『準決勝第三試合は長瀬楓選手と、天津飯選手との戦いです』
白熱する天下一大武道会、準決勝
その激闘四連戦も半分を終え、いよいよ折り返し
「やあやあ、待っていたでござるよ」
第一試合でコタロー、第二試合でネギが敗れ、ネギ達異世界人の中で残るは彼女一人
「アスナ殿からお噂はかねがね。拙者まだまだ若輩者故、今回は胸を借りさせて貰うとするでござるかな」
バトルステージ上では、天津飯が入場するよりも先に長瀬楓が待ち構えていた
「……あの二人を見てからだと、そんなつもりにはとても見えんのだがな」
(うーむ、戦う相手もそうでござるが……順番も中々に厄介でござったか)
いつもの飄々とした佇まいの楓、一方でその心中は穏やかでは無かった
ヤムチャを苦戦の末倒し、悟飯相手にも幾らかの健闘を見せたコタロー
餃子を倒し、クリリン相手にもあわよくば勝てそうな所まで追いつめたネギ
この二人に続いて、同じ所で修行を重ねてきた者の登場、それに天津飯が警戒しないわけがない
(まあ、することは決まってるでござるよ。二人と同様修行の全てを……己の全力を振るい、勝ちにいくのみ)
『試合開始!』
(甲賀中忍、長瀬楓。参る!)
「あの子も確か、ピッコロさんや悟飯さんと修行してきたんでしたね」
「ああ」
今の試合が終われば、残るはあと一つ
控え室に残っているのは、この二人のみ
ネギ達は戻ってこずそのまま外で観戦、コタローと悟飯は彼らと合流しに出て行ってしまった
「相手は天津飯さん、ですか。コタロー君がヤムチャさんを倒した時と同じようには、いかないでしょうね」
「あいつの元の性格もあるが、ネギ達の戦いを見てしまっているからな」
トランクス、ピッコロ
この残っている二人ともが、開始前からやはり楓の不利は避けられないだろうという考え
無視出来ない元からの力量差だけでなく、油断を見せる可能性がやはり低い
「ただ、それで楓があっさりやられるのかと言われれば……そうじゃないだろうさ」
「……というと?」
しかし、ピッコロはトランクスよりも言葉を残していた
当然のことだが、ピッコロはトランクスよりも楓のことをよく知っている
毎日のように刹那と共にしごきあげ、大会前の精神と時の部屋での二人きりの濃密な修行は二ヶ月にも及んでいた
「あいつを一言でいうなら、そう……『曲者』だ、相当のな」
それを通じ、楓に対して一番の印象がこれ
コタローのような、強くなることに対し純真なところではなく
ネギのような、物柔らかさの内に秘めた芯の強さでもなければ
刹那のような、ここ一番で覚悟を決められる度胸でもない
楓に対し、ピッコロの中で一番強く残っていた印象がそれ
「く、曲者、ですか?」
「見れば、おそらくわかるだろうさ」
(うむ、やはりでござるが……正面からでは完全に、力負け)
開戦後、二人は正面からぶつかり合った
重心を低くし構える天津飯へ、楓が突撃
反撃の時間は与えんとばかりに、手数の多さで攻め立てる
しかしその一つ一つに、天津飯は完璧に合わせてきた
めまぐるしく動く三つの眼、動きは完全に見切られていると言っても良いだろう
加えて元々の力量差、攻撃を防ぐ彼の腕一本がさながら強固な一枚の盾のようにも感じられた
突破し有効打を与えるのは、このままではあまりにも厳しい
(ならば……これは、どうでござるか)
更に数撃防がれた後、楓は突如後退
左手に気を集め、五指をぴんと伸ばした掌を正面に突き出した
「はああっ!」
「むっ……」
放たれたのは一発の、ではなく五発の気弾
集められた気が五指を伝ってそれぞれの指先から射出され、五方向から弧を描いて天津飯へと襲いかかる
見慣れぬ気功波攻撃に、距離を詰めようとしていた天津飯は一瞬足を止めた
奇くしも、これは先程ネギがクリリンに使ったのと同じ戦法
(多方向からの気功波、これは囮。本命は、直接攻撃か!)
そしてクリリン同様、天津飯も真意に気付く
気功波に目を奪われていたら気付かなかったかも知れないが、楓が右拳に気を集束させていた
では、これに天津飯どう対処したか
(動かない、でござるか?)
クリリンは後方へ下がりながら気功波で撃ち落としたが、天津飯はそうせず
むしろ両の足で地を強く踏み込み、その場に留まったではないか
三ツ目全てをカッと見開き、胸板が盛り上がった直後
「ずああああああっっ!!」
彼の回りの空気が、震えた
いや、『震えた』と言い表すのは少々違うかもしれない
何故なら楓の気弾五つは、震えるどころか天津飯に当たる前に消滅
「ぐっ!?」
既に地を蹴って右拳を振るおうとしていた楓自身も、堪らず足を止めてしまったほどであったからだ
(なんと、気合いだけで掻き消したでござるか!?)
そこへ、ついに天津飯の方から仕掛けてきた
足を止めた楓との距離を、今度こそ詰めに掛かる
毎日相手取っていた身長2m超えのピッコロと比べてしまえば小さいが、それでも自身を上回る体躯の天津飯が向かってくるさまは迫力を覚えるには充分
拳に集めていた気を腕にも回し、第一撃を受け止める
「ぐぉっ、ぬぅ……」
「うおおおおおっ!」
それでも、受けきれなかった
衝撃が右腕どころか右半身全体にまで広がって震え、圧倒的な攻撃力を思い知る
この一撃で止まることなく、天津飯は猛攻を続けた
(これは、流石に……)
楓に反撃の一矢すら打たせない連撃、正面から叩き伏せに掛かる
致命的な一撃こそ数度の後退と攻めを捨てた守りで凌いでいるが、明らかな劣勢
いずれ、いやあと数秒ともたないであろう攻防
(……
ついに楓は決意し、『飛び出した』
「な、なんだとっ!?」
楓が飛び出して、『交戦中の天津飯に横から跳び蹴りを決める』までの間は一秒と無かった
想定していなかった攻撃に、天津飯はそれをもろに食らう
気による防御も間に合わず、右脇腹にめり込んだ楓の足は天津飯を真横にぶっ飛ばした
(馬鹿な、あり得ん!一度たりとも視線は外さなかった、タイミングは無かった、なのに何故……)
信じられない、をそのまま表情として出してしまった天津飯
彼の目に映るのは、二人
(長瀬楓が、もう一人いる!?)
さっきまで戦っていた楓に加えてもう一人、自身に蹴りを食らわせた楓
合計二人の、楓の姿
『同じ人物が二人いる』という事象自体に、驚きは無い
彼女の仲間であるコタローが使ったのを既に見ている上に、理屈は違うが自身も似たような技が使える
問題は、『自分が気付かぬ内に二人目が生成されていた』ということ
気を練った様子も、二人目が彼女から飛び出した瞬間も
そのいずれも、開戦から今に至るまで天津飯は確認していなかった
(……違う!もう一人、じゃない!)
一度たりとも眼を離さなかったにも拘わらず、故に天津飯は信じられなかった
そして事の真相の見当がつき始めたのは、悔しいことに彼女の次なる攻撃を食らった瞬間
「「はあああっ!」」
ぶっ飛ばされた先に、楓が更に二人
左右の斜め二方向から、拳に気を灯して殴りかかってくる
視界に入った片方は問題なく腕一本で捌けたが、急かつ後方の死角からの一撃は間に合わず
「む、ぐっ……」
背の中央からやや左、ちょうど肩甲骨辺りに一撃を貰ってしまう
気による防御は今度こそ間に合わせダメージこそ少ないが、攻撃を続けざまに受けたという事実は大きい
(今現れた二人もそうだ、試合が始まってから生み出された分身とは思えん……ということは、つまり!)
この攻防の間に、先の楓二人も動いていた
天津飯が攻撃を防いだ楓が10時半の方向につき、それを基準にすると二人は1時半と4時半の方向
(こいつら、試合が始まる前から近くに隠れて……まだいるか!)
更には今しがた一撃を決めた楓が後方から羽交い締めにし、新たに五人目の楓が7時半の方向から現れる
楓の羽交い締めを解くこと自体は容易いが、如何せん時間があまりにも足りず
「楓忍法 五つ身分身……真・朧十字!!」
四人の楓がタイミングを同じくして天津飯へ駆け、気を込めた掌底を放つ
(別に影分身を拙者の代わりに始めから試合に出しても、誰も気付かぬなら……問題ないでござろう?)
右手には、確かに叩き込んだ手応え
してやったりの表情を、楓はほんの僅かながらも表に出していた
「え、楓さん達あんなところに!?」
「むむむ、気付けなかたアル……不覚」
つい先程試合を終えた、ネギとクリリン
それに古菲を加えた三人は、悟飯とコタローの二人と合流を果たし試合を観戦していた
ネギ、コタロー、古の三人は当然楓の応援
悟飯も短期間ながら修行した縁もあって楓寄り、クリリンも古に『共に応援しよう』とせがまれたこともあってやはり楓寄り
とはいえ幾度と戦いを共に乗り越えた天津飯を蔑ろに出来るわけも無く、この二人はまあ中立的な立場と言った方が近いのかもしれない
さて五人の現在の関心は言うまでもなく、楓が天津飯にしてみせた奇襲
真っ先にネギと古が声を出したが、他の三人も当然ながら驚きを隠せないでいた
「す、すごい!天津飯さんに連続で攻撃を叩き込んだ!」
「おいおいおい、隠れてるって……ありかよそんなの」
(いや、一番の問題はそこやない……)
上から悟飯、クリリン、コタロー
なかでもコタローは、他の四人とは違う視点からこの一連の流れの凄さに戦慄する
それは、彼が楓と同じく影分身を扱うからこその衝撃
(まず表立って出とった一体目の影分身……幾ら自分と同密度まで気を練ったからいうても、術者本人と全く同じ戦闘スペックは普通発揮出来へん。にも拘わらず、楓姉ちゃんは途中まで戦闘をその一体に一任した……)
本体は別の場所に潜み、代わりに影分身を戦わせる
これを相手に隠すには当然、致命的なダメージを受けての分身体消滅を避けなくてはならない
本体より力の劣る影分身が、劣勢で途中の加勢を必要としながらもどうにかそれを為し得た
これがまず一つ
(もう一つは、楓姉ちゃんとは別に隠れてた他の影分身や。突っ込んだタイミングと出てきた場所からして、試合前に全部作っといたんやろ……なのに、相手は気付かへんかった)
コタローと悟飯の試合でも触れたことだが、影分身というのは術者が練り上げた気の塊
気の感知が可能な者であれば、例え隠れていようが最低でも『何かがいる』ことまでは分かる
ところが天津飯は気付かなかった、これが何を意味するか
(気の塊である影分身がそれぞれ、バレへんようコントロールして抑え込んだんや。舞空術で空飛ばしたり気弾ぶっ放すより、それがどれだけムズいことか……)
気で作り出した影分身に、気を使った動きをさせることは容易い
実際コタローの影分身も、今しがた挙げた二つに加え狗神の生成をさせる事も出来た
しかし楓が影分身にさせたのはその真逆、気を全く使わず相手に感知させない行為
影分身からすれば己を無にするに等しい行為であり、コタローも修行中に着手こそしたが実戦導入に値する練度には到底至らなかったのだ
(結局、同じ修行しただけじゃ抜けへんっちゅーことか。けど、届かない高さやない!)
こうして影分身の練度一つとっても、コタローが楓との力量差を実感するには充分だった
とはいえ、さらに遙か高みのピッコロや悟飯にも食らいつかんとしていたガッツの持ち主なのがコタローである
すぐさま直近の目標の一つとして彼女を捉え、大会後の修行に強い意欲を燃やしていた
「あ、わわっマズいアル!楓の影分身が……」
そうしている間にも、戦いは進んでいく
楓達の攻撃が命中した後、天津飯は拘束を振り解いて攻撃に転じた
多対一をものともせず、一体また一体と影分身を消してしまっている
「あかん、俺がヤムチャさん相手に影分身向かわせたんと同じや。全然まともに当たってへんで」
「いや、違うよコタロー君。楓さん達の攻撃は、何発かは天津飯さんに通ってる」
「悟飯の言うとおりだ、けど食らわせることに精一杯で攻撃に重みが無い。さっきの攻撃もそうだが、天津飯の奴全然堪えてないぜ」
途中で何体か隠れていた影分身が加勢するが、状況は変わらず
『影分身が隠れていて、何処からか飛び出て攻撃してくるかもしれない』
これを天津飯が意識するようになった時点で、奇襲としての効力が半減してしまっているのだ
「楓さん……」
連撃成功から一転、楓はすぐさま追い込まれていた
(いやはや、まさかここまで早々と対応されるとは……甘く見ていたわけでは無いのでござるが、これはなかなか)
楓は残ったバトルステージ上の影分身二体を、自分の近くへ戻す
攻め対攻めから一転して守りを固めてきたことに少々警戒したのか、天津飯は構えこそ崩さないがその場から動かず楓の様子を伺っている
(攻撃の手応えは幾度とあった、しかし効いていない……となるとやはり、ただの拳や蹴りでは火力不足)
天津飯へ決めた一撃は、朧十字を除けばいずれも文字通りの『一』撃
楓本人にしろ影分身にしろ、単体での攻撃は思った以上に通らず
(それに加えて攻撃が当たる直前、一瞬で気を高め防御力を上げていると見たでござる。となれば……)
今の攻め方、影分身の奇襲を交えた単なる肉弾戦のままでは勝ちは無い
そう確信した楓は、新たな動きを見せる
正確には彼女自身でなく影分身達であるが、先程までとは違った行動を起こしてきた
(何か仕掛けてくる気か?だが、この位置からなら分身の攻撃は完全に見切れ……しまった!)
天津飯が位置するのは、バトルステージ上のちょうど中心
つまり隠れている影分身達が姿を見せ、攻撃を加えるまでに一番時間を要する位置ということになる
彼の優れた視力とさっきまでの交戦経験をもってすれば、影分身が出てきてもすぐに対処出来るはずであった
しかし、飛び出してきたのは楓の影分身ではなかったのだ
(くっ、まさか見えない位置からの攻撃とは!)
ぎりぎりで避けた天津飯の横を、気弾が高速で通過
楓本人に特に動きが無かったので間違いなく影分身達が撃ったものなのだが、捕捉するのが遅れてしまった
何故なら、『気弾を撃とうとする影分身の姿』を事前に確認出来なかったからである
楓の影分身達は、隠れたまま気弾を巧みに操り攻撃を加えていた
「……ふむ、狙いはほぼ正確。自分の影分身ながら褒めたくなる仕上がりでござるな」
隠れたままなので、影分身達の視界には天津飯は入っていない
あくまで天津飯の気を探知して場所を把握し、それを頼りに気弾を操っている
それでも精度は相当のようで、楓本人もその結果を喜んでいるようだった
「では、いくでござるか。楓忍法……」
しかしうかうかしてはいられない、天津飯がこの気弾攻撃に順応するのも時間の問題
すかさず二の矢を放たんと、楓は両脇に影分身を配したまま突っ込んだ
(しかしよく考えたな。確かにこれなら、分身でそのまま攻撃を仕掛けるよりも動きは読まれにくい)
天津飯の周囲を、幾多もの気弾が飛び回る
まっすぐ彼の元へ向かってくるものもあれば、暫く周辺を回ってから突如襲い掛かるものもあり
先程天津飯が評したように、その動きを読むことは少々難儀であった
影分身自身の攻撃の場合なら中身はどうあれ人の形をした代物、その動きは術者である楓自身のそれに否応にも近似する
しかし襲ってくるのがただの気弾、しかも操ってる当人の様子を見れないとあればまるで別物
襲撃、周回、停止、加速、減速、人とは違った動きをする直径十数センチの光弾
次に気弾がどう襲ってくるか、それを天津飯は予測しきれず
(だが……『お前が』そう来るのは読んでいたぞ)
ゆえに気弾攻撃への対処は最低限の回避と防御に努め、読みの効く彼女の動きがあるのを待った
そして天津飯の第三の目は確かに、こちらへ向かおうとする楓の初動の瞬間を捉えていた
(この気弾、コントロールの自在さに特化したためか一発一発の威力は小さい。となれば本当の狙いは……)
試合前から隠れていた影分身の存在の露見
その前後という違いはあったが、本質的には気弾五発を撃ってきたあの時と同じ
(……遠距離攻撃による陽動を経ての、お前と影分身の同時攻撃!)
警戒されたまま正面からより、隙を突いて死角から
一人ないし一体の攻撃より、複数での攻撃
楓が自分へダメージをいかに通そうとしてするか、それを考えてみればこれらにたどり着くのは難しくなかった
(それも読めてしまえば、どうということはない!)
「!」
攻撃が届く数瞬前、天津飯はタイミングを計って正面へ向き直った
楓の表情が僅かに動いたように見えたが、攻撃そのものに動揺や迷いは残さずそのままぶつける
「楓忍法……」
胸元を狙い、下からせりあがるように放たれる二本の貫手
長身ゆえにリーチも長く、さながらそれは二本槍
「ふんっ!くっ……」
その矛先が届くより先に、天津飯は両手で掴んで阻む
直後、動きを止めた彼へ残りの気弾が全て着弾、背で爆ぜた
爆煙は前方にまで回り、楓の姿を霞ませる
その中で、光が二つ
「……三つ身分身、
突き出した楓の両腕を踏み台に、影分身二体が跳躍し上方へ
文字通りその様子はまるで、霞の中を飛ぶ一対の蛍のよう
貫手への防御に両腕を使っている天津飯へ、気を灯した拳をそのまま叩き込んだ
(どうで、ござるか!)
肉体と肉体の接触とは到底思えぬ激突音
これまでダメージがろくに通らなかった単体攻撃と違い、複数の影分身の拳に気弾まで絡めた同時攻撃
最終的に攻撃を打ち込んだのは影分身ゆえ手応えは直接感じ取れていないが、相当の威力だという自信は楓にはあった
「……残念だったな」
「!」
「ずあああっ!」
しかし結果は目の前の彼の姿と掛けられた言葉、そしてすかさず襲いかかってきた攻撃が全て
ダメージはほぼなく、怯んだ様子もなし
掴んでいたままの両手で、楓を宙へ放り投げる天津飯がそこにはいた
(ピッコロのもとで、短期間の内に相当鍛え上げたようだな……スピードこそ中々だったが、それでも足りん!)
楓が霞蛍を決める直前、天津飯は全ての気を防御に回していた
影分身と交戦し次々倒していたあの時と違い、攻撃を一時的に捨てた完全防御
それは楓の同時攻撃全てを弾き返し、第二撃の隙を与えず反撃へ打って出ることが出来た
「「はあっ!」」
「遅い!」
放り投げて自由を奪った以上、次にする行動は決まっている
本体への攻撃、それを阻止せんと影分身二体が援護射撃
天津飯はそれを、放り投げた際の腕をそのまま外側へ払って二体とも吹っ飛ばした
影分身達の行動は完全に後手に回ったそれであり、天津飯の言う通り援護としては遅すぎた
(では逆に、こちらの攻撃はどうだ?)
天津飯と楓、両者の間を隔てるものは何もない
代わりに攻撃を受けてきた影分身も、行く手を阻んできた気弾も
攻守は完全に入れ替わり、楓が己自身のみで迎え撃たねばならない局面がついに来た
「うおおおおおっっ!」
「っ!!」
天津飯の拳が、上にいる楓へ次々と放たれた
その速さは相当のもので、さながらマシンガンのように撃ち出されている
代名詞のあの技の影に隠れがちだが、こちらも彼を支える古くからの技である
「ぐっ、ぬぅぅ……」
空中で体勢を崩していた楓、どうにか両腕で防御することまでは出来た
しかしその防御はあまりにも薄く、いや本来なら相当な厚さなのだろうが、天津飯の顎龍拳はそれを薄いと錯覚させるのに充分なほどの攻撃力を誇っていたのだ
数撃受け止めたところで決壊、一度突き破られた防御壁はもう元には戻らない
「がっ、ぐああああああっっ!」
マシンガンのような突き、拳の雨をその身に浴びた
相手が少女、という理由での躊躇いは天津飯にはない
数度の攻防で単純な力量なら格下とは分かっていたが、この舞台に上がってきた以上彼女は倒すべき武人
しかも向こうもこちらを倒すため、策を講じ虚を突き自身に幾度と攻撃を浴びせた明確な実力者
そこに性別の壁を挟む余地はなく、同性相手となんら変わらぬ攻撃を天津飯は振るった
(間に、合……)
(……むっ!)
だがこの攻撃は、勝負の終止符を打つには至らず
隠れている影分身が再び気弾を放ち、攻撃に注力していた天津飯に横から着弾
先程の完全防御と違い、僅かに攻撃の手を緩めさせることに成功
「っ、のっ……!」
その隙に楓は蹴りを一発、当てた先は天津飯の拳
目的はダメージを与えることでなく、蹴りの反動で両者の距離をひとまず離すこと
目論見は成功し、どうにか攻撃の手から逃れることが出来た
すかさずその場で影分身を数体展開して守りを固め、勝負は再びふりだしに
(ぐっ、途中から気で防御力を上げたのでござるが……思った以上に効いたでござるな)
否、圧倒的に楓が不利に追い込まれていた
(……二人の間に大きな力の差があるのは分かっていたが、まさかここまで圧倒的とは)
上空では刹那達四人が、目に見えて明らかになってきた楓の劣勢を受けて幾らかの焦燥なり驚愕なりを表情に浮かべていた
「アスナさん、随分と驚いた様子ですわね。あの方とは一緒に修行をされていたんではなくて?」
「そりゃ確かにそうだけど、あそこまで凄いのを見たのは私も初めてよ」
四人の中で一番天津飯をよく知るアスナは、今まで自分に見せることのなかった彼の本気の片鱗にその身を震わせる
楓の攻撃を完全防御で防いだ瞬間、防御を突破すべく顎龍拳を叩き込んだ瞬間
発現された気は大きくそして鋭さも伴い、遠くにいた彼女にも容易に感知できた
「攻撃は通らず、防御は破られ……刹那さん、あなたから見てどうですの?楓さんに勝機は……」
あやかは続いて、刹那へと尋ねる
天津飯についてはアスナから『修行をしていた時よりも本気を出している』という情報を引き出した以上、次は楓の番
この場で一番の実力、かつ楓とは大会前まで修行を共にしている間柄、聞くなら彼女しかいないだろう
「正直、あれを見せられると……正攻法の勝ちはかなり厳しいかと」
「……やはり、そうですのね」
「先程叩き込んだ攻撃、あれは私の知る限り楓の全力に近い一撃のはずです。気を込める時間や影分身の数で多少は威力を上げられるでしょうが、それでどこまで相手に肉薄出来るか……」
刹那は重々しく、あやかへ言葉を返した
無論、あれは天津飯が防御に注力した結果ではあるのだが、問題なのは『防ごうと思えばほぼノーダメージで防げてしまう』という事実が露見したことだ
そのため楓は必然的に、『防御に注力させぬよう事前に揺さぶりをかける』ことが攻撃時に求められる
そして天津飯もそのことは分かっているため、『防御に注力したまま相手の揺さぶりに応える』という対処が躊躇いなく簡単に出来てしまう
多少受け気味に立ち回ったところで、防御さえしてしまえばダメージが蓄積する心配はほぼ無いのだから
あとは顎龍拳を決めた時のように要所要所で確実に攻め立てれば、先に沈むのは間違いなく楓である
「ほな、このまま楓さん負けてまうん?せっちゃんやネギ君みたく、ここからどうにか出来そうな新しい技とか何か無いん?」
「新しい技、ですか。今までも幾つか使ってましたが、他に状況を打破出来るものがあるかと言われると……!」
腕の中にいる木乃香の言葉を受け、刹那は何か思い出したのか表情を変えた
(まてよ……)
それは刹那からすれば数ヶ月以上前に遡り、しかしながらこの世界にいる時の出来事であった
決着部分は例によって完成済み、チェックしてから年内中に投稿します