じる

 

 しかし彼の中では、直前の天津飯とのやりとりが忘れられず何度も繰り返し流されていた

 

(……餃子を倒して勝ち上がったやつの正体、か)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子が、餃子を倒しただって?」

 

「ああ、餃子本人から話を聞いている。間違いない」

 

 時間は今から少し戻り、試合開始数分前

 

 場所は選手控え室、いるのは二人の戦士のみ

 

 天津飯から聞かされた事実に、クリリンは表情を硬くする

 

 かつては天下一武道会で熱戦を繰り広げた対立流派の好敵手、そしてサイヤ人襲来の際には共に神のもとで修行し戦った戦友の餃子

 

 彼が予選でネギに倒されていた、という事実

 

 加えて、今になってそれを知るに至ったという現状が、更なる事実を暗に示していた

 

「…………『聞いた』ってことは、天津飯も見てないんだな?」

 

「ああ、俺も見てない。というより、気付けなかった、という方が正しいか」

 

 餃子がネギに負けたこと自体は、ヤムチャがコタローにやられたことを鑑みれば有り得ない話ではない

 

 だが問題なのは、その敗北が知人かつ達人である二人が存ぜぬところで完遂していたことだ

 

 悟飯がコタローとヤムチャの試合内容を幾らか知っていたように、強者と強者のぶつかり合いは例え自分が戦っている最中でもすぐ近くで起こっていれば普通なら自然と気付く

 

 予選での相手にさして強いのがおらず、楽々勝ち抜いた二人なら尚更のこと

 

「つまり、そのネギってのは餃子に……」

 

「ほぼ何もさせず、試合中の俺達に気付かせぬまま静かに勝った。ということだ」

 

 どどん波を撃つ、超能力で拘束ないしは投げ飛ばす、舞空術で空中戦

 

 これらをもし餃子が予選でしていれば、間違いなく二人は餃子の戦いに気付ける

 

 だが二人は気付けなかった、つまりはそういうことなのである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合開始!』

 

「やああああっ!」

 

(……っ!)

 

 何度繰り返されたか分からない回想は、試合開始の合図とネギの接近で漸く打ち切られた

 

 拳法家である古の弟子、それでいて膨大な魔力を備えた天才魔法使い

 

 近距離と遠距離どちらで攻めて来るのか予測出来ていなかったが、ネギの選択は前者

 

 中心目掛け崩拳を打ち込みに掛かるが、クリリンは身を翻してそれを回避する

 

(避けられない速さじゃない……けどなんだありゃ!?ただのパンチじゃないぞ!)

 

 クリリンはネギへの視線を切らず、自分がさっきまでいた場所を通り過ぎた拳を見て目を大きく見開いた

 

 ほんのりと発光する拳の周りを、光の帯が数本渦巻いている

 

(俺や古が気を込めて拳を打っても、ああはならない。ってことはあれが、魔法ってやつか)

 

 ネギが先制で放ったのは、ただの崩拳にあらず

 

 光の魔法の射手(サギタ・マギカ)を拳に纏わせて放つ、桜華崩拳

 

 拳士としての体術と魔法使いとしての魔法技術、双方が合わさって生み出された必殺技の一つ

 

 初っ端から、ネギはそれをクリリンへと放ってきた

 

(多分餃子の超能力とも完全に別物なんだろうな……あいつはこれにやられたのか?)

 

 結果としては躱されてしまったわけだが、『気』とは違う『魔法』の異質さを印象づけるには、この第一撃はある意味成功とも言えた

 

 そして、ネギの魔法攻撃は続く

 

戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)!」

 

(今度は、拳に乗せず直接飛ばしてきた!)

 

 ネギは攻撃を避けられた後すぐにクリリンを捕捉し、拳に乗せていた魔法の射手(サギタ・マギカ)を即解除

 

 光とは別属性、風の魔法の射手(サギタ・マギカ)を改めて放った

 

(しかもさっきとは色が違うぞ!別の魔法、なのか!?)

 

 元は同じ魔法の射手(サギタ・マギカ)でも、中身が別物であることは視覚からでも認知出来た

 

 白く光っていた光の魔法の射手(サギタ・マギカ)と違い、風のそれが放つ光は薄白な碧色

 

 性能も大きく異なり、『破壊』の光に対し風の属性効果は『捕縛』

 

「わっ!な、なんだこれ!?」

 

「はあああっ!」

 

 ガードしようと前に出された両腕に巻き付き、クリリンの動きを一部だが封じ込める

 

 そこへ再び、拳に魔力を込めたネギが攻め入った

 

 脚でのガードも届かない、顔を狙って一発

 

 両腕を使えないクリリンは、体捌きでそれを上手く躱す

 

「よっ、ほっ、こ……のぉっ!」

 

(は、早い!)

 

 ネギの攻撃は二発三発と繰り出され、同様に避けていく中でクリリンは両腕に力を込め続ける

 

 三発目を避けたところで、戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)の拘束を引きちぎった

 

 数秒と持たずに解かれたことにネギは驚嘆するが、既に放たれた四発目はもう止まらない

 

「はっ!」

 

「ぐああぁ!」

 

 狙った箇所はこれまでの三発と同じで顔、読み切られあっさりと拳を掴まれる

 

 拳を掴んだまま右腕を外へ払ってネギの体勢を崩し、そこへ左手で掌底を打ち込んだ

 

 打ち込む瞬間に右手は離され、ネギは苦悶の声と共に宙を舞う

 

(また変な感覚が……バリヤー、いや盾?何でもありだなほんとに)

 

(即席無詠唱とはいえ、風楯(デフレクシオー)がこんな簡単に……やっぱりこの人、強い!)

 

 打ち込んだ瞬間、拳を遮るような抵抗感と何か砕けるような音をクリリンは認知していた

 

 それはネギが急いで張った魔法障壁、風楯(デフレクシオー)

 

 幾らかの防御力を有し、突破されてもダメージ軽減に充分な仕事をしてくれる楯なのだが、クリリンはそれを簡単に突き破りかなりのダメージをネギに与える

 

 無詠唱ゆえ防御機能を最大まで引き出せなかったことを差し引いても、相当の攻撃力を有した一撃であることは間違いない

 

「さ、魔法の射手(サギタ・マギカ) 光の7矢(セリエス・ルーキス)!」

 

(さっきのとは違うやつ、か?ならこのまま!)

 

 連続でこの威力の攻撃を食らってはマズいと、ネギは魔法の射手(サギタ・マギカ)で牽制

 

 クリリンはこれを先程の戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)とは別物だと見抜くと、そのまま追撃の足を止めなかった

 

 軌道を直前まで見切り、気を込めた両腕で次々と弾き飛ばしていく

 

「(間に合え!)ラス・テル マ・スキル マギステル……」

 

 それでも、ただ突き進むよりかはネギへ迫るのが遅れる

 

 ネギはその僅かに遅れた時間に賭け、詠唱に充てる

 

逆 巻 け(ウェルタートゥル)  春の嵐(テンペスタース・ウェーリス)……」

 

 全ての魔法の射手(サギタ・マギカ)を突破したクリリンが、拳を手前に引く

 

 彼が突き出すより先に、ネギが右拳を前に出す

 

 クリリンの拳が飛ぶのと、ネギが詠唱を終えるのはほぼ同時だった

 

風 花(フランス)旋風風障壁(パリエース・ウェンティ・ウェルテンティス)!」

 

「!?」

 

 再び、クリリンは攻撃を遮られる感覚を受ける

 

 それは先程突き破ったものより強固であり、なによりもう一つ

 

 全身に強風を浴び、その身をまるごと押し返されたのだ

 

 勿論ネギへの攻撃は届かず仕舞い、後退を余儀なくされる

 

「な、なんだこりゃ!?」

 

 強風に煽られたが転倒とまではいかず、すぐさま両足を地につけ直してクリリンは前方を見やる

 

 そこには、今しがた狙いを定めたネギの姿は無く

 

「た……竜巻?」

 

 高さは、てっぺんを確認するため見上げねばならないほど

 

 竜巻状の巨大な風魔法のバリアが、両者を隔て今も渦巻いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仕切り直し、ってところか……」

 

 木乃香がアスナ達と上空観戦していることで空いた一席、そこに座って準決勝戦を観戦する一人の男がいた

 

 予選でコタローに敗れたヤムチャである

 

「ねえヤムチャさん、あのクリリンさんってのもめっちゃ強いんでしたっけ?」

 

「ああ、流石にピッコロや悟飯ほどじゃないが……俺と同等、いやそれより上かもしれん」

 

 コタローと一緒に木乃香に治療して貰った折に、良ければ座ってぇなと本人に言われ快諾

 

 近くに座るハルナにクリリンのことを聞かれ、自身を含め数人と比較する形で答えた

 

「上かもしれん……じゃなくて間違いなく上でしょ、クリリン君の方が」

 

「なっ、おいブルマ……」

 

「おっ、すごいすごい!攻撃全部弾いてる!」

 

 そこへブルマが半ばからかうようにヤムチャの発言に難癖をつけ、ヤムチャが食ってかかりそうな所でハルナが試合の動きに気付いて声を大きくする

 

 クリリンがネギの風障壁に気弾を何発か撃ったのだが、全て弾かれていた

 

「あれなら、ネギ先生も暫くの間休めるかも……」

 

「……いや、あれは小手調べって感じだな。クリリンの本気の攻撃はあんなもんじゃない」

 

 ヤムチャが目をやった後も、クリリンは何発か撃って全て弾かれている

 

 のどかが少々ホッとした様子を見せたが、ヤムチャは違うと判断

 

「おそらく何か、全力攻撃とは別の突破方法を考えて……のどか、あの本でクリリンの心を読めないか?」

 

「す、すみません、ここからだとその、離れすぎてて……」

 

 真意まで推察出来なかったヤムチャは、読心術が可能なのどかを頼るが断られる

 

 いどのえにっきの有効範囲は半径数メートル、バトルステージまではとてもじゃないが届かない

 

 しかしそれに頼らずとも、クリリンはすぐさま行動でもって答えをヤムチャ達へと示した

 

「あれ?やっぱり正面から破るつもりじゃ……って遅!」

 

「そうか……ハルナ、クリリンの狙いは正面突破じゃない!」

 

 腰を落とし両手を横へやり、気を込める

 

 観客席からでも視認出来るほど両手が光り、気を知る者なら気功波を撃ち出そうとしていることがわかる

 

 そして実際撃ち出されたのだが、速度があまりにも遅すぎる

 

 先程のネギの魔法の射手(サギタ・マギカ)と比べても、差は明らか

 

 ハルナはその遅さに逆に驚いてしまうが、ヤムチャは気付く

 

 気の込め方、出現した気功波の滞空具合、撃ち出した後のクリリンの手つき

 

 自身のとある技との共通点を看破し、次の動きを確信する

 

「うおっ!上がっていった!?」

 

「クリリンの狙いは……上だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(骨は……折れてない、まだ充分戦える!)

 

 風障壁に囲まれたネギは、まず最初にクリリンから食らった箇所の負傷具合を確認

 

 打ち身レベルで済んでいたことに安堵すると共に、魔力を高め詠唱を紡ぎ始めていた

 

「ラス・テル マ・スキル マギステル……」

 

 使おうとしているのは、先程牽制にも使った光の魔法の射手(サギタ・マギカ)

 

 無詠唱と違って詠唱呪文ではより多くの本数を放つことが可能で、既に両の手で数えられない数の光矢が集まっていた

 

(無詠唱で撃てる数じゃあの人を押さえつけるのは無理だ……これで弾幕を張って、その隙を突いて更に仕掛ける!)

 

 周囲を囲む風障壁に遮られ姿は見えないが、感じる気を鑑みるに正面からは動いていない

 

 風障壁の解除は術者のネギが任意で行えるため、撃とうと思えばすぐにでも解いて奇襲可能な構え

 

(いくか?いや、これじゃまだ足りない……)

 

 しかしネギはすぐには実行せず、更に魔力を込め光の矢を生成していく

 

 時間経過で壁が消えるまでには一分以上時間が残されており、任意解除による奇襲狙いのため消滅ギリギリまでは無理にしても、出来る限りの威力を用意しておきたかった

 

(撃つまでの時間は、まだ……)

 

 そう、時間は充分にあった

 

 ただしそれはネギにとっての時間だけではなく、クリリンにとっても充分な時間

 

「ばっ!!!!!」

 

「!」

 

 風障壁越しにクリリンの声、同時にネギに悪寒が走った

 

 反射的にネギは、溜めた魔力を全て上空へと向け解き放つ

 

魔法の射手(サギタ・マギカ) 光の67矢(セリエス・ルーキス)!」

 

 撃つのと同時に、降り注ぐ音

 

 ネギが上を向き、事態を視覚でも確認したのはその後だった

 

(そんな!あれだけの量の気を、今いる位置から動かずに!?)

 

 気功波の雨が、ネギの光の矢と幾度とない衝突を繰り返していた

 

 

 

 

 

 

 ネギの旋風風障壁は、彼を全方位から同じように守ってくれているわけではない

 

 竜巻と形容されるように最上部は穴が空き、そこからであれば壁に正面からぶつかるより容易に突破が可能

 

 無論ネギもその弱点は把握しており、クリリンが舞空術で上へ飛んでこないかは気で位置を探りつつ警戒していた

 

 しかしクリリンは手の動きだけで気功波を巧みに操作し、逆にネギへ上部からの奇襲を食らわせた

 

(あの光の矢の一発一発の威力は、俺の気功波一発には遠く及ばない。どれだけ溜めてかはしらねえが、どこまで防げるかな)

 

 未だに両者を風障壁が阻み直接様子は見えないが、中から聞こえる音から自身の攻撃がネギの魔法とぶつかり合っていることは容易に想像出来た

 

 始めに数発撃った気弾によって、目の前の壁が並の攻撃で破れないことは確認済み

 

 となればあれは、今となってはネギの逃げ場を奪う檻

 

(あとは簡単だ、中でそのままやられるならそれで良し。そうでなく、あの檻から逃げられるのなら……)

 

 中での音が一回り小さくなると、竜巻が突如として消えた

 

 魔法の射手(サギタ・マギカ)を全てを撃ち切ってもなお攻撃を止めきれなかったネギが、たまらず旋風風障壁を解除し飛び出してきたのだ

 

 低姿勢で床を蹴った、瞬動での高速移動

 

(そらきた!)

 

 それでも、飛び出してくること一点に絞って注視していたクリリンにとって、ネギの動きを捉え接近するのはあまりにも容易

 

 直前まで右手で魔法を放ちガラ空きになっていた右脇に、気を込めた蹴りが飛ぶ

 

 気付いたネギは慌てて障壁を無詠唱で張りつつ右腕を下ろすが、なにぶん急なため防御の型までは取れず

 

「っがああああぁっ!」

 

 障壁と右腕の両方を突き破り、吹っ飛ばされた

 

 最初の掌底よりも高威力な一撃にネギは息を詰まらせ、クリリンへ魔法の一つも撃てない

 

 一度、二度と跳ねると、ネギは地に俯せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネギ、坊主……」

 

 モニター越しでなく、生で二人の戦いを見届けたい!

 

 そう切願した古は、亀仙人達とどうにか屋外で試合を立ち見出来る場所を確保していた

 

 現在戦っているネギとクリリン、そのどちらもが彼女とは浅からぬ関係であった

 

 片や学舎の師かつ自身の一番弟子、片や亀仙流の兄弟子かつ中国拳法のみに限って言えば自身の二番弟子

 

 どちらを応援するか決めきれぬまま、試合は始まった

 

 そして大勢が決したかに見える現在、古は喜ぶでも悲しむでもない複雑な心境のまま声を漏らしていた

 

「ネギ君!頑張ってー!ほらくーふぇも応え……あ、そっか。クリリンさんってくーふぇの……」

 

 隣にいたまき絵は当然ネギの応援一択で、古にも促そうとするが言い切る前に彼女とクリリンの関係を思い出した

 

 古はより表情を渋め、戦いから目を逸らしたくなりそうな自分を諫めつつ面を上げ続ける

 

 その様子はまき絵だけでなく、共に観戦していたウーロンや五月ですら声をかけるのを躊躇ってしまうほど

 

(今、私はどうすればいいアル?見届けなければ、ならぬのに……私の心がこうも揺らいでは、二人に対して申し訳が、立たぬアルよ。一体どうなてるアル?今の、私は……)

 

「……昔、天下一武道会という大会にクリリンが出場したことがあってのう」

 

 そんな中、口を開いたのは亀仙人だった

 

「……老師?」

 

「あやつは準決勝まで駒を進めた……そしてその準決勝で戦った相手は、同じく亀仙流の孫悟空。つまりどちらも、わしの弟子じゃった」

 

「!」

 

 もう何年前になるか、今なお鮮明に思い出せる二人の勝負

 

 一場面一場面を思い返しながら、亀仙人は話を続ける

 

「二人の師として、どちらかに肩入れなど当然出来やせん。じゃが、わしのすることは決まっておったよ」

 

「……どうしたアルか?」

 

「お互いが技を決める度、修行の成果を形にしてくれる度、負けじと立ち上がる度……師として喜ばしい瞬間全てに於いて、称賛をどちらにも送ってやることじゃ。無論勝負の邪魔にならぬよう師匠らしくどっしり構え、口に出さずこっそりと。じゃけどな」

 

「どちらにも……全て……そうアル、私は二人の何を見てたアルか」

 

 古はこの時気付いた、『ネギが劣勢』という数ある内の一つの事実に惑わされ、見るべき箇所を幾度と誤っていたことを

 

 開始当初のネギの崩拳、躱されはしたが踏み込みも突きもかつてまほら武道会で見た時と比べものにならないほどのキレだった

 

 風矢でクリリンの動きを止めてからの顔を狙った攻撃も、拘束を解かれない内は間違いなく一番の有効打

 

 そして拘束を解いた後のクリリンのカウンターも、風障壁を攻略した気功波も

 

「……ふんっ!」

 

「うひゃっ!?どしたのくーふぇ頬なんか叩いて!?」

 

 両者が修行を積み重ね、かつこの勝負に懸命であるが故に見ることが出来たのだ

 

 その一つ一つを見てやれずに、何が師だ、何が弟子だ

 

 両手に気まで込め、今の恥ずべき自分に古は喝を叩き込んだ

 

 あまりの音にまき絵は面食らうが、それに構わず古は亀仙人へと向き直る

 

「老師、感謝するアル!吹っ切れたアルよ私は!」

 

「うむ、いい目じゃ。ほれ、まだ勝負は終わっとらんようじゃぞ」

 

 サングラス越しであるが、亀仙人は古の澄んだ双眸を確かに捉えていた

 

 杖の先をバトルステージに向けてやると、それらはスッと素直に後を追う

 

 亀仙人が最後に言った『こっそりと』を忠実に守ろうとしているのか、口元はギュっと締められ呼吸出来ているのか怪しんでしまうほど

 

(ネギ坊主、『負けるな』とは言わぬアルよ。けど見せて欲しいアル、私が幾ら『見事』と言ても言い足りないほどの勝負を……そして、クリリンも!私は全て見届けるアル!)

 

 バトルステージ上ではネギが、胸に手を当て立ち上がろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり目を背けちゃいけない……単純な攻撃出力、戦闘経験、どちらも大きな差をつけられている)

 

 息は、数秒遅れで漸く出来るようになった

 

(だから、さっきまでのあれじゃ駄目なんだ……どこか、攻撃を受けず一方的に決めたいという甘えが、間違いなくあった)

 

 胸元に当てた右手が、ポゥと淡い光を灯す

 

(悟飯君と同じ、普通にやったらまず勝てない相手……だから、その甘えは捨てなくちゃいけないんだ)

 

 立ちきった頃には右手は離され、正面のクリリンを見据えて開戦当初と同様に構えを取る

 

 あちらも同じく、油断した様子は皆無で隙の無い構えを見せる

 

(行くぞ!)

 

(来る!)

 

 向こうから動いて隙を晒してくれるのを期待するのは厳しい、故にネギの方から先に動き揺さぶりを掛けるほかなかった

 

 元より覚悟を決めたネギはそのつもりで、無詠唱で魔法を続けざまに二つ繰り出した

 

風精召喚(エウォカーティオ・ウァルキュリアールム)!」

 

 風魔法で作り出したネギの分身が二体、ネギの左右に出現し先行してクリリンに襲いかかる

 

魔法の射手(サギタ・マギカ) 雷の5矢(セリエス・フルグラリース)!」

 

 クリリンには初めて見せる、雷属性の魔法の射手(サギタ・マギカ)

 

 弧を描いてクリリンに迫り、直線的に向かう風精と共に初見魔法の同時攻撃

 

(また別の魔法、か……だが、もう食らわないぜ!)

 

 しかしクリリンは最初のように驚く様子もなく、落ち着いたまま

 

 バックステップで到達時間を稼ぎながら、気弾を連射

 

(それに、本命は別なんだろ?)

 

 気弾は魔法の射手(サギタ・マギカ)に命中、雷という属性を活かす間もなく飛散させる

 

 残る風精の対処に備えながら、その奥にいるネギの動向をクリリンは見逃さなかった

 

 繰り出してきた二つの魔法、弱いとは言わないがクリリンを倒そうと放ったにしてはあまりにも力不足

 

 となればこれは陽動、目を向けさせその隙に本命を叩き込もうとしているのではとクリリンは推察

 

 そしてそれは正解、ネギは足に魔力を集めて瞬動の準備に入っていた

 

(差し違えてでも、決める!)

 

 覚悟を決めた目つき、クリリンはそれにも気付く

 

 風精の攻撃の成否を待たずして、ネギもまたクリリンへ突撃した

 

「いいぜ……来いよ」

 

 まず風精が、左右に分かれて二体同時にクリリンへ攻撃

 

 狙いはもう読めていた、左右に注意を逸らして中央に本命の攻撃

 

 クリリンは、その場から一歩も動かず迎え撃つ

 

「はああっ!」

 

 ギリギリまで引きつけ、両腕を振るって手の甲で一撃

 

 風精は瞬く間に消えるが、前方のガードが空く

 

「雷華……崩拳!!」

 

 その、空いたタイミングぴったりにネギが拳を突き出した

 

 ネギの右拳には、先程撃たずに残していた雷の魔法の射手(サギタ・マギカ)が数本分

 

 腕を前方に戻して攻撃をガード、はもう間に合わない

 

 クリリンは、踏みしめていた左足をそっと離した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱ、雷かこれ……ビリビリすんなぁ、直接食らってないのによ)

 

 帯電するネギの拳が、視界の左下に映り込んだ

 

 ネギの雷華崩拳はクリリンに当たることなく、右腕ごと動きを止められていた

 

 

 

 あの時クリリンは左足を上げ、右足を軸に左回りに反転

 

 その上少々右側に身を傾けたことで、中央を狙っていたネギの拳は空を殴る

 

 続いて手元へ戻した自らの左腕がガツン、左脇にネギの右腕を挟み込んだ

 

 

 

 その際僅かに触れた雷がクリリンの左半身を痺れさせたが、反応したのもほんの一瞬のこと

 

 クリリンの右拳は、決着をつけるべく既に狙いを定めていた

 

 右腕を伸ばしたまま動けなくされたネギの胴体はがら空きであり、左腕のみでは到底防げない

 

「ふんっ!」

 

「っ、がっ!」

 

 そして、打ち込まれた

 

 直撃を拒む壁、風楯(デフレクシオー)の感覚があったが構わず貫いた

 

 貫いた先にももう一枚、もう一枚と風楯(デフレクシオー)が幾重にも張られていたが、全て貫いた

 

 全て貫いた先にはネギの腹、拳はしっかりと抉った

 

 壁に阻まれ威力は多少落ちたが、充分な威力だった

 

 現にネギは痛みに目を見開き、空気をこれでもかと吐きだした

 

 だがネギは、次の瞬間笑った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……解放(エーミッタム)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(覚悟はしてたが、本当に危なかった……あの一発で気絶してたら、その場で終わってた……)

 

「なっ!?さっきより強……くっ、こっの……」

 

 ネギが倒れ伏し、そこから立ち上がるまでの数秒間

 

 用意していた魔法は、全部で五つあった

 

 風精召喚(エウォカーティオ・ウァルキュリアールム)魔法の射手(サギタ・マギカ)(雷)・風楯(デフレクシオー)

 

 そして、今展開されている戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)

 

 最後にその風矢をこのタイミングで発動に至らしめた遅延魔法、術式封印(ディラティオー・エフェクトゥス)の五つ

 

 クリリンの拳を受けた腹部に魔方陣が浮かび上がり、直後幾多もの風矢がクリリンを拘束した

 

 彼と密着していた術者のネギすらも巻き込んでだ

 

 拘束力も、至近距離からということもあり一回目の時より数倍はゆうにある

 

「ラス・テル マ・スキル マギステル……」

 

 魔力を込め、詠唱し、魔法を一つ発動させる時間は充分に稼ぐことが出来た

 

(ちょっと待て!今密着してんのに、さっきまでみたいな魔法撃ったらお前まで巻き添えを食うぞ!?)

 

(とか考えてるかもしれませんが、言われなくても攻撃魔法は使いませんよ。すぐ撃てる魔法は倒すには威力不足、上級魔法は詠唱に時間が掛かって間に合いませんから)

 

 ネギの両手が激しい光を帯びながら、それぞれ片方ずつクリリンの腕を力強く握る

 

 光の正体はネギの魔力、魔法へと形を変える前の力の源そのもの

 

(この魔法だけじゃ勝負は決まらない……けど、僕は勝つためにこの魔法に賭ける!予選の時以上に、出来る限りのフルパワーだ!)

 

 風矢が激しく軋むような音を立て始める、もう時間は残されていない

 

 腕に突き立てんばかりに十指へ力を込め、ネギは解き放った

 

「――――!!」

 

「!?」

 

 あまりに目映い光は、二人の姿を一瞬隠す

 

 更には多量の魔力が滾り流動したことで発生した、けたたましい音

 

 間近にいながらクリリンは、ネギの詠唱の最後を耳に入れることが出来なかった

 

 それから少し遅れ、驚愕を残したままながらもクリリンが力尽くで風矢の拘束から脱出

 

 すると、まるで割れた風船の中の空気のように、中央から両者は勢いよく弾き飛ばされた

 

「うおっ?!」

 

「くっ……」

 

 クリリンはどうにか、両の足のみで着地

 

 一方でネギはクリリンに貰った一撃のダメージが尾を引いたか、片膝片腕をつきながらようやく地に身を落ち着かせる

 

(なんだか分かんねえが、これ以上変なことさせるか!)

 

 この時、クリリンは自分の身に何が起きたか分かっていなかった

 

 ネギが体勢を崩したという事実、待てば未知なる攻撃が再び飛んでくるかもという焦燥

 

 この二つから、すかさず飛び掛かって攻撃すべしという決断を下す

 

 一瞬で距離を詰めるべく、足に気を込めて蹴る

 

 そして、ようやくクリリンは自身の置かれた状況を知ることとなった

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 クリリンは、両の手を地に着けて四つん這いになっていた

 

 蹴った瞬間つんのめり、修正もままならず始めの場所から1mも離れていない場所でだ

 

 こんなこと、当然だがこれまで一度も無かった

 

「なんだ、これ……手、が……」

 

 両の手が謎の光で覆われていることも、一度も無かった

 

 不測の事態、捌かねばならない情報が多量に入り込む

 

 故に新たな情報、ネギが体勢を整え攻撃しに向かってきたことの認知を少々遅らせてしまう

 

「桜華崩拳!」

 

「やべっ、しまっ……」

 

 クリリンは両手を正面で重ね、ネギの桜華崩拳を受け止めた

 

 今ではクリリンの方が不完全な体勢であり、ただ前に出しただけでは押し込まそうな勢い

 

「こっ、の……!?」

 

「はああああっ!」

 

 そのためこちらからも力を込めて押し返そうと試みたのだが、ここでまたクリリンに衝撃

 

 

 力を込めた瞬間、力が抜けた

 

 

 意味が分からないかもしれないが、当人のクリリンもおそらくこう表現するしかなかっただろう

 

 結果ネギの拳はクリリンの両手の防御を突破、頬を殴りつけ身を浮かせた

 

(なんだ!?俺の身体に、何が起きてんだよ!?)

 

 クリリンの中では攻撃のダメージ以上に、混乱が激しく渦巻いていた

 




 やっと書き終わりました、例によって後半部分は完成済み。数日中に投稿します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。